25.真相 2 /おにやん
「・・・と言うのが、みんなに話した所まで」
きっちりアールグレイ一杯分を飲み終えて江利子さまのお話は一区切りした。
多少脚色されてるような気もするけど、まぁ、話の大筋は会ってるからいいかな。
「自由奔放な方ですわね・・・」
「ありがとう」
「それで、その続きは?」
黙って聞いていた可南子ちゃんが不意に口を開いた。
「えっ? ちょっと、可南子ちゃん?」
「わざわざ“みんな”を強調してましたから」
そう言えば、そんな気もしないでもないけど・・・。
「・・・そうね、本当は祐巳ちゃんだけに話をするつもりだったのだけれど」
そう言って江利子さまはこちらを向いて微笑んだ。
「では、私たちは失礼します」
「そうですわね、次の授業は体育ですし」
二人が席を立ち、部屋の扉が閉まる。
「あ、そうだ。祐巳ちゃん、ちょっと待っててね」
江利子さまは面白い悪戯を思いついた子供の様な顔で素早く部屋を出ていってしまった。
* * *
「ちょっと、二人とも」
薔薇の館を出ようとしたその時、後ろ手に江利子さまの声が聞こえてきた。
「まだ、何か?」
振り向くと、江利子さまは階段を下りきらずに途中で立ち止まった。
「二人とも、祐巳ちゃんの妹候補なの?」
一瞬にして私と瞳子さんの間に見えない壁ができた。
「それは、祐巳さまが決めることですわ。それに私は頼りない姉は欲しくありません」
「あらあら、照れちゃって」
「誰が!」
「お話はそれだけですか?」
「そう。それだけ」
嫌みの笑顔なのだろうけど、元がいいので全然嫌みに見えない笑顔で江利子さまは微笑んだ。
「それでは失礼します」
扉に手をかけ、外へ・・・
「二人とも、漁夫の利に気を付けなさい」
* * *
数分で江利子さまは戻って来られた。なんか瞳子ちゃんの声が聞こえたような気がするんだけど。
「あの、お茶淹れましょうか?」
「いいえ、もう結構よ」
ううっ・・・緊張する。
「あれね、わざとよ」
「へ?」
「私が“みんな”を強調したの」
へ? ワザと? なんで?
「あの娘なら引っかかってくれると思ったから」
江利子さま、もしかして・・・
「体のいい人払い、というわけですか?」
「ご名答。祐巳ちゃん、鋭くなったわね」
ううっ・・・嫌みだ。
「祐巳ちゃんに聞きたかったことがあるのよ」
「私に・・・ですか?」
「祐巳ちゃんと由乃ちゃんって仲がいいでしょ?」
ああ、そういうことか。江利子さまは由乃さんの事が聞きたいのか・・・って、やっぱり例のアレ?
「祐巳ちゃんは大丈夫そうだけど、由乃ちゃんは・・・どう?」
「どう?って・・・」
「蓉子に託した伝言、届いた?」
「あの後大変だったんですよー! 由乃さんが令さまを攻撃しだして」
「あら、それは見たかったわね」
ホントにこの人は・・・。
この後、昼休みが終わるまで、私は当時の状況を根ほり葉ほり江利子さまに聞かれた。