17.怪しい雲行き 2 /おにやん
「ねぇ円さん聞きました?」
教室に入って一休みをする間もなく、私はクラスメートに回りを囲まれてしまった。
「・・・あの、一体何のことかしら?」
みんなの顔を見れば何かあったのはわかるのだけれど、その内容まではわからない。
その話が何であれ、私を囲むほどのものなのだろうか?
「ニュースよ、ニュース! それもとびきりの大ニュースですわ!」
「は、はぁ・・・」
彼女たちの事だからどうせ薔薇さまが挨拶を返してくれたとか、薔薇さまとお話できたとかだろう。
私も薔薇さま方には少しくらい憧れはするが、彼女たちほどではない。私の憧れの対象は祐巳さま一人だけなのだから・・・。
「来月に新聞部と山百合会の主催であるイベントが行われますの」
「・・・はぁ、そうなんですか」
「驚くのはまだ早いですわ! そのイベントっていうのは・・・」
別に驚いたつもりはないんだけど・・・。
「私、聞いてない!」
その日の山百合会の集まりは、由乃さんの噴火から始まった。
「ちょっ、由乃、落ち着いてよ」
「なんで私たちがそんなことされなきゃいけないのよ!」
由乃さんの“そんなこと”というのは、もちろん例のアンケート。
「私は祥子に任せたからね。教えられるわけないでしょ」
瞬間、由乃さんの牙は祥子さまの方へ向いた。
「・・・確かに、新聞部に許可を出したのは私です。黄薔薇さまに非はありません」
「なぜ許可を出したんですか!」
由乃さんの勢いの前に場の空気が凍り付いたのを私は感じた。
もっとも白薔薇姉妹だけはいつも通りだったけど。
「あなた達につぼみしても自覚を持ってもらうためには良い薬になる、そう思ったからよ」
耳が痛い。あなた達にはもちろん紅薔薇のつぼみである私も含まれるから。
「紅薔薇さまは私たちには自覚がない、そう仰るんですか?」
「そうよ」
即答・・・。今、お姉さまと由乃さんの間で本当にゴングが鳴ったような気さえする。
「それは・・・妹を作っていないからですか?」
お姉さま、由乃さんは江利子さまにもそのことに関して釘を刺されているので、この話題には特に敏感なんです。
あぁ、もう今すぐこの場から消えてしまいたい・・・。
「違うわ」
『えっ!?』
祥子さまの言葉に由乃さんと私の声が重なった。
「妹云々ではなく、あなた達にはつぼみとしての自覚が足りません」
お姉さまの言葉は私たちの胸に深く突き刺さった。それはもう深く。
「・・・あの、一つよろしいですか?」
「何かしら、乃梨子ちゃん」
「そのアンケートというのは、私も含まれるのでしょうか?」
「ええ、そうよ」
「しかし、私はまだ・・・」
「去年のバレンタイン。志摩子は私たちと同じ場に立ったわ。それを覚悟の上でロザリオを受け取ったのではなくて?」
その日の薔薇の館は完全に祥子さまの独壇場だった。