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12.黎明の独裁者 /kousi



 場に居る全員が、目を丸くしてその闖入者を眺める。どこか鬼気迫る迫力の三奈子さまに気圧され、思わず一歩退く私。その行動の裏には、どこかこれから起こることについて他人でいたかったという思惑があったのかもしれない。
 しかしそんな思惑は軽く外れることになる。どこが第三者たりえようか、三奈子さまの口から突いて出た言葉は、まさしく当事者が私であることを示唆していた。

「紅薔薇のつぼみに妹が出来るかどうかの瀬戸際ですって!?」

 これまたいい具合に意味の分からない情報をよくここまで捻じ曲げて持ってきてくれたものだ。絶対三奈子さま、伝言ゲームとかで一番最初に間違えた情報を流す人だ。そうに違いない。

「どんな情報をどういう解釈でそういう結論に至ったのかは存じませんけど・・・」

 泳がなければ死ぬ魚のように、放っておけば怒涛の如く喋り続けようとする三奈子さまを押し止めるため、志摩子さんがやんわりと言葉を挟む。さり気なく毒のような気がしないでもないがこの際気にしない。

「何の話か私たちには見当もつきません」
「ふっふっふ、シラを切っても無駄よ。こっちには確固とした情報源があるんだから!」

 甘いわね、と言わんばかりに腕組みをし、場の全員を威嚇するように見る三奈子さま。だけど志摩子さんは本当のことを述べているだけなのでシラを切る以前の問題なのだが。

「おっと、ネタの提供元は秘密よ」

 や、別にいらない。

「祐巳さんならわかるわよね?」
「え、あの・・・三奈子さま? 美奈子さまの仰るところの当事者であるはずの私にも全然見当がつかないんですけど?」
「あら。祐巳さんまでそんなこと言うの? 冷たいわね」

 期待の篭った目が一気に冷める。
 でも、冷たいも何もわからないものはわからない。

「まあ、そこまでしらばっくれるのなら仕方ないわ。じっくり私の話を聞いて己の非礼を詫びなさい」

 詫びる意味がまったくもって分からないのだが、ここはあえて突っ込んで尋ねる場面ではないだろう。そう思い、目の前の三奈子さまに傾注する。

「ここ最近、山百合会は総出で一人の一年生のことを調べているそうね? しかもそれはとある筋によれば祐巳さんがらみの人物らしいじゃない」
「あー・・・」

 なるほど。全員が思わず唸る。この場にいる面子も馬鹿じゃない。ここまで言われれば、三奈子さまが何を言いたいか充分察することが出来た。新聞部は(と言っても三奈子さまの意見が大半だろうけど)、単なる人探しであるはずの円ちゃん捜索を、あろうことか妹候補の調査と読んだらしい。

「いや、あの、三奈子さま? それはその・・・」
「そこで、新聞部ではこういう企画を立ち上げてみたの!」

 せっかくの間違いを正してあげようとする試みも三奈子さまには通じなかった。あっさりと私の言葉を遮った三奈子さまは、満を持したように計画書の束を取り出す。ダメだ、話が通じない。

「って、え? 企画?」
「そう。候補者を選んで、その中から紅薔薇のつぼみの妹に誰が相応しいか、アンケートもしくは投票のような形で選抜していくというものなんだけど。もちろん自薦他薦は問わずに」
「でもそれは・・・」
「別にその中で優勝したからと言って妹にしなくてはならないという制約なんてないのよ? 一種のお祭りみたいなものと思えばいいわ」
「はあ、でもさすがに」
「いやいや、もちろんお気に入りの一年生がいて、それで姉妹になればなによりなのだけれど」
「・・・・・・」

 尚も止まることを知らない三奈子さまのトークにより、私は完全に圧倒され、もはや相槌の声も出なかった。




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