30.愛おしい人 /kousi
由乃さんは令さまのところへ、志摩子さんは乃梨子ちゃんと一緒にいる。
じゃあ、私は・・・?
考えが及んだのか、及ぶまでもなく足が勝手に動いたのか、どちらにしても私は今、薔薇の館の手前まで来ていた。
何故かは問うでもないことだった。
「お姉さま・・・」
口にしたのは、今一番会いたい人。
果たしてお姉さまはいるのだろうか。少し緊張して扉を押す。慣れた薔薇の館でも、こういうときばかりは緊張するものだ。慎重に階段を上がって扉の前に立つ。
下校時ともなれば辺りはそれなりに薄暗くなる。そのため外から薔薇の館に電気がついているのは確認できた。つまり誰かはそこにいることになる。問題はそれが誰なのか、なんだけど。
今まで会った人たちを除外するとすれば、ここにいるのはお姉さまの確率が高い。でも、だからといって油断はできない。
意外とこんな展開に限ってありえない人が出てきたりするものだ。「ありえない人」ですぐに聖さまの顔が浮かんだ。しかし、ありがたいことにすべては杞憂に終わってくれた。扉を開けたその先には待ち焦がれた顔。
「祐巳?」
少し驚きながらも、そのお方は私の名前を呼んだ。