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13.波乱 2 /おにやん



 一方、薔薇の館では・・・。

「由乃はもうちょっと考えてから行動するようにした方がいいよ」

 令ちゃんの語尾が上がってる。これは怒ってる状態。ホントわかりやすいんだから。

「令ちゃんが必要以上に私に干渉してくるからでしょ! いっつもいっつも! もう、今の私は昔の“病弱な由乃”じゃないんだから! いい加減にしてよ!!」

 一気にまくし立てる。今まで言いたくて溜まってた言葉がすんなり全部出てしまった。

「・・・・・」

 沈黙。

「ふん」

 なんだか気まずくなって、腕組みして横を向く。これだけ言ったのは久々だから、きっと堪えてる。

「・・・無理だよ」

 今にも掠れて消えてしまいような弱い声が聞こえた。

「・・・え? ・・令、ちゃん?」

 令ちゃんは、まっすぐ私を見つめてきた。流れ出る涙を拭うこともなく、私だけを見つめてきた。
 なんで泣いてるの? あの人一倍涙を人に見せたことのない令ちゃんが。
 剣道部で後輩達から慕われ、どんな苦境でも笑って越えてきた令ちゃんが、どうして泣いてるの?

「私にとって・・・、私にとって由乃は・・・」

 言葉が途切れる。・・・でも、私には令ちゃんの言いたいことがわかった。
 いや、ずっとわかってたんだ。わかってた上で反発してたんだ。子供みたいに。

「・・・・・」

 とん

 気が付くと、令ちゃんに抱きついていた。

「ごめんね・・・、令ちゃん」

 パン!

 突然、外から小気味のよい渇いた音が響いた。
 あまりに透き通った音だったので私と令ちゃんは抱き合ったまま、窓から外を眺めた。



       * * *



 驚いた。
 目の前には、崩れ落ちた乃梨子ちゃん。
 自分の右手を青ざめた顔で見つめる志摩子さん。

「し、志摩子・・・?」

 私と同じく、驚いた聖さま。

「私、なんてこと・・・」

 時間はほんの数分前。乃梨子ちゃんの切れ味のある発言を、軽くあしらう聖さまの二人の応酬が続いていた。
 不意にオロオロしていた志摩子さんが乃梨子ちゃんを見つめて二人の戦いに横槍を入れた。

「乃梨子、今のは言い過ぎよ。取り消しなさい!」

 いつもとは違う厳しい口調で言う乃梨子さんに、私は場違いながらもカッコイイと思ってしまった。
 こんなことお姉さまに言ったら、きっと“あなたはもう少し場の空気が読めるように努力なさい”とか言われて叱られてしまうんだろうな。

「いいえ、取り消しません。いくら志摩子さんの言うことでも、これだけは譲れません!」

 乃梨子ちゃんってもともと気が強いから、かなり迫力があった。私ならきっと、咄嗟に謝ってしまうかも。

「ふ、二人とも落ち着いて・・・」

 いつもなら遠巻きに眺めて笑っている聖さまも今回ばかりは慌てていた。こんな聖さまを見たのは初めてかも。

「あなたは黙っていて下さい! 志摩子さんの気持ちも知らないで!!」

 瞬間、とても渇いた音が響き渡った。
 志摩子さんが乃梨子ちゃんを叩いたのだ。
 乃梨子ちゃんは一瞬、志摩子さんの方を向き。左頬を押さえて、その場に崩れてしまった。
 志摩子さんは、乃梨子ちゃんが崩れ落ちた後、自分が手を出してしまった事に、今気付いたようにはっとして自分の右手を見つめた。
 私は、ただ眺めているだけしか出来なかった。

「乃梨子ちゃん・・・」

 聖さまは崩れ落ちた乃梨子ちゃんに手を差し伸べた。

 パン

「余計なお世話です」

 乃梨子ちゃんはそれを手で払い、その場から走り去ってしまった。
 私はその時、乃梨子ちゃんが泣いているのを見つけてしまった。




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