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9.夜が明けて /おにやん



 ピピピピピ・・・
 耳元で一際高い電子音が鳴り響く。

「あと五分ー・・・」

 この眠気からしてまだ1時間は余裕がある。それに遅刻しそうになったら令ちゃんが起こしに来てくれるし。

「1時間・・・?」

 なんで1時間も早く目覚ましが鳴るんだろう? セットするの間違えたかな・・・?

「あーっ!」

 バサッと布団を翻してベッドから飛び降りて時計を見る。

「よかった・・・ あのまま眠ってたら、祐巳さんを1時間も待たせる所だったわ」



       * * *



 マリア様の像は、本当になかった。

「なんか不思議ねー・・・」
「祐巳さん、なに呑気なこと言ってるのよ」

 辺りに人の気配がないのをいいことに私たちはこっそりビニールをめくってみた。
 いつもそこにいて私たちを見守って下さっているマリア様は、まるでふわっと浮いてどこかへ飛んでいってしまったかのように消えていた。

「お二人とも、今日は随分と早いのね」

 祐巳さんと二人でマリア様の前でこれからのことを話していたら、不意に声をかけられた。

「真美さんっ!?」

 祐巳さんが素っ頓狂な声を上げる。

「なぁに、祐巳さん、お化けでも見たような声出して」
「えっ!? いや、あの・・・ ごめんなさい」
「そういう真美さんも早いじゃない」
「私は新聞部ですからね」

 ふふん、と気取った態度でメモ帳とペンを顔の前に上げる真美さん。悔しいけど、様になってる。

「それで、お二人は・・・?」

 わかってるくせに。ホント新聞部ってみんなこうなのかしら?

「わ、私たちは、その・・・あの・・・」
「・・・祐巳さんって、隠し事出来ないタイプね」
「・・・ホント、素直すぎるくらい素直ね」

 私と真美さんは大きくため息を吐いた。



       * * *



「まぁ、そんなことだろうと思ったわ」

 祐巳さんの態度で新聞部支配化作戦は見事に失敗。仕方なく全てを真美さんに話すことにした。

「でもね、この事件はもうすぐ解決するわよ」
『えっ!?』

 真美さんの思わぬ発言に二人して驚く。

「色々と調べたのよ。これでも新聞部ですからね」
「で、何かわかったの?」

 すると真美さんは1冊の古いノートを取りだし、あるページを開いた。

「どうも5年前にも同じ事件があったみたいね」
「えっ!? 同じ事件?」

 そのノートには5年前に起こったマリア様像消失事件のあらましが書かれていた。



       * * *



 5年前の夏休み、このノートの記事を書いた当時2年生の新聞部の生徒は、用事で部室に向かう途中にマリア様の像がないことに気付いた。
 驚いた彼女は、すぐに部員を集め、この事件を調べ始めた。
 しかし、その翌日、マリア様はそこにあった。綺麗なお姿で・・・。

「なんだ・・・」
「どういうこと?」
「つまり、5年周期でマリア様の像を掃除してるってことね」
「えっ!? でも毎日掃除してるじゃない・・・」
「それでも落ちない汚れってあるでしょ、祐巳さん。それに休みの日は掃除できないわけだし」
「あ、そうか・・・」
「まぁ、5年前だから誰も知らなくて当然よ」

 ノートを鞄に仕舞いながら真美さんは言った。

「でも、どうして先生方は何も言わなかったのかしら?」

 すると真美さんは少し考え込んで言った。

「これはあくまで私の推測だけど、本当は生徒のいない夏休みに入ってからにするつもりだったんじゃない?」
「なるほど。それが何かあって急に昨日になっちゃったってわけ?」
「そういうこと」
「じゃあ、今日戻ってくるのかなぁ?」
「それはわからないけど、近い内に戻ってくるのは確かね」
「・・・つまんなーい」
「由乃さん・・・」
「何よ、江利子さまにまで直談判に行った私がバカみたいじゃない!」
「江利子さま・・・?」

 私の発言に真美さんが反応する。

「江利子さまって言えば・・・」
「あ、真美さん! ニュースよ、ニュース!」

 同じ新聞部らしき生徒が小走りに駆け寄ってくる。

黄薔薇のつぼみロサ・フェティダが!」
「令ちゃん?」
「えっ!? ・・・あっ」

 その生徒は私の顔を見て一瞬マズそうな顔をした。

「令ちゃんがどうしたの?」

 ちょっとキツめに睨む。

「いえ、令さまではなくて江利子さまが・・・」
『江利子さま?』

 どうして既にご卒業なされた江利子さまの名前が上がるんだろう?

「あの・・・」

 彼女は私と祐巳さんを交互に見ながら口ごもった。

「いいわ、話して」
「でも・・・」
「この二人は信用できるから大丈夫よ」
「まだ、確証はないんですが、江利子さまが・・・駆け落ちなさったって」

 嵐は始まったばかりだった。




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