8. あなたはだあれ? /kousi
一人が四人になった。それだけでまったく違う。山百合会の仕事の合間にそれとなく探す、それだけでも純粋に四倍なんだから。でも一番大きいのは、一緒に探してくれる人がいることでどこか安心できる部分ができたことだと思う。
しかし、それでも進展はまったく見られなかった。
「情報が少なすぎるわ・・・この手紙、名前だけでクラスとか書いてないんですもの」
私が貰った手紙とにらめっこしながら呟く由乃探偵。
いくら文字を見ても、どうにもならないと思うんだけど・・・。手紙を見てわかるのは、円ちゃんの文字のクセくらいだ。
「私もクラスの友達に聞いてみましたが、雨宮円という人に心当たりはないそうです」
「高等部からの中途入学かしら・・・?」
乃梨子ちゃんの言葉を志摩子さんが継ぐ。でも、それは多分違う。
「うーん、それはないと思う。うろ覚えだけど、中等部の制服を着ていた気がするから」
私の言葉に、「そう・・・」と一言だけ呟き、また思案顔になる志摩子さん。
「瞳子や可南子さんがいれば、もっと情報が集まるはずなんだけど・・・」
腕組みをして吐き出すようにして言った乃梨子ちゃんのそのセリフで、初めて私は気がついた。
そういえば、最近、瞳子ちゃんと可南子ちゃん見てないなぁ、と。
まさしくその時だった。
「話は聞かせてもらったわっ」
いきなりの部外者の声。それとともに、私たちがいるフロアに通じる扉、ビスケット型の扉がバーン、と勢いよく開け放たれた。
実際は多少勢いが良かっただけで、本当に音は出ていないんだけど、そういう雰囲気だったのだ。だって、開け放たれた扉の向こう側に立っていたお人の顔を見ればそんな気分にもなるわけで・・・。
見れば額は汗だくである。きっとスカートのプリーツなんか乱しまくりながら走ってきたんだろうな、と思わせるには充分だった。
「山百合会の皆さん、ごきげんよう」
はあはあ、と肩で息をしながらも笑顔で挨拶をするその人物に、フロアにいた面々はワンテンポ遅れながら揃って声を出した。
「ごきげんよう、三奈子さま」