21.あなたは作れますか? /おにやん
イベントがリリアンかわら版で発表され、私たちつぼみは揃って新聞部のインタビューを受ける事になった。
薔薇の館に現れたのは真美さんと蔦子さんと新聞部の1,2年生数人。知らない顔でもなかったので、特に緊張することもなく、インタビューはあっという間に終わったのだけど・・・
「あの・・・お姉さま・・・」
首筋に何度目かの嫌な汗が流れるのを感じた。
「だから、何かしら?」
そんな私の様子を見ることもなく、祥子さまは平然を長い髪を掻いた。
いつもなら見とれてしまうその仕草も、今の私には逆効果ですお姉さま。
「あの・・・私にはお姉さまの仰った意味が理解出来ないと言うか・・・なんと言うか・・・」
私のその言葉を聞いて祥子さまの目つきが変わった。
「なぜ?」
なぜと申されましても・・・。
その言葉は喉につっかえて出てこなかった。
「簡単なことでしょ? 山百合会のイメージ改善の為に協力して頂戴」
つまりはこういう事。祥子さまのお姉さまである蓉子さまが懸念したように、山百合会には一般生徒が近づき難い神聖なイメージが定着してしまっているのである。
歴代の薔薇さまと呼ばれる人々はどなたも素晴らしい方ばかりであった為、このイメージはそう簡単に改善できるものではない。だからこそ、祥子さまは蓉子さまが願ったように、山百合会と一般生徒との隔たりを少しでもなくそうとお考えになっているのだろう。
「お気持ちはなんとなく分かりますが、だからと言って、そのような雑誌の真似事のようなことはどうかと・・・」
一年生でここまで祥子さま相手に堂々としていられる生徒は数人しかいないだろう。
「いいんじゃなくて? 祐巳も、この前雑誌の懸賞が当たったって喜んで話してくれたじゃない。ねぇ?」
一斉に注がれる視線。乃梨子ちゃんまでそんな呆れた顔しないで・・・。
「おまけがあった方が楽しいでしょ? 違う?」
出た! 祥子さまスマイル。はーい、私も賛成です、お姉さま!
「・・・もう一つよろしいですか?」
「どうぞ」
乃梨子ちゃんは神妙な顔持ちで少し悩むと小さく手を挙げ、おもむろに口を開いた。
「生まれてこの方、クッキーなど焼いた事がないのですが・・・」
ほんの一瞬、部屋に静寂が訪れた。
「・・・ぷっ」
しばらくして薔薇の館から大きな笑い声が響き渡った。
* * *
「まさか、クッキーを焼くことになるなんて・・・」
「大丈夫よ、乃梨子。その為に明日令さまの家に集まってみんなで練習するんでしょ」
「はぁー・・・」
「いいじゃない。たまには乃梨子も女の子らしいことしなくちゃダメよ」
「じゃあ志摩子さん変わってー」
和やかにゆっくりと歩く白薔薇姉妹。
「令ちゃんがいればクッキーなんて簡単よねー」
「由乃、あとでこっそり私のとすり替える気でしょ」
「・・・・・・むきー! なんで分かったのよー!」
「由乃の考えてることなんてお見通しよ」
「いっつもわかんないくせにー!」
賑やかにゆっくりと歩く黄薔薇姉妹。
「それにしても、アンケート用紙から抽選でつぼみからのプレゼント、なんてよく思いつきましたね」
「あら、それは祐巳のお陰じゃない」
「ふぇっ!?」
「あなたが懸賞に当たった時の顔があまりに嬉しそうだったから」
「えー! じゃあ私のせいなんですか!?」
「祐巳のせいって・・・別に悪いことするわけじゃないのよ?」
そして、いつも通りの紅薔薇姉妹。
三色の薔薇の乙女たちは、ゆっくりと並木道を歩いていた。