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29.本当に望んでいた事 /おにやん



 温室の独特な匂いが漂う中で、その人は私には全く気づかない様子で視線を落としていた。

「─────っ」

 一瞬、心臓が跳ね上がり頭の中が真っ白になる。それでも必死に今の状況を自分の頭に理解させようとする。
 落ち着け・・・、落ち着くのよ私。まず、確認するのよ。ここは・・・どこだろ? 雰囲気から

 温室だとは思うんだけど。リリアンにこんな所あったんだ。へぇ・・・って、今は和んでる場合じゃないわよ!
 ・・・いや、待って。落ち着くのはいいことだわ。

「どうしたの?」
「・・・・・・へ?」

 私、声出してないよね? と、言うことは・・・。

「さっきから立ったままずっと百面相しているわよ?」
「えっ!? ・・・あっ、あの!」
「まるで私みたいね」

 気がつけばその人の視線は私に注がれていた。

「あなたはこの薔薇の名前を知っていて?」
「薔薇の・・・名前、ですか?」

 その人が向けた方向に視線を向けると、そこには小さな赤い薔薇のつぼみが佇んでいた。

「ロサ・キネンシス、ですか?」
「そう。よくわかったわね・・・雨宮円ちゃん」
「・・・えっ!?」
「ホントはね、ちょっと前に気づいていたんだけど。あなたの方から来てくれると思ったから」

 ・・・なんだ。
 やっとわかった。私はこの人と親しくなりたいわけじゃなかったんだ。もちろん、親しくなれれ

ばそれに越したことはないけど。
 私が本当に望んでいたことは・・・

「あら? 雨が降ってきたみたいね」

 だんだんと雨音が大きく広がっていく。

「さぁ、行きましょうか」
「・・・・・・はい」

 繋がれた腕から伝わる温もり。
 あの時には気づけなかった温もり。
 雨音に掻き消されないようにしっかりと握り締める。



 私が本当に望んでいた─────



 ─────温もり小さな幸せ



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