19.一足違い /おにやん
事態は私が考えていたものより、ずっと複雑で重く、最悪の状況まで陥っていた。
聖と二人でまず職員室に行き、先生方に挨拶をし、薔薇の館へ向かう途中に会った人物の一言で私たちは背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
「あら? 蓉子さまたちも来ていたのですか? お久しぶりです」
胸元に高級そうな一眼レフを抱えた女子生徒が言ったその言葉に反応したのは聖だった。
「蓉子さまたち“も”って、どういうこと?」
言われて気が付いたあたり、疲れているのかな、と思ってしまった。普通、こういうことに気が付くのは聖より自分の方が先のはずだから。
「ん・・・ 何番目のお兄様なのかは覚えていませんが・・・」
そこまで聞いて理解した。これから正しい情報を祥子たちに伝えて、これ以上の騒ぎを起こさせない、という私たちの考えは、どうやらもう果たせそうにはない。
「挨拶なんて後回しにすればよかったかな?」
「いいえ、そうはいかないわ。でも・・・まずいことになったわね」
「どういうことなんですか?」
「あなたは江利子のこと聞いてないの?」
「江利子さま・・・? なぜ、既にご卒業なされた江利子さまの名前が出てくるのですか?」
「・・・そう。あなたの耳に届いてないとすれば、伝わるのは最悪でも明日、といわけね」
「あの・・・蓉子さま?」
「ごめんなさい。今は何も言えないわ。それと先を急ぐので失礼するわね」
「・・・はい。わかりました」
「ごきげんよう、蔦子さん」
そう言って二人でその場を去る。
* * *
「頼む! 教えてくれ!!」
志摩子さんたちが薔薇の館に戻ってきて、一段落経ち、これから学園祭についての話し合いをしようとした時に扉を叩く音がした。
扉を開けて入って来たのは、一年前に見た、その人だった。
「お兄様?」
「あぁ、令くんか、よかった」
令さまの顔を見たその人は一瞬安堵し、ものすごい速さで令さまのもとへ駆け寄った。
「君なら、江利子から連絡があったんだろう? 頼む! 教えてくれ!! 江利子はアイツを追ってどこへ行ったんだ!!」
私と由乃さんは目を合わせ、最悪の事態を悟った。