15.七転八起 /おにやん
目を通した書類をまとめ、最後の確認をする。季節の変わり目か、日が落ちるのは早く、すでに薔薇の館は朱色に染まっていた。
「祥子、ホントによかったの?」
すぐ側で同じように書類に目を通していた令がこちらを見ずに話しかけてきた。
「・・・何のことかしら?」
「祐巳ちゃんよ、ゆ・み・ちゃん」
「だから、一体何のことを言っているのかしら?」
わざと音を立てて席を立つ。なぜだか分からないけど腹が立った。
「まぁ、私は干渉はしないけど・・・」
「だったら放っておいてくださる?」
「心配はさせてもらうから」
「・・・・・・」
「祥子と祐巳ちゃんって、いい姉妹だと思うよ。でも・・・なんだろう、危うい感じもするんだよね」
今、この場に祐巳はいない。三奈子さんが館を去った後、私が今日は帰るように言ったのだ。もちろん、志摩子と由乃ちゃん、乃梨子ちゃんも。だから、この場には私と令しかいない。仕事自体は二人で十分だったから帰らせただけ。それなのに何か釈然としない。
「ご心配なく。私たちがスールを解消することはありえませんから」
「そっちじゃないよ」
返された言葉に瞬間、凍りついてしまった。
「本当は・・・、祐巳ちゃんに妹なんか作って欲しくないんじゃない?」
「なぜ? 祐巳に妹が出来れば、仕事も楽になって大助かりじゃない」
「祐巳ちゃんが妹を作ったら、その妹に祐巳ちゃ・・・」
「お黙りなさい! ・・・それ以上の発言は許さないわよ」
「・・・・・・わかったわよ。それじゃあ、今日はここまでにしましょう」
そう、全部令の言うとおり。私は心の何処かで祐巳に妹が出来ることを恐れている。祐巳が私から少しでも離れていくと思うと頭の中が真っ白になる。そんなことあるわけないってわかっているのに。怖くてしょうがない。・・・でも、祐巳は妹を作らなければならない。私がここを卒業した後、生徒会を担うのは私の妹である祐巳なのだ。それまでに・・・、私は・・・
「紅薔薇さま」
不意に後ろ手に声をかけられ、そちらを向くとそこには先程の三奈子さんが立っていた。
「まだ、何か?」
「私、考えたの」
「・・・はぁ」
「確かに、特定の人物に対して投票は問題があるわ。これは反省してる」
坦々と話し続ける三奈子さん。妹さんに連れていかれた時の落ち込みようから見ると別人のようだ。
「無記名によるアンケート」
「え?」
「これなら問題ないでしょ?」
「アンケート・・・ですか?」
「そう、投票じゃなくてアンケート。『一年生限定! 紅白黄どのつぼみの妹になりたいか?』。これなら問題ないでしょ?」
「しつこいのね・・・」
「頑固なのはお互い様ですわ」
「そういうことでしたら許可いたしましょう・・・でも」
「白薔薇さまと黄薔薇さまは紅薔薇さまに任せると仰っていましたわ」
「・・・あなたの立ち直りの速さ、見習いたいわ」