26.余韻 /kousi
話が始まって30分くらい経った頃だろうか。ほぼめぼしい話もし終えたとき、江利子さまは一つ大きな伸びをした。
「さぁて、それじゃそろそろ帰ろっかな」
言うが早いか、江利子さまはもう席を立っている。
「え? もうお帰りになるんですか? そんなに急がなくても。令さまや由乃さんも会いたがってると思いますよ」
由乃さんは別な意味で会いたがってるんだけど。
「二人とも部活でしょ? じゃあ、ここで待ってるより、こっちから会いに行ったほうが早いと思ってね。ま、会うって言っても、外から眺めるだけなんだけど」
「会っていかれないんですか?」
「だって令と会うってことは、それと一緒に由乃ちゃんと会う確率も高くなるじゃない?」
「はあ、まあ、それはそうですけど・・・」
江利子さまの意図がわからず歯切れ悪く相槌を打つ。心得たもので、江利子さまは笑って答えた。
「今、由乃ちゃんに会ったら、何されるかわかんないもん」
「やっぱり自覚あったんだ・・・」
「もちろん。由乃ちゃんは怒らせるのが一番面白いわ」
言葉もなく立ち尽くす。何かこの日で一番疲れた瞬間だった。