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2   ★another SUMMER(17)<作・ひでやんさん>(Air summer編)
更新日時:
2009.04.17 Fri.
another SUMMER(17)
 
 
 
 高野山の連中が慌ただしく行き交う中、俺と美凪は木々に身を隠しながら観鈴の元へと向かっていた。
 
「……かなり荒れてますね」
 
 木の陰から次に走り出す機会を窺いながら、美凪がそう言った。
 
「ああ、ここに攻めてきた奴らがそれだけの大勢力って事だろ」
 
 視線を遠くへ移すと山際がうっすらと浮き上がって見えた。
 あれが全て松明の明かりだと思うとぞっとする。
 その光景に、俺達の社殿が襲われたときのことを思い出す。
 それは美凪も同じだったのか、いつにも増して緊張感が漂っていた。
 
 人目が少なくなった頃合いを見計らい、次の物陰へと身を躍らせる。
 少しずつしか進めないのがもどかしいが、俺達は順調に目的地へと近づいていった。
 
「観鈴がいる宿坊ってのはあれだな」
 
 僧兵達の喧噪から少し外れたところに、目指す宿坊があった。
 ご丁寧にも正面には衛兵が詰めている。
 突破するには無理がありそうだな。
 
「美凪、おまえはここで待ってろ」
「……いえ、私も一緒に行きます」
「中に兵がいるかもしれないんだ。危険だし、おまえじゃ足手まといになる」
「……それでも、ご一緒させてください」
「あのなぁ、分かってるだろうが……」
「……観鈴さまは私にとっても大切な人です……だから、なにもせずに待っているだけなのは嫌です」
 
 美凪の瞳は揺るがない。
 これまでいくつも危険な目に遭ってきたにも関わらず。
 
「ったく、好きにしろ」
「……はいっ」
 
 牢獄の番人から奪ってきた脇差しを握り直し、覚悟を決める。
 俺達は正面からの突破を諦め、宿坊の裏手へと回った。
 そして人気の少ないところを見繕うと、足音も構わず屋敷の中心部へと全力で駆けた。
 宿坊との距離が縮み、勢いそのままに廊下へと駆け上がる。
 よし、このまま突入できれば……
 
「曲者かっ?!」
 
 廊下の角から姿を現した僧兵と鉢合わせになる。
 だが、今はこいつの相手をしている暇はない。
 
「こっちだ!」
 
 美凪の手を引き、逆方向へと廊下を駆ける。
 
「……観鈴さまっ!」
 
 突然、美凪が屋敷の中に向かって叫び始めた。
 
「美凪?!……いや、そうか!」
 
 本来、それは自殺行為だ。
 だが既に侵入が知られている今なら、こうして観鈴の方から居場所を伝えるよう促す方が手っ取り早い。
 
「観鈴、迎えに来てやったぞ! どこだ!」
 
 屋敷の中を駆け抜けながら、手近な戸を次々と開けていく。
 その度に四方から迫る僧兵の気配が濃くなり、焦りが募る。
 
「往人どの! 美凪! わたし、ここだよ!」
 
 戸を隔てたすぐ向こう部屋から観鈴の声がした。
 
「観鈴さまっ」
 
 その声に反応し、美凪が戸に手を掛けた。
 
「待て、美凪っ!」
 
 嫌な予感がして、咄嗟に美凪を引き寄せた。
 直後、戸を突き破って銀光がその切っ先を現した。
 あのまま居たら間違いなく美凪は薙刀に腹を貫かれていただろう。
 遅れてやって来た恐怖感に身を強張らせいると、乱暴に戸が開かれた。
 
「貴様等もあやつらの一味か! 覚悟っ!」
 
 問答無用で僧兵が突進してくる。
 
「誰があいつらの仲間かっ!」
 
 先手の一撃に、抜き打った刃でなんとかそれを受け止める。
 相手にペースを奪われる前に切り込んで牽制し、次に美凪を背に庇いながら相手との距離を取る。
 だがこんな所で薙刀相手じゃあ間合いを詰めることもできない。
 それに、応戦に手間取ってる間に囲まれてしまっては手の打ちようがない。
 
「くそっ、一旦引くぞ!」
 
 観鈴の所まであと一歩にしながらも、俺達は転がり出るように宿坊の外へと撤退した。
 だが僧兵も俺達を逃すまいと集結してくる。
 奇襲が失敗してしまえば二度目の突入などない。
 くそっ、観鈴は目の前だっていうのに!
 
 
「……往人さま……私が観鈴さまの下に行きます」
「なに言ってるんだ、おまえじゃ護衛の兵とまともに戦えないだろ」
「……ですが、このままでは」
 
 ここから逃げることさえままならなくなってしまうことくらい、俺にも分かってる。
 だが一か八かのその策は、どう考えたって分が悪すぎる。
 
「さあ、観念しろ」
 
 人数を揃えた僧兵達が間合いを詰めてくる。
 相手は5人……ええい、考えてる場合じゃない。
 
「美凪、俺の後ろに付け。後はひたすら走れ」
 
 俺は僧兵目がけて突撃した。
 
 ――かきいぃぃん!
 
 開戦を告げる高鳴りが耳を衝く。
 でたらめな一撃など受け止められて当然だが、押し倒すようなその勢いに相手の壁に乱れができる。
 そして俺の背から飛び出した美凪が、その穴を縫うように宿坊へと駆ける。
 
「女一人とて行かせるわけには……」
「余所見なんかしてていいのかよっ」
「っ?! このっ!」
 
 追おうとする僧兵の行く手を遮るように、切っ先が大きな弧を描く。
 ここで俺が派手に暴れれば暴れるほど、美凪が楽になる。
 徒労に終わると知りつつも、派手に立ち回り、ひたすら刀を振るう。
 視界の端に、屋敷の中へと姿を消していく美凪が見えた。
 その安堵感が仇になったのか、薙刀の鋭い突きへの反応が遅れた。
 すんでの所でそれを受け流すも、捌ききれずに肩口に痛みが走る。
 
「諦めろ、貴様一人に何が出来る!」
「うるさい、寄ってたかってなんて卑怯やつがよく言うぜ」
「ほざけ!」
 
 足元を掬うように走る切っ先を後ろに飛び避けると、そのまま地面を転がって間合いを取り直す。
 起きあがりざまニヤリと笑って見せるも、頬を伝う冷や汗は正直だった。
 
「早いとこ頼むぜ。美凪、観鈴……」
 
 
 
 
 
 ************************
 
 
 
 
 
 往人どのと美凪が来てくれた。
 わたしは二人の下に行こうとしたけど、周りの人達に無理矢理止められた。
 
「ここを離れてはいけませんっ」
「嫌! わたし、二人のところへ行く! 離してっ!」
 
 振りほどこうにもしっかりと掴まれて身動きが取れない。
 男の人相手じゃ、わたしなんかが敵うはずもない。
 だからわたしはごめんなさいと心の中で呟きながら、肩を掴んでいる手に思いっきり噛みついた。
 
「ぐあっ?!」
 
 突然の痛みで力が緩んだ隙に、わたしはお坊さんの手を振り払って外に向かって走った。
 でも、行く手はすぐ他のお坊さんに塞がれてしまう。
 それでも進む足はどうしても止めようが無くて、無理を承知でそのまま突っ込む。
 
「お止まり下さいっ!」
 
 やっぱりだめだ、捕まっちゃう!
 そう思った瞬間、わたしの前に立ちふさがっていたお坊さんが突き飛ばされた。
 お坊さんを体当たりで突き飛ばしたのは……
 
「美凪?!」
「観鈴さま、こちらです!」
 
 美凪がわたしに向けて手を差し出す。
 全力で駆けてきてくれたのか、息づかいは乱れていた。
 だからだろうか、美凪は普段なら気付くような気配にも気付いていなかった。
 
「美凪、危ないっ!」
 
 わたしは咄嗟に駆けた。
 
「調子に乗りおって、この尼がぁ!」
 
 怒り狂った形相の僧侶が薙刀を振りかざし、美凪の死角を衝いて襲いかかる。
 美凪も咄嗟に身を庇うけど、それじゃだめ、大怪我する!
 
 ――お願い、間に合って!
 
 ぎゅっと目を瞑り、思いっきり手を突き伸ばす。
 そして手のひらにしっかりと重みが伝わってくるのを感じた直後、わたしは走ってきたのと逆の方向にはじき飛ばされ、勢いよく尻餅をついた。
 
「にはは……美凪、大丈夫?」
 
 格好悪さを苦し紛れに笑って誤魔化しながら、間に合ったことにほっと一息。
 でも、のんびりしていられない。
 すぐさま立ち上がり、美凪の手を取る。
 
「さ、往人どののところへ行こ」
「……はいっ」
 
 そして、わたしたちを待ってくれている人の下へと走った。
 後ろからは怖い怒鳴り声が聞こえてくるけど、繋いだ手のぬくもりがそれ以上の安心をくれた。
 美凪の案内に従って屋敷の外に飛び出すと、たくさんの人を相手に勇敢に立ち向かう往人どのの姿が見えた。
 
「往人どのっ!」
 
 わたしの呼び声に振り向いた往人どのと視線が合う。
 わたしの無事を確認すると、往人どのはにやりと笑った。
 
「よし、逃げるぞ!」
 
 往人どのがわたし達に先に行けと目で合図した。
 わたしと美凪は軽く頷き合うと、人気のない森の方へと走った。
 不安な気持ちはあるけど、今は往人どのを信じなきゃ。
 往人どのが追っ手を上手く防いでくれているのか、次第に刀が打ち合う音や喧噪が遠ざかっていく。
 
「往人どの……」
 
 胸がぎゅっとして、口から不安が漏れた。
 それでもわたしは往人どのを信じる。
 往人どのに迷惑をかけないよう、今はなんとか逃げなきゃ。
 そうして森の中を走っていると、しばらくして後ろから足音が近づいてきた。
 振り向くと往人どのの姿が。
 
「往人どのっ」
「大丈夫か、二人とも?」
「……はい、大丈夫です」
「往人どのこそ大丈夫?」
「ああ、見ての通りだ」
 
 そう言って往人どのは少し苦しそうに笑った。
 
「嘘。痛いの、隠してる」
「そんなこと言ってる場合かよ、今はとにかく安全な場所へだ」
 
 月は雲に隠れてて足元は見えにくかったけど、どうやらそのおかげでわたし達はうまく逃げ切ることができたみたいだった。
 遠くからは今もわたし達を捜す人達の声が聞こえていたけど、往人どのが見つてけたこの茂みに隠れてればしばらくは大丈夫だろう。
 
「それにしてもおまえら、無茶しやがって」
 
 一段落付いたところで、やれやれといった感じで往人どのがぼやいた。
 
「……すみません……実は結構、危ない目に遭っちゃいました」
「なにぃ?!」
「でもわたし、体当たりして頑張った。ぶいっ」
「……はい……観鈴さま、大活躍です」
「おまえらなぁ」
 
 往人どのはわたし達にずいっと顔を寄せると、わたし達の髪を乱暴にかき回した。
 
「わ、痛いよ」
「お仕置きだ。ったく、後で灸を据えてやるから覚悟しとけよ」
 
 そう言いながらも、往人どのはにやりと笑った。
 わたしと美凪は見合わせると、往人どののそれを真似て返した。
 髪はぐしゃぐしゃだし、この後どうなっちゃうのかも全然わからないけど、それでもわたし達三人はいたずらをする子供みたいに、今もどこかでこの時を楽しんでいたんだと思う。
 そんな一体感が、わたし達の間に確かにあったから。
 
「さて、これからどうするかな。できれば一旦ここからおさらばしたいところだが、戦場を突っ切って山を下りるわけにもいかないしな」
「じゃあ、このまま隠れてる?」
「そうできたらいいけどな。それじゃそのうち見付かっちまうだろうな」
「そんなぁ……」
「どちらにしろ、今は大人しくしておくしかないか」
「うん……」
 
 そう返事したものの、胸の奥でなにかがざわついた。
 
「……観鈴さま?」
 
 急に黙り込んでしまったわたしの顔を、美凪が覗き込んだ。
 
「……どうかしましたか?」
「うん……嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感だと?」
「よく分からないけど、ここで待ってるだけじゃだめな気がする」
「駄目って言ってもなぁ……」
「行かなくちゃいけない気がする。あの人のところへ」
「……ここにいる翼人の方、ですか?」
 
 翼人という言葉に、胸のざわめきが強くなる。
 間違いない。わたしはきっと、その人に会わなくちゃいけないんだ。
 
「俺達、さっき会ってきたぞ。その翼人にな」
「えっ?」
「……晴子さまというお名前でした」
「はるこ……」
 
 呟いてみたけど、その響きには馴染みはなかった。
 
「で、行くのか? そいつのところに」
 
 わたし達がここに来たのも、わたしがその人に会ってみたいって言ったからだ。
 でも今はなんとなく、会うのが怖かった。
 真実を知るのを怖いと思った。
 それでもわたしは、今日までずっと往人どのや美凪と過ごして来たわたしは、勇気を出して会ってみたいと思った。
 全てを知りたいと思った。
 
「うん……わたし、会いたい。晴子さんに」
「……では、行きましょう」
 
 美凪が優しく微笑む。
 往人どのも頷いてみせる。
 わたしはもう、ひとりぼっちじゃないから。だから、前に踏み出すことを恐れないないよ。
 
「うんっ、行こ」
 
 
 
 
 ***********************
 
 
 
 
 
 この騒ぎの中、晴子がまだあの離れの屋敷にいるかどうかは怪しいが、それ以外見当も付かない俺達は、ただそこを目指すしかなかった。
 
「ほんとにいればいいんだがな」
「大丈夫、いるよ。そんな気がする」
 
 観鈴の返事はいつもの調子だったが、その目には微かに確信が満ちていた。
 
「そっかよ」
 
 こいつには翼人の力なんてまったくない。
 でも今くらいは、翼人同士引かれ会う部分があるってことを信じてみよう。
 
「ん、この気配は?」
 
 気のせいだろうか、目的の場所に近づくにつれて火の気配が強まる感じがした。
 だがそれは勘違なんかじゃなかった。
 俺達が離れに辿り着いたとき、そこは既にやつらに襲われていた。
 
「しまった、遅かったか?!」
 
 既に建物は火に包まれ、そこから逃げ出してきた僧兵が武士に果敢に抵抗していた。
 だがやつらの奇襲が勝ったのか、高野山の連中は明らかに圧されていた。
 
「……往人さま、あそこに!」
 
 美凪が指し示す先に、従者に連れられて逃げる晴子の姿が。
 
「あの人が、晴子さん……」
「って、まずい!」
 
 晴子を連れた従者達の前に数名の武士が立ちふさがる。
 
「往人どの! お願い、助けて!」
「ああ、任せとけ」
 
 二人を置いて、俺は茂みから駆けだした。
 流れていく視界に、手慣れた武士に敵わず次々と破れていく僧兵達の姿が映る。
 
「なんなんや、ほんまにっ」
「晴子殿、ここは我等に任せてお下がりください!」
「下がれっていうたって……」
 
 武士に囲まれた晴子達に逃げ道はない。
 武士の一人が晴子達の前に歩み出ると、勝ち誇ったように切っ先を掲げ、僧兵に向けた。
 
「その御仁、我等がもらい受けるぞ」
 
 僧兵達も自分たちの窮地を感じ取り、焦りの表情を浮かべる。
 抗うも順ずるも、彼らには死という結果しかないのだから。
 
「おのれっ!」
 
 従者の一人が果敢にも武士達めがけて突進する。
 だが、はなから敵うはずもない。
 数回の剣劇の後、無惨にも刀の露となる。
 他の従者達も晴子だけは逃そうと奮闘するものの、活路を開けぬまま次々と散っていく。
 
「ちょっ、しっかりせえや?!」
 
 まだ全滅こそしていないものの、既に晴子の護衛に付く余裕がある僧兵はいない。
 
「よし、翼人を捕獲するぞ!」
 
 それを合図に、交戦中でない武士が晴子を取り押さえようと駆ける。
 そして遂に晴子の背後に武士が迫る!
 
「させるかっ!」
 
 間一髪、俺は晴子を捕らえようとした武士の胴を薙いだ。
 不意打ちをかわすことなどできず、相手はうめき声を上げながら倒れた。
 
「貴様、何者だ?!」
 
 僧兵とは明らかに違う出で立ちの俺に、武士達の間に焦りが見えた。
 
「あんたはさっきの?!」
「説明は後だ、走るぞ!」
 
 一瞬の隙をついて、俺は晴子の手を引いて駆け出した。
 
「ちょ、ちょっと待ちぃや!」
 
 俺が敵ではないと直感したのか、晴子は足をもつらせながらも素直に付いてきた。
 
「逃がすかっ!」
 
 獲物を光らせながら、武士三人がすかさず追ってくる。
 このままじゃどうやったって逃げ切れるはずがない。
 
「俺がやつらを止める。その間にあの茂みへ行け」
 
 俺が促す先に二人の姿を見つけると、晴子はいぶかしげに俺の目を覗き込んだ。
 
「あんた、ほんまに大丈夫なんか?」
「まあ見てな」
 
 ニヤリと笑って晴子の背を押し出すと、俺は足を止めて敵を正面に据えた。
 
「死ねぇ!」
 
 死の宣告と共に下された一撃を刀の背で受ける。
 やれやれ、この程度で討ち取られると思われるようじゃ、俺も終わりだな。
 二撃、三撃と続く打ち込みも軽くあしらいながら、残る二人との距離を測る。
 
 ――俺を片づけてから晴子を捕まえるつもりか。ふん、都合が良い。
 
 立て続けに放たれていた上段から攻撃が、突如、不意を衝くように下段からの攻撃に変わった。
 だがそれは俺の思惑通り。
 上段からの攻撃が効かないと判断させ、下段からの攻撃へと誘い込んだ俺の方が一枚上手だ。
 相手の刀が加速し弧を描ききる前に、俺はすかさずそれを打ち払って懐に飛び込んだ。
 勢いそのままに、九尾に柄を打ち込む。
 そして悶えるように体を曲げた相手の首筋に回し蹴りを喰らわし、とどめを刺した。
 
「はっ、野良戦で俺に敵うかよ」
 
 あっさりと仲間がやられたのを目の前にし、残る二人の動きが鈍る。
 
「そっちが来ないなら、こっちから行くぜ!」
 
 敵が動揺している今が絶好のチャンス。
 助走時の全体重をかけ、刀を薙ぐ。
 だが、獲物になるはずの武士はそれを見事に受け止めて見せた。
 
 ――くそ、さすがに手練れだ。そう簡単にいかないってか。
 
 力押しでなんとかつばぜり合いを制そうとするものの、相手の腕力もなかなかのものだった。
 これ以上動きを止めるのは危険と判断し、刀を振って後ろに下がる。
 
「もらったぁ!」
 
 身を引いた先、ご丁寧に鋭い一閃が俺を出迎える。
 
 ――きいぃぃん!
 
「ちっ」
 
 観鈴を助けに行った時に負った右肩の痛みが反応を鈍らせた。
 敵もその機をものにしようと、容赦ない猛攻で俺の防御を崩しにかかる。
 少しの反撃の遅れが、徐々に致命的なものへと広がっていく。
 
「くそっ、なめんな!」
 
 防御に回すべき動きを犠牲にし、敵の攻撃よりも早く鋭い突きを放つ。
 予備動作無しの電光石火。殺傷力は低いが、皮肉にも今の俺には丁度良い。
 相打ちも覚悟したが、幸運にも敵の次の手が大振りだったため、俺は無傷で済んだ。
 胸を穿つように突かれた相手が後ろによろめく。
 その隙に相手の首筋に峰打ちを浴びせた。
 残るは一人。
 だが、さっきの無理な反撃のせいで俺に一瞬の隙ができた。
 
「おのれっ!」
 
 それを逃すまいと敵討ちの一閃。
 かかわそうと試みるも間に合うはずがない。
 切っ先が俺の背中を切り裂き、痛みと共に熱が走る。
 それを堪えながら、なんとか間合いを取ろうと地面を転がる。
 無理矢理起こそうとした体が重い。
 片膝がまだ地面に着いたままだ。
 追い打ちをかけようとする相手を見据えながら、左手を懐に突っ込む。
 もう相手の攻撃に対処するだけの時間さえない。
 
「これでっ……」
「終わるかっての!」
 
 懐から抜き出した小刀を相手の顔面めがけて投げるも、それは容易くかわされる。
 だがそれでいい。反撃のためのわずかな時間を作り出すには十分だ。
 軋む体に鞭打って、跳ね上がるように体を前に向かって起こす。
 
「ようこそ俺の花道へ。手厚く持てなしてやるぜ!」
 
 そして渾身の力を込めた横一閃。
 確かな手応えと共に敵の体が崩れ、俺もそれに巻き込まれながら倒れた。
 
「……ったく、俺としたことがボロボロじゃねぇか」
 
 荒い息もそのままに、俺に覆い被さるようにのしかかっていた武士を引きはがす。
 背中の痛みに顔が引きつりそうになるが、幸い、致命傷にはなっていないことに安堵の息を吐く。
 
「あーあ、またこっぴどく言われるんだろうな……」
 
 待っている二人の事を思い苦笑いしながらも、俺は茂みへと身を躍らせた。
 
 
 
 
 
                  ―18話に続く―
 
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<ひでやんさんのコメント>
 グダグダな展開part2です(笑)。戦闘シーンを書くと文章量の割に話が進まなくて困ります……。
 観鈴も救出され、後は往人との掛け合いを増だけ……と思っていたら往人は戦闘で大忙し。やはりヒロインへの道は険しいようですね(笑)。
 
 次回は晴子も絡んでくることだし、観鈴のヒロイン奪回作戦やいかに?! >>>つづく
 
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 りきおです。もしよろしければ、Web拍手などをどうぞ。

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