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28.扉を開けて /kousi



 私なんで逃げてるの?
 答えは簡単、追われてるから。
 うん、それは分かる。でも・・・

「だったら何で追いかけられてるんだろう、私・・・」

 私がアンケート用紙に記入しようとする度、未和さんを筆頭としたクラスメイトたちが寄ってくる。最初はただの興味本位だったのだろう。
 覗き込まれようが何されようが、そこで何の気兼ねもなくアンケート用紙に書き込むことができたのなら問題なかった。でも、そのときの私はその考えを否定した。衆人環視の中で祐巳さまへの思いを書き綴るなんてことできるはずもない。
 ゆえにその場を脱した。トイレの中でも何でも一人で落ち着いて書き込みたかったのだ。
 それなのに。
 教室を出ても、未和さんの影は寄り添うようにくっついて離れそうになかった。「お願いだからついてこないで」と言えば、「私の行き先がたまたま円さんと同じなだけ」と子供みたいな返答をされる始末。
 話が通じる相手ではないと判断した次の瞬間、私は廊下を全速力で駆け抜けていた。

「・・・って、思い返してみても、追いかけられてる理由なんて全然分からないじゃない」

 そればかりは追いかけている本人に聞くほかないだろう。思考回路が一般とかけ離れているお嬢様が多いだけに、この学園はいまいち量りかねるところがある。
 右へ左へ、追跡者を振り切るように走るうちに、私はいつの間にか校舎の外に出ていたことに気がついた。
 思わず足を止め、辺りを伺う。どこをどう走ったのかさえも覚えていないが、どうやら未和さんを撒くことには成功したようだ。

「さて、後はアンケートなんだけど・・・」

 元々よれよれだったアンケート用紙は、走るうちにさらにひどいことになっていた。

「まあ、書けないほどじゃないから別にいいんだけどね」

 落ち込んでいる暇などない。今は逃げ切っているとしても、休み時間が終われば教室に戻らないといけなくなるのだから、それまでにはアンケートを書き上げなければならない。
 しかし、落ち着ける場所を探そうにも、よほど遠くまで来たのか周りは木々だらけ。建物なんて望むべくも―――いや、あった。
 木々に囲まれてぽつんと建っている小さな建物へと近づいていく。

「こんなところに・・・」

 ところどころ壊れかけているため、最初は廃屋かと思ったがそうでもなさそうだった。
 何の気なしに中に入る。途端、私は心臓が止まりそうなほど驚いた。

「ゆ、祐巳さま・・・?」

 そこには、鉢棚に腰掛ける祐巳さまの姿があった。




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