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7.仲間 /おにやん



「祐巳さまにちょっかいを出してる一年生・・・ですか?」

 不本意ながらも天敵である細川加奈子に事情を話した。理由はとくにない。あえて挙げれば、その場のノリというやつだ。

「何故、そんなことを私に教えるのですか?」

 折角教えてあげたと言うのに、まるで・・・いや完全に顔に“そんなことあなたに教えられる筋合いはありませんわ”と書いてある。

「・・・ふっ。あなた友達少なそうですもの」

 悔しいから反撃。こんなヤツに塩を送ったのがそもそもの間違いだった。

「他人の悪口とウワサしか出来ない友達なんて必要ありません」
「あら? それは誰のことかしら?」
「・・・さぁ?」

 見えない火花がバチバチと音を立てている。これ以上この場にいるとお互いに歯止めが効かなくなる。

「付き合っていられませんわ」
「付き合ってるつもりはありませんが」

 両者一歩も譲らない。やっぱりこの細川可南子という人物とは一生ウマが合うことはないだろう。


 そろそろ梅雨も明け、夏休みが目の前まで迫ってきた。円ちゃんからは例の手紙以降なんの音沙汰もなかった。一応、探しては見たのだが、いろいろと仕事が重なって、円ちゃん探しは難航していた。これでも私は紅薔薇のつぼみロサ・キネンシス・アン・ブウトンなのだ・・・一応。

「祐巳さん? どうしたの?」

 夏休み前でテストも終わっているというのに浮かない顔をしている私に由乃さんが話しかけてきたのは、終業式まであと2日の昼、薔薇の館の二階でのことだった。
 令さまと祥子さまは私用でここにはいらっしゃらない。自動的にこの場には二年生以下の山百合会メンバーが揃っていた。

「・・・え?」
「ぼけー・・・っとしちゃって。祥子さまに“祐巳、シャキッとしなさい”って言われちゃうわよ?」
「・・・うん」

 判ってはいるんだけど返事が曖昧になってしまう。私の頭はかなりお人好しに出来ているらしく、私はあの日からずっと円ちゃんとの出会いについて思い出していた。

「やっぱり覚えていない、なんて言えないよね・・・」

 あの娘は私に憧れてくれている。自惚れかもしれないけど、たぶんそうだと思う。そんな“憧れのお姉さま”から出会いを忘れられると言うことは“お姉さまにとって私はその程度の興味対象でしかないのだ”とハッキリ言われているのと同意なのでかなりショックを受けてしまう。・・・私がそうだったように。

「祐巳さん!」
「は、はい!」

 突然の由乃さんの大声に驚き、思わず大きな声で返事をしてしまった。

「私は祐巳さんの何?」
「え?」

 由乃さんの言わんとしていることが理解できなかった。

「私、祐巳さんとは親友だと思ってる・・・」

 深刻な顔で由乃さんが迫る。

「え? え?」

 わかってる、由乃さんは数少ない深い所で繋がってる友達。そう一般に言う親友だ。

「私って頼りになれない? 悩みも打ち明けられないほど信用できない?」

 一人で悩んでも解決できないことはたくさんあるものだ。そんな時の為に友達がいる。家族にしか相談できないことがあるように、友達にしか相談できないこともあるのだ。

「うん・・・そうだよね。私たち親友だもんね。・・・ごめん、由乃さん」
「私も」

 二人の会話を見守っていた志摩子さんが口を開いた。

「私も、祐巳さんが困っていたら力になってあげたいわ」

 すると、乃梨子ちゃんも一旦お茶を入れる手を止め、一歩前へ出た。

「及ばずながら、私も」
「うん」

 涙が零れそうになった。やっぱり仲間っていいな。




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