29.後始末 /おにやん
由乃さん曰く“ギンナン作戦”の結果は、とりあえず作戦失敗に終わった。
あれから一時間経っても江利子さまは現れなかったので由乃さんは“また江利子さまにやられた”と悔しがっていた。
しかも不発に終わったギンナンの処理をワタシに押しつけて怒りながら令さまの元へ大地を踏み鳴らして行った。
令さまには気の毒だが、今の由乃さんは制御できないだろう。・・・それにしても、このビニール袋一杯のギンナン、どうしよう。
このままその辺の草むらに捨ててしまいたいと思ったが、これだけ大量に捨てているところを誰かに見られたら・・・。由乃さん、恨むよぉ〜・・・。
果てしなく重く感じられるギンナンと共に消え去ってしまいたい・・・。あ、でもお姉さまに会えなくなるのは嫌だな。
「祐巳さん?」
地獄に仏。今のワタシには彼女の声がマリアさまのお声に聞こえたような気がした。
「志摩子さん! ・・・と、乃梨子ちゃん!」
「・・・どうも」
相変わらず仲がいいなぁ〜。
「・・・・・」
一瞬にして乃梨子ちゃんの視線が沈み、眉間に皺が寄る。もうその顔だけで“なんですか、それ?”と言っているように見えてしまった。
志摩子さんも同様にすぐに私の持っているアレが目に止まったようだ。
「あら、祐巳さんも集めていたの?」
「へ・・? 祐巳さん“も”って・・・」
「この通りです」
観念しました、と言った感じで乃梨子ちゃんの後ろから登場するビニール袋。乃梨子ちゃんの持っているビニール袋は二重になっていた。
「ねぇ、志摩子さん、よかったらこれ、貰ってくれない?」
「まぁ、でも悪いわ・・・」
心底すまなそうな困った顔をする志摩子さん。
「ううん、いいのどうせ処分しようとしてて・・・」
「そうなの?」
「うん、だから遠慮しないで」
「祐巳さん、ありがとう」
聖母の微笑みって、こういう顔の事をいうのかなー・・・。一瞬、志摩子さんに見とれてしまい、慌てて顔を振って理性を呼び戻した。
「今度、茶碗蒸しをごちそうするわね」
「うん、ありがとう。それじゃあ、私は・・・」
「ええ、ごきげんよう、祐巳さん」
「ごきげんよう、志摩子さん、乃梨子ちゃん」
「ごきげんよう、祐巳さま」
二人仲良くビニール袋を携えて遠ざかって行く二人の姿に、なんとなく自分とお姉さまを重ねてみる。
そういえば、ここの所お姉さまが忙しそうなので一緒に帰っていない。切なくて少し胸が締め付けられ、急にお姉さまのお顔が見たくなった。
・・・まだ、いるかな?