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6.雨の日の・・・ /kousi



 あの時は本当にありがとうございました。手紙には、そう締めくくられていた。
 可愛い便箋に女の子らしい丸文字で書かれていた内容は、本人でさえ忘れかけていたものだった。
 確かに、ひどい雨の日に傘を貸してあげたという記憶はあるのだが、それがいつのことだったかはすでにどこかに飛んで行ってしまった後らしい。
 しかし、うろ覚えながら、その子の顔や背格好などは思い出せる。あの時、彼女は中等部の制服を着ていた。あの時は幼く見えたけど、意外と年は近かったらしい。
 そっか、あの子、高等部になったんだ。

「・・・円ちゃん、か」

 情けは人のためならず。私のした行動で誰かが嬉しく思っているんだ、そう思うと何故か私まで嬉しくなってくる。もしかしたら余計なお世話だったかもしれないと悩んだ日々もそういえばあった気がする。
 何でもないことなんだろうけど、それでも自然と足の進みは速くなる。雨の日でなければスキップで帰っていたかもしれなかった。


 その様子を後ろから見つめる影が一つ。

「なんか、意味もなく嬉しそうですわね、祐巳さま・・・」

 瞳子だった。祐巳から着かず離れず、一定の距離を置いて歩いている。

「盗み見ですか?」
「なっ・・・」

 油断していた時にいきなり後ろから声をかけられて驚いた瞳子は、首だけで後ろを振り返った。振り返って、瞳子はしまったと苦悩する。まさかマリア様の見ている前でこんな作法を無視した行動をとるとは。
 しかし、その苦悩は声の主を見た瞬間に吹っ飛んでいった。こんなの相手に作法など関係ない。

「・・・ごきげんよう、可南子さん」

 自分でもわかるほど無愛想に挨拶をする。

「ごきげんよう。祐巳さまをストーキングするとは、趣味がいいとは言えませんね、瞳子さん」

 気持ちが悪いほどの長髪をなびかせて言うその姿を見ながら瞳子は思った。
 そのセリフ、あなたにだけは言われたくない。




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