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10.天の采配 1 /kousi



 時間は放課後。部活のある由乃さんを残して薔薇の館に向かう途中、私は思わずため息をついた。
 ため息の理由は、胸の内にある秘密を隠しとおせるかに自信がもてないせいだった。
 
「令ちゃんに言ったら、きっと心配するから」

 と、由乃さんは令さまには隠したほうがいいと提案した。私もそう思うし、まだ情報が不確定なこの時期に言うべきではないとも思う。

「思うんだけど・・・」

 言葉と一緒に何回目かのため息。
 頭では分かっていても、顔に出ないという保証は無い。足取りは決して軽くなかった。

「祐巳ちゃん、はっけーん」

 薔薇の館を目の前にしたその瞬間だった。
 聞き覚えのある声が真後ろから聞こえたと思った途端に、後ろから誰かにがばっと抱きつかれる。

「ぎ・・・っ」

 ぎゃぁっ、と思わず出そうになった言葉をギリギリで飲み込む。飲み込んだというよりは、ビックリしすぎて声も出なかったと言った方が本当かもしれない。
 しかし、こんなことをする人は私の思いつく限り一人しかいない。
 果たして、振り向いたその先にあった顔は私の想像通りのものだった。

「えー、祐巳ちゃん、叫んでくれないと面白くないじゃん」

 まったく反省のカケラもない表情で呟く。大学生になっても、その屈託のない笑顔は健在だった。ていうか、なんでここにいるんだろう。
 私は若干肩を怒らせて、そのお方の名前を呼んだ。

「聖さま!」




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