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『メロニア編』
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01.
ミヤビとウメサンの休んでいる病室に集まったベリーズ戦士4人とキュート戦士6人 
当然今回の遠征で何が起きたのかをアイリ、マイマイ、カンナに聞くためだ 
「それでは私の方から全て話させていただきます」 
アイリ・カッパー・ダボトール、キュート7戦士きっての「天才」と呼ばれる逸材だ 
しかしその天才ですら体を汚して帰ってきた事に誰もが不思議がっていた 
「では長くなりますが順を追って・・・」 


時は数日前 
マイミ・バカダナー戦士団長率いる遠征軍が近々王国を狙っているという話があるメロニア国を討伐しに行った時の話だ 
キュート7戦士の中でも誰もが認める"最強"マイミ・バカダナーを筆頭に 
"天才"アイリ・カッパー・ダボトール、"知将"マイマイ・チチハエ・タラステル 
そしてメグの抜けた穴を埋めるように新しく加入した新人カンナ・ディスライクハンド 
この4人が軸になって戦争をするなら安心だと遠征軍の誰もが思っていた 
メロニアの四天王に出会う前までは・・・ 

「敵は目前だ!我が王国を脅かす敵はなんびとたりとも生かしておけない!」 
マイミ戦士団長の雄々しい号令と共にメロニア城へと突撃する遠征軍たち 
マイミが先頭になって進撃し後方をアイリ、マイマイ、カンナが守るという形となった 
アイリ達から見て前方は遠く、何が起きてるのか分からぬがマイミが負ける姿なんて見た事無いので安心しきっていた 
いくらアイリが天才とは言えマイミの超身体能力の前では赤子も同然、それくらいマイミの強さは圧倒的だったのだ 
しかしどうもこの日は様子がおかしかった、前方の味方たちがどんどん倒れていっている 
それどころか二人の戦士がこちらの軍を薙ぎ払いつつ強行突破してきたのだ 
後に名を知ったがシバチャピン・ポコミュン、マサオ・ダチナイというメロニア四天王のうちの2人であった 
しかし本来ならそう言った「強豪」の存在をマイミがほっておく訳がなく早急に退治に向かっていたはずだ 
それが無いという事はマイミは前線で他の猛者と戦っている最中だったのか 
それともすでに倒されてしまったのか・・・どちらかしか考えられなかった 

シバチャピンとマサオの登場に身構えるアイリ、マイマイ、カンナ 
「どうやってマイミ団長の攻撃をかいくぐって来たのですか?」 
棍棒「ソノヘンノボウ」を構えつつ二人に探りを入れるアイリ 
するとシバチャピンとマサオは大笑いし始める 
「かいくぐってきた?笑わせるな、お前達の団長は我々メロニア四天王に倒されたんだよ!」 
「まさにその通り、少々手ごわかったが我ら4人にかかれば無力であった」 
その言葉を聞きショックを受けるアイリ達 
「そんな・・・マイミ団長がやられるなんて・・・」 
「惑わされないでアイリ、団長がこんな死臭を発している人達に負ける訳無いのはキュート7戦士全員が知っているはず 
 たぶん私達を同様させて士気を下げる作戦・・・今すべき事はこの人達を瞬殺して普段通りの仕事をするだけだよ」 
そう言ってサングラスをかけたマイマイは自分の体より大きく見える斧を敵に向かって振り下ろした 
マイマイの斧「パリパリナッタワイシャツ」は特注製で大の男が3人揃ってようやく持ち上げられる重量なのだ 
しかしシバチャピンは破壊力満点の斧にも恐れずむしろ自らのフレイルで弾き返した 
「その程度の力しかないのか?情報ではマイマイは食卓の騎士の中で最も怪力と聞いたが・・・買いかぶりすぎのようだな」 

食卓の騎士達の危機を察知した周りの遠征軍達はいっせいにシバチャピンとマサオに襲い掛かる 
いくら強くても大勢でかかれば制せられると思ったのだろう 
しかし一国の猛者がその程度でひるむはずもなく、マサオは愛用している鎖鎌で周囲の遠征軍を一瞬にして蹴散らしてしまった 
乱戦に不向きなフレイルを扱うシバチャピンに立ち向かう大群をマサオが一掃する、これがこの2人の常勝パターンなのだ 
この2人の本気の実力を見せられて完全にひるんでしまうアイリ、マイマイ、カンナ 
これほどの力を持っているならマイミも本当に倒されたのかもしれない・・・そう思うとアイリは震えが止まらなかった 
「アイリ、確かに敵は強いけどアイリがいつも通り見ればなんとかなるでしょ?天才なんだから」 
怯えてしまっているアイリを勇気付けるようにアドバイスするマイマイ 
しかし今までマイミより強い者を見た事がないアイリの恐怖心は並みのソレでは無かったようだ 
「だ、だめ・・・見えません・・・全く見えないんです・・・」 
弱気なアイリを見て焦るマイマイ、しょうがないのでここはカンナと二人で乗り切る事に決める 
「カンナはそっちの派手な髪型の人を倒して、私は足が太いほうを倒すから」 
こくりと無表情で頷くカンナ 
(いつも何考えてるかわからないけどこういう時動揺しないからカンナは強いな・・・)そう思うマイマイ 

「誰が足の太いほうじゃコラァッ!」 
身体的特長を馬鹿にされて怒り狂うシバチャピン、勢い良くフレイルを振り下ろす 
しかし何度もやられたままなマイマイではないので素早く身をかわす 
「へぇ・・・そんな重い斧持ってるから避けきれないと思ったら」 
「戦場でのろのろしてるような戦士は食卓の騎士には選ばれないんで」 
お返しにと巨大な斧でシバチャピンに斬りかかるマイマイ 
さっきは防がれたが今度はシバチャピンの体勢が不安定なので当たる確率は数倍高くなったと踏んだのだ 
しかしそこはメロニア四天王の一人であるシバチャピン、無理のある体勢からでもフレイルを振り斧を防ぐ 
シバチャピンのフレイルは重量ではマイマイの斧には敵わないが先端の棍を長くする事で衝撃力を増す事が出来る 
おまけに空を切るほどの勢いで振る事で巨大な斧にも匹敵する破壊力を生む事も可能なのだ 
さすがのマイマイも予想外の反撃によろけてしまう 
そしてその隙をつかれシバチャピンの渾身の一撃をサングラスで受けてしまい・・・ 


02.
もう一方で戦っているカンナとマサオ 
劣勢なマイマイとは違いカンナは善戦していた 
四方八方から繰り出されるマサオの鎖鎌を全て紙一重で避けていたのだ 
更に避けると同時にマサオの懐に入り剣で斬りつけていた、これが先ほどから3回は繰り返されたのでマサオも軽症では済まない 
おまけにカンナは完璧とも呼べるポーカーフェイスなのでマサオも相手が次にどう出るのか読めずにいた 
「なるほどそれが貴様の戦闘スタイルか、新人だと思って舐めてたが流石は食卓の騎士」 
一旦鎖鎌を回収し間合いを取り始めるマサオ 
「ならばこちらも同じ戦法を取らさせてもらおう、静かな戦いになるだろうな」 
そう言って完全に静止するマサオ、鎖鎌も鞘にしまい傍から見れば無防備そのものだ 
だが簡単には攻め入れない、少しでもマサオの射程距離に入れば恐ろしい反撃が待っているのだろう 
それに鎖鎌と剣の射程はどう見ても鎖鎌の方が長い、カンナはどう出るのか・・・周りの遠征軍は皆がそう悟った 
しかしカンナはそんな状況でも顔色ひとつ変えず剣を構えた 
危険を恐れずマサオの射程に入り込むのかと思いきやそうではなかった 
なんとカンナの剣から弾丸が発射されたのだ、その意外な攻撃方法に対処できるはずもなくマサオは額で受けてしまう 
カンナの武器はただの剣ではなくこの時代開発されてまだ日の浅い銃剣だったのだ 
銃剣「ロケットエンピツ」と相手の攻撃を見切る判断力、次の行動を悟らせないポーカーフェイス 
この3つがカンナを食卓の騎士にまで押し上げたのだ 

額から大量の血を流し膝をつくマサオ 
「貴様よくも…よくもこんな仕打ちを…」 
怒りは込みあがってきてるもののまったく立てない、体が言う事を効かないのだ 
それを確認し今度こそ剣を構え斬りかかるカンナ、まるで機械のように冷徹に… 
しかしそれを邪魔するようにカンナに謎の物体がが投げつけられる、よく見たらその物体はマイマイだった 
マイマイはシバチャピンの攻撃であわや失明かと思いきや咄嗟に体を後ろに傾けてたので大事には至らなかった 
だがそれでも重症なので動けるものではない、そこでマサオのピンチを察したシバチャピンがマイマイをカンナに投げつけた…という訳だ 
トドメを刺せれなかったので内心不満だったがそもそもマサオは戦闘不能なのでターゲットをシバチャピンに切り替える事にしたカンナ 
シバチャピンも実力はせいぜいマサオ程度、しかも武器の射程はマサオ以下なので余裕だと思っていた 
だがシバチャピンの隣に新たな敵が並んできたのだ 
「なるほどなるほど貴方は銃剣を使うのですか、食卓の騎士も人材が豊富ですなぁ・・・良いデータが取れました」 
博士風の格好をしたメガネの新手、後に知る名はムメ・アラドーテ・コマリマス 
いかにも弱そうだし持ってる武器もただのナイフなので突っ切れると思ったが一応警戒するカンナ 
するとムメはとんでもない事を言い出した 
「そこのアイリさんはとても弱かったので大したデータは取れませんでした、貴方からは素晴らしいデータが取れるよう期待しますよ」 
なんと気づかぬうちにアイリまでもがボロボロになって地面に寝ていたのだ 
いくらなんでもマイマイとアイリを倒した二人を相手に涼しい顔してるほどカンナに余裕はない 
今まで無表情で通してきたが少しカンナの表情が曇りだした 

カンナの眉が動いた事に気づきニヤリとするムメ 
「さすがに恐れているようですね?3人も居たお仲間が皆居なくなったので当然と言えば当然でしょう」 
自分の表情に気づきハッとするカンナ、すぐさま表情を元に戻す 
かと言って戦況が変わるはずもなくシバチャピンとムメは臨戦状態に入っていた 
「その銃みたいな剣やっかいだな・・・ムメ、なんか手はないの?」 
「そうですねぇ、ここはいっその事やけくそで突っ込んでみてはどうでしょうか」 
そう言ってカンナに素早く近づくシバチャピンとムメ、このヤケクソとも思える作戦は実は最も有効な手段なのだ 
銃剣の射程は文字通り銃と同じだ、しかし接近戦では銃を撃っていられないため剣の射程…そこまで近づけばシバチャピンのフレイルの世界だ 
さすがにカンナにも焦りの表情が見え隠れし始める 
近づかれては困るので遠いうちに銃で撃ち殺そうとするが既に手の内が知られているため簡単には当たらない 
カンナが10発は撃った頃にはついにシバチャピンとムメに近づかれてしまった 
しかもシバチャピンとムメはカンナを間に置くように対角線に陣取ったのである 
「貴方は攻撃を見抜くのが得意みたいですが後ろに目がついてる訳はありませんよね、ここをどう切り抜けますか?」 
確かにシバチャピンを向けばムメにやられムメを向けばシバチャピンにやられる、この窮地にカンナの表情はますます曇ってしまう 
まさに絶体絶命のピンチ、勝利を確信したシバチャピンがフレイルを力強く振り上げた 
が、その時ことは起こった 
なんと周りに居た遠征軍達が至近距離にまで迫ってシバチャピンとムメを囲んでいたのだ 
周囲の敵を一掃する能力を持たないシバチャピンとムメは簡単に取り押さえられてしまう 
いつもはこんな事が無かったので混乱するシバチャピンとムメ 
そう、いつもならマサオが鎖鎌で一掃してくれたはずだが今回はマサオが戦闘不能だ 
おまけにカンナの弾を避けるのに必死だったのと銃声の大きさにより遠征軍の接近に全く気づく事が出来なかったのだ 
悔しがるムメ、そして気づけばカンナの口元はニヤリとしていた 
「騙してたんですね…いや、これは私達が馬鹿でしたか」 
1対2ならムメの作戦は完璧だった、しかし今回は100対2だ 
周りの兵を雑魚と切り捨て最初から計算に入れなかったムメに勝ち目は最初から無かったとも言えるだろう 

シバチャピン、マサオ、ムメを縛っておきある程度痛めつけるカンナ 
強敵だったが縛られれば身動きが取れないので少し一安心して体を休める 
本当なら一刻も早くマイミの安否を知りたい所だが今の状態で行っても無駄になるだけなの休息が必要なのだ 
そうして休んでるうちにマイマイも動けるようになり、アイリも目を覚まし始めた 
だがどうも浮かない顔をしているようだった 
「私・・・何も出来ませんでした・・・こんなので天才なんて笑っちゃいますよね」 
実力の半分も出せず怯えてばっかりでムメに負けたのを気にしているようだ 
そんなアイリを元気付けるよう励ますマイマイ 
「大丈夫だって、私も結局足の太い人に負けちゃったから・・・それも力勝負で 
 でもカンナと兵隊さん達が助けてくれたんだよ、私達は一人じゃないんだから助け合えるんだよ 
 だから自分ひとり負けそうでももう怯えたりしないで、皆なら倒せるから」 
「そ、そうですよね・・・!」 
不思議と力が湧き出すアイリ、カンナや遠征兵達にペコリとおじぎをする 
「それにこの人達が本当にマイミ団長を倒したと思う?確かに強いけどこのくらいの敵なら団長は軽くひねっちゃうはず 
 たぶん団長は今でも前線で馬鹿みたいに戦ってるはずだよ」 
確かにそうだ、と再認識するアイリ、カンナ、遠征軍達 
シバチャピンやマサオ、ムメは強いしチームプレイを得意とするが束になっても"最強"マイミに対抗できるとは思えないのだ 
何故ならマイミは数年前たった一人である国を滅亡寸前まで追いやったという過去を持つのだ 
そんなマイミ団長を脅かす者などそう居るはずがない、そう思うと安心感に包まれるのだ 

数分後、ヤツがやってくるまでは・・・だが 


03.
急に体が震えだすアイリ 
「あ、あれ?・・・もう勇気をもらったはずなのに・・・あれ?・・・あれ?」 
先の戦いで怯えて役に立たなかった事を悔いたはずなのに 
団長を越える敵なんていないと理解しているはずなのに 
何故か指先から骨の隋まで震えが止まらないのだ 
もう足手まといにはなりたくないのに理由のわからない恐怖が自分を締め付ける 
自分は天才なはずなのにまた人の足を引っ張る事になるかと思うと自責の念に駆られずにいられなかった 
だが震えていたのはアイリだけではなかったのだ 
マイマイも、あんなに強いカンナでさえも立てないほどに震えている 
シバチャピン、マサオ、ムメでさえ半笑いしながらも冷や汗をかいている 
いったい何が自分達をこうさせるのか?その正体に気づくのに時間はいらなかった 
ああ、あいつか 誰もがすぐ気づいたのだ 
「おうお前ら、ちょっと不甲斐なさすぎやしないか?」 
いつの間にこの人はこの場に居たのだろう、いや、おそらく震えが始まった頃には既に居たのだと思う 
シバチャピンより太い足、マサオより派手な風貌、ムメより得体の知れない存在感 
ヒトミ・ボス 
ヤツがメロニア最強、その場にいる誰もがそれを理解した 

一瞬、それは一瞬だった 
いつの間にかカンナの背後にいたヒトミは素手で鎧を突き破りカンナを地に沈めていた 
カンナも銃で応戦しようと構えていたのだが撃つより速く迫れてはなんの意味もない 
そしてさっきシバチャピンとムメを取り押さえたようにしようにもそれも出来なかった 
あの強靭な肉体を誰が取り押さえられると言うのだろう?100対1でも負けるのはでないだろうか 
全ての兵がそれを肌で感じていたから誰も取り押さえに行けなかったのだ 
もちろん実際取り押さえにいったところで動きを止められる訳も無い 
この感覚、まさにマイミと似ている 
アイリとマイマイがマイミと初めて出会った時に感じた圧倒的なレベルの違い 
それと似た感覚がヒトミ・ボスからも感じられたのだ 
「た、退却だ!全軍退却!!!」 
マイマイはそう号令を出さずにはいられなかった 
この場にいれば必ず死ぬ 
さしずめ「小学生でもわかることよ」と言ったところだろう 

蜘蛛の子を散らすように逃げる遠征軍達 
歩けそうにないマイマイやカンナをおぶって走る者もいるがほとんどが武器を捨てて走って逃げている 
しかしヒトミ・ボスが逃げる遠征軍を黙ってみている訳が無かった 
「逃がすわけねぇだろ、王国侵略のために少しでも殺しとかなきゃな」 
そう言ってマイマイをおぶっている兵に近づき仕留めようとするヒトミ 
ヒトミの鉄のような拳がマイマイに振り下ろされる 
しかしその時ヒトミの膝に電撃が走った 
なんと震えて怯えて小さくなっているはずのアイリが棍棒「ソノヘンノボウ」でヒトミの膝に渾身の一撃を加えたのだ 
「見えました!あなたの電源は膝にあります!」 
意思とは反して地に膝をついてしまうヒトミ、だがすぐ起き上がり 
「そうか、自殺志願者か」 
アイリの柔らかい腹に像でも一撃で気絶するようなボディーブローを放ったのだ 
「てめぇが噂に聞いてたキュートの天才だな?ここで完全の息の根を止めてやるよ」 
もう意識の無いアイリに二撃目三撃目を繰り出そうとするヒトミ 
しかしそのヒトミの腕を何者かが掴み制した 
なんとその者こそキュート戦士最強のマイミ・バカダナー戦士団長だったのだ 
頭から血が出て今にも死んでしまいそうな重症だが目だけはいつものままだ 
「生きてたのか、10発はぶん殴ったはずだがかなりタフなんだな」 
「仲間が殺されるというのに黙ってはいられないからな」 

「だ、団長!」 
マイミが生きていた事に安心と喜びを感じたマイマイとアイリが駆け寄る 
しかしマイミは「お前達は来るな!今すぐ逃げろ!」と怒鳴りつける 
「で、でも団長が来たなら皆で協力すればそいつにだって勝てますよ・・・」 
そう言って棍棒を構えなおすアイリ 
しかしマイミは怖い顔をしてもう一度言う 
「勝てないから言ってるんだ!悔しいがこいつの強さは想像以上だ 
 お前達は王国に戻って援軍を呼んでくるんだ、私がこいつを抑えている隙に!」 
ヒトミを羽交い絞めにするマイミ、だが力はヒトミの方が強く解かれてしまうのも時間の問題 
「で、でも隊長をほっておく訳には・・・」 
「私は絶対ここで生き延びる!どんな拷問を受けようがどれだけ殴られようが絶対生きてみせる! 
 もし生き残れなかった時は私が最強ではなくなる時だ、私を最強だと信じてるなら王国に戻ってくれ!」 
「・・・!!」 
ハッとするマイマイとアイリ 
そうだったのだ、マイミが最強と呼ばれる所以はその生命力にあったのだ 
確かに攻撃力や身体能力にすぐれているが特筆すべきは他を圧倒する「生きるという力」 
いくら破壊力のある武器を持っていようが長時間戦っていたらそのうち怪我を負って死んでしまう 
しかしマイミの生への執着心は尋常ではない、大国を一人で滅亡寸前まで追いやったのもその生命力があったからだ 
マイマイとアイリはマイミ戦士団長を信じる事にした 
メロニアに戻るまでに数週間はかかるかもしれない、だがマイミは生きているはずだと 


「そうして退却している途中でナカサキとオカールに出会ったのです 
 二人に会った時点でまたメロニアに戻ろうとも思いましたがヒトミ・ボスの力は強大です 
 ベリーズの力も借りたいと思い王国まで戻りました、どうか力を貸してもらえませんでしょうか?」 
全ての事情を話し終えたアイリ、切実な思いでベリーズに嘆願する 
クマイチャンとチナミの性格から考えて断るはずもなく 
「当たり前だよ!今すぐ行こう、今もマイミは拷問を受けてるんでしょ?一刻も早くいかないと」 
「ヒトミってやつがどんなに強くても私やクマイチャン、リシャコ、そしてオカールやナカサキが居るから絶対勝てるよ!」と協力的だ 
ナカサキとオカールも最初はマイミより強い者が居るとはにわかに信じられなかったが今は武器の準備を始めている 
馬鹿だけどいつも的確な指示を出してくれた団長、その団長を見捨てるなんて心は持ち合わせていないのだ 
「ただ心配なのは・・・マイミ団長を人質に取られている状態で私達がどれだけ戦えるか・・・」 
マイマイが言った事はもっともな事だった、前戦った時とは違い今回は人質がいるのだ 
もしマイミの首にナイフでも突きつけられたら何も出来ないのかもしれない・・・ 
しかしベッドで寝ているウメサンは心から安心しきったような顔でこう言った 
「ううん、マイミが人質でよかったんだよ、マイミは銃を突きつけられても逆に殴り飛ばしちゃうような性格だよ 
 これほど強い人質ってそうそう居ないんじゃないかな」 
確かにそうだと緊迫していたキュート戦士達に笑顔があらわれた 


04.
時を同じくしてメロニア城のある室内 
白衣を着たムメが壁に開いた穴を見てため息をついていた 
「また脱走したみたいですね…こんなに落ち着きのない人質もう嫌ですよ・・・」 
そんな呆れているムメの後ろからピザをかじりつつ現れるマイミ 
「ため息をつくと寿命が縮むらしいぞ?何があったか知らないが前向きに生きないと」 
「貴方が脱走ばっかりするからため息も出るんでしょう・・・ていうか断食の刑なんだから物を食べないでもらえませんか」 
「いやそれは御免だ、なぜなら2週間も何も食べなければ人間は死んでしまうからな」 
「だから大人しく死んでくださいよ・・・泣けてきますよ本当に」 
実はマイミ団長は最初の3日ほどは普通に拷問を受けてきたのだ 
しかし何故か拷問器具を使えば使うほど壊れていくうえにマイミ団長に大したダメージは与えられない 
そもそも縄で縛ろうにも引きちぎってしまうしシバチャピン、マサオでリンチにしようにも返り討ちされてしまう 
ヒトミにお願いしようにもめんどくさがって何もやってくれない 
そこで鉄格子で囲まれた部屋に閉じ込め飢え死にさせようと思ったのだがご覧の通りぶち破ってしまう 
もうお手上げなのだ 
「しかし不思議なんですが何故逃げて帰ろうとはしないのですか?悔しいですが私に貴方を止める事は出来ないのですけど」 
「ああ、私達の最終目標はメロニアを屈服させる事だからな 
 私が捕らわれていると思えばキュート戦士達は燃え上がるだろう、ヒトミを倒すにはそれほどの闘志が必要不可欠だ」 

「なるほど…ですがそう簡単に私達も負けたりはしませんよ 
 以前の戦いでキュート7戦士全員分のデータが揃いましたからね、貴方抜きなら私達に勝てないという計算も出ています」 
大量の資料を持ち出しマイミに見せるムメ、パラパラと目を通すマイミ 
確かにそのデータは実際に限りなく近かった、扱う武器といい好む戦闘スタイルといい忠実な情報だ 
「正確でしょう?その資料は我がメロニア軍全員に行き渡っています、シミュレーションも何度もしましたし勝率は100%ですね」 
だがマイミは落ち着いた様子でムメに問いかける 
「ではそこにベリーズが加われば勝率は何%になるんだ?」 
意外な質問に面食らうムメ 
「ベリーズとキュートはあまり共闘しないのでしょう?そんな事を聞いて何になるのですか」 
「いいから質問に答えろ、何%になるんだ?」 
睨みをきかせるマイミにビビるムメ、か細い声で答える 
「あ・・・それは・・・ベリーズ全員が加勢したと仮定すれば・・・20%です・・・」 


05.
時は経ち食卓の騎士達はマイミが捕らわれているメロニア領土へと到着する(実際はマイミにタダで飲み食いされてる) 
リカチャンの襲来、メロニアでの戦争によりほとんどの王国兵が負傷しているので馬車を操る一般兵のみを連れた少数精鋭だ 
ベリーズはクマイチャン、チナミ、リシャコの3人 
キュートはナカサキ、マイマイ、オカール、アイリ、カンナの5人、つまり計8人で敵国に対抗する事になる 
ミヤビやマイミなど指揮をする立場の人間を欠いているのでひとまずマイマイが臨時的に総指揮を取る事になった 
「メロニア四天王で気をつける必要はあるのはヒトミだけ、残りの3人はこれだけの人数揃えてるので容易に倒せると思う 
 ただこちらには兵が馬車兵しか居ないから四天王よりむしろ敵の大群の方が恐ろしいの 
 だけど全員で相手してたらキリが無いからここはアイリ、オカール、リシャコの3人で1000の大群を相手して欲しいけど出来る?」 
こくりと頷くアイリとリシャコ、一人ぽかんとしているオカール 
(ま、まじかよ・・・いくらなんでも333人も相手するなんてキツくないか?・・・) 
今までそんな大勢の敵を相手した事ないのでビビっちゃってるのだ 
そんなオカールを見て瞳をウルウルさせながら困った顔をするマイマイ 
「オカール出来そうにない?・・・だったら他の人に代わってもらう?」 
マイマイにそんな目で見られてキュンとしちゃうオカール 
「い、いや余裕だよ!なんなら俺一人で1000人相手にしてもいいんだけどさー、まぁアイリとリシャコにも見せ場作ってあげないとな」 
かなり調子に乗ってるオカール 

調子に乗ってるオカールはひとまず置いといて次の作戦を説明するマイマイ 
「それでね、残った5人で四天王を相手にする形になるんだけど出方が分からないから皆で固まって戦うべきだと思う 
 一人づつ現れたら全員で協力して倒すし、4人同時に現れたらその場で臨機応変に割り振って行きたいの 
 とにかくこっちの人数が相手より少なくなる事だけは避けないといけないからね」 
マイマイの言葉を聞いて疑問が浮かぶチナミ 
「ちょっと待って!シバチャピンとマサオとムメには一人づつつけばいいけどヒトミって物凄く強いんでしょ? 
 5引く3したら2人しか残らないじゃん!たった2人でヒトミに勝てるの?」 
チナミの質問にもっともだと賛同する戦士達、だけどマイマイはその質問を待っていたかのように答え始めた 
「そのためにアイリとオカールとリシャコには早めに兵達を一掃してほしいの、そうすればヒトミに5人でかかれるでしょ? 
 出来れば一人辺り5秒くらいで仕留めてもらいたいかな、3人とも出来るよね?」 
こくりと頷くアイリとリシャコ、プレッシャーを感じて胃が痛くなるオカール 
そんなオカールを見て目をウルウルさせて上目使いで見上げるマイマイ 
「オカールどこか傷が痛むの?・・・」 
「い、いや全然痛くないよ!ピチレモン国の薬って滅茶苦茶効くよなぁ、2週間でここまで回復したさ!」 
オカールが苦し紛れに言ったピチレモン王に貰った薬、この薬は実際かなり重宝していた 
リカチャン達に負わされた傷、メロニア四天王に負わされた傷、完全回復とは言わないがほとんど治りかけていたのだ 
さすがにミヤビやウメサン程の重症はすぐには治せないがここにいる騎士達の怪我は軽かったので2週間で治癒できたのだという 

「という訳でおおまかな作戦は以上!後はメロニア城に着くまで皆よく体を休ませてね」 
天使のような笑顔を見せるマイマイ、オカールならずとも可愛いと思ってしまう 
マイマイは王国NO.1の怪力、且つ王国NO.2の策士ではあるがそれ以前にとても可愛いのだ 
一般兵の中にはマイマイのファンクラブまで作っている者も居るという噂もあるがそれはまた別の話 

待ち時間が結構あるのでそれぞれが各々体を休め到着に備える事にした 
そんな中リシャコの隣に座り接触するアイリ 
「いっしょの戦場に立つのは初めてですよねリシャコ」 
フレンドリーに話しかけてくるアイリに気をよくするリシャコ 
「うん!頑張っていっぱい倒そうね」と笑顔で返す 
しかしアイリは急に雰囲気を変える、その目はライバルを見るような目に変わったのだ 
「リシャコはなんでもベリーズきっての天才だと聞きましたが…実は私もキュートの中では天才と呼ばれてるのですよ」 
アイリの豹変を肌で感じるリシャコ、負けずと睨み返す 
「こっちだってアイリの事知ってるよ、人の体の中に雷を起こす事が出来るって聞いたよ…どうやって起こすの?」 
「そういうリシャコは本気を出したら敵を深海の底に沈める事が出来るそうじゃないですか、しかも陸地で」 
二人の目と目の間には火花がバチバチ出ていた 
それもとびっきり熱そうな火花が 

言い合ってるうちにそれぞれ武器を持ち出すリシャコとアイリ 
リシャコは三叉槍パスタセンヨウフォークをアイリの胸元に 
アイリは棍棒ソノヘンノボウをリシャコのわき腹に突きつけた 
そしてニヤリと笑い構えてた武器を仕舞う二人 
「リシャコ…やはり貴方も見えてるのですね、さすが天才と呼ばれるだけあります」 
「アイリだって見えてるじゃない、雷を起こすってのもなんとなくわかったかも、かも」 
その様子をただぼーっと見ていたオカールにはさっぱり意味がわからなかった 
(なんだなんだ?喧嘩でもおっ始めると思ったら見えるとかなんとか・・・何言ってるんだこいつら?) 
そんなオカールが見ているとは気づかず話を進める二人 
「大群相手は骨が折れますが2人で頑張りましょう、私とリシャコならすぐ倒せるはずです」 
「うんわかった!一人3秒くらいで倒せば皆を助けにいけるよね」 
わいわい楽しく話すアイリとリシャコ、しかしその話を聞いて面白く思わない者が居た、もちろんオカールだ 
「おいおいおいおい2人ってなんだよ!雑魚は俺も倒すっての!」 
オカールからしたら全くもって不愉快だろう、自分は数にも入れられないのだから 
しかしいくらオカールが必死になろうともアイリは軽く流してしまう 
「あ、オカールは適当にやってください、出来れば邪魔にならないようにお願いしますね」 
それを聞いてプッツンしちゃうオカール 
「だいたいなぁっ!俺はベリーズが嫌いだけどアイリ!おめーも大っ嫌いだったんだよ!!! 
 いちいち鼻につく喋りしやがってよぉ、そもそも食卓の騎士は良いとこのお嬢様が道楽でやっていいもんじゃねーっての!」 
この後マイマイがオカールに駄目駄目!と止めなければ大変な事なってただろう事は想像に難く無い 


06.
また調理場からリンゴをくすねて牢獄で食べ始めたマイミ 
するとムメが真剣な面持ちでやってくる 
「どうやら来たようですよお仲間達が」 
それを聞いて喜ぶマイミ、来るとは信じてたがやっぱり助けられるというのは嬉しいものなのだ 
「そっかぁ来たかぁ、ところでベリーズは来たのか?だとしたら勝率はかなり下がっているのだろうな」 
しかしムメはニヤニヤしている、不気味に思うマイミに結果を話し始める 
「確かにベリーズは来ていましたがたったの3人ですよ、しかもキュートもウメサン以外の5人のみです 
 カンナ・ディスライクハンド、ナカサキ・キュフフ、アイリ・カッパー・ダボトール、オカール・ブラウンコッチェビ 
 マイマイ・チチハエ・タラステル、そしてチナミ・エナリズム・レッドウェスト、クマイチャン・ピリリマデ・ユリーネ 
 リシャコ・ピザハブの計8人ですね、これでは勝率は90%以上なので焦る必要など無いのですよ」 
衝撃を受けるマイミ、膝をついてうなだれてしまう 
(そ、そんな・・・ウメサンが居ないなんて・・・連絡しなかったから怒ってるのだろうか・・・) 


メロニア城の目前にまで到着するクマイチャン達 
城の周辺には当然のごとく大勢の兵士達が待ち構えていた 
リシャコ、アイリ、オカール作戦通り兵士達を引き受けるため馬車を降りる 
「3人とも頑張ってね、私達は正面突破するからね」 
そう言うと馬車馬は全速力で城へ向かって走っていった 
途中それを止めようと向かってくる兵士もいたがチナミとカンナの狙撃により寄せ付けることも無かった 
(さて・・・速攻でこいつら倒してアイリとリシャコのやつらをあっと言わせてやるぜ) 
若干よこしまな考えをしながらも勇敢に1000の大群へ立ち向かうオカール 
以前クマイチャンを倒したように対峙する全ての兵士の急所5点をジャマダハル「ケーキノアルミホイル」で突くオカール 
素早い移動と素早い連撃で一人あたりノルマの5秒で仕留める 
(見たか!俺だってやればこれくらい出来るんだぜ!) 
そう思いアイリとリシャコの方を見るオカール 
するとなんとも信じがたい事がオカールの視界に入ってきた 
オカールは一人を倒すのに5発入れなくてはならないと言うのにアイリとリシャコはそれぞれ一発しか入れてないのだ 
しかも立ち回りも良く一人あたり2、3秒で仕留めている 
「な・・・そんな馬鹿な・・・」 
オカールは自信を喪失しそうになってしまう 


リシャコ、アイリ、オカールに任せて城まで直行した馬車 
出発から数分で城門まで到着したは良いのだが城の入り口は巨大な鉄扉により閉められていたのだ 
早く開けないと後方からやって来る兵士達を相手しなければならないので体力のロスだ 
なるべくこの5人での戦闘は四天王だけに絞りたかったので悩みこむマイマイ 
「駄目だよこの扉、鉄で出来てるから斬れないし…そもそも刃こぼれしちゃいそう」 
不安そうなクマイチャンにさらにかぶせるように言うナカサキ 
「それに固い物を斬ると腕がに響くのよね・・・どうする?裏口を探す?」 
マイマイは最後の手段として自慢の斧で扉を斬ろうと思ったがナカサキの言う通り体に負担がかかりすぎる 
特にマイマイのような小さな体だと反動が全身に来かねない、これから強敵を相手にするというのに戦闘以外で故障は最も避けたい 
皆がどうしようか深く悩んでいるとチナミが「ハイハイハイ!」と挙手し始めた 
「実は内緒にしようと思ってたんだけどね、今回はず〜っと改良してきたこの大砲の威力を見せてあげる!」 
チナミは馬車に乗っている間誰ともコミュニケーションをとらずずっと機械弄りをしていたのだ 
オカダとの戦いで何発撃っても少しもダメージを与えられなかった事にショックを感じ威力を増加させようと苦心してきたからだ 
「みんなちょっと離れててね…こうやって狙いをつけて」 
いつも以上に強く小型大砲「ビービーダン」を握り締めるチナミ 
引き金をより長く、強く、慎重に引く 
そしてドカンという轟音と共に大砲が発射される 
立派なのは音だけではない、あんなに大きくて固そうな鉄扉が音を立てて崩れたのだ 
そのスピード、威力、もはや決して小型大砲と呼べる代物ではない 
「す、すごい!!!チナミってこんな凄いの作ってたんだ!!!」子供のようにはしゃぐクマイチャン 
キュート達も目を丸くして驚く、いつもは無表情なカンナもちょっとビックリした顔をする 
「これ引き金が重いから一発撃つのに10秒くらいかかっちゃうけどね、でもこれで私も足を引っ張らないですむかな・・・」 

壊した城門からは城内がよく見渡す事が出来た 
そして入り口から広がる大広間、その奥の奥にシバチャピンとマサオが立っていたのだ 
轟音をあげてボロボロに崩れ落ちた扉を見て驚きを隠せない表情だ 
「ば、馬鹿かお前らは!?親から扉は壊せって教わったのかよ!」 
「まったく非常識だ…弁償してもらわないといかんな」 
叱られてポリポリと頭をかくチナミ、あまり反省の色が見えない 
そこでマイマイがシバチャピンとマサオに聞こえないように小声で囁く 
「みんな、これはチャンスだよ!こっちは5人だけど相手はたったの2人 
 上手く立ち回っていけば誰も犠牲にしないで切り抜ける事が出来るから指示をちゃんと聞いてね」 
マイマイの言葉に頷く仲間達、マイマイは馬鹿な団長と副団長の代わりに戦士たちを指示する役割を担ってきたのだ 
「よし、じゃあ敵の攻撃は私が引き受けるね!おりゃー!」 
そう言って無計画にシバチャピンとマサオの方へ走っていくクマイチャン 
「あ、ちょっと話聞いてたの!?」焦って呼び止めるマイマイ 
しかしもう遅かった 
なんとクマイチャンが仕掛けられていた落とし穴にまんまとストーンと落ちてしまったのだ 
「うわああああぁぁぁあぁぁぁぁ・・・・・」 
クスクスと笑い出すシバチャピン 
「かかったな、我々の一番恐れてるのはお前達が固まって行動する事だからな 
 この大広間にしかけられてる数え切れないほどの落とし穴で貴様らを分散させてやるぜ」 

クマイチャンの馬鹿さ加減にチナミは酷く呆れる 
「ご、ごめんね皆・・・あんなクマイチャンで」 
しかしキュート戦士達はあんまり気にしてない様子 
「まあ、あれくらいのボケならいつもマイミ団長がやってくれてるから・・・」 
「だよね・・・団長なら罠って知ってても何故かひっかかるものね」 
はぁ・・・とため息をつくキュート戦士達、(みんなも大変なんだなぁ)と哀れみの視線を送るチナミ 
いまいち危機感を感じてくれない戦士達を見てシバチャピンはイライラし始める 
「お前ら状況わかってるのかよ!俺達はどこに落とし穴があるかわかってるから絶対有利なんだぞ!!!」 
そう言って大広間をクネクネと罠を避けながら戦士達の元へ駆け寄るシバチャピン、マサオも同じくついていく 
だがそれを見てマイマイは何かに気づき、隣にいるカンナに指示をする 
「カンナ、あの人達が避けてるとこを銃で撃ってくれない?」 
こくりと頷き銃剣で指示通り床を撃ちまくるカンナ 
「そしてチナミは広いとこになんでも良いから大きいのをぶつけちゃって!とびっきり凄いやつを」 
「う、うん!…よくわからないけどわかった!」 
チナミも小型大砲ビービーダンを言われた通り広いスペースにぶちまける 
すると仕掛けられていた落とし穴が全て完全に燃え尽き、どこに穴が開いてるのか丸分かりになったのだ 
「あとはちょっと穴に気をつければ対等に戦えるよね」ニッコリと笑うマイマイ 
「な・・・まずいぞこれは・・・」 
「うろたえるな、まだ負けた訳ではない…」冷や汗をかくシバチャピンとマサオ 

ちなみにクマイチャンは天井がドカンドカンうるさいので半泣きになっていた 


07.
それぞれ武器を構え臨戦状態に入る戦士達 
とくにマイマイとカンナは一度シバチャピン、マサオと剣を交えた事が有るので気合は通常以上に入っている 
だがシバチャピンとマサオも同様に、いやそれ以上に気合が入っていた 
以前のマイマイカンナとの戦いでは油断もあったとは言え明らかに競り負けていたのは事実 
今回はマイマイとカンナに加えチナミとナカサキとも戦う事になるので圧倒的に不利な状況だ 
しかしそれを言い訳に負けて帰って良い道理なんてあるわけがない 
神経を最大限に集中させ全ての攻撃を捌き的確に決定打を喰らわせれば勝てるはず 
そう信じてシバチャピンとマサオはある陣形を取る事にした、その名も「香水」 
シバチャピンのフレイルによる強力な攻撃力、そしてシバチャピンへの全ての攻撃をマサオの鎖鎌で広くカバー 
飛び道具なら潰され、強行突破だと身を切り刻まれる・・・シンプルながらも最凶な陣形だ 
この「香水」を目の当たりにして無傷に済んだ者は今のところゼロだという 

マサオの隙の無い鎖鎌捌きに攻めあぐむ戦士達 
シバチャピンはマサオと組む事で防御を100%無視して攻撃に専念する事が出来るのだ 
その絶対的優位な状態でシバチャピンはマイマイの方へと向かっていく 
「まずはお前からだ!!前の戦いでもお前は偉そうなサングラスしときながら無能だったからな」 
チームの頭脳であるマイマイがやられてはまずいと戦士達は思い皆が援護を始める 
カンナは銃弾を連射して動きを止めようとした、しかし全ての弾が鎖鎌によりはじかれてしまう・・・ 
「前はその剣が銃だとは知らなかったからやられたが今回は話は別だ、全弾はじかせて貰う」 
これ以上は弾の無駄だと悟りカンナは撃つのを中断する 
そこで今度はチナミだ、小型大砲ビービーダンでシバチャピンに狙いをつける 
「これはさすがにはじけないでしょ!吹っ飛んじゃえ!!!!」 
だが今度は軽く避けられてしまう、砲弾は奥の壁にぶつかり轟音とともに大爆発を引き起こす 
(その大砲はどこ狙ってるか傍から見ればバレバレなんだよ!マヌケが) 
とうとうマイマイのもとへ到着したシバチャピン、全神経を防御ではなく攻撃に向けた一撃をマイマイに振り下ろす 
マイマイは斧でフレイルを跳ね返そうとするが以前と同じくマイマイの方が弾き返されてしまう 
「更に今回は私がいるからな」 
そう言ってマサオはシバチャピンの攻撃で一旦動きの止まったマイマイに鎖鎌の乱れ打ちを喰らわせる 
マイマイは避ける術もなく全身斬り刻まれてしまう 

斬りきざまれてその場に倒れこんでしまうマイマイ 
自慢のサングラスも鎖鎌の乱撃に巻き込まれ粉々になってしまう 


同時刻、城門前の戦場 
マイマイが大ピンチな事なんて微塵も知らないオカールは150人倒したという所でスタミナが切れ始めていた 
(はぁ・・・はぁ・・・一人300人以上なんてムチャな話だろマイマイ・・・ 
 いくら俺が食卓の騎士でも疲れるっての・・・) 
かなりパフォーマンスが低下し敵を10秒かけて倒すのがやっとなオカール 
ふとアイリやリシャコはどうしてるのかチラリと見ると・・・ 
(なぁっ!?あいつらまだ一撃で敵倒してやがる!!) 
そう、アイリとリシャコは多少疲れてはいるものの序盤と変わらず一人一撃で仕留めていたのだ 
おまけにいかにも疲れている顔をしているオカールと違って楽しんでるようにも見える 
(アイリには絶対負けない!一番多く倒して私が食卓の騎士一番の天才になるんだもん!) 
(リシャコには絶対負けられません、私が最強である事の証明こそがキュート7戦士が最強である事の証明なのですから) 
オカールは完全に自信を喪失してしまった 
リシャコはともかく何度も同じ戦場に立った事のあるアイリですら自分の想像を超える実力だった事がとてもショックなのだ 

「たぁっ!」 
オカールがへこたれてるのも知らずほとんどペースを崩さず敵兵の胸元に三叉槍「パスタセンヨウフォーク」を突き刺すリシャコ 
それも全てが全て心臓のやや上辺りに寸分たがわず命中させているのだ 
今までリシャコは300人(オカールの倍)倒してきたが一人残らず同じ位置に綺麗に突き刺している 
これこそがリシャコが天才と言われる所以、まるでミシンが針を通すかのように正確に狙った位置を槍で突き刺す事が出来るのだ 
しかし何故リシャコがその位置を狙い続けているのかと言うと少し説明が必要になる 
人間はどれくらいの水で溺れる事が出来るのかご存知だろうか? 
実はほんの数デシリットルの水さえあれば十分溺れる事が出来るのだと言う 
人間は普段水を飲む時気管のフタが閉まっていてそのまま胃に水を流すのだが 
勢いよく水を飲んだりして気管のフタが閉まる前に流しこんだ場合、胃ではなく肺へと水が送られてしまうケースがある 
大抵の人はムセて水を吐き大事に至らずに済むのだがもしも体が弱っていたりして肺に水が送られてしまったら?・・・ 
そう、人間は肺にほんの少しでも水が送られたら溺れてしまうのだ 
しかしリシャコはその「ほんの少しの水」も必要とせず相手を溺れさせる事が出来るという 
「ぐ・・ぁあっ・・・ぁああああ・・・」 
「これで350人目、結構余裕かな?」 
このリシャコ、無邪気な顔をしているが彼女のしている事はなかなか残酷だ 
なんと槍で相手の肺を傷つけ直接血液を肺に流し込んでいるのだ 
死ぬ事は無いよう調整はしているが胸を突かれ自らの血液で溺れてしまう様はまさに地獄 
溺れた直後に誰が戦う事なんて出来るだろうか? 
本気を出せば陸地だろうが相手を海底に沈めてしまう三叉のリシャコ、間違いなくベリーズ6戦士の中でもかなり猛者である 


ちなみに一方そのころクマイチャンは真っ暗なのが怖くてブルブル震えていた 


08.
リシャコが350人目を倒す場面を横目に同じく350人目を殴り飛ばすアイリ 
彼女の愛用している棍棒「ソノヘンノボウ」はよくしなり負担を使用者に与えない良質の棒だ 
しかもアイリはヘッドスピード60以上の速さで振り下ろす事が出来る、喰らった相手は打撲程度は済まないだろう 
更にこの天才アイリ、深海へ溺れさせる事の出来るリシャコと対を成すように相手の体内に「雷」を起こす事が出来る 
雷を起こされた兵士達は当然立っていられる事も出来ずその場でうずくまったまま 
ではアイリはどうやって雷なんて起こす事が出来るのだろうか? 
実は実際に雷を起こしている訳ではなく神経が比較的体の外側を通ってるポイントを見つけてそこにフルスイングしているだけ 
ヒジを椅子にぶつけて痺れた事のある人は多いだろう、そういった神経が浅いポイントを見抜き確実にヒットさせているのだ 
特に常に戦争に明け暮れている兵士達、体の傷は癒える事もないし神経が剥きだしなっている兵も少なくない 
それを一目見ただけで判断し迷いのないスイングで殴り飛ばす 
喰らった相手は電撃が走るのを通り越して落雷に会った気分だろう 

リシャコもアイリも相手の弱点を見抜き正確に狙いを定めるという点で戦闘スタイルが酷似している 
リシャコは確実に相手の肺を、アイリは確実に神経の浅いポイントを一瞬で判断し仕留めている 
そんな小さなポイントを見抜くなんて常人には逆立ちしても無理な話だしまるで魔法でも使ってるのかと思える 
しかしこの2人は魔法や奇術のようなものでこの能力を得たわけではない、全ては努力と経験のたまものだ 
幼少の頃から訓練を受けたり硝煙の匂いのする戦場で何千人、何万人という敵を相手してきたためいつの日か見えるようになったのだ 
例えばアイリが好むゴルフというスポーツ、これは初心者が絶対熟練者に敵う事が出来ないスポーツだ 
初心者はいつでも自分の好む位置にボールを打つ事の出来る熟練者を見て「まるで魔法だ」という感想を持つだろう 
だが魔法を使える熟練者なんて一人もいない、十万百万ものボールを打ってきたからこそ得る事が出来た能力だ 
リシャコとアイリの戦闘スタイルも同様に決して魔法ではない 
ゆえに最も恐ろしい二人である 


一方その頃クマイチャンは大きい体を小さく丸めて恐怖と戦っていた 

09.
リンゴを食べ終わり準備体操を始めるマイミ団長 
後に来るであろう大戦のため体の筋をめいいっぱい伸ばす 
「そろそろあいつら城入っただろうし助けに行かなくてはな」 
脱走する気マンマンなマイミの発言にムメは呆れる 
「いやいや助けに行くつもりなんでしょうけど逃がしませんからね」 
腰からナイフを取り出し簡単に整え始めるムメ 
そんなムメを見てマイミは好戦的にファイティングポーズを取り始める 
「逃がさないだと?なかなかの自信だな・・・今までお前は私が調理場へ行くのを止めれた事があったか?」 
シュッシュッと空を切るジャブ、ジャブでも当たればスリップしてしまいそうな勢いだ 
だがムメはフンと鼻で笑い 
「私は貴方を止めませんよ、私だってこれから一仕事あるんですからね」 
そう言って部屋を出てどこかへ去っていってしまった 
「えっ?・・・」ポツーンとしちゃうマイミ 
という事はこのまま出ちゃってもいいのか?・・・と不安ながらも扉の方へ向かう 
しかし当然のごとくそんなに甘いわけがなかった 
部屋に見覚えのある巨体が堂々とはいってきたのだ 
「よう、新しくてめぇのお守り担当になったからよろしくな」 
ヒトミ・ボスだ、しかも拳にはマイミから没収したナックルダスター「ネコノテ」をはめていた

「その武器は・・・!」 
パンチの負担を軽減するフォルム、そして破壊力を増幅させる真鍮製のナックルダスター「ネコノテ」 
全てを凌駕する生命力と相手を翻弄する敏捷性を兼ねそろえるマイミにとって唯一先の2つに劣るのは攻撃力だった 
とは言っても素手で瓦を10枚割れたりするので劣ると言うのには語弊があるがどうしても屈強な大男には力負けしてしまう 
それを補うように開発されたのがナックルダスター「ネコノテ」だ 
これによりマイミは何も考えずただ殴りまくるだけで十分相手を容易に倒す事が出来るので重宝していた 
しかしそのナックルダスターをつけているのは素手でも岩を破壊できるヒトミ・ボスだ 
その威力、想像に難くない 
「てめぇだったら簡単にあの3人を倒しちまうだろうな、それは困るんだよ」 
そう言ってマイミにとても強烈な右ストレートを喰らわせるヒトミ 
マイミは持ち前の俊敏性を活かして避けようとしたがかすかにかすってしまう 
相手が素手ならかすっても軽いかすり傷で済むだろう、だが今回はナックルダスターを装着している 
マイミの横っ腹はヒトミの攻撃によりえぐられたかと思うくらいの深い傷を負ってしまう 
しかもヒトミの猛攻は止まらない、右ストレートを出した勢いで左のコンビネーションも繰り出したのだ 
横っ腹の痛みに気をとられ左の強烈なのを真芯で受けてしまう 
「うっ・・・・あっ・・・」 
「前は10発殴っても死ななかったからな、今日は100発殴らせてもらうぜ」 


10.
牢獄でヒトミが暴れている音を聞いて安心してひょいひょいと目的の場所は歩いてくムメ 
「いくらマイミがバケモノだろうとうちのバケモノにはかないませんしね」 
ヒトミに絶対な信頼を寄せながら階段を降り地下のある部屋へと歩いていく 
暗くてカビ臭いがそれなりに広い地下室、そこは武器倉庫だ 
ここにはメロニア兵の武具開発技術の集大成とも言えるべき傑作が揃っている 
シバチャピンが使うような近接用武器、マサオが使うようなミドルレンジも多く揃えている 
そしてもちろんムメの愛用する遠距離武器もさすがの品揃えだ 
さらにこの部屋には何個かの扉があり、そこからとある部屋へと隣接している 
ムメはひとしきり準備をした後その扉を開き中にいる客人にこう声をかけた 
「クマイチャンいますよね?暗くて怖かったでしょう、こちらで私が相手してさしあげます」 
そこには暗いのが嫌で涙目になっているクマイチャンがいたのだ 

「うわーん怖かったよー」 
敵が目前に居るのにも関わらず無防備に明るい武器庫へ駆け寄るクマイチャン 
当然の如くムメに狙われ数十ものナイフを投げつけられてしまう 
しかしそこは食卓の騎士であるクマイチャン、長剣「アンゼンピンヲノバシタヤツ」でナイフを弾き落とす 
「明るい所なら何も怖くはないよ、早く皆を助けにいかなきゃいけないから速攻で倒させてもらうよ」 
長剣を片手で持ちムメのいる方向へ伸ばす 
しかしムメはそのクマイチャンの発言にプッと吹き出してしまう 
「あなたが他の食卓の騎士を助けると?なかなか面白いギャグですね」 
イヤミを言われて頭の片隅がピリリと痛くなるクマイチャン、怒りに任せムメを斬りにかかる 
「私がお前に勝てないっての!?喰らえ!!!」 
だがムメは軽々と避けその勢いで小型大砲の飾ってある棚へと向かいそれを手に取る 
「そういう意味ではないのですけどね・・・今この国にいる食卓の騎士9人のデータを例に説明しましょうか? 
 実は既に全ての食卓の騎士のデータは完全に頭の中に入ってるのですよ・・・もちろん本日付の最新データも」 
そう言ってムメは小型大砲をクマイチャンに向け容赦なく発射する 
クマイチャンは大砲は弾けないと悟り瞬時に避けようとするが少し左腕に当たってしまう 
「チナミ・エナリズム・レッドウエスト、彼女は私と同じく武器造りの才能があるようですね 
 全体的な身体能力は上の下と言った所ですがあの鉄扉さえ爆破できる小型大砲を所持しているのは正直脅威です」 
クマイチャンがよろけているうちに小型大砲をその辺に捨て今度はジャマダハルの置かれている棚に行き装備する 
そしてクマイチャンの斬撃を掻い潜り平らな胸に切り傷を負わせ、反撃を喰らう前に安全圏へと逃げるヒット&アウェイ戦法を取る 
「オカール・ブラウンコッチェビ、あの素早さとそれを活かせるジャマダハルを扱うのはかなり厄介ですね 
 しかも常に急所狙いなので避けられなかったらアウトという高い殺傷能力、気が抜けませんね」 
今度はジャマダハルを捨て、逃げた場に飾られたナックルダスターを装着 
ジャマダハルを使った時と同じようにヒット&アウェイを取りクマイチャンの傷ついた胸を突く 
「マイミ・バカダナーには私のデータが全く通用しません!あの生命力は人類の枠をとうに超えてます 
 いくら拷問を受けようが殴られようが死なないのですから・・・正直私には倒すのは不可能のようです」 
激しく痛む胸を左手でおさえるクマイチャンを横目に今度は曲刀を取りクマイチャンをしかと見る 
クマイチャンは恐怖した、どう考えてもムメはまたヒット&アウェイで自分に斬りかかるつもりだからだ 
しかもムメはクマイチャンの攻撃射程も全て把握しているらしくまったく攻撃が当たらない 
クマイチャン、果たしてあらゆる武器を扱う事の出来る「武器職人」ムメに勝つ事が出来るのだろうか? 

曲刀に持ち替えムメはジャマダハル、ナックルダスターで行ったのと同じようにクマイチャンを斬った後に安全圏へ逃げる 
クマイチャンは反撃したいのだがまるで自分の考えまで把握してそうなムメには何も通用しない 
「ナカサキ・キュフフは舞人と呼ばれているらしいですね、今までの戦跡を見たら当然と言ったところですか 
 なんせあの曲刀捌きで雨あられのような弾丸を全て弾いたらしいですから・・・」 
お次はムメがマイミの監視と並行して製造に取り組んでいた銃剣を取り出す、カンナの銃剣を見た後に造られたのでまだ間に合わせだ 
しかし威力はカンナのモノに限りなく近く実用性はバッチリだ 
クマイチャンに切りかかり更にゼロ距離でクマイチャンの腹を撃つ、クマイチャンは激痛のあまり膝をついてしまう 
「カンナ・ディスライクハンド…新人なのでデータ収集に苦労しましたよ 
 銃剣の意外性もさる事ながら相手の動きをよく読み逆に相手には自分の動きを悟らせない…良い戦士を得たものですね」 
膝をついたクマイチャンに銃を連射すれば十分制する事が出来たのだろうがムメはあえてそうしなかった 
ゆっくりと棚の方へ行き今度は槍を右手に、棒を左手に持ち二刀流の構えをする 
「リシャコ・ピザハブとアイリ・カッパー・ダボトール、この二人のデータを収集した時は驚きました 
 まさか私以外にも目を持つ者がいようとは・・・」 
ムメが何を言ってるのかよくわからないクマイチャン、そんなクマイチャンに説明するように語り掛ける 
「私は過去に何千何万もの人間観察を続けてきたためその人間がどういう人間か容易に理解できる目を得る事が出来ました 
 一般的な言葉で言えば洞察力が優れてると言うのでしょうか?・・・まぁそんなレベルはとっくに凌駕してますけどね 
 そしてその目の効用は人間だけではなく武器にも有効なのです」 
槍と棒を駆使して弱っているクマイチャンを叩き斬るムメ 
もはやクマイチャンはボロボロ、剣を握っているのがやっとだ 
「どんな武器でも扱ってみませましょう、だからこそ私は身体能力が低いにも関わらず四天王に入る事が出来たのです」 
そう言って今度は斧を取り出す、マイマイが扱う斧よりかなり小さいが扱いは十分に心得ている 
「そろそろ終わりにしましょうか?かなり弱ってらっしゃいますし」 

「マイマイ・チチハエ・タラステル、彼女は力と知恵を兼ねそろえていますが戦闘能力は特にこれと言って秀でてはいません 
 しかし油断ならないのは彼女は目を得る素質があるためいつ開花するかどうか・・・ってもう聞いてませんね」 
さんざんムメの攻撃ばかり喰らっていたクマイチャンはもはや虫の息だった 
なんとか立てたが次大きな一撃を喰らったらもう立てるかどうかもわからない 
(強い・・・けど・・・一撃も斬らないで倒されたら・・・ナカサキに笑われちゃう・・・) 
もはやクマイチャンを立たせているのは体力ではない、精神力だ 
絶対一矢報いてやる、このまま皆のところへ行かせるわけにはいかない・・・そればかり思っていた 
その曲がらないまっすぐ伸びた意思、なんとそれがムメの斧を防いだのだ 
ムメの斧とクマイチャンの剣が重なり大きな金属音が武器倉庫内に鳴り響く 
この一撃で決めれると思っていたムメは少し驚いた、しかしすぐ顔を元に戻す 
「なかなか根性はあるようですね、それでは最後は貴方のデータを説明しながら長剣で仕留めるとしましょう」 
ここまで無傷のムメはまたもゆっくりと剣のコーナーへ歩きクマイチャンの扱う長さと同じくらいの長剣を持ち出す 
少し重いがすぐコツを掴みクマイチャンの方へと切先を向ける 
「クマイチャン・ピリリマデ・ユリーネ、その長身と長剣で相手をビビらせる事が出来るが実力は大したことなし 
 おまけに今後の伸びしろもほとんどなく戦闘能力の成長は身長とは違いほぼストップしていますね 
 更に救いの無い事に定期的に行われているナカサキとの決闘にてナカサキが手加減している事すら気づいていないと」 
その言葉を聞いてクマイチャンは心に強いショックを受ける 
「て、手加減?・・えっ?・・・」 
狼狽しているクマイチャンに容赦なく斬りかかるムメ 
クマイチャンはとっさに長剣「アンゼンピンヲノバシタヤツ」を前に出すが力が全く入らない 
その結果、アンゼンピンヲノバシタヤツはムメの長剣により真っ二つに折られてしまう 
そしてその勢いでムメはクマイチャンの体躯に大きな傷を負わせ完全に意識を遮断させた 
「クマイチャン・ピリリマデ・ユリーネ、間違いなく食卓の騎士の中で最弱です」 


11.
クマイチャンが転がる武器倉庫の上の階、大広間ではまだナカサキ達が死闘を繰り広げていた 
シバチャピンの攻撃をマサオが全面サポートする香水戦法に苦戦していたのだ 
カンナの狙撃はマサオに防がれチナミの大砲はそもそも避けられてしまう 
マイマイが倒れた今相手の狙いはナカサキに集中しており完全な陣形に攻めあぐむナカサキはただ相手の猛攻を防ぐ事しか出来なかった 
攻撃を見切り曲刀で弾き落とすのを得意とするナカサキだがさすがにシバチャピンとマサオ2人の猛攻は身に応える 
せめてマイマイが起きてれば何か策を練りだして事態を打破する事が出来るのだろうがそれもかなわない 
このままではいつまでも硬直状態が続き疲弊していくだけなのでカンナが狙撃を止めシバチャピンへと斬りかかる 
「近づいてくれた方が好都合だな、二人同時に潰せるのだから!」 
そう言ってマサオは鎖鎌をカンナに投げつけた、素早い攻撃にカンナも防ぐのがやっとだ 
しかしその時隙は出来た、今までナカサキは二人を相手してきたがその瞬間だけはマサオの攻撃は自分には来ない 
その一瞬の隙をつきシバチャピンとマサオの間にステップを踏むように巧みに入り込むことが出来たのだ 
「ここで死んでもらう!ええい!」 
ナカサキの曲刀レイトウバナナは弧を描きシバチャピンの肩から腰にかけてのラインを深く傷つける 
ナカサキの攻撃を止めようとシバチャピンは必死でナカサキを叩くがここまで来てひるむわけもない 
マサオもシバチャピンを援護したいがカンナに阻まれてしまう 
さっきのマイマイの傷を見て恐怖をしない者がいるのは信じられないがこのチャンス、いくら傷つこうが見逃すわけがない 
ナカサキもカンナも痛みを恐れず攻めて攻めて攻めまくった 
そんな状況で落ち着けるわけもなくシバチャピンもマサオもパニックに陥ってしまう 
「二人とも避けて!」 
意味がわからないシバチャピンとマサオの前からナカサキとカンナが打ち合わせでもしたかのようにサッと消える 
なんとチナミの撃った砲弾がすぐ目前まで来ていたのだ 
いくらわかりやすく避けやすい軌道と言ってもここまで近づかれたら避けれるはずがない 
ドカンという轟音と共に大きな爆発が起こる 

なんとか敵の陣形を崩したもののナカサキとカンナはもはや満身創痍であった 
さすがに相手の射程範囲内に踏み込みすぎてマイマイほどではないが全身に傷を負ってしまったのだ 
特にナカサキはフレイルにより肩の骨にヒビまで入ってる様子 
「どうしよう・・・これでヒトミに勝てるのかな・・・」 
マイマイは戦闘不能、ナカサキとカンナは重症、クマイチャンはどこいったか分からないのでまともに戦えるのがチナミだけ 
こんな状態で圧倒的な戦力を誇るヒトミと対等に戦えるとはとうてい思えない・・・戦士達は不安感につつまれた 
しかもその時更に戦士達を絶望へと陥れる出来事が起きる 
なんと倒れていたマサオが起きだしほぼ初動作ゼロでカンナに鎖鎌を投げつけたのだ 
「・・・!!!」 
完全に虚をつかれたカンナは防御できずモロに受けてしまう 
シバチャピンが最後の最後に全身でマサオを爆破から守ったのだ、マサオはこの最後のチャンスを最大限に利用するしかない 
ひるんだカンナのもとへ走り二撃、三撃を喰らわせる、カンナからの反撃を受けるがマサオは止まらない 
射程などを全て無視してカンナにピッタリとくっつき斬り合っているのでチナミも狙う訳にもいかない 
ナカサキもさっきシバチャピンに受けた攻撃がこたえてるので助けに行けない、完全にカンナとマサオの斬り合いだ 

マサオは本来ミドルレンジを得意とするがそれだとカンナに見極められて交わされてしまう 
この戦いは負ける訳にはいかないのでリスクをおかしてまでもピッタリとくっついて至近距離で斬りあっているのだ 
これなら攻撃は絶対当たるし表情を悟られるほどの余裕も与えないで済む 
しかし当然カンナの攻撃も全弾受け止める事になり普段あまり傷を負う機会のないマサオにはとても厳しい戦いとなっている 
だがシバチャピンが身を呈して砲弾から守ってくれたのだ、手がちぎれようと足が潰れようと勝つしかない 
「死ねえええええええ!」 
カンナの胸を狙い短く持った鎖鎌を振り下ろす 
だがカンナも同時にマサオの利き手を狙撃しさらに斬りつける 
その時戦いは終わりを告げた、両者力尽き倒れてしまったのだ 
時間にしてたった1分の攻防だったが血しぶきの飛び交う激しい戦いだった 
ナカサキとチナミはカンナのもとへと走りよりすぐ無事かどうかの確認をする 
確認の結果さすがに命まで失ってはいなかったが当分の安静が必要であろう事は把握できた 
結果的に見ればシバチャピンとマサオを倒す事が出来たがそれによる対価はとても大きかった 
クマイチャンが行方不明、マイマイとカンナは重症、ナカサキも立っているのがやっと・・・ 
一番余裕だと思っていた相手に底力を見せ付けられた戦士達は絶望するしかなかった 

マイマイとカンナを安静にするため壁に寄りかからせて眠らせるナカサキとチナミ 
「さて、もう先に進まなきゃね」 
先を急ごうとするナカサキにチナミは驚く 
「ちょ、ちょっともう行くの!?だってナカサキもひどい怪我だし・・・少し休んだほうがいいんじゃない?」 
チナミの気遣いに感謝しながらもナカサキは反論する 
「ありがとうチナミ、でもマイミ団長が今も大変な思いをしてると思うといてもたってもいられないの 
 私達じゃヒトミっていう人に勝てるかどうかわからないけど急ごう」 
いつも以上に凛々しい顔つきのナカサキを見てチナミはこくりと頷く 
たぶんいくら説得しても考えを曲げないのだろうと悟ったのだ 
「うん!私がこの大砲で援護するからバリバリ行こう!!!」 
こうして二人は上の階へと上っていった 
城は広いがマイミが捕らわれている場所にだいたいの見当はあった 
そしてその見当のつくポイントをまわっているうちにやがて牢獄へとたどり着く 

ナカサキが開けた扉の向こうにはヒトミ・ボスと血まみれになったマイミ・バカダナーが居た 
ヒトミのナックルダスター「ネコノテ」による鋭さと鈍さの融合した強打を数十発も受けたのでマイミは動けなくなっていた 
「ま、マイミ団長!」 
ナカサキはすぐさまマイミのもとへ駆け寄る・・・が、ヒトミにそのぽっこりお腹を思いっきりぶん殴られてしまう 
「うぜえんだよガキがっ!!」 
体重の軽いナカサキは強烈な一撃を喰らった衝撃で牢獄の外まで吹き飛ばされてしまう 
しかも腹の衝撃が全身にかけめぐり先の戦闘で折れかけていた肩やアバラが完全に折れてしまう 
「うぁっ・・・!!」 
「ナカサキ!」 
チナミは声をかけはしたがナカサキのもとへ行く事は出来なかった 
ヒトミを狙っている小型大砲の照準を少しでもはずしたら・・・その瞬間自分も同じくボコボコに殴られてしまうだろうと感じたからだ 
重い引き金を引くのには10秒近くかかるがそれを悟られてもやられてしまう、だがこのまま狙い続けるほかに何も出来ない 
「ま、マイミ団長を解放して!さもないとこの大砲でそのお腹に穴開けるからね!」 
声がうわずっているチナミを見てニヤリと笑うヒトミ 
「馬鹿かてめぇは、侵略者は全員捕らえるのが常識だろ・・・もちろんお前もな」 
そう言ってヒトミはチナミの照準が定まらないように左右にぶれながらチナミの方へ走り出した 
そしてとうとうチナミが引き金を引ききる前にチナミのもとへたどり着いてしまったのだ 
「マイミ以外はてんで雑魚だな、さっさと死ねぇ!」 
チナミの腹に穴が開くような痛烈の一撃が炸裂した 

「しかしこいつらちょっと殴っただけで倒れちまうのか、本当に雑魚だな」 
激痛に襲われうずくまるナカサキとチナミを見て鼻で笑うヒトミ 
そしてトドメを刺そうと両腕に力を入れ始める 
膨張した腕はまるでハンマーのように硬く巨大だ、今まで武器を扱わず戦場に出たいた理由がよくわかる 
「まずはナカサキ、貴様からだ!!」 
大きな腕をナカサキの頭蓋に向けて力強く振り下ろす、直撃すれば確実に「死」だ 
ナカサキも全身の骨のヒビがはいってるので避ける事は出来ない 
まさに万事休す・・・と思いきやなんと倒れていたはずのマイミがヒトミの腕に飛び蹴りを入れたのだ 
「ぬぁっ!?」 
完全に意表を疲れたヒトミは勢いに負けその場に転がってしまう 
「ま・・・まだ生きてやがるのか!」 
「私を誰だと思っている・・・キュート7戦士の団長マイミ・バカダナーだぞ」 
既に立っているのも不思議なくらいの重症のマイミは団長としての役目は捨てていなかった 
団長としてメンバーが殺されるのを指をくわえて見るわけにはいかなかった 
その使命感だけが瀕死のマイミを立たせたのだ 
「ナカサキ、チナミ、ここまで来てくれてありがとう・・・他のみんなは?」 
恐怖と安心感と混乱で訳がわからなくなったがナカサキはしっかりと質問に答えた 
「マイマイとカンナは負けました・・・クマイチャンは行方不明です・・・でもオカールとアイリとリシャコは絶対助けに来ます!」 
それを聞いてマイミは安心する 
「そうか、ならば3人が来るまでもう人頑張りだな」 
そう言ってマイミは動きそうに無い体を無理に酷使しヒトミとの戦いを続ける 


12.
場面は移り城門前、1000人近くいた兵士達がほとんど地面に寝ていた 
一仕事終えたリシャコがアイリのもとへ笑顔で走っていく 
「アイリー何人倒した?私は400人は倒したよ」 
血で染まった棍棒「ソノヘンノボウ」を手ぬぐいで拭きニヤリとしてアイリも言う 
「詳しくは覚えてませんが私も400人といった所ですね、今日の勝負は引き分けという事で」 
リシャコとアイリはとても楽しそうだった 
今まで互いにベリーズとキュートに所属していたがライバルと呼べる存在が居なかったからだ 
同じ食卓の騎士でも自分より弱い者もいればかなわないくらい強い者もいる 
リシャコもアイリも常にライバル同士で決闘をしているクマイチャンとナカサキが羨ましかったのだ 
自分もいつかあの二人みたいに切磋琢磨できる相手が欲しい、それが今日叶ったのでこんな良い日はない 
「それじゃあ皆を助けにいこうか」 
「そうしましょう」 
二人は城へと向かっていく、強敵の待つメロニア城へ 


「って待てよっっっ!!!」 
二人が振り向いた先には戦いに疲れてグッタリしているオカールが寝っ転がっていた 

仕方なくオカールの所へ歩み寄り文字通り見下すリシャコとアイリ 
「寝てるなら呼び止めないでくださいよ、急いでるんで」 
「お、俺も行く・・・」 
起き上がろうとするオカール、しかし疲労のせいか上手く立つことができない 
足を使い敵をかき回すのが彼のスタイルなのでかなりの負担がきているのだ 
「うっ・・・・俺も・・・団長を・・・」 
何度も何度も立とうとするオカールを見てアイリは呆れてしまう 
このままオカールを待ってもしょうがないので一つの提案をしてみる 
「しょうがないですね、じゃあ治療を施しましょうか」 
「治療?アイリお前そんな事まで出来るのか?・・・」 
アイリはリシャコと顔をあわせて何か合図をし、互いにこくりと頷く 
そしてアイリは棍棒を、リシャコは三叉槍を構え 
「電気ショックはいりまーす」 
「針治療行きまーす」 
数秒後メロニア全領土に叫び声が響き渡ったと言う 

「お〜動く動く!ちょっと痛いけど体軽いな〜」 
治療を受けて疲労が取れたのでご機嫌なオカール 
リシャコとアイリはまさか本当に治るとは・・・と苦笑い 
「よーしこの勢いで城ん中入ろうぜ!」 
さっきまでリシャコとアイリを待たせたくせにオカールはそそくさと先に行ってしまう 
「ところでオカール、あなたは何人倒したのですか?」 
「えっ・・・・そりゃ・・・300人くらい・・・」 
「嘘ですよね」 
「・・・うん」 
やんややんや言い合いつつも3人は城へと向かっていく 
入り口の鉄扉がボロボロに崩れているのに少し驚きながらもその間から中へ入る 
すると入り口の大広間でマイマイとカンナが寝ているのを発見したのだ 
「ま、マイマイ!!」 
怪我をしているマイマイを見てオカールはいてもたってもいられなくなってしまいマイマイの方へ駆け寄る 
リシャコとアイリも心配そうにオカールに続く 
しかしこの3人は知らなかったのだ、この大広間には落とし穴がたくさん開いている事を 
しかもマイマイとカンナに集中しすぎているので剥きだしの大穴にまんまと落ちてしまう 
「「「うわああああああああ・・・・」」」 

「いてっ!」「いたっ」「ひゃっ」 
オカールリシャコアイリの3人が落ちたのは真っ暗で狭い部屋だった 
しかし奥のほうの隣の部屋から明かりが差している、そしてアイリはその部屋にいる人物を知っていた 
怯えて何も出来なかったアイリから棍棒「ソノヘンノボウ」を取り上げ、その棒で容赦なくアイリを叩いた人物 
「ムメ!!」 
アイリは棍棒を強く握った、今のアイリはあの時のように怯えてはいない、完全に敵を倒す目をしている 
リシャコとオカールもそれぞれの武器を構え筋肉を緊張させる 
「おやお久しぶり、その暗い部屋にいつまでも突っ立ってないでこっちへ来たらどうですか?」 
ムメは余裕と言った感じでゆっくりと武器棚の方へ歩き出す 
3人も明るい武器倉庫の方へ歩いて行こうとしたのだが突然オカールが何か異変を感じ出す 
「なぁ・・・なんか血の臭いしないか?」 
言われてみれば確かに血生臭い、最初は自分達の武器についた血の臭いだと思ったがあまりにも臭いが濃すぎる 
そしてその臭いの正体は武器倉庫に入った途端判明する事になる 
「クマイチャン!?」 
そこにはムメに一方的にやられてしまったクマイチャンが血を流しながら眠っていたのだ 
当然手当てなんかされている訳も無くこのまま止血もしなければ生死が危うい状態だ 
そのクマイチャンの様子を見て怒ったリシャコは三叉槍をムメのいる方へビシッと突きつける 
「お前がやったの!?絶対許さないんだから!」 
ムメはニヤニヤしながらこくりと頷く 
「確かにそうですが怒る事あるんでしょうか?戦争とはそういうものでしょう」 

ムメの言葉にムッとするリシャコ 
何か正論っぽいのでリシャコは何も言う事が出来ない 
しかしオカールは気に食わないと言った感じでぶっきらぼうに反論する 
「それ違うんじゃねーの?敵がむかつくからぶっ倒すんだろ、それも戦争だろ」 
オカールは細い目をさらに細めてムメを睨みつける 
「まぁ戦う理由なんて別にどうでもいいんですけどね、どの道あなたたちはこの場でクマイチャンのように倒されるのですから」 
そう言って瀕死のクマイチャンを指差す 
3人はクマイチャンを倒された事と完全になめられている事に怒り心頭する 
「おいおい調子乗りすぎなんじゃねぇの?こっちは食卓の騎士が3人もいるんだぜ?」 
「クマイチャンをこんなにして絶対許さない、手加減しないで直接突き刺してやるんだから」 
「前の怯えてた私とは違いますよ、今は完全にあなたの弱点が見えてます!」 
オカールはジャマダハルを、リシャコは三叉槍を、アイリは棍棒をそれぞれ構えだす 
今にも飛びかかり袋叩きにしそうな勢いだ 
だがムメの表情には恐怖だの焦りだのそういったものは微塵も感じられなかった 
「残念ですがあなたがた3人のデータは完璧に頭に入っているのですよ 
 という訳で当然対処法もバッチリなわけで・・・」 
そう言ってムメは右手に持っていたナイフを部屋を照らすランプに投げつける 
数個あるランプは全て割れてしまい部屋は真っ暗になった、ひとすじの光も入ってこない 
「な・・・なんのつもりだ!」 
「これでもう私は勝ったも同然なのです、ゆっくりもしてられないので速攻で行かせてもらいますね」 

暗闇で敵が全く見えないので戸惑う戦士達 
「ちくしょー卑怯だぞ!」 
オカールはそこら中を走り回り適当に斬りまわった、しかし当然当たるわけもない 
むしろ感覚がつかめず壁や棚にぶつかり無駄なダメージを受けてしまう 
「あーくそ!アイリお前よくわからないけど雷起こせるんだろ?それで明かりつけてくれよ」 
「本当に雷起こせるわけがないでしょうが!ものの例えですよ例え!」 
怒られてシュンとなるオカール、無い頭をひねって考えた策なのでちょっとガッカリしてしまう 
だがこのオカール以上に戸惑っているのはリシャコとアイリだ 
真っ暗だから当然と言えば当然なのだが・・・まったく見えないのだ 
見えないというのはつまりリシャコとアイリの持つ目を全く活かせないという事 
いくら「相手の肺の位置を正確に当てる目」と「相手の弱点を瞬時に判断する目」を持っていようが相手が見えなければ意味がない 
つまり天才だったリシャコとアイリはちょっと強いだけの戦士になってしまったのだ 
(ど、どうしよう・・・ムメの位置がわからないからどうしようもないよ・・・適当に振り回したら味方に当たっちゃいそうだし) 
(ムメも馬鹿じゃないと言ったところですね・・・しかしムメも見えないから条件は同じ・・・) 
だがそう思い身構えていたアイリの腹に矢が突き刺さる 
「うっ・・・!?」 
アイリの痛がる声を聞いて異変に思うオカールとアイリ 
「おいアイリどうしたんだ!?」 
「や、矢で撃たれ・・・みんなも気をつけて!」 
腹の激痛に今にも気を失いそうになるが止まったら確実に狙い撃ちされてしまう 
早く逃げて相手に場所を悟られないようにしなければ・・・その一心でアイリは走り出した 

アイリも他の2人も当たらないように一定のリズムで体を動かしムメを捜索した 
この暗闇の中ムメを捕まえる事が出来れば勝利も同然なのだ 
暗闇の中なら相手も同じ条件・・・そう思いあちこち動き回る 
が、その「同じ条件」というのがそもそも大違いである事に3人は気づいていなかった 
ムメのメガネは特別製であり暗い所も見る事が出来る暗視装置が内臓されているのだ 
綺麗に全てが明るく見えるわけではないが動いているものと止まっているものの区別くらいは出来る 
そしてムメの装備している弓矢、これがこの状況に最も適した武器だった 
剣や斧などの近接武器ならすぐ捕まり攻撃を喰らってしまう 
だからと言って銃や火炎放射器などを使えば火の明かりでこちらの位置がバレてしまう 
となると火を使わない投てき武器、つまり弓矢が最適だ 
その弓矢をギリリと引き、激しく動いている何か・・・アイリのだいたいの位置を狙い射抜く 
矢は安心しきっているアイリの右肩をかすめる 
「えっ!?・・・ええ!?」 
一度ならまだしも二度も矢を受けたのでアイリは確信した 
「み、見えてる!・・・私達見られてます!」 


13.
リシャコとオカールは初めはアイリの言う事が信じられなかった、相手が人間である限り暗闇で目が効くわけがないからだ 
しかし戦いが長引くにつれてリシャコやオカールにも矢が当たるようになる 
それは1本や2本の話ではなく10本近くかすり始めたのでアイリの言葉を信じないわけにはいかない 
ムメがどういう手段を使ってこちらの情報を得ているのかは不思議だが「そういうもの」だと思うしかないのだ 
アイリの腹に刺さった1本以外は3人とも持ち前の運動神経でかする程度に抑えているもののこのままでは圧倒的に不利だ 
(どうすれば・・・せめて相手の位置さえわかれば・・・) 
矢の傷みで朦朧としてくる頭でなんとか打開策を考えるが何も浮かばない 
そもそも暗闇の中で走り回るなんていう状況で人間は思考なんて出来やしないのだ 
突拍子もない案やまとまりのない案のみが頭の中を駆け巡る 
だがオカールはその突拍子もない案を無謀にも実現してみようと思ってしまった 
(このままじゃ3人ともやられちまう・・・やってみるか!) 

決意を決めたオカールは無防備にも動きを止める 
そしてスゥッと空気を吸い込み吐き出すように大声で叫んだ 
「わ、わかる!ムメの居場所がわかるぞ! 
 こんな感覚は初めてだ・・・もう俺たちは勝ったも同然だな!」 
堂々としたオカールの叫びに驚くリシャコとアイリ、そしてムメ 
暗闇の中で目が見えるはずがないのだがオカールの声はあまりにも自信満々だ 
目がきくにはムメのように暗視装置を装備するか夜行性動物の目を持つしかないはず 
どう考えても前者も後者もありえない、しかしオカールが「夜行性動物の目」を得る可能性は本当にゼロだろうか? 
もし何かの拍子でオカールが覚醒したとしたら?・・・ 
「オカール・・・貴方もとうとう目を手に入れたのですね」 
アイリは骨の髄から震えた、窮地に陥ってた自分達を助けてくれるのがまさかオカールだとは 
もう腹の痛みで嘆いている場合ではない、オカールに自分もリシャコも続いていくべきだと心で感じたのだ 
そして一番焦っているのはもちろんムメだ、リシャコとアイリが目を得ているならオカールが得ない理由もない 
今まで知っていた目は明るい所でしか活用できないものばかりだったのでこれは想定外 
暗闇で効果を発揮する目の所持者、そのような者が敵としてはだかったとしたらまさに大ピンチだ 
「オカール、いつのまにそんな目を?」 
「目?・・・ああ・・・うん、さっきだよさっき」 
だがオカールの様子がおかしいのにムメは気づいた 
なんだか嘘臭くないかと気づき始めたのだ 
よく考えたらそうそう都合よくオカールが覚醒するわけもない 
という事は全てはオカールのハッタリ、騙しきれると思ったのだろう 
(食卓の騎士とあろう者が小癪な真似をするものだ・・・本当に見えるならこの雨のような矢を避けてみなさい!) 
ムメはいっぺんに5本の矢を取り出し引き始める 
相当の技術が必要だがムメには難しい事でもない 
騙された怒りの全てをオカールに集中して矢を放つ 

ムメの放った矢はオカールの方へ一直線に向かっていく 
そしてオカールは全ての矢を避けきれず体で受けてしまった 
「ぅぁっ・・・!」 
5本の矢はオカールの肩と横っ腹と左腕を貫き通す、当然激痛だろう 
痛がるオカールを見てムメは心の底から安心した、もし本当に見えてるならこの矢を避けきれるはずだからだ 
やはり全てはハッタリ、そんな能力などありはしないのに吼えてただけだったのだ 
・・・と安心していたのだがムメはこの数秒後、恐怖のどん底に陥ることになる 
なんと矢を受けたオカールがこちらを向いたのだ 
初めはたまたまこちらを向いただけだと思った、しかしオカールは低速ながらもこちらへ向かってきている 
その向かってくる速度はどんどん速くなっていき行き恐怖心を倍増させる 
ムメはたまらずオカールに向かって2本、3本の矢を撃った、しかし狙いが定まらずかすっただけにすぎない 
(な、なぜ!?) 
オカールが近くまで迫ってきたのでムメは別の場所、リシャコやアイリの居ない部屋の隅に逃げた 
どうせあてずっぽうで来てるのでもう追ってこないだろう・・・と思っていた 
しかしオカールは自分の逃げる方向を迷いもせず突き止めさらに迫ってきたのだ 
(なっ!?・・・まさかさっきのは演技で・・・本当は見えている!?) 
見られているのなら逃げてもしょうがないと矢を撃つ事に専念しようとした 
しかし既に近くにいたオカールはムメに追いつき胸倉をガッと掴む 
「捕まえた!捕まえたぞ!」 

「おいアイリ!リシャコ!捕まえてるから早く」 
オカールの声を聞いてその場所へ向かうアイリとリシャコ 
能力に覚醒して不利な状況を一気に打破したオカールをアイリは尊敬の目で見る(暗いから見えないけど) 
正直今までオカールを下に見ていたが今回の件がオカールのおかげというのは明確 
ひょっとしたらオカールも自分のライバルになりえる戦士なのかもしれない、そう思うと心が弾むのだ 
「おいアイリこいつボッコボコにしてくれよ、間違っても俺を殴るなよな」 
「はい!分かりました!」 
「ちょっ・・・まっ・・・」 
アイリはムメの頭に向けて棍棒「ソノヘンノボウ」をフルスイングする 
そのフルスイング、おそらく世が世なら女子ゴルフの賞金女王になれるほどの素晴らしいスイングだ 
ムメは脳天に300y級スイングが直撃したので当然失神してしまう 
「結構最後はあっけなかったなー、まぁ俺のおかげ?」 
頭をポリポリかいて満足気にニコニコするオカール 
そのオカールを敬うようにアイリが話しかける 
「それにしてもオカールも目を持っていたなんて・・・これ以上心強い事はありませんね」 
だがオカールはばつが悪そうに告白する 
「ああ〜目が見えるってやつ?あれ嘘!」 
衝撃の告白に凍りつくアイリとリシャコ 
「あれ全部ハッタリなんだよ、どっから撃たれたかくらいはわかるじゃん?そっちに歩いていっただけ 
 でも俺がハッタリかましたからこいつは信じて逃げるでしょ、それがまた足音でけーのw」 
アイリはとても複雑な気分に悩まされてしまう 
尊敬はしたくないが助けられたのは事実だし・・・このアイリのジレンマは当分続いたという 

その後リシャコはなんとか扉の位置を突き止めガバッと開ける 
まぶしい光が流れるように注がれ暗かった武器倉庫を隅々まで照らす 
そこでようやくアイリはオカールの怪我がかなり酷かった事に気づいた 
急所ははずしているものの体の要所要所に深く矢が刺さっている 
おまけに体中擦り傷だらけ、顔色は真っ青だ 
「お、オカール?・・・大丈夫なんですか?」 
「あぁ・・・ちょっとだけ痛いかも・・・」 
強がっているがどう見ても動けるほどの傷には見えない、安静が不可欠だろう 
このままあの絶対的攻撃力を誇るヒトミに立ち向かったら100%死んでしまう 
「まぁここで俺がサボったら戦力大幅ダウンだし頑張るしかないかなー」 
軽く言うオカールにアイリは怒鳴りつける 
「何を言ってるんですか!休まないと本気で死にますよ!?」 
急にアイリに怒鳴られてオカールはビクッとする 
「ここは安静にしててください、私とリシャコは絶対勝ちますから」 
そう言って眠っているクマイチャンに応急処置を施しているリシャコを見る 
リシャコも真面目な顔でうんうんと頷く 
オカールはアイリの気迫に圧倒され 
「そ、そうか・・・じゃあちょっとだけ休ませてもらおうかな・・・」 
と言い終え目をつむる 


14.
シバチャピン、マサオ、ムメを倒し残るメロニア四天王はただ一人 
しかし問題は最後の一人、ヒトミ・ボスだ 
ヒトミは8年前に兵となる事を志願し、その圧倒的な実力を買われ今やメロニア兵士隊長の地位まで上り詰めた 
入隊当時は軍師として優秀な実力を誇ったムメが兵士隊長だったがたった数年で世代交代させたのだ 
その力、その気迫、その戦績、もはやメロニア国にヒトミを知らない者は居ない 
メロニアに攻めてくる不届き者はどんなツワモノだろうと撃破し駆逐する 
それこそがメロニアの英雄と呼ばれてきた所以であった 
しかし今その英雄の前に過去最大とも思われる強敵が立ちはだかっている 
いくら殴っても殴っても起き上がってくる、普通の人間なら100回は死んでいるはずなのに起き上がる 
しかもその目にはいつまでも闘志の炎が燃え続けているのが容易に解る 
このマイミ・バカダナー、あと何千回殴れば死んでくれるのだろうか? 
体と心どちらか片方でも死んでくれればいいのにそれすらかなわない 
ヒトミ・ボスは今まで余裕な態度を取ってきたが心の中では動揺したいた、恐怖していた 
王国にはマイミ・バカダナーの他にもウメダ、モモコ、シミハムという猛者がいると聞いた事がある 
かつて王国にはベリーズやキュートの前身としてジックス部隊というのがあったらしいがその4人は実力が拮抗しているという 
このマイミですら既にバケモノなのにそのレベルがあと3人もいる、ヒトミは以前王国への侵略を提案したのが今更恥ずかしくなった 
メロニアが王国に攻めれば確実に負ける、メロニア最強の自分ですらマイミ一人にてこずっているのだから 

ヒトミの全身全霊を込めたパンチは時間が経つ毎に芯を外すようになり、しまいには空振りしてしまう 
全力のパンチというものは意外とスタミナを使うもの、野球でストレートを何度も投げれば疲れるのと同じだ 
100球も全力で投げれるピッチャーはそうそう居ないのと同じで何発も全力で殴る事など出来やしない 
ヒトミは今まで戦ってきた全ての相手に全力のパンチをぶつけてきた、それが礼儀だと思っていたからだ 
しかしマイミはいくら全力でぶん殴っても倒れる気配がしない 
これを続けていった結果ヒトミのスタミナだけが削れて言ってしまったのだ 
マイミもマイミで最低限相手の攻撃を急所に当てさせないよう心がけている 
頭蓋や鳩尾などに強烈な一撃を喰らわなければなんとか耐える事が出来る 
巧みに相手の攻撃を体幹に集中させる、丈夫な部分の傷は我慢すればなんとかなるものだ 
(とは言っても常人なら激痛で気絶してしまうほどの痛みだが) 
ヒトミはあまりに疲れて今自分が何故こんな状態に陥ってるのかもわからなくなった 
さっきまでは圧倒的に自分が優勢だったのは確かだ、しかし今の自分は完全に疲れきっている 
マイミはパンチの一つも出せないほどの傷を負っているというのに 
まだ一撃もマイミから反撃を受けてないのに全く勝てる気がしないのだ 

「いい加減死ね!」 
疲労困憊ながらもマイミを倒すという執念だけで突きを出すヒトミ 
しかしまたもヒトミの攻撃はマイミの意識を断つ事は出来ない 
「いくら殴ろうと無駄だ、私の体力はお前の想像を遥かに超えている」 
ヒトミの腕は小刻みに震えていた、疲労が度を過ぎたので体が痙攣し始めたのだ 
マイミから奪ったナックルダスター「ネコノテ」のおかげで手の甲は驚くほど綺麗なままだが腕がこれでは意味がない 
(あと一撃、あと一撃でもあいつにフルスイングの鉄拳をぶち込めれば勝てるのに・・・) 
腕はしびれスタミナも切れている、おまけに全体重を支える足も震え始めている 
この状態でもそこそこのパンチを放つ事は出来るのだがマイミを仕留めるまでにはいかないだろう 
しばらく考えヒトミは腕を降ろした、攻撃を中断したのだ 
「どうした?もう仕掛けてこないのか・・・私はこんなに弱ってるのだぞ?」 
「どうせてめぇも何も出来ないんだろ?ここは少し休ませてもらうぜ 
 1分も休めば全力のパンチ一発分の体力は回復できる!それまで攻守交替だ!」 
ヒトミはそう言うと完全に脱力し始めた 
このヒトミの回復はマイミにとってかなりのピンチだ 
マイミの戦法は自分の体力と相手の体力の差分を利用してどんどん疲れさせ戦況を優位に運ぶスタイル 
体力を回復されてはとても困るし大怪我を負っているマイミにはヒトミを殴り飛ばすほどの力が腕に入らない 
まさに形勢は逆転されてしまった 
1分間以内にヒトミを倒さなければマイミがやられてしまう 

マイミは必死でヒトミを倒そうとするが怪我で全く力が入らない 
完全に立場を逆転されてしまったマイミは状況を打破しようと策を考えた 
・・・が、何も浮かばなかった 
もともとマイミは何も考えず突っ走るタイプなのでこまごまと考えるのは性に合わない 
ジックス部隊時代はモモコに、キュート戦士団時代はマイマイにそういうのを完全に任せていたのだ 
普段頭を働かせないのでこういう土壇場で明暗が浮かぶわけも無い 
つまりマイミはただただヒトミを殴り続けるしか出来なかった 
当然弱ったパンチではヒトミを仕留める事が出来るはずもなく体力を回復させる機会を与えてしまう 
(これなら・・・これなら一発分の体力は取り戻した・・・はず・・・) 
ヒトミの右腕の筋肉が緊張し膨張し始める 
全ての力を右拳に込め狙いを外さないよう精神を集中し放出するように突きを放つ 
体力の絞りカスを全てマイミの平らな胸にぶつけた 
これで生き残れる者などいるわけがない 


15.
初めて出会った時に何十発も殴ったが翌日には動けるようになっていた 
牢獄にぶち込んでいる間も拷問を施したが全く応えていなかった 
そして今、全身の体力を搾り出した一撃を確実にクリーンヒットさせたはず 
実際マイミはそれにより口から血を吹いたし反撃も出来なくなった 
だがマイミは倒れなかった 
もうヒトミは驚きすらしなかった、ただただ脱力するような虚無感に包まれたのだ 
メロニア最強の自分が息を切らしてまで必死で戦ってもマイミ一人すら床に寝かせる事も出来ない 
ヒトミの心は完全に負けていた 
「強いな・・・」 
決して他人を褒める事の無いヒトミがつい一言漏らしてしまった 
マイミの存在がヒトミの自信を完全に打ち砕いてしまったと言ってもいいだろう 
そんなヒトミの言葉にマイミはこう返した 
「私は強くない、実際こうして負けたのだからな 
 ・・・だが、橋渡しは完璧に遂行できたらしい」 
ヒトミはハッとして後ろを向いた 
そこにはたった今駆けつけてきたらしきリシャコとアイリの姿 
マイミを倒すために全ての力を使い果たしたヒトミの前に天才二人が現れてしまったのだ 

「そんな・・・ムメはどうしたんだ? 
 何故だ?何故ムメが・・・シバチャピンが・・・マサオがいながら4人も通したんだ?・・・」 
ヒトミには劣るもののメロニア四天王は今までの戦いを見てわかるようにかなりの強者だ 
なのでマイミを倒して全てが終わったと思い込んでただけにショックは大きい 
今回攻めてきた8人の食卓の騎士のうち4人しか倒せないなんて全くの想定外だったのだ 
「ムメは確かに強敵でしたが私とリシャコはこうして生きています」 
棍棒を構えて言うアイリ、同じくリシャコも槍を構える 
ヒトミは迎撃しようと意気込んだがその瞬間ガクッと足が崩れてしまう 
マイミとの戦いで体力を使い果たしたためもう動けないのだ 
(駄目だ・・・ここはさっきのように時間を稼いで体力を回復させるしか・・・) 
アイリとリシャコの二人を一撃で倒せる自信があるのでヒトミはまたリラックスし始める 
しかし、その動けない状態のヒトミに向かって大きな砲弾が飛んできた 
なんとボロボロになった体を落ち着かせたチナミがこのタイミングで小型大砲ビービーダンを放ったのだ 
いくらヒトミの屈強な肉体だろうと鉄扉を爆破するほどの砲弾を喰らってしまえばひとたまりもない 
着弾と同時に巨大な爆破音が牢獄内に轟く 
「ぐぁあああああああああ」 
死にはしなかったがマイミが負ってる以上の怪我をたった一撃で被ってしまった 
そして泣きっ面に蜂というべきか、その二人の前にリシャコとアイリが立ちはだかる 
「どっちがトドメさす?」 
「私が仕留めたいですけど・・・リシャコも美味しい所とりたいですよね?」 
二人は顔を見合わせニヤリと笑い 
「「じゃあいっしょに!」」と胸には槍を突き刺し、膝には棍棒で殴りつけた 

心も体もボロボロなヒトミはリシャコとアイリの攻撃を避ける事が出来なかった 
リシャコの槍はヒトミの胸の奥にぐんぐん突き刺さり肺の壁を斬りつけ出血させた 
肺の中にどんどん血がたまっていき溺れているのと等しい苦しみを味わう事になる 
アイリも棍棒でヒトミの膝を狙いエクスプロージョンショットをぶちまけた 
巨体のヒトミはどうしても膝に負担がかかる、こうして膝に電撃を流し込めば一晩は立つ事が出来ない 
しばらくの間床に寝転がりもがき続けた 
肺の中の血を追い出そうにも疲労により体内の器官も満足に動かない 
膝を押さえようにも手もあがらない 
何万人もの侵略者を迎撃してきたメロニア国はこうしてたった9人に敗北を喫してしまったのだ 

アイリはすぐさまマイミのもとは駆け寄った 
「マイミ団長・・・私達・・・私達勝ちました!」 
動けはしないものの立ち続けていたマイミにアイリは満面の笑顔で話しかけた 
マイミもマイミで嬉しそうに、そして安心したように喋りかける 
「こういう日が来るって信じていたよ・・・ところで・・もう横になっても負けにはならないよな?」 
アイリは首をブンブン縦に振った 
そうしてマイミはもがいているヒトミの隣に横たわる事になる 
勝者の笑みを浮かべながら 

「おい・・・マイミ・・・」 
決着から数分経ちリシャコとアイリが皆に応急処置を施してる時にヒトミの声が聞こえた 
今度こそ完璧に息の根を止めようとリシャコとアイリはそれぞれの武器を構えだす 
しかしヒトミは首をゆっくり横に振り 
「もうやりあう気はねえよ・・・ただこれを返したかっただけだ」 
そう言って拳に装着していたナックルダスター「ネコノテ」を寝っ転がっているマイミのお腹の上にポンと置いた 
「取り上げちまって悪かったな、いくら殴っても拳を壊さない良い武器だったよ 
 しかしアレだ、てめぇの武器を没収したのに一人倒すのがやっとだなんてメロニア最強の名折れだよな」 
マイミの横で横たわりながら苦笑いをするヒトミ 
しかしマイミはヒトミを褒めるように否定しだした 
「いや名折れなんてとんでもない、十分自信を持って良いと思うぞ 
 なんせ私にここまで酷い傷を負わせたのはヒトミ・ボス、お前が3人目だからな」 
「なんだよ、結構いるじゃねえか」 
二人は腹に穴が開いているほどの重症だというのに腹を抱えて大笑いしだした 
アイリはそんな二人を見て呆れると同時に羨ましく思う 
「リシャコ、きっとあの二人はとても良いライバルになれたんでしょうね 
 私達もあんな関係になれたらいいですね」 

「しかしこれで500年続いたメロニア王権も途絶えてしまったか・・・ 
 こりゃ王にも先代にも顔向けできねぇな・・・」 
ヒトミの声のトーンがだんだん小さくなっていく 
兵士隊長として、メロニア最強としてかなりの責任を感じているのだ 
しかしマイミはキョトンとした顔でこう質問する 
「何故メロニア王権が途絶えるんだ?これからも続ければいいじゃないか」 
的外れなマイミの質問に呆れた風にヒトミが答える 
「何言ってるんだてめぇは、敗戦国なんだからメロニアはマーサーの植民地、もしくは良くても属国だろ 
 今までメロニアの上に立つものは居なかったんだ・・・そりゃショックも受けるさ」 
アイリもリシャコも軽く頷く、侵略され敗れれば下につくしかない・・・至極当然のことだ 
だがマイミはクスリと笑い、心を病んでるヒトミを安心させるようにこう言った 
「たしかに私はメロニアを潰す気で来たさ、だが植民地にまでするつもりはない・・・それはマーサー王も同じ考えだろう 
 マーサー王国を脅かす存在は全力で潰すがその気のない国とは積極的に国交を交えたいものだ 
 どうだ?そちらが良ければ友好国として切磋琢磨してみないか?二度とマーサー王国に攻め入らないという状況でな」 
ヒトミの体に電撃が走った(とは言ってもアイリに殴られたわけではない) 
今まで喰うか喰われるかという時代を生きていただけにマイミのはからいが身に染みたのだ 
そのマイミの言葉にヒトミと同じく感銘を受けたアイリ、リシャコ、チナミも次々と提案しだす 
「メロニアの兵はなかなか良い仕事をしますからね、二国が共闘すれば大抵の侵略者は制する事が出来るのではないでしょうか」 
「マーサー、メロニア、ピチレモンの3つが友好国なんてとっても素敵!そうだ、ピチレモンの薬でメロニアの人も傷を癒せばいいよ!」 
「さっきリシャコに聞いたけどムメって凄いいっぱい武器持ってるらしいね、深く相談したら良い武器が作れそう・・・」 
今からすでに今後の展望に瞳を輝かせる3人 
「どうだヒトミ、とても素晴らしいだろ?」 
「まったくだな・・・王にでも相談してみるか・・・」 


16.
その日の夜、怪我を落ち着かせた戦士達が王国に帰る途中の馬車の中 
一行はマーサー王が拉致された事について話し合っていた 
「そうか・・・王が危険な時に私を助けに来させて申し訳なかったな・・・」 
マイミは自分を情けなく思った、自分のために食卓の騎士のほとんどが大きな怪我を負ってしまったからだ 
クマイチャン、チナミ、リシャコ、アイリ、カンナは比較的軽症だが他の4人はそうはいかない 
ナカサキは所々骨折、オカールは矢に貫かれすぎて重症、マイマイは上半身に多数の深い切り傷、マイミは言うまでもない 
強大な敵が相手だというのに先陣を切る食卓の騎士がこれでは戦力が大幅ダウンだ 
それゆえにマイミは責任を感じたのだ 
「待ってよマイミ団長、まだ王がどこにいるか分かってないんだから手がかりを掴むまでに治せば良いんじゃね? 
 それにあんなつえーメロニアを仲間にしたじゃん!怪我はほっときゃ治るけど仲間はほっといても増えないんだぜ!」 
大怪我を負いつつも声を張り上げてマイミを励ますオカール 
他の食卓の騎士たちもどんどんマイミを励ます 
「そうですよ、マイミ団長にマイナス思考は似合いませんよ」 
「それにムメにこ〜んないっぱいのデータを貰っちゃったじゃん、これ凄いよいろんな国のデータが詰まってるし」 
「怪我ならピチレモンの薬を使えば良いと思う、あれ凄く良く効くし」 
車内はとても朗らかになった 
マイミの曇った表情も次第に明るくなっていく 
「そうだな、これから私達は全力で怪我を治して全力で敵の居場所を調べて全力でぶっ倒す!頑張るぞ!」 
拳を高らかに挙げるマイミに続いて他の騎士達も拳を挙げる 
しかしただ一人、クマイチャンだけは浮かない顔をしていた 

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