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『モーニング帝国編 【第零章〜大戦〜】』
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01.
数年前、王国と帝国の領土を丁度綺麗に分かつ大平原・・・そこで大戦は行われた 
帝国側から攻めてきたので戦争の理由は定かでは無いがおそらく王国の位置する領土が帝国側に都合が良かったからだろう 
野心的な帝国は国力、国土を大きくするためにそれなりの力を持っている国と多く隣接している王国を我が物としたかったと推定できる 
王国を制すればそこを基点として多くの国に攻め込む事が出来る、そうすれば更なる大国へと引き上げる事が出来るだろう 
だが王国側もそんな身勝手な理由でみすみす倒される訳もなくあらかじめ情報を手にいれ帝国からの侵略者を大草原で食い止めようとしたのだ 
まだ結成して日が浅いものの既に強大な力を誇っていたベリーズ戦士団とキュート戦士団が2手に分かれて侵略者を迎撃する事となった 
だが今思えばこの時固まって行動したのが仇となってしまったのだ 
帝国最強剣士ミキティの腕を甘く見すぎていた結果、食卓の騎士は想像以上の苦戦を強いられる事となる 


02.
何も無いだだっぴろい大草原での戦争となるので地の利も何もあったものではない 
まさに真っ向勝負、王国の兵は敵に強行突破されないように広く広く守備を広げる事にした 
そして大草原の中心からやや西側にベリーズ戦士団を、やや東側にキュート戦士団を配置し敵の戦力の要を迅速に潰す作戦を取ったのだ 
敵が王国へと向かう最短距離である中心付近さえ守りきれば王国を守りきれると思ったからである 
シミハム率いるベリーズ戦士団の7人も戦争の最初のうちは順調に撃破を続けていたためこのままなら易く防衛できると踏んでいた 
しかし帝国剣士ミキティが登場する事で事態は急変する事となる 
ミキティ・ロマモ・トレインランチは帝国剣士の中でも最強と呼ばれておりその実力は近隣諸国にも広く知れ渡っていた 
なんでも何千もの男を力で屈服してその場で土下座させたり、単独で敵国へ斬り込み制したりと様々な伝説があったらしい 
その実力からミキティは当時の帝王であるヨッスィー・フットチェケラの右腕としてよく働いてきたのだ 
そんなミキティがベリーズ戦士団を潰すため単独で走ってきたのでベリーズ達は大慌てだ 
普通帝王の右腕はは帝王を守るため前線までは出向いてこないもの 
だがこのミキティは戦争の序盤だと言うのに前線も前線、敵の主力である食卓の騎士を直接叩きにやってきたのだ 
ミキティには「クレイジードッグ」という通り名があり、その名の通り戦争に関しての嗅覚がとても優れている 
どいつを潰せば戦況を有利に運べるか把握したミキティはベリーズ戦士団を単独で撃破するのが良いと判断したのだろう 
そんな想定外の事態に直面してしまったベリーズ達は冷静な判断を取れなくなってしまう 
その慌てぶりを見たミキティはニヤリとして最も先頭にいたミヤビに手持ちの剣で斬りかかった 
今まで数万もの生き血を吸ってきたギロチンソード「ヨクキレール」で首を切断しようと謀ったのだ 

とっさに手に持っていた刀で防いだミヤビだがミキティの剣威に負け推されてしまう 
その結果ミキティのギロチンソードの斬撃は幸いにも首切りは間逃れたもののミヤビのでっぱったアゴをスパッと切断してしまう 
今まで味わった事のない激痛にもがき苦しむミヤビにトドメを刺そうと更に追撃を食らわそうとするミキティだったが何者かに防がれる 
それは三節棍「ギョニクソーセージ」を最大限に伸ばしたシミハムであった 
シミハム一人の実力では確かにミキティに勝てはしないが今はベリーズが全員集合している 
モモコやチナミにマイハの援護、リシャコやクマイチャンの追随があれば勝てるとシミハムは本気で信じていたのだ 
・・・が、次の瞬間全ての希望が潰える事となる 
ギロチンソードに力をこめたミキティは三節棍をはじき返しその勢いでクマイチャンの方へと向かっていった 
クマイチャンも食卓の騎士のはしくれなので迎撃しようと構えたがいかんせん動きがのろいため簡単にミキティに懐まで潜り込まれてしまう 
このままではクマイチャンの首が斬られてしまうと危機感を感じたシミハムとリシャコはその長い武器で最悪の事態を防ごうとする 
幸い2人の対応が迅速だったためクマイチャンの首斬りは間逃れたが胸を深く斬られクマイチャンは気絶してしまう 
そして斬ったと思いきや超スピードでリシャコに詰め寄りクマイチャンにやったのと同じように意識を断絶させる 
ここまでたった数秒の出来事だった 
ミキティが強いというのもあるがリシャコやクマイチャンは大きな舞台は今回が初めてだったのでガチガチになり思うように動けなかったのだ 
そして斬られると同時に今までの緊張やら不安が爆発し意識を失うほどになってしまったのだという 
そんなミキティが次の標的にしたのはチナミとマイハだ 
ミキティは元ジックス以外は初の戦闘なので実力の半分も出し切る事が出来ないと事前に知っていたのだ 
全ては帝国側の軍師コンコン・バックマウスの思惑通り 

迫り来るミキティを食い止めるようにモモコ、チナミ、マイハが射撃を始める 
しかしその程度の射撃で百戦錬磨のミキティがひるむはずも無くほとんどを斬り落とし3人のもとへと辿りつく 
ベリーズ達が全員で固まって行動した事を悔いたのはこの時だった 
モモコは他の仲間たちが磁力に自由を奪われるのを懸念して電磁石を一時的に一般兵に預けていたのだった 
電磁石さえあればこの場でミキティのギロチンソードを無力化できたのかもしれない 
そして皆が固まってしまう事でミキティは弾みをつけて一気にベリーズ戦士団を潰す事が出来てしまった 
ミキティクラスの敵は後半やってくるものだと思い込んでいた完全な作戦ミスだ 
落胆にうなだれているベリーズ戦士団を見てさらにSっ気が高まったミキティはチナミとマイハを斬り捨てようと剣を振り降ろした 
しかしガキンとした金属音とともにミキティのギロチンソードを防いだのはミヤビの刀だった 
アゴをバッサリと斬り落とされ本来なら立つ事もままならないのだが味方のピンチを救うため立ち上がったのだ 
だがせっかく敵を排除しようとした所を邪魔されてしまったためミキティは怒りが沸々とわきあがる 
そしてその怒りが頂点に達しミキティは目の前にいるミヤビを処刑する事を決意する 
今後二度と戦場に立ち上がる事の出来ないよう心臓を破壊しようとミヤビのその無い胸に斬りかかる 

ただでさえ平坦だと言うのにミヤビの胸はさらにザックリとえぐられてしまう 
心臓までは届かなかったものの誰がどう見ても重傷だ 
さすがのミヤビもあまりもの激痛に気を失い足を崩してしまう 
あまりの仕打ちに堪忍袋の緒が切れたシミハムは三節棍でミキティに殴りかかる 
モモコ、チナミ、マイハの3人もシミハムに続いてミキティに向け一勢にけしかけた 
そしてそれらが全弾ミキティにヒットしたのだがミキティは何故か反撃にこなかったのだ 
むしろ自分の渾身の一撃を邪魔したミヤビに全ての意識を集中させていたようだった 
自分に襲い掛かかってくる攻撃を全て無視してミヤビが地面に落とした刀を掴み取る 
そして一気に振り落としミヤビの肩に突き刺したのだ 
肩から突き刺さった刀はぐんぐん突き進みぽっこりしたお腹から抜けていった 
運が悪ければ即死、運が良くても生死を彷徨うほどの大怪我 
その非道すぎる行為を見てチナミとマイハは心の底から怯えきってしまう 
そしてこのミキティの目の前でほんの一瞬でも怯えを見せたが最期、二人はあっと言う間に斬られてしまったのだ 
ミキティもかなりの大怪我を負っているはずなのに不思議な事に戦闘のパフォーマンスが下がる気配は全くなかった 
この理不尽な強さを誇るミキティを前に残るベリーズ戦士団はシミハムとモモコの二人だけになってしまった 

帝国最強剣士ミキティの前にシミハムとモモコはさすがに苦戦していた 
このまま行けばおそらく勝てるのだろうがあまりにも傷を負いすぎている 
たった一人相手にこれ以上傷を負えば今後の戦争に影響を及ぼすだろう 
そんな焦燥感がジリリと来ている所になんと二人の前に救世主があらわれたのだ 
それはなんと他を守っているはずのマイミとウメサンであった 
なんでも他の兵士にベリーズがミキティ相手に苦戦しているという話を聞き駆けつけたらしい 
キュートも今回が初の参戦という者が多いが元ジックスのメグ・アンブレラがついてるので任せてきたのだ 
ミキティもさすがにこの4人が相手となると眉をしかめ始める 
事前にコンコンに聞いてた情報によると王国で注意すべき相手は5人、そして今現在目の前にそのうちの4人がいるのだ 
なのでミキティはここは無理に勝ちに行かず少しでも相手を消耗させようと悟る 
いくら相手が王国の主軸だろうと自分は帝国最強剣士だ、タダで負けるという事など許される訳がない 
片腕をもぎとってやる、足を切断してやる、立てないほど疲弊させてやる、そうして帝国を絶対有利にしてやると強く思ったのだ 
・・・が、ミキティはマイミの馬鹿みたいな生命力を知らなかった 
いくら斬ろうがマイミは倒れなかったのだ 
しかも他のヤツをターゲットにしようにもマイミが自ら全ての攻撃を引き受けるために思うように戦闘のペースを運べない 
ウメサン、シミハム、モモコは中距離、遠距離から攻撃を仕掛ける事が出来るため無傷で戦える 
マイミを盾に全員で袋叩きにするジックスの必勝パターンにミキティは完全にハマってしまったのだ 
産まれてから今まで無敗を誇っていたミキティはこの日初めて敗北を喫したらしい 
とは言えジックスの4人もウメサン以外はかなりの怪我を負ってしまったが 


03.
一仕事終え元の場所に戻ってきたマイミとウメサンを待ち受けていたのは信じられない惨状だった 
なんとその場に立っていたキュート戦士はメグとアイリただ二人だけだったのである 
それも立つのがやっとと言ったくらいにボロボロだ 
そして二人の前には現王のタカーシャイ・ハヨシネマ、ガキ・コラショワ、サユ・ミチョシゲ・ラドノイズの3人の姿 
馬鹿なマイミでも他の戦士がこの3人にやられてしまったのだとすぐ気づく事が出来た 
いくらメグが強いとは言え帝国剣士の主力3人にかかられてはどうしても苦戦を強いられてしまう 
ベリーズがミキティが来るのを予想出来なかったと同様にキュートもこの3人が早期に攻めてくるとは到底予想できなかったのだ 
せめてマイミとウメサンが残っていればここまで被害が大きくなる事は無かったのだが・・・ 
しかしそれだとベリーズがミキティにやられてしまうので結局はどっちつかずと言った感じだ 
(この帝国軍の攻め方は軍師コンコンの練った作戦だったという事は後に判明する) 
メグは急に攻めてきたこの3人から他のキュート達を守ろうと我が身を盾にして戦ったのだがさすがに相手が強大すぎた 
タカーシャイのサーベル捌きやガキの猛攻の前ではメグの重厚な装備も歯が立たなかったのである 
ただ一つ出来た事と言えばサユの足を地に寝かせる事が出来た事だ 
メグの扱う突撃槍「パラソルチョコ」での突撃によりサユの横っ腹に風穴を開けたのだ 

既にズタボロになっているメグとアイリにトドメをさそうとしたガキだったが次の瞬間全身に銃弾がブチこまれる事となる 
ブチこまれた銃弾が勢いよく弾け飛んだ事からメグにはそれがウメサンの放ったモノだとすぐに理解出来た 
ウメサンの容赦ない弾丸の追撃にガキは激痛に苦しみうずくまってしまう 
これをチャンスだと見出したメグは最後の力を振り絞りガキに向かって突撃を始める 
メグの強靭な脚力によるダッシュ、そして力強いパワーによる突進から生み出される瞬間的なパワーは並大抵のものではない 
それでも普段のガキならその刀捌きにより威力を半減させる事が出来ただろうがこの時は事情が全く違っていた 
ウメサンの連射により刀を持つ腕をやられてしまっていたのだ 
その結果ガキもサユと同様に突撃槍に鎧に穴を空けられ倒れてしまう 
心の中でよしと思ったメグだったがガキを倒した次の瞬間メグの背にも無数の切り傷がつけられる事となる 
それは現王で当時切り込み隊長であったタカーシャイ・ハヨシネマのサーベル捌きによるものだった 
ヒラヒラとしたマントに大きな帽子をかぶったタカーシャイはミキティには及ばないもののかなりの実力を誇る剣士だ 
またの名を「リボンナイト」と言うタカーシャイに背を向けたのはまさに自殺行為、メグは無惨に切り捨てられてしまう 
タカーシャイの次の狙いは傍らで怯えているアイリだ 

アイリのピンチを悟ったマイミは遠くに見えるタカーシャイのもとへダッシュで向かった 
ウメサンもタカーシャイに狙いをつけ散弾銃「マメデッポー」を連射したが間に合わなかった 
もはやタカーシャイの射程距離に入っていたアイリは恐怖に怯え一歩も動けずただ餌食になるだけであった 
そのサーベル捌きにより繰り出される連撃を全て受け止め倒れてしまう 
そのすぐ後にマイミはタカーシャイのもとへ辿り着いたが何もかもが遅かった 
マイミの周りには自分とウメサン以外のキュート戦士が無惨にも倒れていたのだから・・・ 
自分に対する不甲斐なさと怒りによりマイミの精神は不安定になってしまう 
ただでさえ馬鹿だと言うのにそれに加え情緒不安定になってしまったのでまともに戦える訳などない 
しかしタカーシャイはそんな事情などお構いなくサーベル「ゴボウ」で的確にマイミの弱っている所、叩く事で有利に働く所を刺していった 
先の戦闘でミキティの攻撃をモロに受けたダメージを抱えているのだ、タカーシャイの攻撃を完全に避けきれる事など出来るはずがない 
タカーシャイは軍師コンコンに言われた通り先に脚を潰し動きを止め、その後からゆっくりとゆっくりとマイミを切り崩していく 
遠くから放たれるウメサンの散弾銃にも注意を払いつつタカーシャイはマイミを敗北へと連れて行った 
タカーシャイは決して派手な事が出来る剣士ではないが地味ながらも実力はある 
自分の強さとマイミの強さを完全に把握したタカーシャイは長い時間をかけついに鉄人マイミを地に寝かせる事が出来たのだ 

いくらマイミに勝ったとは言えタカーシャイは傷を多く負い、もはや満身相違だ 
だがマイミに勝った時点ウメサンに恐怖を与えるには十分すぎるほどだった 
ウメサンもキュートの副団長なので恐怖で体勢を大きく崩す事はまず無いが10発に1発は軌道が歪んでしまう 
タカーシャイはその一発分スキさえ見出せれば上出来と最初から思っていたのだ 
どんどん迫ってくるタカーシャイに向け散弾銃を放つがそのほとんどがサーベルにより跳ね返されてしまう 
足を地に固定して弾丸を弾き飛ばす芸当はナカサキにも出来るがタカーシャイは己が走りながら弾を弾く事が出来る 
特に必殺技があったりするわけでもなくぶっちゃけて言えば地味なタカーシャイだが小手先の技術は帝国一だ 
正確に攻撃をはじき正確に敵を斬る、これさえ出来れば派手な必殺技など必要ない事をタカーシャイが見せてくれる 
その結果ウメサンのもとへたどり着く頃には全弾はじいたとまでは言えないがその9割近くを無駄弾にする事が出来たのだ 
ここまで近づけば勝利は確実だと思ったタカーシャイだが何が待ち受けているのか分からないため慎重にウメサンを攻める事とする 
慢心や驕りが肉体のパフォーマンスを著しく低下する事を熟知しているタカーシャイならではだ 
だがウメサンはそんな冷静なタカーシャイを前にしても焦りを見せなかった 
むしろ清々しいと言える表情だ 
不審に思うタカーシャイの足元に向けてウメサンは散弾銃を撃ち込む 
タカーシャイはその時気づいたのだった、足元に散らばっている薬莢は使用済みの空のものだけでは無かった事に 
放たれた弾丸は散弾し周囲の薬莢を刺激したちまち大爆発が起こる 

いくら優秀な剣士でもこの大爆発に巻き込まれ無事でいられる訳がない 
タカーシャイは四方八方から襲い来る灼熱地獄に気力を奪われそのまま倒れてしまう 
だがウメサンも条件は同じだ、自分で仕掛けたからと言って爆風が襲ってこない道理など無い 
タカーシャイと同じく灼熱に身を焼かれてしまったのだ・・・ 
だが幸いだったのはウメサンはこの戦争で今まで無傷だった事である 
他にもタカーシャイと違い迫り来る爆風を覚悟していたためにボロボロながらも立ち上がる事が出来たのだ 
ひどく熱くて激痛が全身を駆け巡っているが弾丸一発が戦争に与える影響は想像以上に大きい 
戦争に勝つ事を優先すべきなので立てるのならば体に鞭を打ってでも立ち上がらないといけないのだ 
ウメサンの知る範囲でミキティ、タカーシャイ、ガキ、サユを撃破しているから強豪はほとんどいないはず 
なんとかしてシミハムやモモコと合流して共闘すれば勝機はいくらでもあるのだ 
・・・と思った矢先の事だった 
ふと気づけばウメサンの前に目つきの悪い小柄の剣士が立っていた 
そう、ロッキー三銃士の一人レイニャ・ダケだ 
タカーシャイ、ガキ、サユと時間差でキュート戦士団に送られた刺客が今になってやってきたのだ 
このボロボロの体では太刀打ちできないと踏んだウメサンはひとまず逃げようと走り出す 
しかし火炎に焼かれたウメサンの身体は決して速く走れるものではなかった 
すぐさまレイニャに追いつかれ、その手に持った木刀「カツオブシ」の一太刀でウメサンは倒れてしまう 


04.
シミハムとモモコはひとまず救護隊の方へ向かい応急処置を受ける事にした 
これからも多くの敵が迫ってくると予想できるので治せる怪我はしっかり治さねばならないのだ 
そんなシミハムとモモコは応急処置を受けている間に一般兵から戦争の速報を聞く事になる 
その速報とはキュート戦士団が全滅した事、そしてそれと引き換えにタカーシャイ、ガキ、サユを倒した事だった 
それを聞いたシミハムとモモコに緊張が走った、いくら敵の主力格を倒し終えたとは言えこちらの食卓の騎士はたった二人のみ 
相手は知る範囲でもレイニャ、エリチン、マコ等がいる・・・手負いの2人で倒せるだろうかと不安になるのもしょうがない 
メグとマイミとウメサンはその身を呈して敵を倒したと言うのに自分たちは特に何もしていない・・・ 
そんな自分たちを許せなくもあったのだ 
そんな感じで二人がヘコんでいる時だった、救護テントの外からなにやら騒々しい声が聞こえてくる 
何が起きたかと外を覗いてみればそこには帝国剣士のエリチンが周囲の王国兵たちをなぎ倒している光景があったのだ 
両手に持ったグレートソード「デカシンボル」をブンブン振り回し暴れまわるエリチン相手では一般兵は手も足も出ない 
そんなエリチンを見たモモコは両拳をギュッと握りテントの外へと飛び出す 
もうこれ以上被害を受ける訳には行かないと言い残し・・・ 

相手が自分から向かってきたのでエリチンは手間が省けたと気をよくする 
たとえ相手がどれほど強かろうとこのグレートソードを振り回すパワーに勝てる相手など居る訳が無い 
ましてやモモコのような小柄でいかにも力の無さそうなのが相手・・・あくびが出てしまう 
一撃で沈めてやるとエリチンはグレードソードを力強く持ち上げモモコに振り下ろそうとした 
・・・が、何故かエリチンのグレードソードはモモコではなく全く関係ない地面へと落とされた 
何が起きたかよく分からなかったエリチンはもう一度剣を持ち上げたがまた関係ない所に引っ張られてしまう 
それもそのはず、救護テントでモモコは一時的に預けていた電磁石を補充していたのだ 
その超強力な電磁石により鉄の塊であるグレートソードは完全に力を奪われてしまう 
当時のエリチンは今と違い磁力に打ち勝つほどの力を持っていなかったのでもはやお手上げだ 
挙句の果てには剣を捨て素手で殴りかかろうとしたがモモコの暗器「ビックリバコ」の一つ「毒塗り発射針」の餌食になってしまう 
麻酔、痺れ薬、硫酸などさまざまな毒が混入している針を受けエリチンの体はみるみる弱ってしまう 
エリチン自身「まったく相手を傷つける事なく」やられてしまうなんていう屈辱は生まれて初めてだった 
余談だがこの後エリチンはこの小柄の狐顔の情報をガキさんやらコンコンやらに聞きまくったという 
よっぽど悔しかったのだろうか 

特に全力を出した訳もなく簡単に帝国剣士をあしらってしまったモモコを見てシミハムは感心する 
いくら相性が良かったとは言え敵は歴戦を潜り抜けてきた一流の剣士だ、それを容易く仕留めるとは流石 
モモコはベリーズの副団長という名に恥じない実力を持った戦士と言えるだろう 
だが当のモモコは特に嬉しがったり自慢気になってる様子はなくむしろ不機嫌な顔つきでテントに戻りイスにドカッと座る 
どうもモモコが言うには敵が帝国剣士とは言え下っ端程度に苦戦している暇は無いようだ(下っ端とは言え十分強いのだが) 
しかしこのモモコの活躍でこちらも相手も強豪は2人づつのみ、後はしっかり体を休めて敵とめぐり合うのを待つだけだ 
情報によると残りはマコとレイニャのみなので応急処置を適切に施し戦いに臨めば勝てるはずだ 
敵の戦闘スタイルなどを詳しく知っている訳ではないが傷さえ閉じればその場その場で冷静に判断する事が出来る 
なので二人は外で一般兵達が戦っている最中ではあるが体を休める事とした 
全ては敵国に勝つために 

一方その頃帝国剣士の一人であるレイニャは味方の兵にエリチンがやられたというテントの場所のありかを聞いていた 
簡単に敗れてしまったエリチンに呆れつつもその仇を討つためにそこへと向かう事とする 
右手に木刀「カツオブシ」を、左手に何やら小さな棒を持ちながら 


05.
少しばかし仮眠をとっていたシミハムとモモコだが突然一般兵に叩き起こされる 
せっかく休んでいたのに何事かと思いったが何やら寝汗がひどいのを感じる 
不思議に思い目を開けばなんとテントが燃えていたのだ 
起きたばっかりで事態がよく把握できなかったシミハムとモモコはとりあえず火の無い所からテントを切り裂き脱出する 
テントから出た先の光景は信じられないものであった 
なんとテントどころか辺り一帯の草原が業火により燃えていたのだ 
何が起きたのかと周辺を見回すとそこには帝国剣士の一人であるレイニャが立っていた 
切っ先が真っ赤に燃えた木刀を持ちながら・・・だ 
「孤炎のレイニャ」と称されるその由来はこのレイニャの火を扱う戦術から来ている 
小さな棒の先端にリンをまぶしたモノを木刀にシュッとこすりつければ不思議な事に火が起こる 
その火で燃えた木刀で草原を切りつければ炎の草原の出来上がりだ 
どれだけ硬い装甲をまとった戦士だろうと火に焼かれればそれまでだ、熱に耐えられる人間などいやしない 
レイニャを倒すには己が焼かれてしまう前に瞬殺せねばならない 
傷を負ったシミハムとモモコにそれが出来るのだろうか? 

さっきのエリチンと同様にレイニャを仕留めようと前に出たモモコだがすぐにある事に気づく 
レイニャの持っている武器は木刀だから磁石にくっつかないのだ 
とは言え様々な暗器を仕込んでいるモモコなのでこの程度ではうろたえず、更なる方法を考えた 
相手の武器は磁石にくっつかない木製という事はモモコの暗器の一つ「棘鎧」にかかれば一発でポキッと折る事が出来る 
シミハムに前に出ないよう指示をしレイニャの攻撃を自分へと誘導するようにあえて腹にスキを作った 
その結果レイニャはモモコの思惑通りモモコの側へ走りよりスキだらけの腹に向けて木刀を振り下ろしたのだ 
モモコの腹にある細かな無数のトゲがセッティングされた「棘鎧」にただの木刀がかなうはずもなくポッキーンと折れてしまう 
あまりにも自分の思惑通りに事が進んだためモモコは心の中でガッツポーズをとった 
しかし当のレイニャと言えば少しビックリしただけですぐ真顔に戻る 
そして自分の背中に手を伸ばしなんと新たな木刀を取り出したのだ 
モモコはその準備の良さに面食らったが確かに折れやすい木刀を一本だけしか用意しないのは戦士としてありえない 
そう無理矢理心の中で納得したモモコはもう一本折ってしまえば良いと手を上げる 
右手に仕込んだ「逆メリケン」なら簡単に木刀を折る事が出来るからだ 
さすがのレイニャもそんな所に武器が仕込まれてるとは思いもしなかったので簡単に木刀を折られてしまう 
だが、またもレイニャは特に悔しがる表情を見せなかった 
そして何を思ったのかモモコとの戦闘を放棄して反対の場所へと走っていったのだ 
モモコはいったいこいつは何を考えてるんだと異変に思ったがその走った先にあるものを見て納得すると同時に呆れてしまった 
そこには数十単位の木刀の山がドッサリと置いてあったのだ 

しかしこれはモモコにとってはピンチだ 
木刀のストックがあんなにあったのは特に問題ではないが自分の手の内を見せすぎてしまった事がとてもまずい 
腹に仕込んだ「棘鎧」も右手に仕込んだ「逆メリケン」もバレてしまったのでどうしても警戒されてしまうだろう 
おまけに相手は木刀使いなので「超強力電磁石」もまったく役に立たない 
他に残された道具でなんとかなるだろうか・・・これ以上怪我を負う事は許されないモモコは焦っていた 
だがそんな時だった、モモコに下がってろと指示されたシミハムがレイニャに向かって走っていったのだ 
シミハムはモモコとかなり長い付き合いなので今どんな状況なのかは大体判断する事が出来る、今はこうするべきだと悟ったのだ 
シミハムが直接レイニャと叩き合っているうちに後ろからレイニャが援護をする、それこそが最善の策だろう 
そしてこの状況でモモコが援護出来る武器と言えば暗器「ビックリバコ」の一つ「超小型ダーツ」だ 
「毒塗り発射針」なら誤ってシミハムに当たってしまう可能性があるがこの小型ダーツなら冷静に狙いをつける事が出来る 
この全長5cmにも満たない小型ダーツは本来は一度に数百個もの数投げつけるよう作られたものだが一本づつでも刺されば強力だ 
何故ならこれの先端にも毒が塗られているため簡単に敵を無力化する事が出来る 
あとはシミハムがレイニャにスキを作らせるだけ 

1メートル程度の木刀と違ってシミハムの多節棍は3メートル強、リーチ圧倒的が圧倒的なのは明らか 
だがさっきから何シミハムは何度も殴り飛ばそうとしているものの不思議なくらいに全く当たらないのだ 
おまけにレイニャの剣威とスピードが予想以上なのでシミハムは苦戦してしまう 
木刀はどうしても金属製の武器やリーチの長い武器に劣りがちだがその差をレイニャは実力で埋めたのだ 
日頃レイニャは訓練場には決して顔を出さず裏でただ独り何千回も素振りをしたり全力走を繰り返していた 
その結果小柄ながらもエリチンやサユに匹敵する戦闘力を手に入れたのだった 
そして更に差をつけたのがこの火を扱う戦法である 
辺り一帯が燃えてれば相手に焦りを生じさせる事も出来るし燃えた木刀で火傷を負わせる事が出来る 
だがそれ以上に効いているのが火が起こした副産物である「陽炎」による目の狂いだ 
シミハムとレイニャの距離はたった数メートルだし陽炎が起きたとしてもほんの数センチ目標が狂うだけである 
だがその数センチの誤差が戦況を大きく左右させる 
普段陽炎に惑わされた事のないシミハムは何故自分の攻撃が当たらないのか未だに理解が出来なていない 
しかも炎上による異常な気温に頭がクラクラし汗が多く流れていく・・・ 
ただでさえ汗っかきなシミハムは滝のような汗が目に入り視界を遮られてしまう 
気づけばシミハムは一瞬のスキを突かれ懐にレイニャを入れてしまった 

そのまま木刀を叩きつけるのかと思いきやレイニャはシミハムを華麗にスルーしモモコのもとへと走っていったのだ 
この場で先に仕留めておくべき危険人物はモモコだと判断したらしい 
数分間剣を交えてみたが正統派のシミハムより何を隠し持っているのか分からないモモコを狙うほうが効率が良い 
特に後に控えている馬鹿なマコにとってモモコは相性最悪だろう、戦争に勝つ事を優先するなら刺し違えてでもモモコを倒すべきだ 
そう思いレイニャはただただモモコへと向かっていく 
だがシミハムもそんなレイニャを放っとく訳がなく気づくなり追いかけ始めた 
・・・が、レイニャは燃えた木刀を足元の草原に擦り付けながら走っていったのだ 
よってレイニャが行く道は燃え盛りシミハムは追う手段を失ってしまう 
気合を入れて熱さを我慢すれば乗り越えていけるだろうが確実に火傷は避けられない 
まだ強敵が待ち構えていると言うのにこれ以上怪我を負う事はどうしても出来なかった 
シミハムに出来るのはモモコを信じるだけだ 
モモコもモモコでさっきからダーツを投げ続けているのだがまったく当たる気配が無い 
これも熱波によって生じる陽炎で目標を狂わされてしまっているからだ 
こうなればモモコには一つしか手段は残されていない 
レイニャが射程距離に入った瞬間小指を立て「毒塗り発射針」を一斉発射して仕留めるしか・・・ 

もう少しで「毒塗り発射針」の射程距離内に刺しかかろうといった時にレイニャは突然木刀を掲げ始めた 
そしてモモコの側に向けてブンと空を切ったのだった 
燃えた木刀を勢いよく振ったため火の粉が飛び散りモモコへと襲い掛かる 
モモコもまさかレイニャが遠距離攻撃をしてくるとは思わなかったためつい両手で防御して目をつむってしまう 
そうして目をつむっているスキにレイニャは走りに走った、射程距離に入ろうがお構いなしにモモコへと突っ走っていく 
モモコが目を開けた時には迂闊にもレイニャを目の前にまで招き入れてしまったのだ 
レイニャはさっきまでのモモコの奇怪な戦闘パターンを思い出す、腹目掛けて打ち込めばまたポキリと木刀が折れてしまうだろう 
そしてモモコの事だから腹だけにアレを仕込んでるとは限らない・・・服で覆われている所は全て何かあると見るべきだ 
となると狙いはどの防具にも覆われていない頭!まさか頭蓋骨に何か仕込めるはずもあるまい 
その頭に向けて木刀を振り下ろせば勝ちだ、今までの修行の成果から言って人間一人を気絶させる事は容易い 
そう思いレイニャは細い手をせいいっぱい伸ばし木刀を振り上げた 
モモコもこのままやられる訳にはいかない、せっかく相手が射程距離に入っているのだから遠慮なく小指を伸ばす他ない 
一瞬でピーンと伸びきった小指にくくられた糸が全身に装着されている発射台に発射せよと命令する 
その肩から、その胸から、その脇腹から、その腰から、その短い足から無数の毒針が発射された 
その全てが高速で発射されるので至近距離にいるレイニャは避ける術などない 
だがここまで来たレイニャは針を喰らう程度で意識を失うはずがないのだ 
レイニャは心の中であと5秒、いやあと1秒、いやあとゼロコンマ1秒だけでも意識が続けと強く念じた 
その結果レイニャはモモコの脳天に木刀を叩きつける事が出来たのだ 


06.
周辺一帯の炎が消化されたのはモモコとレイニャの決着がついて20分近く経った頃だった 
モモコは脳天を木刀で叩かれたため完全に意識を失っている・・・叩かれた所がハゲなければいいのだが 
レイニャもモモコが間一髪で放った毒針を全身で受け止めたため数時間は立てないだろう 
この場でレイニャを殺そうと思えば殺せるのだがそんな事をするために戦場に赴いた訳ではない 
侵略してくる帝国から王国を守るために兵は戦っているのだ、殺さずとも縄で縛っておけば十分だろう 
とりあえず今は体を休める事が何よりも大事だ、もう食卓の騎士はシミハムしか残っていないのだから・・・ 
一応戦線に復帰できそうな食卓の騎士は居るのかどうか他の救護班に聞いてみたがやはりみな傷が深いらしい 
ベリーズはミキティにやられた傷がとても深く、中でもミヤビに関しては生死を彷徨うほどだ 
キュートも同じく復帰できるほどの傷ではなくウメサンは全身火傷、メグも立てないほどの大怪我だと言う 
だが情報によるとマイミが息を吹き返してシミハムの元へ向かおうとしたらしいがさすがにドクターストップが入ったらしい 
シミハムはマイミのタフさに呆れたが本心を言えば重症のマイミだろうと助けに来てほしかったのだ 
ここからは孤独の戦い・・・力強い食卓の騎士のみんなはもう居ないのだ 
ここで自分がやられてしまえば確実に戦況は帝国側に傾いてしまうだろう 
逆に言えば自分が敵を倒せば王国兵の士気はグングン上がり帝国を追い返す事も出来る 
小さな体のシミハムだがそのハートにはメラメラと炎が燃え盛っていた 
帝国剣士の最後の一人マコ・コトミ・コバヤシに打ち勝つ勝利の炎だ 

この長く大きな戦争もじきに終盤 
今までに多くの兵が倒れ、中には死する者もいたが立っている者もまだ多く残っている 
その立っている兵も様々なカテゴリに分ける事ができ、負傷に耐えて戦う者、一時的に傷を休める者、満を持して戦線へ立つ者等様々だ 
その中でも帝国剣士のマコは「満を持して戦線へ立つ者」に含まれる 
本来マコの性分ならこんな終盤まで待ってるよりはさっさと戦場へ出向いて暴れたかったはずだ 
だが最も信頼しているコンコンの作戦なら仕方が無いとこんな時間まで寝ていたのだ 
終盤になりボロボロであろう王国に無傷のマコを送り込む事で完璧な勝利をもたらす・・・これがコンコンの作戦だ 
とても重要なポジションなので並の兵なら実力を発揮できながちだがマコのような何も考えてないような大物には最適である 
マコが考えている唯一の事と言えば目の前にいる敵をその手にもった大鉈「イタマエガモッテルヤツ」で斬るだけだ 
寝起きのマコはウォーミングアップも兼ねて目の前で戦っている王国兵を片っ端から斬りまくった 
そのパワーからなる剣威に一般兵は敵うはずもなくバッサバッサと斬り捨てられてしまう 
だいたい100人近く斬った所で目が冴えたのかその辺の兵に食卓の騎士の居場所を聞き始めた 
そしてマコはシミハムの方向へ意気揚々と向かっていく 
この戦争最後の大死合を始めるためにだ 

シミハムの居場所はすぐに分かった 
何故ならレイニャの仕業だと思える焼け跡がしっかりと目立っていたからだ 
マコにとって都合良くシミハムも休養を終え戦いに出向こうとテントを出た所だった 
マコがシミハムを狙ってるのと同様にシミハムの狙いもマコただ一人 
この戦いに勝ったからと言って戦争が決着する訳ではないが兵の士気への影響は間違いなく大きい 
シミハムもマコもなんとしてでも勝利して鬨の声をあげたいと心から願っていた 
相手を打ちのめして弾みをつけるための小さいようで大きな戦い 
周りの兵もこの戦いを見守るため一時的に手を止めずにはいられなかった 
これで自分たちの運命が決まってしまうかもしれないのだから 

先にしかけたのはマコだった 
相手のリーチ等お構いなしにただシミハムを斬る事だけを思い浮かべ飛び掛る 
シミハムもシミハムでこのまま斬られるわけなどいかないので追撃体勢を取った 
いくらマコの大鉈が通常のソレよりリーチが長いとは言え1メートルを越す事はない 
その点シミハムの多節棍「ギョニクソーセージ」は3メートル近いリーチを誇る 
マコが射程範囲に入った時に打ち込みさえすればいいのだ 
打ち込みさえすれば・・・ 

シミハムはベリーズ戦士団の団長であり、常に先頭に立ってリードしているのだが決して最強では無い 
最強なのは単純な戦闘能力に長けているミヤビか、奇奇怪怪な戦法を取るモモコのどちらかだろう 
というのもシミハムはどちらかと言うと個対個よりは個対多に特化している戦士だからだ 
その長いリーチを最大限に活かし敵が密集している地帯に突撃すれば敵はたまったものではない 
シミハムが通った跡はまるで巨人が暴れたかの如く何も残らないという点から巨人という通り名がついた事からも個対多が得意だと分かる 
だがそれとは逆に相手が強豪一人の時は並・・・とまでは行かないが他の食卓の騎士とあまり差がなくなってしまうのだ 
複数の敵を処理するスピードはモモコやマイミ、ウメサンの比では無いのだがタイマンとなると勝率は半減してしまう 
巨人シミハムという通り名だけが先走りして近隣諸国に恐れられていたが個々の実力はそこまで恐れるレベルではないのだ 
そしてその事を誰よりもシミハム自身が重く感じていた 
だからこそこの目の前にいるマコを自分自身の力で倒せば自信がつくかもしれない、本当の意味で団長になれるかもしれない 
その一心でシミハムは多節棍を振り上げた 
そして迫り来るマコに見事にヒットさせたのだ!! 
・・・と思いきや多節棍を受けたのはマコ本人ではなく大鉈「イタマエガモッテルヤツ」だった 
大胆に広がった刃に激しい勢いでぶつかったため木製の多節棍「ギョニクソーセージ」はスパッと切断されてしまう 
3メートルはあった棍が2メートル強になってしまったのだ 

焦ったシミハムはすぐに切断された多節棍を引っ込める 
いくら棍が刃で受けられたとは言え通常なら勢いに任せその刃ごと吹き飛ばすものだ 
しかしマコの鬼のようなパワーで握られた鉈は激しい衝撃を受けようともその場に維持されたのだった 
例えるならば屈強な鉄柱にくくりつけられた刃に殴りかかったようなものだ 
殴りかかった側である多節棍が逆に切断されても無理のない話である 
こんな経験などほとんどした事のないシミハムはさすがに焦ったがこのままではいかんとすぐに次の手を考えた 
このまま棍を引っ込めたままでは確実にマコに捕まり斬られてしまう 
しかしさっきのような攻撃を繰り出せばまたも同様に棍を切断されてしまうだろう 
そこでシミハムが出した答えは「足」だ、足深くを狙えば鉈で防がれる事もないはずだ 
例え防いだとしてもそんな体勢で力が入るはずもない 
シミハムは多節棍を引っ込めてからものの0.5秒でここまで考え判断する事が出来たのだ 
そしてマコが以前より短くなった多節棍の射程範囲に入り込んだ時それは実行された 
マコは基本馬鹿なのでまさかシミハムがそこまで考えて足を狙ってくるとは予想できなかったのだ 
素早く足元に襲い掛かる棍に反応は出来たものの一歩及ばず強烈な一撃を足で受けてしまう 
多節棍のリーチが短くなったので遠心力が弱まりダメージが半減したがそれでも動きを奪うには十分すぎるほどの衝撃だ 

これでシミハムの勝ちだと周りの兵は悟ったがマコはこの程度でやられるような剣士では無かった 
足をやられ、転ばされると同時に左腕で地面をグッと押しシミハムの側に向け飛び掛ったのだ 
シミハムとマコの距離は2メートルほどなのでマコのパワーがあれば地面を一押しするだけで接近する事が出来る 
とは言えシミハムもそんなマコを黙って見逃すはずもなくすぐに多節棍を返し追撃をしようとした 
しかし先ほど足元を狙うためあまりに棍を低く打ちすぎたのでリカバリに若干時間がかかってしまったのだ 
その0.1秒単位の差でマコは襲い掛かる棍を掻い潜りシミハムの細い脚をガシッと掴む事が出来たのだった 
慌てて棍の柄の部分で何度も叩きマコを追っ払おうとするが敵を掴んだマコがひるむはずも無い 
足に力が入らないので完全に腕の力だけで大鉈を振り回しシミハムの横腹を傷つけたのだ 
横腹をえぐられたシミハムは激痛に苦しみ、しかもパニック状態に陥ってしまう 
しかしパニックながらも「このままでは自分は殺されてしまう、相手をただちに殺さねば」と強く思う事になる 
そう思ったシミハムは正気を失い、掴まれてない方の足で地に伏せているマコの顔をガッと踏みつけ血を吐かせた 
そしてマコの腕が瞬間止まったのと同時に、戻した多節棍で何度も何度もマコの体躯に打ち込み始めたのだ 
すでに大鉈を地に落としているのにも気づかず何度も何度も何度も何度も打ち続けた 
その必死さはいつものシミハムからは想像出来ないほどだったと後に兵が語っている 


07.
シミハムが気づいたのはそれから数分経った後の事だった 
あまりにもパニックの度が過ぎたので、今までずっと周りの事など目に入らずただマコを殴り続けていたのだ 
我に返ったシミハムはその殴られ続けていたマコを見て驚愕する事となる 
マコは体中が殴打によりボコボコにヘコんでいて所々酷い出血だ、顔は死んだように真っ青でとても意識があるようには見えない 
いや、もしくは本当に死んでるのかもしれない・・・それほどに酷いものだった 
シミハムも長い間戦場に立ってきたので仕方なく人を殺めた事も多々あったが今回のように不必要に危害を加えたのは初めての経験だ 
いくらパニック状態に陥っていたとは言えここまでに痛めつける必要性はいくら探しても見つからない 
足の自由を奪いクリーンヒットを数発喰らわせれば事足りたしシミハム自身もそれを遂行できる能力を持っている 
ゆえにシミハムはここでも己の未熟さを痛感する事となる 
決してマコを殺めた事を可哀想だと悔いてる訳ではない、このような失態を味方の兵に見せてしまった事が士気に響く事を悔いてるのだ 
いくら勝つ事が戦況を変える条件とは言えこのような殺人狂のような姿を見せられて味方が勇気付けられるはずもない 
ここではずみをつけて一気に勝利へ持ち込みたかっただけにシミハムはとてもバツの悪そうな顔で辺りを見回した 
だがそこにはシミハムが想像もしていなかった光景が広がっていたのだった 
どう見ても兵士には見えない者たち・・・そう、ただの国民が何故か戦場に出向いて兵士達と殺し合いをしていたのだ 
王国兵士、帝国兵士、そして両国の国民が入り混じって混沌とした争いを繰り広げている 
シミハムは何が起きたのかサッパリ分からなかったが一つだけハッキリした事があった 
自分がマコをこんなにするまで誰も止めなかったのはこのような混乱があったからだと 

兵士しか居ないはずのこの大草原に何故か両国民が出向き争う姿はまさに阿鼻叫喚だった 
しかもその数はこの時点で生き残っていた兵の総数をはるかに上回っているため制圧するのも簡単ではない 
王国側の兵も帝国側の兵も倒すべき相手は「相手国の兵士」だけであって例え敵だろうと罪の無い民を傷つける事など許されないのだ 
この戦争の後にシミハムが聞いた話によるとどうやらこの時国民が大勢で戦場に出向いたのは偽の勅令が流れたかららしい 
両国に「もう少しで我が国は勝利するがそれには戦力が必要だ、愛国心ある国民は剣をとってほしい」というデマが広まったそうだ 
もちろんマーサー王もヨッスィ帝王もそんな事は一言も言っていない、何か不気味な存在がこう仕向けたのだろう 
シミハムは残った力を振り絞って周りにいる全ての兵に決して民だけは傷つけるなと叫んだがあまりの乱闘にかき消されてしまう 
そして民の数が膨大なために兵士達も抑えきれず正当防衛としてやむをえず攻撃をする事となる 
まともな防御手段を知るはずもない国民はただもがき苦しみその場に倒れてしまった 
だがそれを見たほかの民は更にヒートアップしてしまい捨て身の覚悟で両国の兵と衝突する事となる 
まさに悪循環、兵が何もしなければ兵が死に、兵が手をあげれば国民が死ぬ、こんな混乱を誰が止める事など出来るのだろうか? 
せめて食卓の騎士が居れば揃えば・・・せめて帝国剣士が揃えば・・・と戦争の終盤に嘆いても仕方のない事だ 
シミハムは不本意だがその場を見捨てて安全圏へと逃げる事しか出来なかった 
多数の敵兵を倒す事に特化しているシミハムでも多数の国民の怒りを抑える能力は持ち合わせていないのだから 
こうして戦争は最悪の結末を迎える事となった 
ちなみにこの時戦場に出向いた国民の6割近くは戦死したと伝えられている 


08.
「・・・と、ここまでが僕の知ってる大戦の結末だよ」 
シミハムが大戦の顛末を話終えると同時に病室内の空気が重くなる 
戦争に敗れてはいないので実質的に勝利な訳だが罪の無い騙された国民を救う事が出来なかった事実は今も皆の心に響いている 
あの状況下ではどうしようもなかった訳だがそれでもやるせなさを拭う事が出来ない 
せめてあの時自分達にもっと力があったら・・・今そう思っても後の祭なのだがそう思わずには居られなかった 
「みんな元気出して、今のみんなはあの時よりずっと強いし今度の戦争は絶対国民の人を戦場に向かわせないように徹底するから」 
重くなった空気を懸念して声を張ったのはウメサンだ 
このまま暗くなっても何も発展しないし、気分を落としたまま戦争の準備を行っても平常時と同じ水準の準備を出来るはずもない 
そう思ってみんなを元気付けようとしたのだった 
それを聞いたマイミ・バカダナーはいきなりすくっと立ち上がり病室内だと言うのに大声を出し始めた 
まるで自分の中の暗く重い何かを追い出すようにわざと大声を出した風であった 
「キュート戦士団は全員ただちに訓練場へ向かうぞ!いくら我々があの時より強くなったとは言えまだまだだ 
 私が直接稽古をつけてやる・・・1ヶ月間ミッチリ訓練漬けだ!」 
突然大声を出したかと思えばマイミ団長はピューっと訓練場へ走り去ってしまった 
他のキュート戦士団はそんなマイミに少し呆れたが自分達の実力を更にステップアップさせたいと思っていたため喜んでついていった 
「しかしあの人さぁ、さっき死にそうじゃなかったっけ?」 
オカールがポツリとつぶやいたがマイミにはよくある事なので誰も答えなかった 


モーニング帝国編 【第一章〜覚醒〜】
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