13.撃沈 /おにやん
もはや歯止めの利かなくなった三奈子さまは完全に自分の世界を突っ走っていた。
「でねっ! やはり、投票は公平を期すために・・・」
(ちょ、ちょっと祐巳さん・・・)
(えっ!? 私には無理だよ。・・・志摩子さん)
(私にも三奈子さまを止める自信はありませんわ)
(志摩子さんに同じく)
「ちょっと、何コソコソやってるの? ちゃんと聞いてる?」
「あっ、はい! ちゃんと聞いてます!」
しかし、三奈子さまの暴走はこの後すぐに止められたのだった。
遅れて現れた祥子さまと令さまが部屋に入るなり、暴走した三奈子さまはもう自分の企画が決定したかの高揚ぶりで、自慢げに私たちした話の内容と一字一句違わないセリフをポーズも含めて再現してみせた。
「容認致しかねます」
「・・・・・・え?」
約三分半に及んだ一方的な話のキャッチボールはデッドボールに終わった。祥子さまは話を聞いた後、考える間もなく答えを出した。
「あの・・・私の聞き間違いでなければ、容認できない、と聞こえたのだけれど・・・」
「その通りです。あなたの発案した投票は了承できません」
一瞬の静寂。私たちはこの状況をただ固唾を飲んで見守っていることしかできなかった。
「・・・理由を説明して頂けるかしら?」
さすが三奈子さま。あれだけ一人で勝手に盛り上がっていたのだから、そう簡単には退けないのだろう。
「まず第一に、あなたはちゃんと投票対象である一年生のお気持ちを考えたのかしら?」
「き、気持ち・・・?」
「票の集まらなかった生徒の気持ちです。勝手に祐巳の妹候補に祭り上げられた挙げ句、全然票が集まらなかった場合・・・その生徒は紛いなりにも妹失格のレッテルを貼られ、噂になってしまうかもしれない。あなたにその責任が取れて?」
「そっ、それは票数を発表せずに順位だけの発表にすれば・・・」
「・・・いいでしょう。それは譲りましょう」
「じゃ、じゃあ!」
「勘違いしないで下さい。許可を通したわけではありません」
「・・・まだ不満が?」
「いえ、これは確認です。この話、まさかとは思いますが、本人たちに話を通した上での申請ですわよね?」
いいえ祥子さま。当事者の私は了承していません。いつも通りの三奈子さまの暴走です。
「うっ・・・」
「ふぅ・・・三奈子さま、あなたもっと自覚と責任を持った行動をするように心掛けなさい。これでは妹さんの方がしかっりしていてよ?」
「まったくです」
「真美さん!」
滅多に薔薇の館に現れない真美さんが扉の側に佇んでいた。・・・足音、しなかったよね?
「姉がご迷惑を掛け、申し訳ございません」
「ちょ、ちょっと真美、何よそれ」
「お姉さまはもう引退なされたのだから、自重してください。というか、もうこれ以上人様に迷惑を掛けるのはやめて下さい」
ま、真美さん・・・恐ろしい。お姉さまにあそこまでキッパリ言える妹は真美さんと由乃さんくらいなものだろう。
「やれやれ。とんだ災難だったね、祐巳ちゃん」
一部始終を静観していた令さまは三奈子さまと真美さんが去った後、肩をすくめながら疲れ切った様子だった。
「まったくね・・・といいたいところだけど。・・・祐巳」
「は、はいっ!」
「今回のことはあなたにも責任があってよ?」
「・・・はい。申し訳ありませんでした」
「・・・この学園にはお節介焼きが多いのだから、気を付けなさい。・・・私の言おうとしていること、あなたならわかるわよね?」
はい祥子さま。私は心の中でそう呟いて、もう一度円ちゃんを探す決意をした。