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頂きモノSSの部屋
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12   ★『二人の誓い』 第1話<作・ひでやんさん>(リトバスRefrain編SS)
更新日時:
2007.12.05 Wed.
             『二人の誓い』 第1話
 
 
 
 
 僕たちは誓った。
 あの事故から、みんなを助け出してみせると。
 僕はナルコレプシーを克服するために。
 鈴はみんなを失わずに済むための強さを手に入れるために。
 僕らは、二人だけで作り出した世界へと旅立った…。
 
 
 
 
 
− Side:理樹 −
 
 
 
「…」
 眠っていた感覚が徐々に覚めていく。
 ここはどこだろうか?
 僕を包む気配は重く冷たいものであると気付くに連れて、ようやく僕の目が焦点を結び始めてきた。
 そこには、横たわる二つの大きな影。
 
 僕の…両親だった。
 
 誰かが僕を後ろから優しく抱きしめた。
「理樹君、お父さんとお母さんの分まで頑張って生きていくのよ」
 嘘だ。僕の両親は死んでない。
 誰かが僕の頭を優しく撫でた。
「君ならひとりでも立派に生きていける、大丈夫だ」
 嘘だ。僕は独りぼっちじゃない。
 
 …でも、僕は知っていた。
 
 お父さんもお母さんも死んでしまったことを。
 もう二度と会えないことを。
 これが失うってことだと、生まれて初めて知った。
 それは、とても辛いことだった。
 生きることが失うことだって知らなかった。
 出会いが悲しみの始まりだなんて知らなかった。
 現実というのがこんなにも辛いものなら、僕はそれを受け入れたくなかった。
 
 …そうか、これが夢を見なくなった理由だったんだ。
 これが、僕がナルコレプシーを抱えるようになった理由だったんだ。
 歩みを止めた理由だったんだ。
 
 僕は泣きたかった。
 心の底から泣きたかった。
 それしか僕に出来ることはなかったから。
 
 …でも、僕の中の何かがそれを拒んでいた。
 思い出すのは、どこか遠い世界での誓い。
 僕は誓ったんだ、みんなを助けるために強くなると。
 そのためにナルコレプシーを克服すると。
 だから、もう泣かない。
 僕は強く生きていくんだ。
 どんな辛さや悲しみにも負けず、歩みを止めたりはしない。
 歯を食いしばれ。
 目を固く瞑れ。
 僕は決して泣いたりなんかしない。
 これからも歩き続けていくために。
 
 
 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
 
 両親の死後、僕はあの日の決意を守り続けた。
 歩き続けることでナルコレプシーを克服した。
 両親がいないことを辛いと思うことはこれまでに何度もあったけど、それは時間と共に次第に薄れていった。
 それが「強くなる」と言うことなのだろう。
 あるいは…ただ、忘れ去っていっているだけなのか。
 どちらにせよ、僕はどんなに辛いことも、悲しいことも、全部耐えてみせた。
 そんなふうにして小学校を卒業し、中学校も卒業した。
 何の変哲もない、ありふれた日常を積み重ねてきた。
 そこには人並みの幸せや喜びがあった。
 そして僕はそんな日々に満足していた。
 
 …なのに、この喪失感は何だろう?
 
 僕はあの世界での誓いを果たしているはずなのに、今もずっと何かが足りない焦りを感じていた。
 それはとても大切なことだった気がする。
 ナルコレプシーを克服すること以上に、僕にとって必要なことだった気がする。
 そのことを思うと、僕の足は止まっていた。
 
 …駄目だ、ここで立ち止まるわけにはいかない。
 僕はナルコレプシーを克服し、歩み続けていくと決めたのだから。
 あの日の誓いを果たすと決めたのだから。
 
 僕はその不安の正体が分からないまま、ただひたすらに歩き続けた。
 でも、きっと大丈夫。
 僕はあの時よりずっと強くなったのだから。
 両親の死にふさぎ込んでいた時の自分とは違うのだから。
 だから何もかも上手くいくはずに違いないと、そう思っていた。
 そう思い込んでいた。
 
 
 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
 
「直枝君、おはよう」
「あ、おはよう」
 中学で一緒だったクラスメイトも、今日は新しい制服に身を包んでいる。
 そのことを新鮮に思いながら、僕は教室へと向かっていた。
 季節は春。
 温かな日差しと、萌えるような木々の緑に包まれ、今日から僕の高校生活が始まった。
 でもなぜか、それは初めてではないことのような気がする。
 それもそうか。僕はあの世界では高校生活を送っていたのだから。
 だからこそ、おぼろげな記憶が僕にそっと大事なことを教えてくれた。
 ここで僕はあの事故に遭う、と。
 まだ始まってもいない未来のことなのに、そう断言できる自分に思わず苦笑した。
 でも、僕があの世界で誓ったことはきっと本当のことだ。
 僕はみんなを助け出してみせる。
 その決意だけは、この世界でも強くはっきりと覚えていたから。
 
 ちりん
 
 下駄箱に差し掛かった時、鈴の音が聞こえた。
 その音を懐かしいと思った。
 どうしてだろう? 僕の記憶には鈴に関する特別な思い出はないはずなのに。
 そして同時に、今まで感じ続けていた喪失感が一際強くなる。
 僕は一体何を失っているのだろう?
 いつも僕の側で聞こえていた鈴の音。
 守り続けたいと思った細い背中。
 そんな記憶の欠片がこぼれ落ちては消えていった。
 僕はそれをすくい取ろうと、鈴の音がする方向を向いたけど…そこには誰の姿もなかった。
 ただ遠ざかる鈴の音だけが微かに聞こえていた。
 
 
 
 
 廊下に張り出されたクラス発表に従い、僕は新しいクラスに足を踏み入れた。
 割り当てられた席から見渡す教室の様子は、今まで3年間続けてきた席替えとは違った新鮮さがあった。
 それと同時に、新しいクラスメイトを目の前にしての緊張も。
「俺、田中って言うんだ。よろしくな」
「僕は直枝。こちらこそよろしく」
 ホームルームまではしばらく時間があったので、僕は近くの席の男子生徒たちに簡単な挨拶をして回っていた。
 その最中、視界の端に女子が入った。
 その子は僕の席の2つ後ろに、みんなの輪から離れて独り座っていた。
 長いポニーテールに鈴の髪飾り。
 その子とは初対面のはずなのに、そのひとつひとつの特徴が何故かとても懐かしかった。
「おーい、席に着け。ホームルームを始めるぞ」
 担任の声でみんなが席に着き始めた。
 僕もそれに釣られ、慌てて席に着いた。
「ようこそ、我が高校へ。まずは最初に自己紹介といこうか。じゃあ、出席番号1番の者から」
 その指示に従い、簡単な自己紹介が始まった。
 僕は少しでも早くクラスの仲間達を覚えようと、自己紹介をしている人の顔と名前に意識を集中させた。
 なんども経験してきたことだけど、人の顔と名前を一致させるのは簡単な事じゃない。
 そして気が付けば僕の番となった。
「はじめまして、直枝理樹です」
 その後も僕はありきたりな自己紹介を済ませると、後ろの席の人にバトンタッチした。
 自己紹介を始めた人の顔を見ようと振り向いたとき、さっきの女子の顔が見えた。
「…あっ」
 例えようもない後悔が、僕の心に影を落とした。
「じゃあ、次」
 先生の声で、その女子がガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。
「えっと…」
 消え入りそうな、とても自信のなさそうな声だった。
「…棗鈴です…よろしく」
 
 僕は自分が失っていたものの正体をようやく知った。
 いや、思い出したんだ。
 どうして僕はこんなにも大切なことを今まで忘れていたのだろう?
 
 そう、僕はこの世界ではリトルバスターズに出会っていなかったんだ。
 それはどうして?
 この世界が壊れているから?
 …いや、多分それは違う。
 問題はもっと僕自信のことに関係しているはずだ。
 
 毎日塞ぎ込んでいた日々。
 そんな中、彼らは僕に手を差し伸べてくれた。
 
 そうだ。この世界では両親が死んだ後、僕はあの時のように塞ぎ込まなかったんだ。
 この世界での僕は、あの日から歩き続けてきた僕は、彼らと出会う接点を失っていたんだ。
 あの時の僕は歩みを止めて自分の殻に閉じこもっていたからこそ、恭介達が手を差し伸べてくれたんじゃないか。
 だからこの世界での僕はその出会いを果たさないまま、ここまで来てしまったんだ。
 
 僕はどうすればいい?
 僕はみんなを助けるために強くなったのに、そのみんなが僕の周りにいない。
 恭介や真人や謙悟や、そして鈴と過ごしたあの大切な日々がこの世界には無いんだ。
 
 僕は恐れた。
 強くなることであの日の出会いを失ってしまうことに。
 それは僕の決意を簡単に揺るがした。
 こんなことなら、僕は弱いままで良かったんじゃないだろうか?
 彼らとの出会いを失ってまで、強くなる必要なんてなかったんじゃないだろうか?
 でも、僕がナルコレプシーを克服しない限り、あの事故からみんなを助け出すことは出来ない。
 
 誰か教えてよ! ナルコレプシーを克服して、リトルバスターズとの出会いを果たす方法を!
 
 …そして「それ」は突然やって来た。
 目の前が暗くなり、意識が急速に遠のいていく…。
 忌まわしき、ナルコレプシー。
 僕はナルコレプシーを克服していたと思っていたのに、あの日から歩き続けてきたはずなのに…どうして?
 
 その理由が分からないまま、僕は深い闇へと落ちていった。
 
 
 
 
               −2話へ続く−
 
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 りきおです。ひでやんさんから頂きました。
 個人的には、理樹と鈴が出会っていない世界ってのがあるんだ、
と言うところに既に引き込まれましたし、
それが無かった世界では、理樹はどうなっていたのか?
ってところにも疑問を持ちました。
 
 その辺が解決されるんでしょうか? 続編もお待ちください!

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