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3.ハンカチ /おにやん



 朝起きるて窓の外に見えたのは、雲一つない見渡す限りの青い空・・・ではなかった。
 厚い雲に覆われた薄暗い空。テレビではもう梅雨は明けたって言ってたのに。

「傘持っていかないと」

 愛用の青い傘を片手に家を出る。今日は山百合会の集まりがあるから少し早めに。

「ホント、嫌な天気・・・」

 今にも降り出しそうな雲は益々厚く暗くなっている。

「ゆ・み・さーん」

 不意に後ろから抱きつかれた。

「ぎゃーっ!」
「きゃっ」

 慌てて振り向くとそこには見知った顔の友人が驚いた表情で固まっていた。

「びっくりした・・・」
「よ、由乃さん・・・ はぁ・・・、びっくりしたのはこっちだよ」
「聖さまの言うとおりだったわね」
「え?」

 なんでそこで聖さまの名前が上がるわけ?

「祐巳さんに抱きつくと恐竜みたいな声出すって」

 ・・・まったく、あの人は。

「そうそう・・・、はい」

 由乃さんは鞄から小さな箱を取り出した。

「何コレ?」
「昨日の帰りに一年生から預かったのよ。紅薔薇のつぼみロサ・キネンシス・アン・ブウトンに渡して頂けませんか?って」
「・・・なんで由乃さんに?」
「うーん。私も自分で渡した方がいいんじゃないの?って言おうとしたんだけど、すぐに走っていっちゃって・・・。祐巳さん心当たりは?」
「あるわけないじゃない。私一年生なんてまともに知ってるの乃梨子ちゃんと瞳子ちゃんと可南子ちゃんぐらいだもの」
「そうよねぇ〜」


「祐巳さま、もう少しご自分を知った方がよろしいと思います」

 先に来ていた白薔薇姉妹の乃梨子ちゃんに由乃さんから聞いた特徴の一年生のことを尋ねてみると、乃梨子ちゃんは少しの間をおいて口を開いた。

「どういうこと?」
「祐巳さん、一年生に人気あるみたいよ」

 ニコニコ顔の志摩子さん。そういえば、可南子ちゃんにそんな話をされたことがあるような・・・。

「つまり“憧れの紅薔薇のつぼみロサ・キネンシス・アン・ブウトンに愛を込めて”ってわけね」

 由乃さんが腕組みしてうんうんと頷く。

「私のクラスにも祐巳さまの妹になりたいと思っている生徒は結構います。それにこれは聞いた話ですが、祐巳さまのファンクラブもあるとか・・・」
「うそっ!?」

 私のファンクラブ? 信じられない・・・。

「それで、祐巳さんは何をプレゼントされたの?」
「あっ・・・」

 そう言えばまだ見てなかった。

「えっと・・・」

 包みの青いリボンをそっとほどいて箱を開けると、中には・・・。

「ハンカチ・・・?」
「なるほど、無難なチョイスね」

 由乃さんがまたうんうん頷く。

「あれ?」
「祐巳さん、どうかしたの?」
「うん・・・これ、どこかで見たことあるような・・・」

 私がそのハンカチが数ヶ月前にあの娘にあげたハンカチと色違いのものだと気付くのはもうちょっと先だった。




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