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5.三人目の・・・ /おにやん



「あら、面白そうじゃない」

 幸運にも、江利子さまは学園の敷地内にいた。そして私たちの話を聞くなり、考えもせずにこちらの望んでいたセリフが返ってきた。

「でも、ダメね」

 しかし、淡い希望は光ることなく消えていった。

「そんな・・・ どうしてですか?」
「一足遅かった・・・ってことかしらね? 私はね、由乃ちゃん。あなたのお姉さまのお姉さまなの」

 そこまで聞いて気が付いた。

「やられた・・・」
「えっ? えっ? なにが?」

 相変わらず祐巳さんは状況を理解するのがちょっと遅いみたい。

「それに・・・ いえ、なんでもないわ。もうすぐ日が暮れるわ。二人とももう帰りなさい」
「・・・わかりました。でも、私は諦めませんから」
「ふふ。 由乃ちゃんも相変わらずなのね」
「江利子さまもです」
「あら、言うわね」

 江利子さまが薄く笑う。顔立ちがいいから上品な笑い方なんだろうけど、私にとっては嫌みたっぷりの笑いにしかみえない。

「それじゃあ、失礼します」
「ええ、ごきげんよう。由乃ちゃん。祐巳ちゃん」
「ごきげんよう、江利子さま」
「えっ!? あ、ご、ごきげんよう」


 マリア様の像があるいつもの場所には、いかにも「何かあります」って感じに青いビニールで覆われていた。

 “立ち入り禁止”

 側に即席で作られた看板には、仰々しい赤字でそう書かれていた。

「ホントにないのかなぁ〜?」

 祐巳さんが見えもしない向こう側を見ようと背伸びをする。

「ねぇ、由乃さん。さっきの『やられた・・・』って・・・」

 祐巳さんは背伸びをやめて話を切り替えてきた。

「えっ? 祐巳さん、まだわかってなかったの?」
「えっ・・・う、うん・・・」

 祐巳さんも相変わらずだった。

「いい、祐巳さん。私のお姉さまは?」
「令さまでしょ」
「じゃあ、令ちゃんのお姉さまは?」
「江利子さまでしょ、それが関係あるの?」
「ホントにニブいわね、祐巳さん・・・」
「えー! そんなこと・・・あるかも」
「令ちゃんが先回りしたってことよ」

 令ちゃんってばいつもはこっちの気もしらずにボケーっとしてるのに、こんなときだけ鋭いんだから!

「・・・ああ!」

 やっと祐巳さんは納得したらしい。

「じゃあ、もうこの件からは手を・・・」
「退かないわよ」
「由乃さぁ〜ん・・・」
「もうこうなったら意地よ! なんとしてもマリア様の像を見つけてみせるわ!」

 カシャ!

 横から強烈な光が放たれた。

「“黄薔薇のつぼみロサ・フェティダ・アン・ブウトンの怒り”」
「蔦子さん・・・」
「なんてね」

 どうやらマリア様はまだ私たちを見捨ててはいないらしい。




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