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頂きモノSSの部屋
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31   ★ふたつの家族(2) 〜紅葉狩り〜<作・ひでやんさん>
更新日時:
2006.09.06 Wed.
ふたつの家族(2) 〜紅葉狩り〜
 
季節は秋。
いつものように、わたしの家に集まった古河家と水瀬家の面々。 
お母さんたちは受験を控えて勉強が忙しくなってきたわたしたちに、息抜きをしに山に行こうと提案してきた。
「何をするのかタダで教えてやるのもつまらねぇから、ここはクイズだ。1:紅葉狩り 2:モジモジ 3:森山ガーネット さあ、どれだ」
「どれも字が似ていて迷ってしまいます」
「わっ、ちょっと難しい」
「「おまえら、アホな子だろ!」」
朋也くんと祐一くんの声が見事に重なる。なんだか最近、わたしたちってどんどん似てきているような気がする。
「人様のかわいい娘をアホ呼ばわりするんじゃねぇ。おめぇらは二人で森山ガーネットでもしてろ」
「祐一さん、朋也さん、楽しかったら後で感想を聞かせてくださいね」
「秋子さん、それ早苗さんのセリフっす」
似てきているのは、わたしたち子供だけではなかった。
「わかった、答えは1番」
自信たっぷりに答える名雪ちゃん。
「ブー。残念だな、名雪。正解は2:モジモジだ。というわけで週末はみんなで山でモジモジするぞ!」
「はいはい、秋生さんは一人でモジモジしていて下さい。わたしたちは山で紅葉狩りをしましょうね」
いつものようにお父さんの冗談を軽くあしらうお母さん。
「ちなみに、荷物持ちはおめぇら二人に決定済みだ」
お父さんが朋也くんと相沢くんを指さして言った。
「そういえば早苗さんから聞いたんですけど、秋生さんは力持ちだそうですね」
「秋生さんのかっこいいところ、わたしも見てみたいですよ」
「おう、任せとけ」
早苗さんとお母さんの言葉に、反射的に即答するお父さん。
もしかして、秋子さんはお父さんが乗せられやすいのを知っていて、さっきの言葉を言ったのかな?
秋子さんは信じられないほど洞察力がいいから、そうかもしれない。
 
「で、なんで俺まで荷物持ちをしてんだよ」
紅葉狩り当日。
わたしたちはみんなで近くの山へ来ていた。
ちょうど紅葉の見頃なのに関わらず、周りには人は疎ら。
いわゆる、隠れスポットという所なのだろうか。
「よく働くほどお弁当がおいしくなりますよ、秋生さん」
先程からぶつぶつと言っているお父さんにお母さんはそう言った。
「しかしなぁ…」
「朋也くんたちはちゃんと荷物を持ってくれているのに、お父さんだけわがままを言ってはダメです」
「俺のはあいつらのより重いんだよ」
「朋也くんたちのより鞄は小さいので、重いはずはありません」
「鞄自体が10kgもあるんだよ!」
そんな鞄、聞いたことがないです。
しばらく坂を上っていると、向かい側の山の斜面が見える展望の良いところに着いた。
家からあまり離れていない場所でこんなにも景色がいいところがあったなんて知らなかったから、少し驚いた。
よくテレビなどで中継されている場所ほど綺麗ではないけど、人混みがなく静かに過ごせるので悪くはない。
「よし、ここでメシにするぞ」
「秋生さん、まだ11時ですよ」
「俺が食いたいって言ったら食うんだよ」
「本当にわがままだな」
「いいじゃない、祐一。景色も綺麗だし、のんびりしていこうよ」
持ってきたレジャーシートを広げて、少し早いお昼ご飯。
冷めてもおいしいような内容の料理が、お弁当箱に一杯詰められている。
女性4人で賑やかに作る料理は、作っていてとても楽しい。
 
お弁当箱の中身もなくなって、お腹もいっぱいになってきた頃。
わたしたちはあることに気付いた。
笑顔のお母さんと秋子さんに、まだ開かれていないお弁当籠。
「お前ら、野球だ」
唐突にそう言ったお父さんの手には野球セット。
「…どこから取り出したんだよ、オッサン」
「ずべこべ言ってねぇで、さっさと来やがれ」
朋也くんと祐一くんも無理矢理連れて行かれた。
いつもは抗議するはずの二人が、今回は少し大人しい気がする。
「お母さん、わたしたちもちょっと散歩してくるね」
そう言ってわたしの手を取り立ち上がる名雪ちゃん。
「それでは、いってきます」
「いってらっしゃい」
笑顔で見送ってくれる二人に少し申し訳ない気がしながらも、わたしたちはその場を離れた。
 
「あの、名雪ちゃん」
「なに?」
お母さん達が見えなくなったところで、わたしは名雪ちゃんに質問してみることにした。
「やっぱり気になりましたか、あのお弁当籠の中身」
「やっぱり、渚ちゃんも気になってたんだ」
お互いため息を吐く。
お父さんが急に野球を始めたのも、多分あのお弁当籠の中身から逃れるためだと思う。
朋也くんと祐一くんが妙に大人しくお父さんに連れられていったのもそのせいだろう。
あの二人が揃った時に作るとっておきの料理。
それはきっと、お母さんのパンと秋子さんのジャムの共演の産物なんだと思う。
「さすがにお母さんたちに向かって、いらない、なんて言えないよね」
「でも、抜け出してきたのは二人に悪いような気がしてきました」
味はどうであれ、二人が気持ちを込めて作ったものには変わりないので、そう思う。
「じゃあ、渚ちゃんはアレを食べたい?」
「食べたくないですっ」
つい、理性よりも先に反射的に答えてしまう。
答えてしまってから、さっきの自分の言葉と矛盾すること気づいて恥ずかしくなった。
「あっ…その、そういう意味ではなくて…」
しどろもどろになりながら名雪ちゃんに弁解しようとしたが、うまく言葉にならなかった。
もちろん、名雪ちゃんはわたしの言いたいことは分かっていたと思う。
あたふたとしているわたしを見て、楽しむように笑っていたから。
そんな会話をしながらしばらく歩いていると、少し開けたところに出てきた。
紅葉がわたしたちを包み込んでいるような感じさえするような、一面の紅。
木々の間からは、穏やかだけれど確実に冬へ向かって変わっていこうとする風が吹いてくる。
「綺麗ですね」
「この葉が落ちれば、もう冬が来るんだね」
しばらくの間、お互い無言でその美しい紅の世界を見つめていた。
風に揺れる葉音だけがいつもより大きく聞こえる。
「渚ちゃんは、冬が好き?」
ふと思いついたことのように、名雪ちゃんが尋ねてきた。
「わたしね、冬が好きなんだ。わたしたちが引っ越してくる前に住んでいたところはここよりももっと寒くて雪が降るんだ。冷たい空気に、白い雪景色。とっても綺麗なんだよ」
「そうですか。いつか名雪ちゃんたちがいた町に行って、その景色を見てみたいです」
「うん、大歓迎だよ。」
最近ではこの辺りに雪が積もることは珍しくなったので、名雪ちゃんが見ていた雪の世界がどんなものなのか興味はある。
「でもね、わたしが冬を一番好きな理由は、冬になると祐一に会えたからだと思うんだ」
ちょっと恥ずかしいのか、名雪ちゃんは遠くを見ながら言った。
「冬が終われば祐一とお別れする悲しみもあったけど、冬になって祐一と一緒に過ごせるのを本当に楽しみにしてたんだよ」
相沢くんへの想いを秘めながらも、7年間も連絡が取れなかった名雪ちゃん。
わたしならきっとそんな状況を耐えられないと思う。
本当に、名雪ちゃんは強いと思う。
「相沢くんといつも一緒にいることが出来るようになって、本当に良かったですね」
だから、今の名雪ちゃんのそんな状況は、頑張った名雪ちゃんへのご褒美なんじゃないかと思う。
しばらくの間、名雪ちゃんは頬を赤くしていた。
「渚ちゃんには冬の思いではある?」
照れ隠しをするように、名雪ちゃんが聞いてきた。
「わたし、本当に小さかった頃はいつも家に一人だったんです。そのころはお父さんもお母さんも夢を追いかけていて、わたしは二人の帰りをいつも外で待っていました」
「わっ、そんな時期があったんだ」
いつものように、あまり驚いた風には見えない名雪ちゃんだけど、名雪ちゃんにしてみればかなり驚いているのだろう。
今の二人のわたしへの態度を知っていれば、そのように驚くのも不思議ではないと思う。
「それで、ある雪の日にわたしは熱を出していたにも関わらず、ずっと二人の帰りを待っていて…そして、倒れたんです。その後のことはあまり覚えていないんですが、それからは二人ともわたしのそばにずっと居てくれるようになりました。」
それは以前、創立者祭の後にお父さんたちが教えてくれたこと。
「ですから、お父さんたちがいつもそばにいてくれるようになった嬉しさと、二人が夢を諦めなければならなくなった悲しさの両方があります」
あのとき、お父さんとお母さん、そして朋也くんの声援がなければ、わたしは悲しみだけに囚われて、あのままずっと舞台の上で泣いていたと思う。
でも、今は違う。
わたしが幸せになることが、お父さんとお母さんを幸せにすることだと知っているから。
体が弱くて泣き虫のわたしだけど、それに向かって頑張り続けていきたい。
そうすればきっと、みんなが幸せになれる。
自分も幸せになって、周りの人も幸せになれると思う。
「でも、冬は好きです。わたしの誕生日がありますし。えへへ」
だから、笑っていよう。
少し辛くて悲しい思い出があったとしても。
「わたしの誕生日も冬なんだよ。12月23日だよ」
そんな暗い思考を明るく照らすような、名雪ちゃんの声。
「えっ、そうなんですか。わたしは12月24日ですので、名雪ちゃんの次の日です」
「わっ、びっくり。じゃあ、わたしと同じ山羊座だね。今週の山羊座の運勢はね…」
話が尽きない私たち。
秋が終わって、やがて冬が来る。
今年の冬は、どんな冬になるんだろう。
 
 
 
〜おまけ〜
「みなさん、なかなか帰ってきませんね」
「そうですね」
「ぷひ」
「あら、ウリ坊ですね」
「ぷひ?」
禁断の弁当籠を不思議そうに匂うウリ坊。
「中身が気になるんでしょうか?」
「あなたも食べてみる?」
秋子の声と共に開かれるパンドラの箱。
「今日のデザートはリンゴパイですよ」
「ぷひっ♪」
「でも一番手のあなたには特別にとっておきのジャムパンをあげますね」
そして、早苗から天国への切符を渡されるウリ坊。
 
「うわっ、ボタン、どうしたの?」
虚ろな目のまま震えながら帰ってきたボタンに驚く杏。
「まさか、椋、あんたまたあの料理を作ったんじゃ…」
「えっ、わたし、そんなことしてないよ!?」
 
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 第2話掲載です。少しシリアスな展開になりつつありますね。
 
 感想などあれば、
 
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 などにお寄せください!
 ひでやんさんにお送りいたします。
 

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