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4.想い /kousi



「とうとう振り出しちゃったわね」

 呟いたのは誰だっただろうか。クラスのざわめきの中、その声だけが一つ抜けて聞こえた。
 ふっ、と窓の外を見れば、なるほど、確かに薄暗い空の下、土砂降りとは言わないがそれでも結構強い雨が降り注いでいた。皆、口だけで慌てないのは、朝の時点ですでに準備を済ませてきているからだろう。どこもかしこも鞄の中には折りたたみの傘。
 ・・・今気付いたけど、普通の傘を持ってきているのは私だけかも。
 高校生にもなってお気に入りの傘を持ってくるところとか、未だに子供っぽいところがある、と自覚しているのだが、こればかりは如何ともしがたい。

「今日は朝に会合があったから、放課後のお茶会はなかったんだよね」

 誰に確認しているのかとは問わないでほしい。こうして口に出さないと思考を整理できない性分なのだ。
 靴を履き替え、お気に入りの傘を広げ、外に出る。
 放課後のお茶会を楽しみにしてる私としてはちょっと不満もあるんだけれど、こればかりは仕方がない。お姉さまたちにもご都合というものがあるんだから。
 由乃さんは剣道部。志摩子さんは乃梨子ちゃんと。
 一人で下校するのも久しぶりだから、せめて楽しんで帰ろうと傘が雨をはじく音に耳を澄ませる。

紅薔薇のつぼみロサ・キネンシス・アン・ブウトン

 明らかに雨の音とは違う人の声が突然耳に入ってきた。間違いなく私を呼ぶ声だった。
 銀杏並木の分かれ道、マリア様の像の前でのことだった。




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