28.宣戦布告 /kousi
「つまり、あのでこ・・・じゃなくて、江利子さまは令ちゃんと私の部活動をのぞきにここにくるってわけね」
「・・・うん」
うう、ごめんなさい、江利子さま・・・。 心の中で江利子さまに謝りつつ、相槌をうった。
すでに場所は移り、体育館のすぐそばの立木に私たち二人は身を潜めていた。目を凝らせば体育館の中の様子までわかるほどの距離である。
結局、あの由乃さん相手にだんまりなんかできるわけなく、一部始終が由乃さんの耳に入ってしまったのだ。いまや意気揚々たる由乃さんを見ると、その目は復讐を待ちわびたかのごとく燃え盛っていた。
「しかし遅いわね・・・。校庭でも散策して時間つぶしてるのかしら」
「部活動が始まるにはまだ時間あるから」
ホームルームが終わってすぐにダッシュでこの場所に来たためか、体育館には人の姿など見えなかった。
「うーん、早く来すぎたか」
残念、とため息を漏らす由乃さん。
「・・・ところで、由乃さん・・・」
「ん、なに?」
「さっきからその手に持ってるものがすっごく気になるんだけど」
「これ?」
そう言って手に持ったものを突き出す。何故かギンナンがたっぷり詰まったビニール袋。
「うん。・・・それ何?」
さっきからの謎だった。
「いやだ祐巳さん、ギンナンに決まってるじゃない」
「いや、そうじゃなくて・・・」
そういう意味で言ったわけじゃなくて、それで何をするつもりかを聞いたつもりだったんだけど。って言ったら由乃さん。
「ぶつけるの」
「誰に?」
「江利子さまに」
「ギンナンを?」
「他に何かぶつけるものある?」
なんて平然と言い切ってしまう。
へー、ギンナンを江利子さまに・・・って!
「ちょ、ちょっと・・・! 由乃さん!?」
「祐巳さん、声大きいって」
「いや、そういう問題じゃなくて、本気でやるつもりなの!?」
「当然。ギンナン臭まみれにして家に帰れなくしてやるわ」
ヤバイ、目が本気だ由乃さん・・・。
これは止めた方がいい。頭の中で誰かが囁いた。
「由乃さん、やめたほうがいいって、絶対! 相手、江利子さまだよ!」
「何言ってんの祐巳さん。江利子さまだからこそ、でしょ」
「だからこそ、って・・・」
「口で勝てないなら実力行使、世の中どこでもやってることだわ」
説得不能。いろんな意味で危険なセリフを吐く由乃さんを前に、私はそんなことを思うのだった。