17.乃梨子 /おにやん
「さてと・・・」
不意に隣に座っていた人物が腰を上げる。
「私の出番はここまで」
終始笑顔を絶やさなかったその人の顔は真剣そのものだった。
「・・・・・」
「・・・・・」
フッと笑顔に戻り、その人は去っていった。一度も振り向かずに。
そっと左の頬に触れる。
「泣いてたな・・・志摩子さん」
無性に淋しくなって、自分の体を抱きしめる。
* * *
「あの・・・お姉さま・・・」
先程から無言で私の手を引くお姉さまが怒っているのように見えたので恐る恐る声をかけてみた。
「姉が妹を傷つけてしまったと自覚した時、どういう気持ちになると思う?」
お姉さまは振り向きもせずに、立ち止まり口を開いた。
「えっ・・・と」
お姉さまは何が言いたいのだろう?
「あ・・・」
急にお姉さまが振り向いたと思った瞬間、私はお姉さまの腕の中にいた。
「今の志摩子たちは、少し前の私たちと同じ状況にいるのよ」
お姉さま、もしかして・・・
腕の力が少し強まる。
「私たちが干渉することじゃないの。本人たちでしか解決出来ない問題なのだから」
「お姉さま・・・」
お姉さまはやっぱり、あの事を言ってるのだろう。あの雨の日の・・・。私とお姉さまの気持ちがすれ違ってしまったあの時のことを・・・。
* * *
「乃梨子」
いつの間に、そこにいたのだろうか?
志摩子さん・・・私のお姉さまは、目の前に佇んでいた。あの時のように。
「乃梨子」
すごく優しい声で、お姉さまが私の名前を呼ぶ。
自然に体が動いて、その場を立ち上がって、お姉さまの方を向く。
「・・・ごめんなさい」
あれ、私なんで謝ってるんだろ。
「わっ・・・」
いつの間にかお姉さまが私のすぐ目の前まで寄ってきて右手で私の左頬に触れた。
「謝るのは私の方よ」
「それは違う! 悪いのは私なの。しま・・・お姉さまは悪くない・・・」
ごん
「いたっ」
お姉さまは私に触れたまま、顔を近づけてお互いの額をぶつけてきた。
「これでおあいこ」
「・・・・・」
呆気にとられる私にお姉さまはさらなる追い打ちをしてきた。
「私はね、あなたが・・・・・・」
「えっ?」
大切なお姉さまの言葉は悪戯な風にかすめ取られてしまった。