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10.追憶 2 /kousi



 あてが一つ外れたとしても、私は諦めなかった。可能性があればどこにでも行き、誰にでも話を聞いた。やっぱり名前を知らないことにはどうしようもないもので、結局はそれら全てが徒労に終わったわけだけど。
 二、三度ほど高等部の校門の前でその人の姿を待ったときもあったが、まったく成果は上がらなかった。

 今となっては、待っていただけでは見つけられなかったということがよく分かる。探していた人は高等部で憧れの山百合会のメンバーで、いつも帰りは日の沈みかけた頃になるらしいから。
 その時間、弟や妹のお迎えに行っている私が会えるはずもなかったのだ。
 そのまま時間だけが流れ、私が高等部へ入るときになっても、その人と出会うことはできなかった。そのせいか、私の高等部入学はあまり気分の乗るものではなかった。高等部に入ればその人に会えると思っていたのだけど、入れ替わりで卒業してしまっている可能性も捨てきれずにいたからだ。
 しかし、マリア様は劇的な再会を用意してくれていた。気落ちしたまま臨んだ山百合会主催の新入生歓迎会でそれは起こった。

「マリア様のご加護がありますように」

 そう言って紅薔薇さまが私の首におメダイをかける。
 私にとって不幸だったのは、紅薔薇さまの隣に紅薔薇のつぼみとして立っているその人の存在に気付いたのが、今まさに紅薔薇さまが私の首におメダイをかけ終わろうとしたその時だったことだ。

「あ・・・うぐっ!!」

 声を上げようとして思わず勢いよく一歩を踏み出したとき、紅薔薇さまの持っていたおメダイが私の喉に食込んでしまったのだ。完全にキメられた状態だったようで、一瞬で私の意識は飛び、次目覚めた時そこは保健室だった。
 保健室の先生はこう語る。

「こんな偶然、滅多にないわよ」
「笑いを堪えながら言わないでください」

 今思い出しても顔から火が出る。何の準備もなく探していた人に会ってしまって興奮したのだろうけどさすがにアレはないと思う。
 できれば普通の再会がしたかった。
 切に願うが、すでに手遅れなのは間違いなかった。




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