24.事件前日 /kousi
出揃ったクッキーは、さすがに黄薔薇さまには及ばないが、素人目に見てもそれなりの出来栄えだった。
多少形が崩れているものの、それはあまり気にならない程度であり、手製という範囲でなら充分といえる。私の作品も、祐巳さまや由乃さまに比べてみてもあまり遜色はないと思う。
なんか、志摩子さん作のクッキーだけ光り輝いて見えるのは妹の贔屓目というやつだろうか。
「うーん、ちょっと作りすぎちゃった・・・かな?」
顎に手を当て唸るように呟く黄薔薇さま。その言葉が示すとおり、確かに、数人分とは思えないほどの量がそこにはあった。
それを見て、由乃さまと紅薔薇さまが頭を抱える。
「もう、令ちゃん調子に乗りすぎよ」
「由乃ちゃんの意見ももっともだわ」
はあ、と同時にため息。
しかし、そんな二人とは裏腹に、私の心は黄薔薇さま賛美でいっぱいだった。それは黄薔薇さまが放った次の一言。
「必要ない分は、私たちで処分するしかないわね」
志摩子さんの作ったクッキーが食べられるなんて。
一瞬で目の前がばら色に染まる。
余った分は持って帰ろう。頭の中は、すでにおみやげのことにまで及んでいた。
「ごめん、菫子さん。今日ご飯いらない」
妹はかくあるべきか。今日の晩御飯をも犠牲にすることを、今固く誓った。