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3.捜査開始? /おにやん



 助手(もちろん祐巳さん)を連れて勢いよく教室を飛び出した、そこまでは良かったんだけど。

「あなたたち、そんなに急いで、一体どこへいくのかしら?」

 しまった。そう言えばホームルーム、まだ終わってなかったっけ。

「さぁ、二人とも教室に戻りなさい」
「はぁ〜い」

 仕方ない、捜査はとりあえずホームルームが終わってからだ。

「これからみなさんに、夏休みに入るにあたっての諸注意をいくつか話そうと思っていたのだけど、急に職員会議が入ってしまったのでプリントを配るだけにします」

 教室中に歓喜の声が小さく沸く。やっぱり、長い話がないのっていいわよね。

「はいはい。みなさん静かに。ちゃんとプリントに目を通すのよ」

 ホームルームが終わり祐巳さんがやってきた。

「どうしたの、祐巳さん。腑に落ちないような顔して」
「いや、いつもの由乃さんらしくないな、って」
「どうして?」
「どうして、って・・・ 由乃さん、先生に食ってかからなかった、って言うか・・・」
「祐巳さん、あなた私を何だと思っているのかしら?」
「えーっ! だっていつもの由乃さんなら、『先生、マリア様の像が消えたってホントなんですか!』って」

 祐巳さんは私の真似をしたつもりなんだろう。全然似てないけど。

「これだから素人は・・・」
「素人って、由乃さんだって素人じゃない」

 む。祐巳さんに一本とられた。不覚だわ。

「ゴホン。祐巳さん、私たちはあの時、先生に見つかったわよね?」
「え、ええ」
「そんな時にマリア様の話題を出したら、どうなる?」
「・・・あ」
「そうゆうこと。それじゃ、一旦薔薇の館へ参りましょうか」



       * * *



「由乃、ダメだからね」

 扉を開けて私と目が合うなり令ちゃんが言ってきた。ホントに令ちゃんって、こう言うことにだけ鋭いんだから。

「一体なんのことかしら? お姉さま」

 令ちゃんは私のお姉さまで黄薔薇さまロサ・フェティダ

「とぼけても無駄。どうせ例の事件に首突っ込もうとしてるんでしょ」
「バレバレみたいだね。由乃さん」

 祐巳さんが小声で耳打ちしてきた。ちなみに私たちの後ろには、途中であった白薔薇さまロサ・ギガンティアこと藤堂志摩子さんと、その妹で白薔薇のつぼみロサ・ギガンティア・アン・ブウトン白薔薇のつぼみの二条乃梨子ちゃんもいる。

「事件って・・・ マリア様の?」

 乃梨子ちゃんがぼそっと呟いた。

「だって、大事件だよ!? いつも私たちがお祈りしてるマリア様の像が消えちゃったなんて!!」
「その問題は今、先生方がご相談していると思うわよ?」

 祐巳さんのお姉さま。紅薔薇さまロサ・キネンシスの小笠原祥子さまが優雅にお茶を口に運んだ。

「ではお姉さま、私たちにできることは・・・」
「あったら祐巳はどうするのかしら?」

 まるで蛇に睨まれた蛙のように祐巳さんの動きが硬直する。

「さぁ、この話はここまでにしましょう」
「あ、「黄薔薇さまロサ・フェティダ、私がやります」

 お茶を入れようとした令ちゃんを止めて乃梨子ちゃんがカップを洗い始めた。

「乃梨子、私も手伝うわ」

 志摩子さんも乃梨子ちゃんの横に並び、一緒にカップを洗いお茶を入れる。

「私は、諦めないからね・・・」

 小さく呟いた私の声は、乃梨子ちゃんがカップを洗う音にかき消されて誰にも聞こえなかった。




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