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27.背水の陣 /おにやん



 今日のリリアン高等部は何かがいつもとは違っていた。

「ねぇ円さん。あなたはアンケート用紙取ってきた?」
「え? えぇ・・・一応・・・」
「まぁ! 私ってば、円さんは薔薇さま方に興味がないのだとばっかり思っていたのに、本当は違っていたのね! それで、どの薔薇さまがお好きなの?」

 いつもの三倍は積極性とテンションの高いクラスメイトたち。

「えっ・・・と・・・」
「私はやっぱり白薔薇さまロサ・ギガンティア・・・。二年生で薔薇さまを担っていらっしゃると言うのに、あの貫禄・・・。それに気高くお上品で・・・。是非見習いたいわ・・・」

 トリップ率もいつもの三倍。
 溯ること、30分前。私は、いつもなら二人か三人しか立ち止まらない閑散とした掲示板の前で呆然としていた。

「・・・うそ」

 そこはもう、“戦場”と表現してもおかしくない程、一般生徒でごった返っていた。
 私はアンケート用紙はリリアンかわら版のように新聞部が外で配っているのかと思っていたのだけど、そこに新聞部らしき人影はなく不思議に思っていた。

「そういうこと・・・」

 人混みをかき分けて、アンケート用紙を手に入れた時には、用紙も私ももみくちゃになっていた。

「これじゃ、朝に身だしなみをしてきた意味がないじゃない」

 そして、教室に入るなり視界に飛び込んでくる三色の紙・・・。
 アンケート用紙は薄いピンクと黄色、そして白の三色が存在し、それぞれが紅薔薇のつぼみロサ・キネンシス・アン・ブウトン黄薔薇のつぼみロサ・フェティダ・アン・ブウトン白薔薇のつぼみロサ・ギガンティア・アン・ブウトンに対応している。
 もちろん、一人一色一枚しか投稿できないのだが、中には全部の色を一枚ずつ持ってきている生徒も何人かいた。

(ピンクの紙も結構いるなぁ・・・)

 別にライバル視しているわけではないのだけど、なんとなく意識してしまう。

「円さん・・・? どうしたの? 大丈夫?」
「・・・えっ!?」

 不意に後ろから聞こえた声で、自分が教室の入口で立ち往生していることに気がつく。

「あっ、未和さん、ごめんなさい」
「いいえ。・・・あら? あなたがそれを持ってるなんて意外ね。円さんは薔薇さま関係には興味ないと思っていたから・・・」

 鞄と自分の間に挟んで隠していたつもりのちょっとよれよれのアンケート用紙を未和さんに見つけられてしまった。

「えっ!? あっ、あのこれは・・・その・・・」
「うふふ。気にしないで。誰にも言わないから。・・・・・・たぶんね」
「えっ!? あっ、ちょ、ちょっと未和みわさん!」
「うふふふふ・・・」

 不信な発言を残し、“クラスで一番敵に回してはいけない”と言われている内名木未和うちなぎみわさんが笑顔で私の肩を、二度叩いて行った。
 未和さんにも言われたが、私はクラスでは“薔薇さま関係には無関心な生徒”で通っているらしい。特にそんなそぶりや発言はしたつもりはないのだが、恐らくあれがキッカケなのだろう。
 そして、そんな私が薔薇さま関係のイベントに参加するなどとわかったクラスメイトたちの反応は、素晴らしく予想通りだった。

「あらあらあら。この状態じゃ、アンケート書けないわねぇ〜」

 面白がって後ろから声を掛けてくる未和さん。ちなみに、未和さんは私の席の真後ろだったりする。

「確か・・・放課後までに投稿しないといけないのよね? 果たして、円さんは皆の視線を掻い潜って見事アンケートを書き終えることができるのでしょうか? これは見逃せないわねぇ〜」

 普段は全くと言って良いほど無口な未和さんが、今日に限っては私にやたらと構ってくる。

(だ、だれか助けて・・・)

 果たして、私、雨宮円あまみやまどかは無事に未和さんの魔の手を逃れて、アンケートを投稿することができるのか?




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