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16.怪しい雲行き 1 /kousi



「え?」

 突然のお姉さまの発言に思わず声が出る。
 初めは聞き間違いかと思った。一夜明け、改めて円ちゃん捜索に力を入れようと思いを強めていたところだっただけに少々聞きとりづらかったこともある。
 けれど、お姉さまの表情を伺うに、その線は薄いということが段々と判明してきた。

「だから、そういうことなのよ。もう何度も言わせないで」

 口に出すのも頭が痛いと、お姉さまが頭を抱える。

「えっと、それはつまり―――」

 お姉さまの言葉を思い出そうと努めるがその必要は無かった。親切かもう諦めなのか、ため息と一緒にお姉さまは先ほどの言葉をもう一度吐き出した。

「言葉どおりよ。新聞部の企画・・・乗ることになったの。かなり形は変わってるのだけれど・・・」

 フリーズ。その後頭の中を再起動するのにキッカリ3秒を要する。
 そして私は初めて自分の置かれた立場を理解した。

「えーっ!? その話はなくなったんじゃないんですか!?」
「人の話はちゃんと聞いて。かなり形は変わった、って言ったでしょ?」

 静かながらも威圧感のある声。先ほどのお姉さまの言葉を思い出してみる。・・・あ、確かに言ってる。

「す、すいません・・・。それで、正確にはどのように変わったのでしょうか・・・?」
「そうね・・・。簡単に言えば、企画の主体が一年生と貴女達つぼみブゥトンに変わったってところかしら」

 よくよく聞いてみればなんてことはない。ショーウィンドウに飾られているものが一年生か私たちかの違いだけだ。
 確かに、この場合、一年生に被害は出ないと思うんだけど、納得できるかと言えばそうではない。
 私たちつぼみで票数を分け合うということは必然的に順位がでるというわけで・・・。そんなことで友情が壊れるとはまったく思わないけど、さすがにちょっとくらい気まずくなる可能性は否定できない。ていうかその前に、すでに妹のいる志摩子さんにとっては、この企画自体無意味なのではないだろうか。さすがにつぼみと言っても乃梨子ちゃんの妹候補なんてまだ一年後の話しだし・・・。
 ・・・などなど。思うことは山積みだった。
 それを、どれからお姉さまに伝えようか、話次第ではこの悩みを解決してくれるかも、と思案していると。

「山百合会メンバーは、生徒会役員であるという性質上、どうしても公の部分が強くなってくるわ。そうなると、どうしても生徒から出された企画や案には、私情で却下することはできないの。祐巳や由乃ちゃんには申し訳なく思うけど、気を悪くしないでね」

 まるでピエロだな、自分でそう思った。お姉さまにこんな顔をされては、私の次のセリフは決まっているのだから。

「お姉さま。私のことなら気にしないでください。由乃さんだって、きっと同じ気持ちですから」

 満面の笑みと裏腹に、心の中でひたすらに謝った。由乃さん、ゴメン。




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