『モーニング帝国編 【第一章〜覚醒〜】』
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01.
話が終わるなりさっさと行ってしまうキュート達を見てベリーズは唖然としてしまう
「マイミは相変わらずだな・・・キュート達も大変だ」
ポツリとつぶやくミヤビにその場にいる全員が頷く、自分たちの団長がシミハムで良かったとホッとしたりもした
だがそんな中モモコだけは不満気に頬をプックリと膨らませ愚痴をたれる
「どうすんの?マイミの事だから1ヶ月間ずっと訓練場を占領するつもりだよ
私たちはどこで訓練すればいいってのよ!!こんな事なら塩を100倍入れればよかった!」
隣にいるシミハムの背中をバシバシ叩きながらぐちぐち言うモモコを見てベリーズ達はまたモモコが変な事を言ってると呆れる
マイミはモモコと違って訓練場を独占するような者では無いのだがそれを言ったらまた厄介な事になりそうなのでみんな黙っていた
いや、ひょっとしたらマイミはモモコだけは訓練場に入れてくれないかもしれない
とは言えモモコが訓練場に入れようが入れまいが知ったこっちゃ無いのでやはり他の戦士達はモモコに触れないようにしたのだ
だがモモコに叩かれ続けているシミハムはたまったものではない、叩かれるのが嫌なのでモモコを制しこれから話を始める
「僕らは別に訓練場でミッチリやる必要は無いんじゃないかな?お城の外で練習するだけで事足りるよ
それに僕らベリーズ達は戦闘の訓練よりも他のやるべき事をしっかりやれば強くなると思うんだ」
そう言うとシミハムはクマイチャンを指差し話を続ける
「クマイチャンは剣が出来上がるまではサトタを乗りこなす練習をいっぱいした方が良いと思うよ
サトタを自由に扱えるようになればクマイチャンは絶対主力になるからね
ところでチナミ、クマイチャンの剣はどれくらいで治せそうなの?」
「クマイチャンの剣?そりゃフルピッチで頑張れば一週間で治せるよ!それも最高傑作が出来そうで楽しみなの」
それを聞いたクマイチャンが満面の笑顔になるのを見てベリーズ達は和やかな雰囲気になった
「シミハム団長・・・私は何をすればよいのでしょうか?」
軽く右手を上げシミハムに問うたのはミヤビだった、みなが何事かとミヤビの方に振り向く
ミヤビと言えばリカチャンにアゴと胸を斬られてしまったのでまだまだ重症だ、1ヵ月後だろうと戦争など出れる訳がない
それを踏まえてシミハムはミヤビにこう言ったのだった
「ミヤビは何もしないで安静にしといた方がいいよ、よくなったとは聞いてるけどそれでも酷い怪我なんだから
どうしても何かしたいんだったら戦術とか作戦を考えてもらいたいかな、ミヤビの戦術は参考になるし」
シミハムの口から出たのは至極真っ当な意見だったが当のミヤビは気に入らない風で
「しかし・・・私以外の食卓の騎士がメロニアに遠征に行った時に痛感したのです
皆が血を流し敵と戦っていると言うのにベッドの上で休んでいるのがどれだけ辛いのかを・・・
ですから私にも戦わせてください!怪我は気合で治します!」
シミハムの服を掴み切に願ったミヤビだったが表情から察するに許可が出る事は無さそうだ
それどころかモモコがミヤビの前に立ち真顔で冷たい声を吐く
「ミヤビ、悪いけどそんな怪我をしてるミヤビは正直戦力外なんだ
実力は認めてるから骨にヒビが入ったとかなら許せるんだけど・・・骨が折れてるんなら足手まといでしかないのよね
ていうかそもそもミヤビのアゴの刀は折られちゃったじゃん、替えがあるわけじゃないしどうするつもり?
素手で帝国に挑むつもりならたとえ怪我してなくても足手まといだから」
モモコにガツンと言われたミヤビはついにとうとう落ちこんでしまう
「しかし・・・しかし・・・」
うなだれながら反論しようとするもののクマイチャンやリシャコからも静養を重視する言葉を受ける
「ミヤビ・・・私たちはミヤビが居なくても大丈夫だよ!
いや別にミヤビが要らないって訳じゃないよ?でも私たちは前よりずっとずっと強くなったしこれからも強くなるから・・・」
「ミヤビはその体で戦場に出たら絶対死んじゃうよ・・・リシャコね・・・ミヤビが死ぬのは絶対ヤだから」
言い終えると同時にクマイチャンとリシャコがとても悲しい顔をしているのを見てミヤビは何も言えなくなってしまう
自分はただ皆を守りたいだけなのに、ただ皆と共に戦いたいだけなのにどうして悲しませてしまったのだろうか
なんともやるせない気持ちに包まれてしまう
そんなミヤビ達を見てシミハムがパンパンと手を叩き暗い雰囲気を一掃しようとはかった
「はいはい皆ここでこんな事言いあってても何も始まらないよ!とりあえず今はやるべき事をしっかりやろう!
クマイチャンの剣もそうだけどみんな武器の手入れしなきゃならないでしょ?だからまずは工房に行こう
ベリーズ工房にさ!」
ベリーズ工房とは城内にあるチナミ専用の武器作成アトリエである
それほど広くは無いが武器を作るのに必要な材料や工具、設備はあらかた揃っており制作意欲が沸き易い造りになっているのだ
チナミは日に何時間もここにこもっており他の戦士達の新たな武器の構想を練ったり破損した武器の修理をしている
という訳でこれから皆でベリーズ工房に出向きチナミに武器を治してもらおうとしたのだ
「クマイチャンの剣は時間かけて治すけど他のみんなの武器ならそこまで痛んでないからすぐ治せると思うよ
私は準備するのがあるから皆さきにベリーズ工房へ行っててよ」
「「「はーい」」」
チナミに言われた通りクマイチャン、リシャコ、モモコ、シミハムの4人は病室を出てベリーズ工房へと向かっていった
食卓の騎士に限らず戦士は武器を酷使するもの、なのでこうした武器の定期的な修理は必要不可欠だ
そのスペシャリストであるチナミが食卓の騎士にいるのはとても心強いものだ
チナミ自身は自分が戦場で役に立ってない事を悔いる事があるが食卓の騎士の誰もがそうとは思っていない
こういった補助的な役割は時としてマイミやミヤビ等前線で活躍する戦士よりも有益である事があるのだから
「チナミ・・・頼んだものはどうなってるんだ?」
4人が去ったと分かるなりミヤビがチナミに問いかける、それも小声でだ
問われた方のチナミもいつものニヤケ顔とは違い真剣な面持ちになる
「ミヤビ、さっき皆が言ってた通り安静にしていたほうが・・」
「それでは駄目なんだ!帝国との大戦でのほほんと休んでるわけには行かない・・・
胸プレートと仕込み刀・・・それもそう簡単には折れない代物を大戦までに頼む」
4人より数分ほど遅れて用事を終えたチナミがベリーズ工房へと入っていった
用事はなんだったのかと問われたがチナミは「なんでもないよ」と軽く流す
そして話をそらすようにそそくさと机へと向かいさっそく作業へと取り掛かろうとした
「と、とりあえず痛んだ武器を見せてよ、治しに取り掛かるから」
チナミに言われるままにリシャコ、シミハム、モモコはそれぞれの武器を差し出した
モモコは全ての暗器を出す訳にはいかないので「逆メリケン」だけを差し出す
「なるほどねぇ、シミハムとモモコのはすぐ治せるけどリシャコのはちょっとだけ時間かかるかな
メロニアで400人斬りしたからかもしんないけど結構ガタが来てるんだよね
3日くらいかけてしっかり治したいからその間修行できないけどそれでもいい?」
やや不安気にチナミが尋ねるがリシャコはその不安を吹き飛ばすような満開の笑顔で
「うんっ!もっともっと強い槍にしてね!チナミの作る槍って軽くて振りやすいんだよね〜」と言ったのだった
それを見たクマイチャンとシミハムもうんうんと頷く
実を言うと食卓の騎士が扱う武器の殆どはチナミが作成したもの、もしくはチナミが手をくわえたものなのだ
モモコの暗器の一部やオカールのジャマダハル、カンナの銃剣以外は全てチナミが関わってると言って良いだろう
その武器作成の技術は定評があり、武器を依頼するまで面識の無かったアイリが「スライスしなくなった!」と喜んだほどだ
「でもチナミ・・・私たちの武器ばっかり治させるとチナミの時間がなくなっちゃうんじゃ?・・・」
「なに言ってるのクマイチャン!こうやって修理してると良いイメージがどんどん沸くんだよ
なんだかもうちょっとで私の小型大砲を更に強くできそうな案が出そうな気がするんだよね・・・」
チナミが武器を手に取りさっそく修復作業にかかろうとした所でモモコが懐からある紙を取り出した
「ねえチナミ、全部修理した後でいいんだけどこれを作ってくれる?」
その紙は何かの設計図らしくゴチャゴチャと色々書き込まれていて、クマイチャンには一目で解読する事は出来なかった
リシャコやシミハムも同様に解読できなかったがチナミには何を意味してるのか判別できたらしい
「いいよっ♪なかなか面白いもの考えてきたじゃん」
「まぁこれくらいの武器は持たないとこれから先は生き残れないからね」
モモコとチナミの間だけで会話が成立してるので他の3人はまったく意味がわからないし面白くない
しびれを切らしたリシャコが何の話をしているのか問いだす
「ねえねえ何の話してるの?それなんなの?」
リシャコに問われたモモコはそう聞かれるのを待ってましたと言わんばかりにニヤニヤしながら答え始めた
「これはねぇ・・・私の暗器7つ道具の最後の1個の設計図なの
今までどんな構造にするかずーーーーっと考えてたんだけどやっと考えがまとまったのよねぇ〜
これが完成したら私食卓の騎士最強になっちゃうかもねウフフフフ」
嬉しそうに自慢をするモモコだがやがて自分と周りに温度差がある事に気づいた
何故か自分の言葉を聞いたシミハム、クマイチャン、リシャコが驚愕の表情を浮かべていたのだ
「え・・・なになに?どうしたの?」
おそるおそる聞くモモコにシミハムが思いのたけをぶちまけた
「モモコ・・・今まで7つ道具持ってるとか言ってたけど本当は6個しかなかったんだ・・・」
「え、あ・・・うん」
ベリーズ工房内はとてもバツの悪い雰囲気に包まれてしまった
02.
「さぁ、では始めようか」
訓練場の中央に立つなりマイミは仁王立ちを始める
さっきまで頭痛や吐き気に悩まされていたとは思えないほど凛々しい顔立ちで団員達を見つめているのだ
だがそんな自信満々のマイミにウメサンが苦言を呈する
「ちょっと待ってよマイミ、訓練するって言ってもマイマイやナカサキはまだ酷い怪我なんだよ?
いくら手加減しようにも少しの弾みで当たっちゃう事もあるし・・・この2人は休ませたほうがいいんじゃない?」
もっともなウメサンの意見に団員はみな頷いた、当のマイマイとナカサキも不安気な表情でマイミを見ている
だがマイミはそんな事知ったこっちゃ無いと言った風でこう答えた
「いや駄目だ、ナカサキ、アイリ、オカール、マイマイ、カンナの5人を強化するのがこの訓練の目的だからな
お前達5人はこの1ヶ月間ミッチリ鍛えれば確実に強くなる・・・だから一秒たりとも休む暇などないのだ」
「でもマイミ!怪我をして戦争に出られなかったら元も子も・・・」
その時マイミがウメサンの言葉を遮るように右手を突き出した
そして最後まで自分の話を聞けと目で訴え、言葉を続けるのだった
「ウメサンの言う事はもっともだ、だから私は決してマイマイやナカサキに攻撃はしない
そしてアイリにも攻撃しない、オカールにも攻撃しない、もちろんカンナにも攻撃しない」
マイミが何を言っているのか団員にはサッパリわからなかった
それでは全く訓練にはならないではないかと思った所でマイミがさらに一言付け加える
「お前達全員で協力して私を殺してみろ、この1ヶ月間で私を5回殺せたら上出来だ
私は決してお前達に危害を加えないがな」
「な、何言ってるんだよ団長!」
「正気ですか・・・?」
「マイミ団長!私達団長を殺す気なんてありません!」
マイミの突拍子も無い発言に団員たちは驚きを隠せずにいる
突然自分を殺せと言われればその者の精神状態を心配せずにいられない
だが当のマイミは特にどこがおかしくなったという訳ではない、いたって本気なのだ
「殺したくないのならば一発当てるだけでもいい、さぁ私に攻撃を当ててみろ」
団員達たちはマイミの言動に戸惑い顔を見合すが、やがてウメサン以外の全員が武器を手に取った
いくら相手がこのマイミ・バカダナーとは言え5人がかりで挑めば傷のひとつつける事は容易いだろう
そう思った5人は特に打ち合わせもせずいっせいにマイミへと飛び掛った
誰よりも素早く攻撃にかかったのはオカールだった、右手につけたジャマダハルでマイミの腹を切り裂こうとする
しかしオカールの素早い斬撃がまるで予測されていたかのように軽く交わされてしまう
次にナカサキ、アイリ、マイマイが曲刀、棍棒、斧で追撃を仕掛けたがそれすらヒラリと避けられる
最後に遠くに離れていたカンナが銃剣を連射するもののこれも同様にマイミの肌を傷つける事は出来なかった
そして驚く事にマイミはいつの間にかカンナの背後に立っていて、カンナの首元で手刀を寸止めしていたのだった
「もし私が攻撃して良いルールならここで一人脱落だな、最も厄介な銃剣を封じる事が出来た」
団員たちは絶望した、まさか自分たちとマイミの差がこれほどまでとは思ってもいなかったからだ
強大な存在というのはわかっていたがこうも手も足も出せないとは・・・
「しかしウメサンがかかって来なくて助かったよ、さすがにウメサンに本気を出されたら手を出さずにはいられないからな」
「ふふふ、だってさっき5人を強化するって言ってたからね・・・とりあえずは様子を見とこうかなと思って」
絶望に打ちひしがれている団員たちに向けマイミが言葉をかける
「お前たち、サユ・ミチョシゲ・ラドノイズをその目で見たのだろう?」
サユ・・・その名を聞いたナカサキ、アイリ、オカール、マイマイはハッとした
サユとはあの大戦でマイミ、ウメサンを欠いたキュート戦士団が初めて対峙した帝国剣士であり
そして何よりも「この状況」と同じ状況を経験させてもらった忘れがたい敵である
「サユ・ミチョシゲ・ラドノイズ・・・確かに私たちの攻撃は彼女には全く通用しませんでした」
当時の事をまるで肌で感じたように鮮明に思い出したアイリはマイミが何を言いたかったのかようやく理解できた
他の団員たちもだんだんと思い出し理解していった・・・当時を知らないカンナのみは置いてけぼりとなってしまったが
「サユは知っての通り敵の攻撃を避ける事に特化した剣士だ、それを身をもって体験した事だろう
あの時はメグの突撃が無ければ傷一つつける事が出来なかったと聞いているからな・・・」
あの大戦でのサユとの戦いはまさにたった今マイミと行った模擬戦そのもだったのだ
いくら攻撃を仕掛けようにも軽くあしらわれてしまう・・・当たりさえすればというストレスだけが溜まって行く一方なのだ
「おそらくサユは当時より回避術に磨きをかけている事だろう、ならば私程度になら全弾当ててもらいたいのなのだ
この一ヶ月間は相手に攻撃を正確にヒットさせるという基本中の基本から始めてもらう
無抵抗の私を5回は殺せるようになればサユを1回は殺せるはずだ、お前たちならきっとやれば出来る!」
「はい!!」
はじめはマイミの言動に意味を掴みかねたが今なら全てを理解する事が出来る
まるで戦場に居る時のように全神経を集中して本気でマイミを殺すつもりでかかえば己を成長させる事が出来るのだ
1ヶ月間の間緊張感を保ち続ければマイミも、そしてサユでさえも倒せる実力がつくはず
それをマイミはこの訓練場で教えたかったのだろう
「あ、それと皆には必殺技も覚えてもらうから、1ヶ月で」
「は?・・必殺技?」
「必殺技って?・・・」
いきなりマイミが必殺技なんて言葉を出すものだから団員たちはキョトンとしてしまう
確かにあのマイミなら必殺技くらい出来そうな気もするがたった1ヶ月で自分たちが習得できるかと言うと不安が残る
正確に攻撃をヒットさせる事でさえ習得に苦労すると思われるのにましてや必殺技なんて・・・
「必殺技は何も心配するほど難しいものではない、自分の出せる最高のパフォーマンスがそのまま必殺技になるのだけだ」
不安気な団員たちを見たマイミが勇気付けようとしたがそれでもまだピンと来ない様子
ならば百聞は一見にしかずと言う事でマイミが実際に必殺技を披露してみせる事にした
必殺技の対象は訓練場に備え付けられてあるサンドバッグだ
「マイミ、怒られちゃうからサンドバッグ壊しちゃ駄目だよ」
「それは無理な話だな」
そう言うなりマイミはその場でピョンピョンと跳ね体を温め始めた
そして全身が十分に温まるなりジャンプからダッシュへと切り替える
その切り替えのキレは凄まじく、まるで爆発が起きたかのようなスタートダッシュだった
マイミとサンドバッグはもともとそんなに離れてはいなかったがもののたった数秒で間合いを詰めてしまう
アイリは自分をサンドバッグに置き換えてみたがいくら考えても避けるイメージが浮かばなかった
それほどマイミの初速と加速は驚くべきものだったのだ
そしてマイミはサンドバッグを自分の間合いに入れるなりその勢いを味方につけ右ストレートをぶつける
更にサンドバッグが跳ね返る前にその地点に先回りし今度は左ストレートを追加する
また跳ね返る前に先回りしぶん殴る、またまた跳ね返る前に先回りしぶん殴る、ただそれだけの事を繰り返すだけだった
マイミの人間離れした敏捷性があるからこそ出来る必殺技だ
その完成された連続技が華麗なステップを踏み舞っているように見えるため「ビューティフルダンス」と名づけられている(命名ウメサン)
衝撃に耐えられなくなったサンドバッグはやがて上空に舞い上がりボロボロにはじけてしまった
「すげえ・・・」
オカールはマイミの繰り出す必殺技「ビューティフルダンス」の凄さにただ口を開けて見ている事しか出来なかった
自分もスピードには自信がある方だがここまで見事な敏捷性を見せられると差というものを感じずにはいられない
なので余計にコンプレックスを感じてしまう
(俺あんな事できねえよ・・・やっぱり俺足手まといなのかな・・・)
メロニアの時にアイリと自分を比べて差を感じてしまったというのにましてやマイミの全力を見せ付けら劣等感を感じない訳がない
それによる気の憂いが目に見えてわかるほど肩を落とさせる
他の団員たちも同じ考えを持ったようで今後の展望というよりは絶望を強く感じたようだ
「おいお前達どうしたんだ、必殺技はさっきも言った通り難しいものじゃないぞ?自分の全力を出し切るだけだ」
「できねえよ!俺たちはアンタみたいに強くねーっつーの!!」
不安だの劣等感だのそう言ったものが積み重なりついにオカールは爆発してしまった
えりをつかまれ怒鳴られたマイミもこれにはさすがに面食らう
「オ、オカール・・・誰もお前にビューティフルダンスをやれとは要求してないのだぞ?」
「じゃあどうしろってんだよ!」
マイミはヤケになって叫び続けているオカールの右手をガシリと掴み更に言葉を続ける
「オカール、そう言えば以前から気になっていたが何故オカールはジャマダハルを右手にしかつけてないんだ?」
「そ、そんなのどうだっていいだろ」
「いやこれはとても重要だ、両手に装着すれば攻撃速度を倍にする事が出来んだからな
そしてお前の手の速さは私のそれを遥かに越えている、ならば連撃を重視した必殺技を作ればいい
ひょっとしたらその必殺技を完成させた時は私を越えているかもしれないな」
マイミを越える・・・今まで考えもしなかった事を面と向かって言われたオカールに衝撃が走る
絶対的な存在だと信じていた心の師匠とも呼べるべきマイミにそんな事を言われて心が躍らない訳がない
「じょ、冗談だろ?・・・俺がアンタを越すなんて・・・」
「冗談ではない、オカールだけではなくナカサキにもアイリにもマイマイにもカンナにも十分その可能性はある
自分の長所をしっかりと把握しそれを技へと昇華すればそれは必ずや強力な武器になるんだ」
マイミの言葉に根拠など一つも見つからない、だが何故か信じてみたいと思わせる何かがそこにはあるのだ
キュート戦士団はみながマイミを信頼しているし敬っている・・・そしてみながマイミを越えたいと思っている
1ヶ月・・・たった1ヶ月でマイミを越すのは正直厳しいかもしれないが近づく事なら出来るかもしれない
「そうだ、ウメサンも必殺技をみんなに見せたらどうだ?」
「ううん辞めとく、だって私の技はサンドバッグをボロボロにする程度じゃ済まないんだもの」
03.
場所は移り、モーニング帝国のとある小さな農村
ここでは秘密裏にモーニング帝国現帝王タカーシャイによる新人訓練が行われているのだ
その訓練を受けているのは帝国剣士の新人であるコハル・プラムスター・ハグキラリとアイカ・ダンケシェーン・アウシガ
二人とも元はただの一般兵だったのだが先々代帝王であるヨッスィー・フットチェケラに才能を見込まれ帝国剣士と昇格したのだった
とは言え戦闘能力は並の一般兵と差があるわけではなく、帝国剣士に相応しいとはお世辞にも言えない
パワーはエリチンに歯が立たず、回避能力もサユには遠く及ばない、根性もレイニャほどではなく技術もガキを越える事はない
だがこのコハルとアイカにはその戦闘能力を遥かに凌駕するほどの特異な能力が備わっていたのだ
その特異な能力は本人達でさえ自覚してなかったので帝国剣士として抜擢された事が当分の間信じられなかったと言う
そして今、鍛えれば伸びる戦闘能力を底上げするためにタカーシャイ帝王直々の訓練が行われているのだ
歴代の帝国剣士全員が経験してきたと言われている通称「テラ合宿」
1ヶ月以上もの長期間に渡り帝国剣士として恥ずかしくない戦闘能力を身に付けるための伝統的な特殊訓練である
「アイカ!そんなモタモタせんとキビキビしねま!ぼ〜っとしとったら食卓の騎士にすぐ殺されちまうんやよ!
コハルはもっと考えて攻撃する!適当にバーっとムチャクチャしおってからにどうやって当てるん!?」
「「ご、ごめんなさ〜い・・・」」
ちなみにこのテラ合宿、とてもスパルタである
本物の実力が身につくのは実戦形式の訓練のみ
それを信条を掲げているテラ合宿のためタカーシャイもほぼ100%の力を出してコハルとアイカに斬りかかっている
全力に近いため、一撃でもクリーンヒットを喰らってしまえば嵐のようなサーベルの猛攻に襲われてしまう
コハルとアイカもこんな所で死にたくはないため死に物狂いで交わし精神をすり減らす日々が何日も続いたのだった
だがタカーシャイはこの数日間でコハルとアイカに何かを感じ取っていた
自分はほぼ全力の力で斬りかかっているのに今までこの2人にクリーンヒットを一度も与えた事が無かったのだ
相手が回避の達人であるサユだろうとこうも長期に渡り切りかかれば1回や2回くらいは良い所を斬れるもの
なのに不思議な事にこの新人2人はかすり傷ばかりで一度も大きな怪我は負っていない
避ける姿はとても不恰好だというのに・・・
(ヨッスィー元帝王の眼力はやっぱり凄い・・・この原石をあっしが宝石にしてみせるんやよ)
帝国の未来を担ってると言っても過言でもないこの2人を前にサーベルを握るタカーシャイの手にも力が入る
この2人は鍛え上げればミキティの抜けた穴を埋めてくれる・・・いや、それどころかミキティを越えてくれるはずだ
そう思うと心が躍るのだった
「ねー帝王様ーもうお昼にしようよー」
「そうですよ〜もう疲れましたよ〜」
「・・・まだ初めて10分しか経ってないんやよ」
「んー♪んーんー♪」
「美味しいですねぇ〜タカーシャイ帝王は帝王のくせに料理上手なんですね」
「褒められても全くうれしくないがし・・・今日はまだ予定の1/10も終わってないからさっさと食べちまうんやよ」
「えーーー食べてすぐ動いたらお馬さんになっちゃうんだよ!」
「そうですよぉ一休みしましょうよ」
「・・・」
あまりにもご飯ご飯とうるさいので仕方なくランチタイムを設けたかと思えばこの調子だ
タカーシャイはワガママで怠け癖のあるコハルとアイカを相手にしてドッと疲れてしまう・・・可能性を秘めているのは確かなのだが
するとそんなお休み中の3人に周囲を見張っていた護衛兵がタカーシャイを尋ねてくる
それもなにやら重要そうな文書を持って、だ
「タカーシャイ帝王、たった今城から速報が入りました・・・これをご覧ください」
「これは・・・?」
パラリと広げその内容を見てみるととそこには反帝国勢力が帝国への謀反を企てているという旨の内容が書かれていた
タカーシャイは帝国民を心から思い国策を練っているがどうしても考えの合わない者も生じてしまう
そんな考えを持った者同士が集ったのが反帝国勢力だ、今回の王国への侵略が引き金になり謀反が起こったのだろう
「タカーシャイ帝王どうしましょう、ガキ団長とロッキー三銃士は王国へ宣戦布告に行っておりますので城内は手薄です
ここはコハル様とアイカ様が大急ぎで城に戻られたほうが・・・」
護衛兵の言う事ももっともだがタカーシャイはその発言に首を縦に振らなかった
「大丈夫やよ、城にはジュンジュンとリンリンが残ってるがし
あの二人はああ見えて大陸の英雄やから反乱勢力くらいなんとも無いはずやよ・・・」
帝国首都の中心あたりに位置するとある施設
この施設の地下室で反帝国勢力により日々密会を開かれている、言わば本拠地だ
そして本日も変わりなく例日通り集会が行われていた
「なんとしても戦争は食い止めなくてはならない、あの日のような惨劇は起こしてはならないのだ」
「しかし帝国剣士は知っての通り強い・・・どうすればいいものか」
「タカーシャイが現役を退いた今注意すべきはガキとロッキー三銃士程度だ
しかも今はマーサー王国へ派遣されているらしい・・・ならば革命すべきは今しかないのだ!!」
反帝国勢力のうちの一人が高々と拳を挙げると同時にそれに同調した者たちも大声を上げ始める
その士気は少人数の割にはとても高く、叫び声は地響きを起こすほど轟いている
だがそんな鬨の声の中にたった一つだけ、まるで氷のような冷たい声が混じっていた
「結構なジシンを持ってるネ、どのツラ見てもザコにしか見えないアルけど」
反帝国勢力たちはそれを聞いた途端青ざめ声の主の側を振り向いた
ややキーが高めの声の主はその声のイメージ通り小柄で可愛らしい顔つきをしていた
ただ喋っている言葉の内容だけはニコニコした笑顔とは正反対だが
「ナンカ城に攻めてくるっていう情報がハイッタからアンタ達にはここで眠っててもらうアル
二度と反抗スルキなんて出ないようにソノ両腕を斬り落としてやるヨ」
そう言うと小柄な少女は腰にかけていた鞘から剣を抜いた、その眼は本気だ
突然の来客に反帝国勢力たちは焦りを感じる
「お・・・お前最近帝国剣士になったとか言う大陸の剣士だな!!」
「わ、我々は帝国民なんだぞ!帝国を愛する帝国剣士が我々に危害を加えれるものか!?なぁ!!」
ギャーギャーうるさい反帝国勢力に半ば呆れつつ小柄の少女・・・リンリン・インタプリトはその手に持つ軟刀を突きつけた
「あいにくワタシはこの帝国に来てマダ半年も経ってないネ
アンタ達に対する愛着なんてコレッポッチも持ってないアルよ・・・テイウカ帝国民だろうと敵は死ぬヨロシ」
それは一瞬の出来事だった
ニコニコした少女が今までそこに居たかと思えば次の瞬間居なくなったのだ
そして気づいた時には反帝国勢力の首謀者の背中がスパリと切り裂かれてしまった
首謀者がその激痛にもがき苦しみ他のメンバーが動揺している間にもまたひとりふたりと切り捨てられていく
ここは大屋敷とは言え反帝国勢力が集結してるのだ、こんな密集地帯で軽やかに動ける剣士なんて相手にした事もない
帝国に対抗するために屈強なツワモノが集ったのだがたった一人の少女にバッサバッサと切られてしまうなんて誰が想像しただろうか
「誰かヤツを止めろ!これだけ居るからなんとかなるだろが!」
「すばしっこいなら服を掴め!動きを止めれば我々の勝ちだ!」
みながリンリンを捉えようと躍起になるがいくら頑張ってもその小さな体を掴む事が出来ない
それもそのはず、リンリンは人海戦術がセオリーとされる大陸で日々戦い続けてきたのだ
密集地帯での戦闘はその体に嫌と言うほど染み付いている
もっともリンリンの強みはそれだけではないのだが・・・
「だ、駄目だ!こいつには勝てない・・・に、逃げるんだ!!」
大の男が抵抗も出来ず無様にも倒れていく様を見てようやく賢明な者が退却をみなに勧める
進められた反帝国勢力たちも言われるまでもなく地上へと続く階段へと殺到していった
「ソッチに行ったらもっと恐ロシイ人が待ち受けてるのに・・・愚鈍アルね」
リンリンの言う通り反帝国勢力の者たちが無事を求め向かった地上は楽園ではなくむしろ地獄であった
反帝国勢力を一人たりとも逃さぬため柄の帝国剣士ジュンジュン・シャンジャオが待ち構えていたのだ
「軟弱者メ・・・恥ヲシレ」
その手に持った硬刀「アノヒノネンドベラ」の一太刀で一気に薙ぎ倒されてしまう
04.
モーニング帝国の宣戦布告を受けてから二十数日ほど経ったある日
王国の外園では今日も乗馬の訓練に勤しむクマイチャンの姿があった
「ふぅ、結構乗れるようになったなぁ・・・今日はこの辺にしとこ」
初めてサトダに出会った頃に比べれば見違えるほど上達したクマイチャン、それはもう実戦で使えるレベルにあるだろう
クマイチャンの理想とする完成形を100%としたら今のクマイチャンは既に80%に達している
では残り20%はと何なのか言うと、それは乗馬時の武器の扱いだ
チナミに頼んだ長剣の完成がまだなので今までは長い棒を代用品として振り回してきたからその面では不安が残る
出来れば早いところ剣を手に入れ振り回したいとクマイチャンは常々思っていたのだ
「今日こそ完成するかな?ちょっとチナミのとこ遊びにいこっと」
サトダの手綱をしっかりと括り付けクマイチャンは城内へと入っていく
歩いている間も自分がサトタにまたがり長剣を振り回す妄想を繰り広げるクマイチャン、妄想の中では既に英雄だ
バッサバッサと敵を薙ぎ倒し相手が食卓の騎士だろうと臆せず対峙し撃破・・・と妄想は広がるばかり
だがそんなクマイチャンが廊下を歩いている時、信じられない出来事が起こる
なんと訓練場の前を通ると同時に訓練場の扉がドカンと言った轟音とともにブチ破れ、そこから何者かが吹っ飛ばされてきたのだ
「え?え?え?えええええええええ?」
「く・・・オ、オカールめ・・・」
なんとその吹き飛ばされた者はマイミ・バカダナーだったのだ、どう見ても瀕死にしか見えない(けどマイミの事だから無事だろう)
「マ、マイミ大丈夫?・・・」
「ああ、心配はいらない・・・が、後で大工に叱られるかもしれんな」
クマイチャンがマイミに駆け寄るなり訓練場の中から満面の笑みを浮かべながらオカールがやって来る
「よっしゃああああ!これでマイミ団長は10回は死んだな!なんだよマイミ団長って口ほどにもねーじゃん」
「生意気を言うな!お前達が私を殺せたのは私が無抵抗だからと言う事を忘れるな!!」
「だってマイミ団長がそのルール決めたんじゃないかよ〜」
クマイチャンはいったい何がなにやらわからず硬直するしか出来なかった
ふと視線を訓練場の方へ向けるクマイチャン
なんとそこにはこれ以上無いくらいに自信に満ち溢れたナカサキ、アイリ、マイマイ、カンナの姿があったのだ
その表情は以前見た不安そうな顔つきとはまるで正反対、いったい何が彼女らをそうさせたのかクマイチャンには分からなかった
驚くべき生命力を誇るマイミがここまでボロボロになっているのと何か関連があるのだろうか
「ねえオカール、誰がマイミをこんなにしたの?」
「あぁ?別に誰って訳でもねえよ、全員だよ全員」
相変わらずベリーズに厳しいオカールはクマイチャンの問いにつっけんどんに返す
あまりにもオカールの返しがおざなりだったので傷だらけのマイミ自らが解説をし始める
「キュート戦士団は長期に渡る特訓によって生まれ変わったのだよ
今のキュートはどんな素早い相手にも正確に命中させる事が出来るし、どんな猛者だろうと必殺技で確実に仕留める事が出来る
そうだな、この過酷な特訓をキューティーサーキットでも名付けようか」
クマイチャンには特訓の内容など見当も付かなかったが一回り大きくなったように見える団員を見る限り並の訓練ではない事くらいは分かる
特にナカサキ・キュフフの眼光は以前までのそれとは大違い、その眼は歴戦をくぐり抜けた戦士の眼と同じだ
「ちなみにクマイチャン、さっき私をここまで吹き飛ばしたのは他でもないナカサキ・キュフフだぞ」
「え!?ナ、ナカサキが?・・・」
クマイチャンはナカサキが強くなったという情報を得て落ち着いていられるはずもなかった
クマイチャン自身この数週間で乗馬のスキルを磨き、戦場で活躍できるレベルまでに強くなったと心から思っている
だが今の自分にマイミを吹き飛ばすほどの実力が備わっているのだろうか?
いくら己を磨きに磨いても宿命のライバルであるナカサキは更に一歩遠い所へ行っている
そんな事実に直面したクマイチャンが黙っていられる訳がない
「ナカサキ・・・ちょっとこっち来てよ」
指名されたのでナカサキはクマイチャンの元へ向かっていく
例え同じ食卓の騎士だろうと相手はライバルであるクマイチャンだ、ナカサキの表情は決して緩む事はない
そしてナカサキがクマイチャンの元につくなりにらみ合いが始まる
「ナカサキ・・・マイミを吹き飛ばしたって本当?」
「本当よ、マイミ団長は無抵抗だったから実戦ではどうなるかわからないけどね」
「ふぅん・・・最後に決闘した時はナカサキにそんなパワーがあるようには見えなかったけど」
「ええ、この3週間で強くなったからだと思うわ」
話す内容は一見よくある戦士の会話だが二人の体から滲み出る闘争心は並のそれではない
二人とも普段は温厚だが互いを意識し出すとすぐにこうなってしまうのだ
(覇気があるのは良い事だけどこれはさすがに注意したほうがいいのだろうか?・・・今度シミハムに相談してみる必要があるな)
この二人の関係性には馬鹿なマイミもさすがに頭を痛めている
「ところでさナカサキ、この前メロニアのムメと戦った時言われたんだけどさ」
クマイチャンが何気なくふった話の導入部を聞いてカンナは背筋が凍る
これから話そうとしている話は間違いなく自分に打ち明けた「ナカサキが手を抜いている」話だ
ただでさえ二人の眼と眼の間に火花がバチバチ散っていると言うのにそんな話まで持ち出したらどうなってしまうだろうか?
ナカサキの返答次第ではこの場でナカサキとクマイチャンの決闘が始まってしまうかもしれない
モーニング帝国との戦争が残り1週間と迫ってきてるというのにこんな所で無駄な怪我を負ってしまうのは無駄以外の何者でもない
こんな時に限ってマイミはボロボロになってるし、ウメサンも銃を使わなければ並の兵士以下なのでアテにならない
どうにか自分とオカール、マイマイ、アイリの4人で衝突を止めなくてはならない・・・できるだろうか?
「私とナカサキの決闘でさ、ナカサキが毎回手を抜いてるって言ってたんだけど・・・どうなの?」
カンナはクマイチャンの言葉を聞くなり二人を止める準備を始めた
遥かに高い位置にいるクマイチャンを上目使いで見上げながらナカサキが口を開く
「手加減?そんな事考えた事もないよ」
「本当?良かったぁ」
そのナカサキの柔和な返答にカンナも一安心する
これならナカサキとクマイチャンがこの場でやり合う事もないだろう、杞憂で済んで良かったと心から思ったカンナだった
・・・が、カンナの心労はそれで済むような物では無かった
「でもクマイチャン、今決闘したら手加減しなきゃいけないかもしれないね
だってそうでもしないとクマイチャン死んじゃうもの」
カンナは絶句した(普段から無口だが) 何故にナカサキはこうもクマイチャンを挑発するのだろうか?
自分の記憶ではメロニア遠征の時のクマイチャンとナカサキはそこまで不仲では無かったはず
帝国との戦争が残り1週間と迫ってきているので二人ともナイーブになっているからだろうか
いや原因などどうでもいい、今は二人を止める事が先決だ
ふと周りを見てみればアイリ、オカール、マイマイも緊迫した表情をしながら今にも二人の下へ駆け出しそうな体勢を取っている
考える事はみなが同じだ、今この時点で二人に決闘を始めてもらう訳にはいかない
どっちが勝つかは分からないが今回ナカサキの会得したあの必殺技がひとたび発動されればクマイチャンもナカサキも無事では済まない
食卓の騎士がモーニング帝国に打ち勝つためにはなんとしても阻止しなくてはならないのだ
だがクマイチャンが次に発した言葉はみながイメージしたようなものでは決してなかった
「へぇ〜そこまで言うって事は結構強くなってるんだね、マイミの言ってた必殺技ってのが関係してるの?」
てっきり一触即発のムードに突入するかと思いきや、クマイチャンはいつものクマイチャンのようにとても朗らかだったのだ
これには周りの4人だけではなくナカサキも拍子抜けしてしまう
「え、ま・・・まぁそうだね、私の必殺技なら本気でクマイチャンを殺せると思ったの」
「そっかぁ、殺されないように私ももっと強くならないとなぁ・・・」
おっとりしながら何かを考え込むようにクマイチャンは腕を組みつつ天井を見上げる
そして何かを決意したのかりりしい眉毛にピンと力を入れ、ナカサキの両手を掴む
「ナカサキ!モーニング帝国との戦争が終わってさ、マーサー王も救ってさ、ぜ〜んぶ解決したらその時にまた決闘しようよ!
本当は今すぐにでもナカサキと決闘したいけど・・・国やマーサー王を救う事のほうが先決じゃん?」
カンナはとても安心した、クマイチャンは自分の立っている立場の重大さを十二分に理解していたのだ
そしてさっきまで強張った表情をしていたナカサキも我慢できなくなりつい笑顔になってしまう
「うん!その時を楽しみにしてるね」
05.
「チナミー剣できたー?」
ベリーズ工房の扉を勢いよくバタンと開き登場したのはさきほど訓練場でひと悶着あったクマイチャンだ
部屋に入るなりすぐさまチナミのもとへ駆け寄っていく
「剣は?剣は?剣は?剣は?」
「もうクマイチャン落ち着いてよ、剣ならもうとっくに出来てるよ」
「本当!?やったぁー!!」
数週間もの長い間待ちに待ち続けた愛刀の完成にクマイチャンはこれ以上無いほどにはしゃぎまくる
乗馬の技術も大事だがやはり戦士の花形と言えば武器捌きだ
また剣を振り回せる日が来るのかと思うとクマイチャンは心の奥底から湧き上がる喜びを止める事など出来なかった
「ふっふっふ、クマイチャン見て驚かないでよ」
そう言うとチナミは奥の方から布に包まれた剣を持ってくる
だがどうもおかしい、確かにクマイチャンの剣は長剣なので普通の剣に比べて長いのだがいくらなんでも長すぎる
今までクマイチャンが扱っていた長剣「アンゼンピンヲノバシタヤツ」は1m76cmという驚きの長さだったがそれ以上に見える
目測で測るに2mは越えてるのではないだろうか?
「すっごく長いでしょ、馬に乗りながらだったらこれくらい長くないといけないと思ってね
どうかな?余計なことしちゃった・・かな?」
チナミはさっそく布をほどきクマイチャンに直接新しい長剣を手渡す
ズシリと重い長剣を手に取り感動に浸りつつクマイチャンは一振り、ニ振りと軽く振り回してみる
あまりに長く重いので軽く振るだけでもフラフラしてしまうがこれを使いこなせる日を想像すると期待が膨らむ
サトタを華麗に乗りこなし、この新たな長剣も巧みに扱う事が出来れば自分はどこまで強くなる事が出来るのだろう
「チナミありがとう・・・すっごい気にいったよ!!」
「本当!?よかったー」
クマイチャンの笑顔を見たチナミも一安心だ、今まで寝る間も惜しんで作業に取り掛かってきたがそんな疲れも吹っ飛んでしまう
「そうだクマイチャン、その長剣は生まれ変わった訳だから名前も新しくなったんだよ
とても背が高くて強かったっていう伝説の戦士が使ってた剣から名前をとったんだけどね」」
「へぇ〜・・・なんて名前?」
この日から新たにクマイチャンの相棒となる長剣、その名を「パンノミミヲアゲタヤツ」と言う
「なんだか楽しそうじゃないの」
クマイチャンとチナミが大はしゃぎの中、モモコもベリーズ工房の中へ入ってきた
クマイチャンと同じくチナミに頼んでいた特注品を受け取るためだ
「あ、モモコ!この剣を見てよ、凄いでしょ」
クマイチャンは子供が高得点だったテストを母親に見せるように目を輝かせながら新たな長剣をモモコに見せる
その並外れた規格外の長さ、そして持たずとも分かる重量感にさすがのモモコも目を見張る
「へぇ〜・・・こりゃまた凄いのを作ったものねぇ」
「でしょ?これを使いこなせれば強くなるかなぁ・・・」
と、ここまで言った所でクマイチャンはハッとする
さっき訓練場に入った所でキュート達が過酷な特訓の末に見違えるほど強くなった事を思い出したのだ
しかも謎の必殺技と言うものまで会得しているというのだから気にもなってしまう
「ねえチナミ、モモコ・・・さっき訓練場の前を通った時の事なんだけどね」
クマイチャンはさっき自分が見た事や体験した事を二人に告げる事にした
あのマイミが吹き飛ばされた事
しかもそのマイミを吹き飛ばしたのはナカサキだという事
キュート戦士団の全員がキューティーサーキットという特訓をやり遂げたという事
そしてキュート戦士団全員が必殺技というものを会得したという事
その全てを告げ終わった後に不安そうにクマイチャンはぼやく
「ベリーズも何か特訓とかしたほうがいいんじゃないかな?必殺技とか覚えたほうがいいんじゃないかな?・・・」
さっきまでとは打って変わってオドオドしているクマイチャンを見てチナミまで暗くなってしまう
「え〜だって特訓とか疲れるんだもん」
神妙な面持ちのクマイチャンやチナミとは違い、モモコがとってもダルそうに口をとがらせながら喋る
そのふてぶてしさにクマイチャンは驚愕してしまう
「つ、疲れるってそんな言い方ないでしょ!もう1週間後には戦争が始まるんだよ!」
「そうだよモモコ、いくらなんでもそれはないよ」
当然のごとく集中業火に会うがモモコだが、特に表情を変えず言葉を返した
「そんなの分かってるわよ、だからそんなに疲れない訓練をすればいいのよ」
「「え?・・・」」
キョトンとしたクマイチャンとチナミを横目にモモコは更に続ける
「正直言って戦闘能力だけで見ればベリーズはキュートに負けてると思うわ
こっちにはマイミみたいな筋肉馬鹿はいないし、そもそも人数からしてこっちが少ないしね
じゃあクマイチャン、そんなベリーズがどうしてキュートと対等の関係をとっていられると思う?」
いきなり話を振られたクマイチャンはどう答えればいいのか分からずオドオドしてしまう
「えと、えっと、え、え、う〜ん・・・」
「ブー時間切れー、答えはベリーズにはキュートには無い技術がたくさん備わっているから。
私の暗器をフル活用すればマイミなんて完封できるし、シミハムの棒捌きも並のソレじゃないわよ
他にも天才的な技術を持ったリシャコがいるし、何より素晴らしい腕を持った武器職人さんがいるじゃない
クマイチャン〜目の前に私とチナミが居るのになんで答えられないの?」
「え?あ・・・そっかぁ・・・んん?」
答えを教えてもらったもののクマイチャンはいまいちピンと来ない様子
釈然としていないクマイチャンを見たモモコは半ば呆れつつも説明を補足する
「いい?私たちベリーズはキュートよりも良い武器を使ってるのよ
もちろんチナミはキュートの武器も作ったりしてるけど優先順位はベリーズが先なのよね
クマイチャンが持ってるその長剣だって特注中の特注でしょ?そんな良い剣を作ってくれる職人なんてなかなかいないよ?」
モモコの言葉を聞き何かを思ったクマイチャンはふと手に握られた長剣「パンノミミヲアゲタヤツ」を見下ろしてみる
確かにズシリとした重量感のわりには何年も使い古した剣のようによく馴染む、チナミが良い仕事をしている証拠だ
「 クマイチャンも私も新しい武器を手に入れたから残り1週間でそれを使いこなす事だけに専念すればいいの
無理に特訓とかして疲れるよりはそれが一番なのよ」
「そういうものかなぁ・・・」
「そうよ、必殺技とか言うものは基本的な事をしっかりした後についてくるものなの
まぁ・・・私とシミハムとミヤビは必殺技くらい特訓しなくても使えるけどね」
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