21.ちょっと後の話 /おにやん
「大体の事情は飲み込めましたわ」
紅茶を一口含んだ後に少女からこぼれた言葉は虚しく薔薇の館に響いた。
髪をロールに纏め、気品の溢れる様子は流石はお嬢様学校と言ったところか。
ただ、悲しいかな、彼女はその場には全くそぐわない格好をしていた。
「どうでもいいけど瞳子さん。その格好はなんなんですか?」
一際背の高い少女は、その場に一緒にいるのも嫌なくらい彼女を嫌っているのに、何故か自ら話しかけていた。・・・まぁ、無理もないけど。
「何って、体操服ですけど? もしかして可南子さん、知らなかったんですか?」
口に手をあて、本当に驚いたような“フリ”をする少女。この辺が彼女の彼女らしいところ。
「・・・もういいです。ところで祐巳さま、もしかして、そんな話をするためだけに私たちをお呼びになったのですか?」
「え? そうだけど?」
そんな義務はないんだけど、やっぱりこの二人にはリリアンかわら版の歪んだ事実より、ちゃんとした真実を知ってもらいたいし。
「はぁ・・・」
可南子ちゃんがここへ来て何度目かのため息をする。
「あなたという人は・・・」
「まったく、祐巳さまはホント、変ですわね」
「へ?」
二人はなんだか私をみてやれやれ・・・みたいな顔をしている。
「私たちが入学する前に卒業された面識もない先輩のことを聞かされて、私たちにどうしろと言うのですか?」
「・・・あ」
言われてやっと気が付いた。そうだ、彼女たちは今年入学してきた生徒だったんだ。
蓉子さまや聖さま、ましてや江利子さまとも会ったことないんだった。
「祐巳さまはホント抜けてますわね」
「あ、ははは・・・」
今回ばかりはホントに抜けてた。暑さでどうかしちゃったのかな、私。・・・って、いつものことか。
「それで、どうなったんですか?」
さっきから立って腕組みしていた可南子ちゃんが窓辺まで近寄る。
「どうなった・・・って?」
「その事件は解決したのでしょう? ここまで話したのだから最後まで教えてください」
えっと・・・たしか、聖さまが江利子さまのお兄様を足蹴にしてたところまで話したんだよね。
「そうですわね。確かに元・黄薔薇さまとは面識はありませんが、結末は知りたいですわね」
「そうだね。えっと、その後ね・・・」
「折角だから、そこから先は私が話しましょうか?」
音もなく扉を開けた人物は、紛れもなく鳥居江利子さま本人だった。