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8.一日の終わる前に 2 /kousi



 プルルル・・・プルルル・・・
 夕食を食べて一息つこうかといった時間帯。家に電子音が鳴り響いた。
 弟の祐麒が率先して受話器を取る。決まりきった応答の後に、「いつもお世話になっています」という言葉が漏れ聞こえた。あ、これはまさか・・・。

「祐巳ー。電話ー」

 予想通りというかなんと言うか、間髪いれずに祐麒が私の名前を呼んで手招きをする。
 でも、今の状況からすれば、私に電話をかけてくる人なんて・・・。

「島津さんって人から電話」
「・・・やっぱり」

 どうでもいいことまで予想通りだった。

「はい、もしもし」
「あ、もしもし、祐巳さん?」
「どうしたの、由乃さん。こんな時間に」

 要件は他にないとわかっていながら言ってみる。

「わかってるくせに。もちろん例の件で、よ。今日帰るときに言い忘れてたんだけど、明日はいつもより1時間は早く来てね」
「な、なんで?」

 新聞部の出方を見るといって今日は別れたのではなかったか。必死で今日の記憶を思い返すが、どれだけ思い返そうとも、それ以外の記憶はでてこなかった。

「今日はイマイチ現場を観察できなかったからね。朝の誰もいない時間帯なら誰からも苦情こないでしょ」
「それは・・・そうかもしれないけど」

 今日、別れる間際まで現場にいたんだけど、現場を調べても、別に何も出てきそうな雰囲気はなかった。一日経ったからってそんな変わるわけでもないと思う。
 でも、由乃さんは何か現場検証に妙なこだわりを持ってるみたいだった・・・最近、それ系の本でも読んだのかなぁ。

「要件は伝えたからね。それじゃ、また明日、ごきげんよう」
「あ、ちょ、ちょっと由乃さん・・・!」

 がちゃっ

 ごきげんよう、と言う暇すらあればこそ。こちらには何も言う機会さえ与えられずに、由乃さんとの会話は終了した。
 つーつー、という哀しい音だけが受話器の向こうから鳴り続けていた。




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