11.天の采配 2 /おにやん
「どうして聖さまがここに?」
もっともな疑問だと思う。確か大学生ってとっくに夏休みに入っていたと思うのだけど。
「祐巳ちゃんに会いに来たに決まってるじゃない」
相変わらずの軽い笑顔で抱きついてくるこの人は佐藤聖さま。今の白薔薇のつぼみである藤堂志摩子さんのお姉さま。
聖さまについては語らなければならないことがたくさんあるのだけれど、今回は割愛。
とにかく、この人は私が壁にぶつかった時に方向を修正してくれる有り難い人なのだ。
「それでー? 祐巳ちゃん、今度はどうしたのー? この佐藤聖に言ってごらん」
ホントに鋭い人だ。それとも顔にでちゃってるのかな?
「んー・・・」
「おっ!? やっぱり何か悩み事があるんだな?」
聖さまは後ろから回した右手で私の左頬を撫で始めた。
「ちょっ、ちょっと聖さま!」
「祐巳ちゃんスベスベ〜」
この人は・・・。
* * *
「どうして由乃は私の言うことが聞けないの?」
誰もいない薔薇の館で私と令ちゃんは向かい会っていた。
「なんのこと?」
あくまでも平然とした態度で返す。
「私がわからないとでも思うの?」
いつもわかってないくせに。
「お姉さままで巻き込んで・・・」
ぷつん。
「巻き込んだのは令ちゃんでしょ!」
* * *
「・・・・・」
「・・・・・」
薔薇の館の扉を開けた瞬間、二階からものすごい声が鳴り響いた。
「少し時間を空けた方がいいみたいですね」
乃梨子が扉を閉める。
「そうみたいね」
あの声は由乃さんね。あの由乃さんがこれだけ大きな声を出すのは、きっと令さまだけだろうから、今はそっとしておいた方がいいわね。
薔薇の館から離れ、同じ方向へ歩き出す。向かう先は言わなくてもお互いにわかってる。
もう何回、乃梨子とそこに居たのだろう?
「お?」
乃梨子の声に視線を動かす。
そこには・・・。
「・・・さま」
懐かしい顔が笑っていた。