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『全員集合編』
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01.
メロニアを発ち一週間が経った頃、食卓の騎士達を乗せた馬車はようやく王国に到着した 
この一週間戦士達はピチレの薬を用いて傷を癒す事だけに専念していた 
とは言えあの大怪我をたった一週間で完治する事など出来るわけないのでまだまだ安静が必要だ 
もちろん激しい運動をするのなんてもっての他で・・・ 
「やった!帰ったぞ!私マイミは王国に帰ったぞ!!」 
もっての他のはずなのだがマイミ・バカダナーは100mを10秒のペースで馬車から降り城へと走っていた 
あんなに酷かった怪我が何故かほとんど癒えており痛みも感じてないようだ 
「あんたおかしいだろ!なんで肌ツヤツヤなんだよ!!」 
追いかけようとするオカールだが馬車を降りた瞬間全身が激痛に襲われる 
「ぎゃああああ痛い痛い痛い痛い!」 
オカールが軟弱なのではなくこれが普通なのである、マイミが異常なのだ 
マイミは子供のように無邪気にウメサンとミヤビの寝ている病室へと走っていった 

マイミに置いてけぼりにされた他の食卓の騎士達は痛みに耐えながら城内へと向かう 
やっとこそ到着した城内で他の兵士達にマイミが病室へ走っていったと聞きそこへ向かいドアを開く 
すると病室には衝撃的な光景が広がっていた 
なんとマイミがウメサンのベッドの中に潜り込みイチャイチャしていたのだ 
「ウメサン、拷問は1ヶ月でも2ヶ月も耐えられるけどウメサンに会わずにいるのはとても耐えられない」 
「よしよし痛かったね、怖かったね、もう大丈夫だからね〜よしよし」 
食卓の騎士達は心から呆れた 
一週間前までの勇敢な英雄が今やただの女ったらしだ 
しかも人目もはばからず・・・クマイチャン、チナミ、リシャコは目が点になった 
だがキュート戦士達は「はいはいまたか」と言った態度で生暖かく見つめている 
おそらくキュート戦士達は苦労してるのだろうとリシャコは悟った 

「そろそろいいかげんにしてくれないか、お前達の絡みは胃がもたれる」 
心の底から不満感を感じながら怪訝そうな顔をするミヤビが口を挟む 
この中でマイミとウメサンに意見出来るのはミヤビくらいなので全員がホッとした 
「ウメサン・・・ミヤビが私達を引き離すようだ」 
「ミヤビの頭は胸と同じくらい硬いから仕方ないよ・・・ここは我慢しよ」 
この後ミヤビがブチ切れてそれを抑えるのが大変だった事は言うまでもない

病室の喧騒から数分、とりあえずみんな落ち着いたのでこれからについて話し合う事にした 
ちなみにマイミとウメサンは床で正座させられているがここでは軽く流しておくことにする 
ミヤビは傍らに置いてあった資料を取り出し全員に見せるように広げる 
「私とウメサンが調べたのだがマーサー王を拉致したリカチャンとかいう剣士、やはりモーニング帝国の出身だったらしい 
 過去に王国が帝国と戦った時にはすでに国を去ってたらしいがかなりの腕利きだったみたいだな」 
リカチャンと聞き食卓の騎士達の顔が強張る 
圧倒的な強さでミヤビ、ウメサン、クマイチャン、ナカサキ、チナミを倒しマーサー王をさらったリカチャン 
全ての元凶がミキティだとは分かっているがどうしてもリカチャンに対して強い恨みを持ってしまう 
「以前ミキティの失踪した時期と各国の優秀な戦士が消えた時期が一致したと言った事はあったな? 
 どうやらミキティ側についてる戦士はリカチャン以外はその時期に消えた者らしい、ミヨシもオカダも調べてみたらピッタリだった 
 そこでだ、ムメとやらに貰ったその各国のデータと照らし合わせれば何か手がかりがつかめるかもしれない 
 もしミキティの失踪と同じ時期に消えてた戦士が居ればそいつはミキティの仲間だと思ったほうがいいだろう」 
なるほどと思った食卓の騎士達はデータを漁るように調べ始めた 
かなり膨大な量だが失踪の点だけに着眼すれば大した仕事量ではない 
調べていくうちにだいたいどんな戦士が今現在ミキティの仲間なのか検討がつくようになった 
「しかし多いなぁ、これ全員がミキティの仲間って事は無いと思うけど15人も候補がいるよ?」 
疲れた感じでチナミはため息を吐く 
15人といってもただの戦士ではない、各国のTOPクラスの戦士達だ 
リカチャンがあの強さだったので15人全員が同じレベルの強さでも不思議ではないだろう 
今後の展望が良くないので病室内が若干暗めのムードになってしまった 
だがそんな中オカールだけは別の事を考えていた 
(ミキティの失踪時期ってあの日と同じ日だな・・・・・・・まぁ、そんな訳は無いか) 

「そう言えば言い忘れてたがシミハム団長とモモコから連絡が届いたぞ」 
資料の下に置いてあった手紙を見つけ広げるミヤビ 
それを聞いてクマイチャン以外のベリーズ戦士達とマイミはテンションがあがる 
「本当!?本当!?早く言ってよ〜」 
「ミヤビ早く読んで読んで!」 
チナミとリシャコはあまりに嬉しすぎてミヤビのベッドに入り込み服を引っ張ったりした 
だが当のミヤビは手紙を読んでくれと言われて凍り付いていた 
「これを・・・読めと?・・・」 
ミヤビが凍り付いてる理由がわからないチナミ 
「だって一人づつ読んだら時間かかるじゃない、ミヤビが声出して読んでよ」 
いかにも嫌そうな顔をするミヤビ、さっきから笑いを堪えているウメサン 
あまりに面白いのでウメサンはミヤビに手紙をさっさと読むよう催促する 
「ミヤビ観念したほうがいいよ、誰も気にしないって」 
「し・・・しかし・・・」 
ミヤビがあまりにも引っ張るので病室内はしらけはじめる 
中にはブーイングまで仕出す者も現れ始めた(主にチナミやオカール) 
立場が悪くなったミヤビは観念して手紙を読みはじめた 
「あ〜・・・じゃあ読むぞ・・・ 
 ・・・失敗しちゃったぁ☆作戦失敗で〜すゴメンチャイ! 
 なんかーいっくら説得しても全然聞いてくれなくてーこりゃ駄目だわって思ったのね 
 だから団長と話し合ったんだけどさぁ、このまま王国を開けたままにしたらまずいじゃん?そうなったの 
 だ・か・らもうちょっとで帰るねー☆ ベリーズ戦士団で一番可愛いモモコ・エービス・ヤーデスより(はあと) 
 あ!あ!あ!ちなみにこの手紙はミヤビが声に出して呼んであげてね!団長からの頼みだから絶対だよ!」 
病室中が凍り付いてしまった 
ミヤビはこの後自決しようとするのだが皆で止めるのに苦労したのだという 

「と、とにかくだ、シミハム団長とモモコが帰ってくる事で食卓の騎士が全員揃うからな 
 怪我人は早く怪我を治し、比較的傷の軽い者は調査を続けるなり己を磨くなりしてくれ」 
さっきの痴態を忘れるように真面目な顔をしてまとめるミヤビ 
他の食卓の騎士達も気を使ってさっきのミヤビは見なかった事にする 
「じゃ、じゃあリシャコ、いっしょに訓練でもしませんか?」 
「そ、そうだね・・・付き合うよ」 
ミヤビに視線をあわせずアイリとリシャコはそそくさと病室を去っていった 
チナミもどうしてもミヤビの読んだ手紙を思い出して吹き出しそうになるのでクマイチャンを連れ出す 
「クマイチャンいこっ」 
「え、なんで」 
「いいからっ!」 
戦士達はどんどん逃げるように消えていった 
こんなにも気まずい部屋からは一刻も早く脱出したいと思うのは当然だろう 
「では私も・・・」 
「俺も!」 
マイミとオカールも先の4人と同様にさりげなく病室から出ようと計らった 
しかしウメサンとマイマイに服をギュッとつかまれてしまう 
「マイミ、怪我が痛むからいっしょにいてね(自分だけ出て行くなんて許さないよ)」 
「オカール、いっしょにいてくれなきゃヤだ・・・(とても気まずいから・・・)」 
しょうがなく病室にとどえなくなってしまったマイミとオカール 
病室にはミヤビ、マイミ、ウメサン、ナカサキ、オカール、マイマイの6人 
とても気まずい時間を感じることになる 

あまりにも気まずいのでナカサキは室内の空気をかえるため質問をする事にした 
「ね、ねえ!ベリーズのシミハム団長とモモコって何処で何をやってたの?」 
周りの皆も新たな話題が生まれたことにほっとする 
「そ、そうだな、そういえば私も気になってたんだ」 
「あの2人でも失敗するような任務っていったいなんなの?」 
完全に落ち着きを取り戻しいつもの状態に戻ったミヤビは説明を始めた 
重大な任務だが特に機密にすべき内容でもないのでキュート達になら言っても問題ないと思ったのだ 
「そうだな・・・その前にオカール、以前お前は私達がマイハをベリーズ戦士団から抜けさせたと言ったな?」 
名指しされてハッとするオカール 
「そ、そういやそんな事もあったな・・・まぁ言葉のあやだよ、て、ていうか皆の前でバラすなよ・・・」 
後ろにマイミやウメサンが居るのでオカールはとても焦った 
案の定「お前そんな事言ったのか!」とマイミに鉄拳制裁を喰らってしまう(しかもネコノテをつけたまま) 
頭を抱え痛がるオカールを横目にミヤビは話を再開する 
「事実は私達が辞めさせたのではない、愛想をつかされたのだ・・・ 
 マイハ・リズゥはある日突然私達と戦うのはもう嫌だと言って飛び出してしまった・・・」 
またも室内が凍りつきはじめた 
とは言えさっきとは全く状況が違う、キュートの誰もが知らなかったベリーズの真実を聞き何も言えなくなってしまった 
「マイハは理由も聞かせてくれなかった、そこで我らがシミハム隊長とモモコ副隊長がマイハの故郷へと向かったのだ 
 マイハの故郷は森に囲まれた村、苺が名産地のとても静かな村だ」 

「でも・・・失敗しちゃったんだね」 
涙目でマイマイはポツリとつぶやいた 
ミヤビの手紙を読むテンションの印象が強くて陰に隠れていたが確かに任務は失敗と書いていた 
全員の表情がみるみる暗くなっていく 
キュート戦士団はとくにマイハと共闘してきた訳ではないが仮にも同じ食卓の騎士だ 
仲間が抜けていって気分が良いわけもない 
それにマイハが抜けた事をメグが抜けた事とダブらせて考えてもいた 
「すまない暗い気分にさせたな、この話は終わりにしよう」 
辺りの空気を察したミヤビは話を打ち切ることにした 
ただでさえ重症なのに暗くなったらますます治るのが遅くなってしまう 
そこでナカサキはまた空気をかえるため別の質問をする事にする 
「じゃ、じゃあモモコ副団長ってどんな人なの?私シミハム団長には会った事あるけどモモコは知らなくて・・・」 
場を明るくため言ったその言葉が地雷原になるとはナカサキは気づいてなかった 
ミヤビ、マイミ、ウメサンの顔がどんどん強張っていく 
ミヤビの眉間には皺が寄り、マイミは握り拳に力が入り、いつもは優しいウメサンも怖い顔をする 
まず切り出したのはミヤビだ 
「この世で考えられうる史上最っ低の人間だ!あいつと同じ団だと考えただけでも虫唾が走る!! 
 ああ、憧れのシミハム団長が居なければ私もマイハといっしょに城を去っていたかもしれない!」 
今日3回目の乱心になったミヤビに驚く間もなくマイミが立ちだした 
そして病室の壁をネコノテの連打で破壊しはじめたのだ 
「モモコ戻ってくるな!モモコ戻ってくるな!ああああああああ!」 
マイミまで暴れだしたのでナカサキ、オカール、マイマイはパニック状態になる 
そして極め付けにウメサンが鬼のような形相で 
「死ねばいいのに」 
とつぶやいたので3人は背筋が凍ってしまう 
(この3人がこんなになっちゃうモモコっていったいどんな人なの!?) 


02.
病室でそんな事が起きているとはも知らずクマイチャンとチナミはチナミの部屋でのんびりしていた 
そこでチナミはクマイチャンの長剣が収められた鞘を見て異変に気づく 
「ねえクマイチャン、ひょっとしてその剣・・・」 
「あ、やっぱり気づいちゃった?相変わらずチナミは凄いね」 
クマイチャンは鞘から長剣「アンゼンピンヲノバシタヤツ」を抜き出した 
しかし長剣はもはや見る影もなくボロボロになっていた、ムメと戦った時に破壊されてしまっていたのだ 
あまりにも酷く折れているので修理するにも逆に骨が折れそうだ 
そこでチナミはクマイチャンのためにある提案をあげた 
「新しい剣作ってあげるよ、そのアンゼンピンヲノバシタヤツよりとびっきり上物のをね!」 
チナミの武器の知識は重火器に限っては居ない、剣や槍なども心得ているのだ 
しかもムメから武器製作の手引きまでもらったので試したくてしょうがない 
それにはクマイチャンの新しい剣を作ってあげる事がおあつらえ向きだ 
しかしクマイチャンは意外にも首を横に振った 
「ううん、新しい剣はいいよ・・・それよりこの剣を治してほしいの」 
そう言って壊れたアンゼンピンヲノバシタヤツを前を突き出す 
修理するのはとても難しいのだがクマイチャンはそんな事知らないのだろう 
そう思ったチナミは優しく教えてあげる事にした 
「あのねクマイチャン、こういう壊れ方をした剣は元に戻ってもまた同じように割れちゃうかもしれないんだよ 
 それにこの剣は玉鋼特級っていうとんでもなく珍しい素材が使われてるからそう簡単に修理できないの」 
だがクマイチャンはチナミの説得に聞き耳持たなかった 
「嫌だ!絶対治して!!・・・これはとっても大切な剣なんだから・・・」 

「大切?・・・」 
チナミは驚いた、クマイチャンが基本ワガママとは言え今回は何か迫る物を感じたからだ 
まるで死にかけた人間を守るかのような必死さを感じたのだ、何も無いわけがない 
「とにかく・・・とにかく大切なんだ・・・お願い治して」 
クマイチャンの切なる願いをチナミは確かに受け取った 
「わかったよクマイチャン!バッチリ治してあげる」 
チナミの良い返事を聞いてクマイチャンは笑顔になり子供のようにピョンピョン飛び回る 
ただでさえ身長が高いので天井に頭がつくかヒヤヒヤするほどだ 
「本当!?チナミありがとう!」 
「でもこのままじゃ治せないよ、さっきも言ったけど玉鋼特級っていう珍しい素材が必要なんだからね 
 私が剣を鍛えてる間にクマイチャンは鉱山に行ってそのもとになる石を取ってきてくれる?」 
「うん!今すぐ行ってくる!」 

しかし冷静に考えたら剣を持たないクマイチャンが手ぶらで歩くのはとても危険だった 
普通の人間よりは体を鍛えてるとは言え、タチの悪い集団に出くわしたら大変だ 
という訳でクマイチャンは訓練場に行きリシャコとアイリに護衛を頼むことにした 
「ねーねーリシャコいっしょに来てよー」 
しかしリシャコはせっかくアイリと模擬戦をしていた最中なのに邪魔をされてご機嫌ナナメ 
ほっぺたを膨らませてつっけんどんに言葉を返す 
「どうせ襲われやしないよ、手ぶらで行けばいいじゃん」 
「えーじゃあアイリついてきてよ!」 
「正直言ってめんどくさいです、私棍棒より重いもの持った事ないので石なんて運びたくありません」 
「棍棒持てりゃ十分じゃん・・・」 
二人にフラれてしまいクマイチャンはガックシしてしまう 
このまま一人でいくしかないのか・・・盗賊に身ぐるみ剥がされたらどうしようか・・・悩みは尽きない 
しかしそんなションボリクマイチャンの前に救いの手が差し伸べられたのだ 
「カ、カンナ?・・・」 
なんと無表情なカンナが右手をそっと差し出している 
クマイチャンは今までカンナの事を無口でなんか変なやつだと認識していたがこの瞬間考えが180℃、もとい180°変わった 
「カンナ大好き!冷たいリシャコやアイリとは大違いだね!」 
そう言ってカンナのムチムチした体をギュッと抱きしめる 


03.
ミヤビがマイハの事を打ち解け、クマイチャンがカンナと共に山へ向け出発した日の夜 
あの戦いが終わって何日か経ったあとのメロニアでは事件が起きた 
メロニア国中を震撼させたその事件はビックリするくらい静かで平和な夜に起きたのだ 
傷も癒え始めそれなりに生活を送れるようになったヒトミはその事件が起きる直前、一人で考え事をしていた 
(我らがオオヤマダ王もマーサー王国との国交を認めてくれた・・・後はマーサー王をさらったやつを突き止めるだけだな 
 まったく不思議な気分なもんだ、俺が王以外のやつを助けたいなんて思うなんてな・・・) 
ヒトミの心はあの日以来変わり始めていた 
自国以外の者は完全に敵と見なし憎んでさえもいたヒトミがマーサー王国と国交を結ぶことに心が躍っている 
他のメロニア四天王たちもそのヒトミの変わりようにはじめは驚いていたが今は同調している 
マーサー王国と組むことでメロニアの展望は明るくなっていく事を皆が感じ始めていたのだ 
だが事件が起きたのはそんな時だった 
いきなりヒトミの部屋の窓がガシャン!と音を立て割れそこから二人の女性が入り込む 
一人は身長よりひとまわり大きな鎌を持った小柄の少女、もう一人はよく体の引き締まったファイターだ 
小さい方の少女は驚くヒトミを見るなりニヤニヤしていた 
完全に意表を突かれたヒトミだがすぐ立ち上がりファイティングポーズを構える 
「な、なんだてめぇらは!?」 
いつでも二人をぶん殴れる位置に陣取りプレッシャーをかける 
しかし小さい方の少女はまったく恐れず話を切り出した 
「あんまり怖い顔しないでくださいよ〜私達はヒトミさんをスカウトしに来ただけなんですから」 
「スカウト?・・・ていうかてめぇら誰だよ」 
体の引き締まった方が懐から名前のかかれたペンダントを取り出しヒトミの前に突きつけた 
そして小さい方の少女が自己紹介をし始める、それもニヤニヤしながら 
「私はユーカ・ブルーパレットと申します、こっちはコレティ・ファンタジスタ・セパタクです 
 私達は二人ともミキティの部下なんですよ〜、エッグ7人集って言うんですけどね」 
ミキティ、その名を聞いたヒトミは我慢出来ず目の前にいるユーカを殴り飛ばしていた 

「ひ・・・ひぃっ・・い、痛い!血が・・・血がぁあああ!」 
ヒトミに肩を思いっきりぶん殴られ一瞬にして大怪我を負ったユーカは取り乱した 
今までエリートとしての道を歩んでいたのでこんな痛みを経験した事が無かったのだ 
「やだ・・・痛いのやだよぉ・・・コレティさん早くそいつ倒して!」 
「うるせぇガキだな、トドメさしてやるよ」 
そう言って吹っ飛ばされたユーカのもとへ歩いていくヒトミ 
しかし仲間のコレティが黙ってるはずもなくヒトミの腹に向けて強烈なキックを繰り出した 
「なぁっ!?」 
その鋭いキックはヒトミの鋼鉄の腹筋すらも貫き巨体を吹き飛ばす 
いつもならヒトミは踏ん張れただろうが先日の食卓の騎士達との戦いの傷で思うように力が出せなかったのだ 
「コレティさんやっぱり凄い!殺しちゃって!」 
「ユーカ、目的を忘れちゃいけないよ」 
そう言ってコレティはユーカに軽くデコピンをする、ユーカも反省してシュンとする 
そしてコレティは倒れているヒトミの前へ歩いていく 
「さっきユーカが言った通り私達はミキティの部下です、貴方を優秀な戦士と見込んでスカウトに来ました 
 貴方が我らの仲間になればいきなり幹部クラスでしょうしそれなりの見返りもあるので悪い話ではないと思いますが」 

だがヒトミはコレティの願うような答えは出さなかった 
答えの代わりに鋭く力強いパンチを繰り出したのだ 
コレティもある程度予想出来ていたのかすぐさまキックでガードした 
ヒトミの拳とコレティの足底がぶつかりパァンと言った音が部屋中に響き渡る 
「俺の上に立っていいのはオオヤマダ王だけなんだよ、誰がミキティの部下になってたまるか」 
「来る前から薄々感じてはいたんですけどね・・・やっぱり無駄足でしたか」 
そう言ってコレティは一旦距離を置く 
「言っておきますがパンチじゃ絶対キックに勝つ事は出来ませんよ 
 リーチがそもそも違いますし、脚力が腕力の3倍というのをご存知でしたか?」 
コレティの愛用している靴「ナイキノパチモン」は先端に金属が仕込まれている凶器靴だ 
裸足でもレンガを砕くほどの脚力を持つコレティに凶器靴が加わればまさに最凶 
その最凶の足でヒトミの怪我が酷い部分を蹴り付けようとする 
だがヒトミはその程度で負けるような戦士ではなかった 
今まで溜めに溜めてたパワーを全て開放し蹴りかかって来るコレティの足を殴り落としたのだ 
コレティは当然バランスが取れなくなり地面にキスしてしまう 
「がっ・・・そ、そんな・・・」 
「コレティさん大丈夫ですか!?」 
ユーカはすぐコレティのもとへ駆け寄った 
なんとコレティの利き足はヒトミの恐ろしいパンチによって骨折してしまったのだ 
「脚力が腕力の3倍だがなんだろうが関係ねえよ、10倍の力で殴れば良い事だしな」 

スカウトしに来たミキティの部下は凄腕の持ち主にも関わらずたった数分で膝をつく事になってしまった 
いくらミキティの部下とは言えヒトミ・ボスの圧倒的なパワーの前では無力に等しかったのだ 
「ミキティの部下ってことはお前らを拷問すればミキティがどこに居るかわかるんだよな? 
 もう1本の足もバキバキにして逃げられなくしてやるよ」 
指を鳴らしヒトミは二人の方へ迫っていく、今回の敵はマイミと違って普通にダメージを受けているので負ける事はないだろう 
しかし当のコレティとユーカの目は死んではいなかった、むしろユーカはまだニヤニヤしている 
「コレティさんよかったですね、ヒトミが強すぎるから2人だったらさすがに負けてましたよ」 
「そうだねユーカ、本当に3人で来てよかった・・・」 
ヒトミはその会話の意味が一瞬分からなかった、しかし理解するのに時間はいらなかった 
窓の外から謎の物体がヒトミの顔面めがけてやって来た事から「3人目」の存在に気づいたのである 
顔を守るため右腕でガードするがその物体は刃物だったため負傷してしまう 
そしてコレティとユーカは注意が薄れたその瞬間を見逃さなかった 
折れた利き足を気にせずいち早くヒトミの後ろに回りこみ両手両足をガッチリ固定する 
「は、離せ!」 
ヒトミはその力強いパワーでコレティを振り払った、しかし2回も注意が薄れてしまった事は取り返せないほどの失態だった 
それはユーカがヒトミの死角から大きな鎌を振り下ろすのに十分な時間を与えてしまったからだ 
大鎌はヒトミの右肩の上部から下部を驚くくらいスムーズに切り進んだ 
床にゴトンとヒトミの大きな右腕が落ちる 
「うわああああああああぁああああああああああああ」 
痛みとショックでパニックになってるヒトミを横目にコレティとユーカは窓から逃げ出し「3人目」と共にアジトへ帰っていく 
「キッカが助けてくれたおかげだよ!あのままだとコレティさん歩けなくさせられちゃう所だったし」 
「いいえ、コレティさんとユーカが頑張ったおかげだよ」 
チャクラム使いキッカ・モニカ、彼女もまたエッグ7人集の一人である 


04.
その夜と同じ夜、王国から少し離れた森の中 
ベリーズ戦士団の団長シミハム・アセダク・ヘビーインフォと副団長モモコ・エービス・ヤーデスは就寝の準備をしていた 
戦闘には向かな移動用の馬の手綱を木にくくり、一通り周りに猛獣等が居ないか確認したうえで寝袋を用意する 
そして決して二人同時に寝る事はなく何が起きても早急に対処できるよう一人づつ寝る事にしている 
とりあえずはシミハムが先に寝てモモコが見張り番をする事になった 
「シミハム、安心して体休めてね」 
「君に見守られて安心した日は一度もないんだけど・・・ていうか一応団長なんだから団長って呼んでね」 
その小さい体をビクビクさせながらボソッとつぶやく 
だけどモモコは口をとんがらせてシミハムの頭をグシャグシャいじくる 
「前から思ってたけど団長とか副団長とか固くない?シミハムとモモコで良いと思うんだけどなー」 
「う〜ん・・・でも・・・」 
「シミハムって縦社会に逆らえない性格してるよね、そういうのに頼らないといられないつまらない人間って感じ」 
「ふぉえ・・・」 
モモコに虐められて涙目になっちゃうシミハム 
モモコはいつもこうしてシミハムを虐めることでストレス解消をしていたのだ 
「ひどいよぉ・・・なんでいつも虐めるの・・・」 
「シミハムへの虐めはまだマシなほうだよ?すぐ泣いちゃうんだもん 
 ぺったんこのミヤビや馬鹿なマイミにやってる虐めをシミハムにしたらストレスで胃に穴が開いちゃうかもね」 
このモモコ、王国きっての頭脳を持つのだがいかんせん性格が悪すぎるのだ 
その知恵のほとんどの割合を他人を陥れる事や他人をからかう事に注いできた 
例えば眠っているミヤビの鉄の胸の上に焼き石をこっそり乗せて胸部大やけどを覆わせたり 
マイミのナックルダスター「ネコノテ」にとろろを塗りたくって何も知らないマイミの指を痒くさせたり 
ミヤビのアゴに埋め込まれた仕込み刀を鉄くずで思いっきり叩いてその日1日の噛み合わせを悪くさせたり 
マイミの歩くパターンを全て計算しつくしてたった1日にして2000回以上落とし穴に落としたり 
そうして得る事の出来る達成感と満足感、それがモモコの原動力なのである 

モモコがミヤビやマイミにする嫌がらせに比べればシミハムへの虐めはとても軽い方 
それにはモモコが多少あれシミハムを尊敬しているという理由もあった 
詳しい事は省くがモモコとシミハムが初めて出会ったのは戦場であり、当時無敗を誇っていたモモコに初の敗北を教えたのがシミハムらしい 
尊敬といじりたい本能が入り混じりモモコはシミハムを常にいじくっているのだ 

「それにしてもマイハはやっぱりダメだったね・・・」 
暗い表情で話し出すシミハム、団長としてマイハを引き止められなかった事と呼び戻せなかった事を悔いていた 
その事に関してはモモコも同様にショックを受けていた 
結局理由さえもマイハは教えてくれなかったのでどう対処すればいいのかモモコの頭脳をもってしても分からない 
勝手に大好きな苺を食べたのが理由で出て行ったなら対処のしようもあるのだが 
「今回は駄目だったけどずっと頑張ればマイハもいつか戻ってくるから元気だしてよ、元気出してくれないと虐められないじゃん」 
「う・・うん」 
涙目のシミハムの頭をなでなでしてあげるモモコ 
本当は自分が泣きたいけど二人が泣いたらどうしようもないので我慢をしている 
「も〜本当にシミハムは泣き虫ね、泣き虫のくせにあんなに強いなんて信じられない」 

その時だった、周囲の草むらからガサッとした音が聞こえた 
その音にいち早く気づいたシミハムはすぐさま寝袋から脱出する 
モモコも立ち上がり音の方向へ向かっていつでも発射できるよう構えた 
そして草むらのほうへ威嚇するように警告をする 
「ゆっくり出てきなさい、もし襲ってきたら容赦なく撃つよ!」 
モモコのその高い声を聞くやいなやまた草むらから音がなる 
しかし観念したのかすぐ静かになった 
「そのままゆっくりこっちに来るか引き返すかしなさい!」 
モモコの警告に承諾したのか音の正体はゆっくりとこちらに向かってやってくる 
そして顔が見える所までやって来た時シミハムとモモコはその見た事のある顔に驚く事になる 
「あ・・・あなたは!!」 
「やっぱりモモコちゃんだったかぁ、コンパスがイカれちゃったからまさかとは思ったんだけどね」 
大きな細長い箱を引きずりやってきた体格の良い戦士 
エリチン・サチウス、モーニング帝国を支える優秀な剣士の一人である 
かつての王国と帝国との大戦で当然シミハム、モモコとエリチンは殺しあった事があった 
シミハムはそんなエリチンを鋭い眼光で睨みつける 
「何故ここに?・・・まさか後をつけて・・・」 
だが怖い顔をするシミハムやモモコとは違ってエリチンは笑顔を絶やさなかった 
「ちょっと待って待って、僕は君達とやり合う気なんてないから安心してよ 
 ここは帝国でも王国でもないんだし戦う理由なんてないでしょ?無駄に怪我なんてしたくないよ 
 それにこの前の大戦だって僕はモモコちゃんに手も足も出なかったじゃないか」 
しかしシミハムとモモコは決して油断を見せなかった 
「じゃあ何故ここにいるの?寝込みを襲おうとしたとしか考えられないんだけど」 
いつまでもシミハムとモモコが自分を信じてくれないのでエリチンはため息をついてある物を差し出した 
それはモモコの居る方向を示したままの壊れたコンパスだった 
「ほらこれ見てよ、帝国に帰ろうにもモモコちゃんのせいで壊れちゃったんだよ 
 このまま森の中でのたれ死ぬのなんて帝国剣士の恥だから・・・ちょっと協力して?」 

武器を持たず両手を上げるエリチンを見て少し信じる事にしたシミハムとモモコ 
とは言え完全に信じたわけではなくいつ襲ってきても構わないよう最低限の警戒はしている 
だと言うのにエリチンは図々しくシミハムの寝袋に寝っ転がりはじめた 
自分の寝袋を占領されて涙目になるシミハムに気づかず馴れ馴れしく喋りかける 
「それにしても戦争した相手といっしょにキャンプなんてドキドキワクワクするなぁ 
 そういえばあの時は最後まで決着つかないで戦争が中断されたんだよね」 
しみじみするエリチンを見てモモコの中にイタズラ心が芽生え始める 
モモコは幸せそうに笑う人を見ると虐めずにはいられないのだ 
「あの時はミキティ一人にやられた気がしないでもないけどね、他の人達弱かったんだもん 
 あ、ミキティが居ないって事はひょっとしてモーニング帝国って弱い? 
 だよねぇ、タカーシャイが王になったからマシなのはエリチン、ガキ、レイニャ、サユ程度だもんね 
 しかもエリチンに至っては私一人に負けちゃうほど弱っちいし・・・」 
ニンマリしながら痛いところをついたモモコだがエリチンは全く気にしてない様子 
それどころか満面の笑みを浮かべながら自慢をし始める 
「それがだね、それがだね!最近になって新人がいっぱい増えたんだよ! 
 確かにあの時と比べるとミキティもタカーシャイさんも居ないから戦力は落ちてるけどさ 
 その代わり新人がなかなか面白くて・・・うへへへへへ」 
気持ち悪く笑うエリチンを気味悪がるシミハムとモモコ 

虐めてもまったくこたえないのでモモコは不満そうにほっぺを膨らませ 
「あたしこの人嫌い」と一言言って自分の寝袋に腰掛ける 
だがそんなモモコとは対称的にシミハムはエリチンにどんどん話しかける 
その目はもうさっきの泣き虫の目ではない、獲物を狙うハイエナのような鋭い目だ 
「エリチンもっと詳しく聞かせてくれると嬉しいな、敵同士がこうやって仲良く話すのもたまには良いよね」 
泣き虫のシミハムも一応ベリーズの隊長なので少しでも有利に事を進めようと情報を聞き出そうとしているのだ 
そんなシミハムの思惑にもまったく気づかず浮かれているエリチンはついつい喋りすぎてしまう 
「そうだね〜あの戦争以来新しい剣士が4人はいったけんだけどロッキー三銃士に引けをとらないくらい強いんだよ」 
「ロッキー三銃士ってエリチン、レイニャ、サユの3人のことだっけ?」 
「うん、そう」 
モーニング帝国の主軸となる剣士のうち最も中心的な働きをするのがロッキー三銃士である 
岩をも持ち上げるパワーと気合で敵をなぎ倒す「巨魂のエリチン」 
優雅に舞い敵を翻弄し戦場をまるで舞踏会にする「陶酔のサユ」 
決して他人に頼らず自分の力だけで敵を焼き尽くす「孤炎のレイニャ」 
かつての王国もこの自由奔放に立ち回るこの3人相手に苦戦したものだという 
そしてそのロッキー三銃士クラスの新人が現れたというのなら王国は大ピンチだ 
「その新人・・・いったいどんな戦い方を?」 
「いやぁそこまでは言えないなぁ、ガキ団長に怒られちゃうから」 
ここまで来たらシミハムも引きはしない、モモコもシミハムの思惑に気づきエリチンをヨイショし始める 
「エリチン本当は強かったよ!ひょっとしたら帝国最強かも?」 
「エリチンと仲良くなれたら嬉しいなぁ、だから教えて?」 
単純なエリチンは二人のお世辞についつい乗せられてしまい喋ってしまう 
「じゃあ〜・・・4人のうち2人だけね?それだけなら教えてあげるよ? 
 その2人はどこか別の大陸の強い剣士らしくてね〜言葉はよくわからないんだけど凄い強いんだよ 
 リンリンっていうちっちゃい子は軟刀っていうフニャフニャした剣使うんだけど手品みたいな変な戦い方するの 
 でね!ジュンジュンっていう大きい子は硬刀っていうかった〜い剣使うんだけど僕より破壊力あるんだよ!」 
エリチンと言えば帝国一のパワーを誇っていたはずのパワーファイター 
そのエリチンより力の強い新人が入ったと知りシミハムは冷や汗をかく 

他にもアホの子のエリチンから情報を絞れるだけ搾り取ったシミハムとモモコ 
これによりモーニング帝国の様々な現状を把握する事が出来た 
代表的な大きな事項は以下の通りである 
・ミキティが突然居なくなってバタバタしてると思いきやタカーシャイ王が良くまとめているので混乱はほぼ無いらしい 
・現在帝国の総指揮はガキ・コラショワが取っているらしい、堅実なので慕われているとのこと 
・ミキティの捜索は手がかりが全くないので完全に打ち切っているらしい 
帝国がまとまっているのは王国にとっては大きな誤算 
もし帝国民の意見が一致し王国に攻め込まれたらそれこそ大ピンチだ 
「それとねモモコちゃん、モモコちゃんの対策はバッチリ出来てるから覚悟してね 
 王国で怖いのはモモコちゃんとシミハム、マイミ、ウメサンだけだってガキ団長が言ってたよ」 
いきなりの勝利宣言を聞いて凍りつくモモコ 
それも数年前フルボッコにした相手から言われたので意外と繊細なモモコのハートはかなり傷つく 
「へ・・へぇ・・・簡単に言ってくれますね・・・エリチンは私に傷ひとつ負わせられなかったのに」 
「僕自身あれ以来ずっと鍛えてきたんだよ、それにモモコちゃんの相手はレイニャがするからね 
 レイニャだったらモモコちゃんの魔法も通用しないよね?」 
「そ、そんな事ない!誰だろうと倒すもん!」 
「焦ってる焦ってるw」 
シミハムはハッとした、自分達がエリチンを尋問していたはずがいつの間にか逆に言葉責めされているのだ 
あのモモコが言葉でここまで圧されている事がその証拠だ 
おまけに帝国が安定と聞かされて自分達が焦っている事もマイナスでしかない 
「わ、わ、とりあえず戦争の話は辞めにしようよ!ゆっくりしよう」 
シミハムは慌てて話を止めだした 


05.
様々な思惑が見え隠れする話をしている中で急にシミハムがすくっと立ち上がる 
あまりにも突然なのでモモコとエリチンは何が起きたのかと不審に思う 
「誰か・・・いや、何か大群が来る」 
シミハムは敏感肌…というのを超越するほど感覚が優れているので遠くで何が起こってるのか大体わかるのだ 
「敵?」 
「うん、なんか荒っぽい」 
「そっか・・・じゃあ準備しないとね」 
そう言うとモモコは懐から取り出した黒い石をあたりに撒き散らかした 
だいたい20個くらい投げたところで撒くのをやめる 
「前から思ってたんだけどモモコちゃんってよくそんな重い石を携帯してられるね」 
「モモコは隠れマッチョだから」 
「ちょっとシミハム怒るよ!」 
プンスカしながらシミハムの背中をポコポコ殴るモモコ 
それを横目にエリチンも引きずっていた大きな箱を開け準備し始める 
そこから取り出したのはエリチンの身長より遥かに長く大きな剣、グレートソードだ 
普通の人間には到底扱えないほどの重量だが王国一の筋力を誇るエリチンだからこそ振り回す事が出来るのだ 
しかしモモコは小馬鹿にするようにつっこむ 
「エリチン・・・だからエリチンは私が磁石を撒いてる間は剣を振れないでしょ? 
 この前の大戦だって剣が地面にくっついて動けなくなってボコボコにされちゃったじゃん」 
まるでアホの子を見るような目をするモモコ 

だがモモコの発言を聞いてもエリチンは動じずニコニコしている 
「モモコちゃん、僕は前までの僕じゃないんだよ?」と言い張るほどだ 
強がってるようには見えないエリチンに少し脅威を感じつつも今は迫り来る何かに注意を払う 
そしてその何かの大群は荒っぽく辺りの草を刈り取り3人の目の前に現れた 
「お前ら旅人だな?大人しく身ぐるみ剥いでこっちによこしやがれ!」 
その者たちは薄汚い格好した大柄の集団だった、手には刃こぼれした剣を持っている 
どうも図体だけ大きくていかにも死臭を放っている者たちだ 
「この人達誰?・・・」エリチンが2人に聞く 
たまたま知っていたモモコがその質問に答えた 
「オーガ盗賊団っていう盗賊だと思う、王国や帝国の周辺で小さな犯罪ばっかりやってる人達よ」 
「ふ〜ん・・・聞いた事ないなぁ」 
「そのボスは帝国出身って聞いたけど」 
なにやらゴチャゴチャ言ってるのでオーガ盗賊の一人がしびれを切らしきりだした 
「お、俺たちを知っててビビらないなんてイかれてるのか!?野郎どもやっちまえ!」 
典型的な掛け声と共に2,30人の盗賊達がいっせいに攻めてきた 
しかし盗賊達はシミハム、モモコ、エリチンの所を着く前にゴロゴロと転んでしまう 
中には急激に転びすぎて顔面を強打した者までいる 
「な、なんだこれは!?剣が重い・・・」 
実はこれは既に盗賊達がモモコの術にかかっているのである 
モモコがばらまいた電磁石は半径20mのコンパスをイかれさせるほどとても強力だ 
その磁石の上を剣を持った男が歩けば当然引き寄せられてしまう 
走ってる最中にバランスを崩せば激しい転倒もありえる 
事実モモコは石を適当にばらまいただけで敵の過半数を倒してしまったのである 

「じゃあ残ったのは僕が倒しちゃおうかな・・・ハァァァ・・・うおおおおりゃあああああああ!!」 
力強い掛け声をあげエリチンは巨大なグレートソードを持ち上げはじめる 
総重量30キロを越す大剣は持ち上げるだけでも大変なのだがエリチンの筋力ならそれすら容易い 
しかし頭上まで持ち上げた所でエリチンはガクッと崩れグレートソードを落としかけてしまう 
それもそのはず、辺り一帯にはモモコの撒いた超強力電磁石があるので鉄の塊であるグレートソードは引き寄せられてしまうのだ 
数年前エリチンがモモコと直接対決した日も電磁石に剣を吸い取られ思うように動けなかった 
引き寄せられた剣を持ち上げてもまた別の場所にある磁石に引き寄せられてしまう悪循環 
そうこうして戸惑っているうちにモモコにあっという間に仕留められてしまったのだ 
そして現在もこうしてただでさえ重いグレートソードに引力が加わり実質100kgを越す剣を支えきれずふらついている 
「結局昔のままじゃん・・・」安心したようなガッカリしたような表情で見つめるモモコ 
しかしエリチンが本領を発揮するのはここからである 
もともと太い筋肉がさらに膨張しだし地にヒビが入りいつもはフニャフニャしてる顔も引きつり始める 
「うううううぅうううううぁああああああああああああああああ!!!」 
地を揺るがすほどの雄たけびとともにグレートソード「デカシンボル」を再度持ち上げる 
あの日モモコに負けて以来剣を振らない日は無かった、バーベルを上げない日はなかった、腕立てをしない日は無かった 
いつものエリチンの態度からは想像できないような努力の結果がこれだ 
モモコの磁力にも負けないパワーを手に入れたエリチンはグレートソード「デカシンボル」を振り回し磁力に負けてる盗賊達をなぎ倒す 

凄まじいパワーでグレートソードを振り回しバッタバッタと敵をなぎ倒すエリチンを見て唖然とするシミハムとモモコ 
その圧倒的なまでの戦力、さすがはロッキー三銃士の一角を担う「巨魂のエリチン」なだけある 
だが自分の最も得意とする戦術を打ち破られたとしてもモモコはショックを受けてはいなかった 
むしろ敵の盗賊を挑発するかのように一人無防備に前方へと歩き始めた 
「あいつだ!まずはあのガキを狙え!」 
エリチンにはそう簡単に勝てないと踏んだのかほとんどの盗賊達が武器を捨て素手でモモコに殴りかかる 
手ブラなモモコは明らかにカモだ、そのモモコを人質に取ればエリチンも攻撃をやめるだろう 
この場を打破する希望はモモコを捕らえる事だと信じ盗賊達は走り出す 
だがモモコはこの窮地にもまったく震えずむしろニヤリと気持ち悪く笑った 
「エリチン、それで勝ったと思わないでね」 
そのモモコの一言と同時に襲い掛かった盗賊達が突然倒れだす 
目をおさえる者、首を掴みもがき苦しむ者、もう既に失神している者、奇声を発する者と様々だ 
しかも盗賊達はモモコに指一本触れていなかった 
さらにモモコは手ブラなので当然武器を持っている様子もない 
「エリチンは7つの魔法のうち1個を破っただけでしょ?あと6つ破らなきゃ勝ったとは言えないよねぇ」 
モモコとエリチンの目と目の間に火花がバチバチ飛んでいたのをシミハムは確かに確認した 
力のみで全てを解決するエリチンと様々な手段を使い敵を翻弄するモモコ 
今度やりあったらどっちが勝つのかシミハムは興味を持ち始めていた 

「お、思い出した!こいつら帝国のエリチン・サチウスと王国のモモコ・エービス・ヤーデスだ!」 
もはやボロボロになっている盗賊の一人が突然叫びだした 
王国と帝国の戦士達は顔を知られるまではいかないがその強さはかなり有名である 
巨大な剣をアホみたいにブンブン振り回すエリチン・サチウス 
まるで魔法のような得体の知れない術を使うモモコ・エービス・ヤーデス 
その戦闘スタイルはマーサー王国とモーニング帝国の周辺ではあまりにも有名だった 
「うへへへへ、有名人♪」 
「私の可愛い顔くらい知っときなさいよ、失礼な盗賊ね」 
そう言いつつ気分の良いモモコとエリチンは顔が歪むのを堪えられずニマニマしてしまう 
「おいやばいぞ・・・お頭が居ないのにこんなやつら相手してられねーよ」 
「逃げるか?逃げたほうがいいよな?」 
相手がエリチン、モモコだと気づくやいなや盗賊達はザワザワと話し出す 
そしてしばらく話し合った末に3人にある質問を投げかけた 
「あの・・・そこの小さい人は・・・名前をなんて言うんですかねぇ?」 
指をさされたシミハムは待ってましたと言わんばかりに笑顔で答える 
「僕はシミハム・アセダク・ヘビーインフォだよ!一応ベリーズの団長、やってます」 
その名を聞いて盗賊達はとうとう顔が青ざめた 
エリチンもモモコも有名だがシミハムの名は比較にならないくらいに有名 
むしろ脅威だ 
「きょ・・・きょ・・・巨人シミハムだああああああ皆逃げろおおおおおお!!!」 
「うわああああああああああああ」 
エリチンとモモコに気づいた時点ではビビってるだけだった盗賊達もシミハムの名を聞いた途端脱兎の如く逃げ出してしまう 
その逃げ足の速さはマイミが全力で走る速さに匹敵したかもしれない 
「なによあいつら!私よりシミハムが怖いっての!」 
「しょうがないよモモコちゃん、僕だってシミハムはちょっと怖いし」 
シミハムは照れくさそうにポリポリと頭をかいた 
そして心の中で(盗賊の人もエリチンもわかってないなぁ・・・本当のベリーズ最強はミヤビなのに)と思う 

変な盗賊達を追っ払った頃には既に太陽が顔を出していた 
グレートソードを丁寧に箱にしまったエリチンは辺りが明るくなってるのを見てとても喜ぶ 
帝国の目印であるモーニング城が森の中からでも見えるから後は帰るのは容易いのだ 
シミハムやモモコと別れるのは少し寂しい気もするが早く帰らないとガキ団長に怒られるので仕方が無い 
「あ・・・仲良くなったついでに帝国の秘密を一個だけ教えてあげる」 
シミハムとモモコはそれを聞き目を輝かせた 
例え自信が無くなるような情報でも知っておくにこした事はないからだ 
だがエリチンの口から出た言葉はあまりにも衝撃的な情報だった 
「帝国さ、近いうちに王国に戦争ふっかけるから」 
二人の背筋は凍りついた、まるで大戦の再来だ 
何人も傷つき何人も命を落としたあの大戦…出来れば二度と経験したくないものだった 
シミハムは当然慌て「な、なんで今の時期に!?」と身を乗り出して言う 
「それがね・・・残念だけど帝国民からしたら王国って評判最悪なんだよね 
 最近になって謎の新聞が帝国中にバラまかれるようになったんだけどその新聞の内容が酷いんだよ 
 王国が帝国を皆殺しにしようとしてるとか、王国の人間は皆帝国を嫌ってるとか嘘ばっかり 
 でも帝国民はその嘘新聞を信じてアンチマーサー王国になってるからね、帝国民のほとんどが王国を攻めるべきって思ってるよ」 
「誰がそんな事を!?」 
「そんなの一兵士の僕が知るわけないよ」 
必死に迫るシミハムの熱い意見を軽くながすエリチン 
「おまけにマーサー王が拉致されたんだってね?その混乱をほっとくわけにはいかないってガキ団長が言ってた」 
「は?・・マーサー王が拉致?・・・」 
今まで王国を離れていたシミハムとモモコは当然マーサー王が拉致された事を知らなかった 
衝撃の真実にガクッと膝をついてうなだれてしまう 
「帝国民の士気は最高だし攻め込む理由もバッチリな、二人には悪いけど100年に一度も無いチャンスなんだ 
 近いうちに最強の布陣で王国に攻めるから覚悟しててね」 
そう言ってエリチンは城の方目掛けて歩いていった 
この場でエリチンを倒せば戦争が楽になるはずなのだがシミハムとモモコは一歩も動けなかった 
あまりの衝撃に動けるはずもなかった 


06.
そこはわりと小さな建物だった 
今まで眠っていたのでどういった経緯でここまで来たのかわからないが小さく古びた建物だという事は認識できた 
リカチャン・ノオカゲデ・4714世につれられて来たこの建物、やはりミキティのアジトなのだろうか 
マーサー王は手足も動かせない状況でそう考えていた 
「あなたのお部屋はここよ、柔らかいベッドが無いからって文句は言わないでよね」 
そう言ってリカチャンはマーサー王を狭い個室にぶち込んだ 
部屋と言うよりはまるで牢獄のような薄汚く何もない部屋だ 
特に文句を言うつもりはないし言える立場でもないのだが人間が住めるような環境とは到底思えない 
生かせてもらえるだけ幾分マシか・・・とマーサー王は半ば諦める事にした 
「あ、そうそう、一人でこんな部屋にずっと居るのは寂しいでしょ?とびっきりの同居人を呼んできてあげる」 
リカチャンはそう言い残しどこか別の部屋の方へ行ってしまった 
マーサー王は脱走しようとすれば出来るのだろうがどうせすぐに見つかってしまうだろうのでじっとする事にした 
そして何分かしてリカチャンは戻ってきた、とても見覚えのある誰かを連れて 
「め、メグ!」 
「お久しぶりです、マーサー王」 
そう、リカチャンの連れてきた同居人とはかつてジックス時代から王国につかえてきた戦士メグ・アンブレラだ 
マイミやシミハムと肩を並べるほどの実力者でいつも王国をピンチから救ってきたメグ 
突然何故か王国を離れる事になったのだがまさかこんな所にいるとは・・・マーサー王は驚愕した 
「じゃあメグ、無いとは思うけどマーサー王が逃げないように見張っててね」 
「わかりましたリカチャン様」 

マーサー王はまるで半身がえぐられるようなショックを受けた 
何年間も自分の傍らについていて王国を守る事のみを考えてきたメグが今やミキティの部下になってしまったからだ 
力と知恵、そして行動力を兼ねそろえた重戦士メグ・アンブレラ・・・敵として立ちはだかるなんて想定もしていなかった事だ 
「メグ・・・メグは本当にミキティを選んだのかとゆいたい」 
ショックの影響でかすれたマーサー王の声を聞きメグは冷ややかな目で応える 
「申し訳ないとは思っています、しかしこれが一番賢い選択だと思ったので」 
「私はメグと食卓の騎士達が血を流し合う姿なんて見たくない!」 
「安心してください、私が食卓の騎士相手に傷を負う事は決してありえません」 
マーサー王は愕然とした、確かにメグは食卓の騎士の中でもトップクラスの強さだったがこの自信はいったい何なのだろうか 
いくらメグだろうとマイミやシミハム達と本気でやりあえば命も危ういはず 
にも関わらずこの自信・・・マーサー王は恐怖を感じずにいられなかった 
そのやり取りを見ていたリカチャンが暇なのかうざく会話に割り込んで来る 
「もし食卓の騎士がここを嗅ぎつけたとしても相手にするのはメグだけじゃないもんね〜 
 ミキティや私みたいなレベルが出向く必要は無いとしてもミヨシちゃんやオカダちゃんがいるしね 
 それに今ここには一人も居ないけどエッグ7人集っていうなかなか強い子達がいるから王を助ける前にバタンキューかな?」 
空気を読まず早口で喋るリカチャンはまた何か思い出したように言葉を発しだした、それもまた早口で 
「そうだそうだ!エッグ7人集で思い出したけど王国と帝国がそろそろ戦争起こすんだったわ! 
 エッグ7人集のカノンを帝国に送り込んで工作をしてる真っ最中なの、王様が居ないのに王国は大丈夫かしらね」 
「て、帝国と!?」 
ここに来て様々なショックを受けてきたマーサー王だがこれが最もショックを受けただろう 
王国と帝国が戦争をして被害が軽く済むわけがない、何千人も何万人も死んでしまうだろう 
だと言うのに自分はこんな狭い部屋で何も出来ず捕らわれているのみ・・・不甲斐ないなんてものではない 
「それにしてもカノンって思ったよりやるわねぇ、あの子の書いたデタラメの新聞を帝国民全員が信じちゃうなんて 
 ミキティが新聞記者なんてスカウトしてきた時は気でも違ったかと思ったけどやっぱミキティは違うわ」 


07.
王国から鉱山へと続く長く長い草原 
馬にまたがったカンナは後ろにクマイチャンを乗せ疾走していた 
どこまでも続く草原を矢のように駆け抜けるピチレモン生まれの馬 
競走馬のように力強く走る馬に乗れてクマイチャンはご満悦だ 
(さすがピチレモンの馬は速いなあ、それにカンナも凄いよ 
カンナのこと今まで全然知らなかったけど馬をこんなに上手に扱えるなんて… 
無口だけどリシャコやアイリなんかよりずっと温かいし、、、友達になれるかも) 
そんな事を思いつつクマイチャンはカンナのムチムチした体を後ろから強く抱きしめる 
特に卑猥な考えが有る訳ではなくただ単に馬から振り落とされないためだ 
だがカンナはそんなクマイチャンを見て何か物言いたげな様子 
そのカンナの視線に気づきクマイチャンはハッと手を離す 
「ご、ご、ごめん!!ちょっとベタベタしすぎだったよね!」 
その瞬間、急に手を離したクマイチャンはバランスが取れなくなり馬から落ちそうになってしまう 
「うわあああああああああああ!!!」 
なんとか長い足の力だけで馬の胴を掴むが上半身はもはや宙吊り状態 
このままではクマイチャンは頭から落下して大怪我を負ってしまう 
カンナは左手で手綱をギュッと掴み右手をクマイチャンの方へ伸ばした 
決して手足の長い方ではないカンナだが目一杯伸ばして救おうとする 
その結果クマイチャンは伸びた右腕をガシッと掴み一命を取り留める事ができた 
本当に危ない所だったのでフウッと息を吐きカンナに感謝の言葉を送った 
「カンナありがとう!...本当に死ぬかと思ったよ...」 
言われたカンナはいつもと同じ無表情のまま馬の方を向きまた操りはじめる 
だがその右手だけはクマイチャンに合図を送るように自分の服の端をチョイチョイと引っ張る 
「ここを掴めってこと?...わかった!」 
クマイチャンは馬に振り落とされないように、且つくっつきすぎないようにカンナの服をギュッと掴む 
そして馬は依然変わりなく鉱山へと続く長く長い草原を走っていく 

馬はしばらく走り続けたがまだ目的地には到着していない 
目的の鉱山は帝国に近い所に位置しているため馬でもかなりの時間を要するのだ 
さすがにクマイチャンも退屈してきたのでカンナに頻繁に話し掛ける事になる 
「カンナって最近入ってきたんだよね?」カンナはこくりと首を振る 
「どう?キュートには慣れた?」カンナはこくりと首を振る 
「そっかあ早いなあ、性格が合わないヤツとかいないの」カンナはふるふると首を振る 
「ふうん、私もベリーズで仲悪い子はいないから同じだね!」カンナはこくりと首を振る 
「でもね、副団長のモモコとミヤビはすんごい仲悪いんだよ、いつも喧嘩してるの 
前なんかミヤビが怪我している所にモモコがいつも飲んでる砂糖水をこぼしちゃったんだよ 
でもその砂糖水が何故かその日に限って塩水でね 
それでミヤビが凄い怒っちゃって、それがまた大変で大変で」 
自分でしゃべって大笑いするクマイチャン 
だがここでクマイチャンはある事にふと気付く 
さっきまで暗い気分だった自分がカンナと喋る事で明るくなり始めているのだ 
(実際は一方的に喋ってるだけだが) 
話す事を腰折らず全てそのまま聞いてくれるのはとても気分のいいものだ 
物凄く楽になっていく 
そこでクマイチャンは決意をしたのだ...ずっと頭の中でモヤモヤしていた悩みを打ち明ける事を 
「カンナ、聞いてくれる?」カンナはこくりと首を振る 
「この前メロニアでね、食卓の騎士の中で私が最弱だって言われちゃったんだ...ムメに」カンナはピタリと止まる 
「伸びしろが無いとか、ただでかいだけとか言われちゃって...」カンナは黙ったまま 
「おまけにね、決闘でナカサキに手を抜かれたとも言われちゃって...」カンナは黙ったまま 
「それが何よりもショックで...」カンナは黙ったまま 
「本当にナカサキは手を抜いてたのかな?私が勝手に対等だと思い込んでたのかな?...」 
カンナはしばらくの間黙りこくった...そしてふるふると首を振る 
そのカンナの反応にクマイチャンはとても心が楽になる 
「本当!?...ありがとうカンナ、嘘でも嬉しいよ」 
そう言ってクマイチャンはカンナのムチムチした体をギュッと抱きしめる 
カンナは必要以上に接触されるのを嫌うが今はクマイチャンのしたい通りにさせてあげた 
そのまま沈黙が流れ続ける 
そしてそんな2人を横目に一頭の頭の悪そうな馬が2人の乗る馬を追い越していった 

「あ・・・あれ!?・・・あれってサトダじゃん!!」 
二人の横を通り過ぎていく馬のフォルムを見てクマイチャンじゃ確信した、この馬はサトダだ 
誰もが子供の頃絵本で見た伝説の馬サトダ 
賢くないので手懐けて扱うのは困難だがその代わり有り余るほどの優れた脚力とフットワークを兼ね揃えた名馬だ 
伝説の馬としてこの世界で広く知られているが少数ながらどこかに生息しているというが・・・まさかここで出会えるとは 
全世界の子供達の憧れの的であるサトダを己の目で見れてクマイチャンは心が踊る 
しかしサトダはその脚力ゆえあっという間に二人の乗る馬を追い越してしまう 
「あっやっぱり速い・・・残念だけど会えただけでもよしとしなきゃな・・・」 
夢にまで見たサトダと居られる時間がもう過ぎてしまったのでクマイチャンはガッカリしてしまう 
しかしカンナは違った、手綱をギュッと手繰り寄せムチを巧みに使い馬を加速させたのだ 
その見事なまでの馬術により馬はグングン加速しサトダをとらえる 
「カ、カンナ凄い!!!あのサトダに追いついちゃったよ!」 
そしてサトダに追いついたカンナは左手を上げサトダをまっすぐ指差す 
その姿はまるでクマイチャンに対し何か伝えたいようだった 
クマイチャンははじめはカンナが何を言いたいのかわからなかった 
だがやがてその真意に気づき衝撃を受ける、そしておそるおそるカンナに問う 
「カンナ・・・私にサトダに乗れって言いたいの?・・・」 
カンナはこくりと首を振る 
クマイチャンの体がブルブルと震え始めた、こんな震えは初めてだ 
確かにクマイチャンの武器である長刀は馬に騎乗してもその威力が衰える事はない 
いやむしろ更なる強みを見れるかもしれない 
しかもその馬がサトダなら言う事なしだ 
サトダに乗り戦闘スタイルを変え騎馬戦士となればもう食卓の騎士で最弱とは呼ばれないだろう 
(カンナ・・・本当にありがとう・・私なんかのために) 
クマイチャンはカンナの馬からサトダに飛び移った 
少々バランスを崩しかけたがここに来てクマイチャンが落馬をするはずがない、目つきがいつもと大違いだ 
そして不思議な事に扱うのが難しいはずのサトダをまるで体の一部のように楽に扱う事が出来たのだ 
まるでクマイチャンを待っていたかのような不思議な感じだ 


この日が騎馬戦士クマイチャンの原点だと後に伝えられる事となる 


08.
モモコとシミハムはただ急いでいた 
マーサー王が拉致された事で王国は酷い混乱状態であろう 
しかもエリチンの話では帝国が近いうちに王国に攻め入ると言う、事態はいよいよ深刻だ 
自分達が王国に必要不可欠だと自賛している訳ではないが指揮する者が必要なのは言うまでもない 
シミハム、モモコ、マイミ、ウメサンの4人で数千の全戦士を導いていかなくてはならない 
ジックスとして他の食卓の騎士達より多くの修羅場をくぐり抜けた者としての使命 
そして帝国とのあの大戦で終盤まで立っていた4人としての使命でもある 
あの日、この4人以外の食卓の騎士はミキティ、タカーシャイ、ガキのたった3人に撃破されてしまったから・・・ 
帝国の他の剣士、例えばロッキー三銃士の戦闘スタイルや対策を戦場の証人としてしかと伝授せねばならない 
他にもエリチンから聞いた「ジュンジュン」と「リンリン」なる剣士達の情報を伝える事も大事だ 
今の食卓の騎士達はあの大戦の日と違って未熟ではない 
キチンとした対策を練れば同じような被害を被るような事は決してないのだ 
王国の明暗を分ける情報伝達、シミハムとモモコのこれ以上ない大事な仕事 
それを果たすため二人はただただ走り続けた 
「あれ?・・・あれってひょっとして」 
シミハムが指差した先には二頭の馬が走っていた 
それもかなりのスピードだ、並の馬ではないのだろう 
「シミハムもなかなか目ざといわね〜、よーしあの騎手を打ち落として馬を拝借するとするか・・・」 
遠方の馬に向けて右手を伸ばすモモコをシミハムが慌てて止める 
「違う違うって!あの馬に乗ってる人見てよ!ほら・・デカいでしょ?・・・」 
「あら、あの無駄に大きい子はまさか・・・」 
そう、二人が見つけた馬に乗っている騎手はクマイチャンとカンナだったのだ 
実はシミハムとモモコの走っていた道はクマイチャンの目指す高山とは目と鼻の先 
なので偶然にもここで出会ってしまったという訳だ 
「あれぇ〜?あの小さい二人はひょっとしてシミハム団長とモモコかな?」 
クマイチャンとカンナは二人の方へ馬を運ばせる 

「クマイチャン!会いたかったわぁ〜」 
「モモコー」 
モモコは馬から降りたクマイチャンの方へダッシュで駆け寄りピョイとその長い胴に飛びつく 
モモコは見た目はチンチクリンだがなかなか筋力があるのでジャンプ力も相当なものなのだ 
だが抱きつかれたクマイチャンは露骨に嫌そうな顔をし始める 
それもなんだか痛そうな顔だ 
「モモコ・・・抱きついてくれるのは嬉しいけどなんかゴワゴワするしチクチクするんだけど・・ 
 モモコまた石とか針とか入ったまま抱きついたでしょ・・・」 
「あ、ごめんごめん」 
モモコはそう言うとクマイチャンから飛び降りた 
実はモモコの服の中には電磁石だけではなく多種多様の毒針や小型の暗殺セットが沢山詰まっているのだ 
それらを総称して暗器「ビックリバコ」、性格がややひねくれているモモコの愛用する武器達だ 
「人に抱きつく時はもっと注意を払ってよね!」 
プンプンしているクマイチャンを見て人の事言えないだろと冷たい目をするカンナ 
そんなカンナを見てモモコが興味を持ち始めた 
「あ、ところであなたはだあれ?」 
敵視はしていないがそれなりに警戒をしながらカンナをジロジロと見る 
しかしカンナは問われても依然黙ったまま 
失礼な態度をとるカンナにモモコのすぐ切れる堪忍袋の緒がプツンと切れてしまう 
「ちょっと黙ってないでしゃべりなさいよ!キー!」 
「わぁ〜〜モモコモモコ!カンナはあんまり喋りたがらないだけだから許してあげて! 
 その子はカンナ・ディスライクハンドって言ってキュート戦士団の新人なんだよ」 

「ふぅん・・・キュートの新人ねぇ・・・」 
その瞬間ドス黒い負のオーラがモモコを包み始める 
モモコが何かよからぬ事を考える時はいつもこうだ 
こうなった時のモモコの集中力は並大抵のレベルではない 
全神経が新人の無礼を理由にどうこじつけてマイミを陥れるかに集中される 
(ウフフフ・・・マイミは馬鹿だから巧妙なトリックを使わなくても簡単に騙せるのよね 
 本当にマイミはストレス解消にピッタリのサンドバックだわ・・・) 
どんどん悪どくなっていくモモコの表情にクマイチャンとカンナはドン引きしてしまう 
おそるおそるモモコに話しかけてみる・・・ 
「ねえモモコ、カンナも悪気があった訳じゃないんだから許してあげてよ」 
「ん?私は別にその新人さんに何かする気はまったくないわよ? 
 そう、その新人さんにだけはね・・・ウフフフフフ・・・」 
気味悪くニンマリとしているモモコにクマイチャンは更なる恐怖を感じる事となる 
モモコとは結構長い付き合いだし仲も良いがこの表情になったモモコは未だに得体が知れない 
以前モモコの大事に取っていたデザートを勝手に食べたチナミが翌日泣きながら土下座していた事があったが 
その時もモモコは今と同じような気味の悪いニンマリとした表情をしていた 
そんなモモコをほっとくのはまずいと察したのかシミハムが3人の間に割って入った 
「モモコとりあえず落ち着いて!今はこんなくだらない事をしている場合じゃないでしょ? 
 クマイチャン・・・マーサー王が拉致されたって本当なの?・・・ 
 そしてそれが本当ならクマイチャンはなんでここにいるの?他の食卓の騎士は何をしているの?」 
マーサー王の話となるとモモコのあの表情も元に戻り真剣な面持ちになる 
自国の国王がさらわれたという時にふざけていられる訳などない 
クマイチャンも同じく真面目な表情になりシミハムとモモコに事の顛末を話し始める 
「うんシミハム・・・その事は今から順を追って話すよ、驚くかもしれないけど最後まで何も言わず聞いてね」 
クマイチャンが起きた事件の全てを話していくうちにシミハムとモモコの表情は驚愕と落胆の入り混じった物になっていった 
クマイチャンの話を全て聞き終わった後も2人はしばらくの間何も口にする事が出来なかった 


沈黙が数分続いた後にクマイチャンが申し訳なさそうにポツリとつぶやく 
「もしあの時シミハムやモモコ、マイミがいればマーサー王は無事だったかもね・・・ 
 ごめんね・・・城を任された私たちがこんな不甲斐なかったばっかりに・・・」 
弱気なクマイチャンの声を聞いてシミハムはすぐさま否定に入る 
背が低いのに無理して背伸びをしクマイチャンの肩をポンポン叩きながらだ 
「そんな事ないよ、ミヤビやウメサンでさえやられてしまったんでしょ? 
 たぶんそのリカチャンって想像を超えるほどの腕前の剣士なんだと思う 
 それに僕らが全員そろっていてもミキティはその分兵力を増やしたと思うんだ 
 クマイチャン達はぜんぜん気にする事なんてないよ!」 
このシミハムがベリーズ6戦士の戦士団長に選ばれたのには戦闘の実力以外に2つの理由がある 
そのうちのひとつは「人望」、仲間が悩んでいれば慰めたり励ましてあげる 
その適切な心のケアが他の戦士たちからの信頼を集めているのだ 
これはイタズラ好きなモモコやすぐ怒るミヤビにはマネ出来ない 
そしてもう1つの理由は・・・ 
「今僕らにはクヨクヨなんかしている暇なんて無いんだ! 
 帝国をやっつけて、ミキティの手がかりを見つけて、皆で一気に乗り込まなきゃならないからね 
 一度はリカチャンに負けたかもしれないけど次は絶対負けない、僕らには戦う理由が出来たんだ 
 マーサー王を取り返す時の食卓の騎士は誰にも負けないよ!僕らはそのためのエキスパートなんだから!」 
そのシミハムの言葉を聞いてさっきまで萎れていたクマイチャンに笑顔が戻る 
よくわからないけどなんだかシミハムの言葉を聞いていると根拠の無い説得力が感じられるのだ 
「そ、そうだね!マーサー王を絶対取り返さなきゃね!」 
不思議と心が躍り始める、自分たちなら絶対やれるという安心感にも包まれる 
この骨身に染み渡り心を動かせるシミハムの「アナウンス力」 
いざと言う時にやる気を出させ一気に士気をあげるアナウンス力こそが指導者にもっとも必要な能力のうちのひとつだ 
戦士の心に染み込み戦闘意欲を沸かせ統率をはかる「アナウンス力」を持つシミハム 
付いていけば絶対勝利が約束されていると心から信じれる「カリスマ力」を持つマイミ 
どちらもなるべくして戦士団長になったと言えるだろう 
「よし!じゃあクマイチャンの剣の材料をさっさと取ってすぐ王国に帰ろう!」 
意気込んで先頭を歩いていくシミハム 
だがクマイチャンは何かひとつ引っかかったような感じで問いかける 
「ねえシミハム、さっき帝国をやっつけるって言ってたけどどういう事?」 

「ええええええええええええええええっ!?帝国が攻めてくるの?」 
クマイチャンはあまりに驚いて腰を抜かしてしまう 
いつもは無表情で冷静沈着なカンナもこればかりはさすがに目をむくほど驚く 
「エリチンから聞いた事を順を追って話すけど驚かないで聞いてね」 
さっきクマイチャンが言ったような事を言うシミハム 
しかし驚くなと言うのも無理な話でクマイチャンはオーバーリアクションばかり取り続けてしまう 
おかげで全てを話し終えるのに予定より大幅に時間を取る事になってしまった 
「王国で皆に話す時もこんなに大変なのかな・・・ハァ・・・」 
あまりに疲れてタメイキをつくシミハム、背中をさすってあげるクマイチャン 
「ごめんねシミハム、だってさっきからビックリな事だらけなんだもん 
 でも私たちは今度は絶対勝つよね、もうあの時みたいに未熟じゃないもんね 
 それにこのサトダが居れば・・・もう誰にも負ける気がしないんだ」 
そう言ってクマイチャンはサトダのフサフサしたタテガミをさすってあげる 
サトダも嬉しそうにほおをクマイチャンにすりつける 
「そうだよクマイチャン、クマイチャンもチナミもリシャコもあの大戦の日と違ってかなり成長したよ 
 みんな見違えるほど強くなったんじゃないかな?・・・ミヤビが刀を持たなくなったのを除けばね」 
「私は?私は強くなったでしょ?ねえシミハムー」 
「はいはいモモコも強くなったって事にしてあげるよ」 
「なにそれー」 
戦士たちにまた和やかなムードが戻る 


だがちょうどその時だった 
遠くから監視するように見つめているある集団がいるのを4人は知らなかった 
「お頭あいつらですよ!あいつらがさっきオレ達をボコボコにしたシミハムとモモコです!」 
「あとの2人は分かりませんけどきっと食卓の騎士に違いありませんぜ」 
古文らしき男にお頭と呼ばれている人物はニヤリとしながら返す 
「エリチンのやつはもういねぇのかい・・・まぁどうでもいいさ 
 これでようやくアイツに仇討ちが出来ると思うと全身が奮えてくるんだよ・・・ 
 そう、このオレ様を殺したシミハムをな!!」 


09.
遠方からの物音に反応したクマイチャン達はすぐさま戦闘態勢をとる 
(とは言ってもクマイチャンは武器が無いのでただ突っ立ってるだけだが) 
その物音の先から現れたのはさきほどシミハム達とやりあったオーガ盗賊団であった 
しかしさっきと違う点がただ一つ、それはオーガ盗賊団のお頭が顔を出した事だ 
大柄でかなりガタイが良い身形の汚い盗賊、顔は決して美形と呼べるものではない 
だがモモコはその顔をひとめ見ただけでピンと来るものがあった 
「あ、あなたは!」 
信じられないような顔をしてお頭を見るモモコと同様にシミハムもワンテンポ遅れて驚く 
「おう気づいたようだな・・・オレ様の顔を見て忘れたなんてほざいたらぶっ飛ばしてる所だったぜ」 
そう言うとお頭は背中にしょっていた大きな鉈をおもむろに取り出し威嚇するように地面にぶっ刺す 
「その大きな鉈・・・やはり貴方はマコ・コトミ・コバヤシ!!生きてたんですね」 
「ああそうだよシミハム!てめえの首をかっ切るために地獄から這い上がってきたんだよ 
 だがもう俺をその名で呼ぶんじゃねえぞ?・・・俺はオーガ・フロントステーションに生まれ変わったんだ」 
そう言うと小さなシミハムに向かって鋭い眼光で睨み付ける 
小さなシミハムも精一杯がんばって見つめ返す 
だがここで困ったのは何も知らないクマイチャンだ 
にらみ合ってる二人の邪魔にならないようにモモコにこっそりと質問を投げかける 
「ねえモモコ、あの怖そうな人誰なの?」 
それを聞いたモモコはあきれた風にタメ息をつき質問に答えた 
「クマイチャン覚えてないの?あいつは元帝国剣士のマコよ 
 タカーシャイやガキに並ぶほどの実力者だったじゃない、そしてあの大戦でシミハムが殺したはず・・・だったでしょ」 
「あ!あ〜あ!そ、そうだったね!今思い出したよ」 
しらじらしく言うクマイチャンだがその態度がマコの逆鱗に触れてしまう 
「なんだとこのデカブツが・・・オレ様を忘れていただと?・・・ 
 もう怒った、本気で怒った、てめぇからこのナタで真っ二つにしてやる!!」 

怒りに身を任せクマイチャンの元へ走りより大きな鉈を振り下ろすオーガ 
オーガはエリチンには及ばないもののかつて帝国でトップクラスのパワーを誇っていたのだ 
その強力な一撃が無防備なクマイチャンに向かって振り下ろされる!・・・と思ったその時だった 
すぐ隣に居たモモコがかざしたのは暗器「ビックリバコ」の一つ「超強力電磁石」 
鉄製の鉈は当然モモコの電磁石の側に引き寄せられてしまう 
ガチンとした音が鉈と電磁石から鳴り響く 
「なぁっ!?・・・そうか忘れてたぜ、厄介なキツネがいた事をな」 
そう言うと標的をモモコに変えその力強いパワーで鉈を押し始める 
「誰がキツネよ・・・ぐぐぐ・・・」 
モモコも負けずと鉈を押し返すがパワー勝負では分が悪い、じわじわと後ずさりしてしまう 
だがモモコにはまだまだ秘策があった、暗器「ビックリバコ」の一つ「毒塗り発射針」だ 
モモコの服のあちこちに取り付けられた発射針、小指をピンと立てるだけで全ての針が発射されるという代物 
ここまで至近距離なら全段HITさせオーガを毒で苦しめる事が出来るだろう 
(このままおねんねしてなさい!えい) 
小指を立てようとするモモコ 
しかしその時モモコとオーガが競り合っている所から少し離れた所からパン!パン!と言う銃声が鳴り響いた 
この状況をピンチだと思ったカンナが銃剣「ロケットエンピツ」から銃弾を発射したのだった 
「え?え?ちょ、ちょっと待ちなさいよ新人!!」 
銃弾は目にも止まらぬ速さで飛んでいき命中していった・・・モモコのお腹に 
「いだぁあああああああい!!」 
そのスキを見てオーガがフルパワーで剣を押し切りモモコを圧倒する 
あわやモモコが真っ二つになる所だったがモモコの人間とは思えない不思議な回避で大事を間逃れる 
だがカンナに撃たれたお腹からは血が流れたまま・・・ 
「なにやってるのよ新人!!」 
モモコに怒鳴られビクッとしちゃうカンナ、だがカンナもモモコを狙って撃った訳ではない 
モモコの懐に入っている電磁石によって銃弾の弾道をズラされてしまったのだ 
とにかくこのままではいけないと思ったカンナは慌てて剣を持ちモモコを助けにいく 
遠距離攻撃がダメなら近距離攻撃にすばやく移る、それがカンナの強みだ 
しかし剣も鉄なのでモモコのそばまで来た時に磁力に動きを奪われモモコといっしょに転んでしまう 
転んだ拍子に剣で自分の足も切ってしまった、まさに踏んだりけったりだ 
「キイイイイイ!!!あんたなんで邪魔ばっかりするのよ!」 
エリート街道を歩んできたカンナ・ディスライクハンド、こんな屈辱は生まれて初めてだと言う 

モモコに何度も怒鳴られてへこむカンナだがいつまでもそうしている訳にはいかない 
鬼のような形相でオーガが地面に倒れているモモコとカンナに鉈を振り落としてくる 
もう避けられない、おしまいだ!・・・と思った時に危機から救ったのはシミハムだった 
モモコ達から数メートル遠くに離れているシミハムが手にしていたのは三節棍だ 
それもただの三節棍ではない、紐により連結されている一つ一つの棒が1メートルという異例の長さ 
つまり三本合わせて3メートル強の長さだ 
こういった武器は長ければ長いほど威力や衝撃も高まるがその分扱いも難しい 
だがシミハムは長年の訓練によりこの長さの三節棍でも扱えるほどの技術を身につけたのである 
そのリーチにより生み出される衝撃は木製と言えども鉄製の鉈を易くはじく程だ 
オーガが突然の攻撃に態勢を崩すスキにモモコとカンナが遠くへ逃げていく 
「シ、シミハムありがと・・・」 
「ここは僕に任せて、一人でやれる」 
シミハムはいつも以上に真剣な顔でオーガを睨みつけた 
いつもはモモコに虐められてるシミハムだがひとたび戦闘モードになれば「巨人シミハム」へと変貌する 
そのリーチの長い武器で敵をなぎ倒す様はまるで巨人が暴れたかのよう 
それを形容して付けられた通り名が「巨人シミハム」だ 
もちろん通り名の理由はそれだけでは無いが 
「マコ!・・・じゃなかったオーガ!貴方とやりあう理由は特に無いが襲ってくるなら話は別だ 
 ベリーズ6戦士の団長として団員に危害を及ぼす者は容赦なく倒させていただく!」 
そう言うとさらにまた長い三節棍を振り回す 

しかしオーガはその三節棍にも恐れずシミハムに向かって突撃を始める 
それはシミハムの弱点を知っていたからだ 
(シミハム・・・確かにお前の武器は怖いが懐まで入り込めば威力は半減だろ? 
 お前のオヤジやオフクロには申し訳ないがオレ様のために死んでもらう!!!) 
襲い掛かる棍をナタではじきシミハムの元へと走り寄る 
そして仕舞には懐へと入り込む事が出来た 
オーガは仇討ちが出来る瞬間にめぐりあえる事が出来たので心が躍った 
大戦でシミハム一人に大敗をきすという屈辱を晴らす事が念願だったのでその喜びは大きい 
しかしそれも束の間、シミハムの左手には数年前には無かった物が握られていた 
それは近接対策用の二節棍・・・つまりはヌンチャクだ 
完全に舞い上がってたオーガは二節棍での追撃をモロに顔で受けてしまう 
「ぐぎゃああああ」 
そして倒れた所を上空に高く上げられた三節棍を振り下ろされた 
シミハムは大戦以降自らの弱点を分析して二節棍の訓練も始めていたのだ 
三節棍と二節棍を総称して多節棍「ギョニクソーセージ」 
遠距離用の三節棍を右手に、近距離用の二節棍を左手に持ったシミハムに死角はない 

シミハムの多節棍により倒れたオーガだがこのまま倒れたままではメンツを保てない 
なので気合を入れて立とうとするが当たり所が悪かったのかうまく立つ事が出来なかった 
「くそっ・・・くそっ・・立てねぇ・・・」 
ひどく悔しがるオーガを横目にシミハムは武器を仕舞い始める 
敗者にムチを打たない主義なシミハムは相手が動けないと判断したのでこれ以上の戦闘は必要ないと悟ったのだ 
「トドメをささねぇのか?オレ様はなんででも殺しにかかるぞ?」 
「その時はまた倒すから大丈夫」 
自信満々に言うシミハムにオーガはガクッとうなだれてしまった 
仮にもかつて帝国の剣士だった自分がこうも簡単に負けてしまうなんて思いもしなかったのだ 
それでつい普段はかない弱音をはいてしまう 
「ヌンチャクを持ってる事さえ知ってれば負けなかったのに・・・」 
その弱音を聞いたシミハムは突然豹変した 
なんとオーガの胸倉を掴み怒鳴りだしたのだ 
「戦場で知らなかったなんて言葉が通用すると思ってるのか!! 
 知らないだけで何千人もの罪のない人間が死ぬんだぞ・・・いい加減にしろ!」 
そう言うとシミハムはオーガの頬をひっぱたく 
いつもはヘナチョコなシミハムの怒鳴る姿にクマイチャンも驚いた 
その変貌はまるで何かが憑依したかのような変わりようだった・・・いったい何がシミハムをそうさせたのだろうか 

その後オーガは何も言わず子分達を引き連れてどこかへ去っていった 
シミハムはさっき怒鳴った姿を忘れるほどの明るい笑顔で「ささ、早く仕事済ませて王国に帰ろうよ!」と促す 
何か触れてもらいたくない事があるのだろうと察したクマイチャンは何も聞かない事にする事とした 


10.
「ガキ団長本当にごめん!褒められて嬉しかったからつい・・・」 
「誰が許すか!!その迂闊な一言でどれだけ不利になるのかわかってるのか!!」 
「ひぇ〜刀だけは辞めて!刀しまって!」 
ガキの繰り出す斬撃の雨あられを紙一重で避けるエリチン 
もし一撃でもクリーンヒットしたらイコール死なだけにエリチンは必死だ 
「ガキさん死んじゃうよぉ!」 
「ガキさんと呼ぶな!ガキ団長と呼べ!」 
そう言うとガキは打刀「一瞬」を勢い良く振り回す 
その刀の名の由来の通り打刀は一瞬でエリチンを切り裂いた 
「いたぁああああああああああ・・・くない?」 
エリチンは驚いた、確かに自分はズタズタに斬られたはずなのに痛みがまったくないのだ 
ガキほどの剣客に斬られたというのにまったくの無傷なのでエリチンは調子に乗り始める 
「ガキさん…じゃなかった、ガキ団長も腕が鈍ったんじゃない? 
 こんなに近いのに外すなんてもう年じゃないんですかぁ?」 
調子に乗っているエリチンの後ろから二人の剣士が現れエリチンに声をかける 
「エリチン…エリチンはガキさんと同い年じゃない」 
「それとそんな情けない物ぶらさげながら言うセリフじゃないっちゃね…」 
その二人の言葉を聞いてエリチンはハッとした、なんとエリチンはいつの間にか全裸になっていたのだ 
正確に言うとエリチンはガキの刀捌きで服を切り裂かれてしまったのだ 
「え?え?ひぇええええええええええええ」 
慌てて股間を隠すエリチンだがそれももう遅くそこにいる3人に全てを見られてしまった 
「ガキ団長酷い!もう結婚出来ない!」 
「知るか!」 

「とにかく反省するまで裸で居なさい!」 
「ガキ団長ひどい・・・ひどいガキ団長」 
帝国剣士団の長であるガキが何ゆえに怒ってるのかと言うとその理由はエリチンの口の軽さだ 
ついうっかり「王国を攻める」という機密をよりにもよって攻める張本人である食卓の騎士の喋るなんて言語道断 
今までの計画がパーになったとガキが刀を振り回した・・・という訳だ 
「でもガキさ…ガキ団長、どの道帝国民全員が王国に攻める事を知ってますし 
 エリチンがバラさなくてもそのうち王国に嗅ぎつけられてたのでは?」 
エリチンをかばったのはロッキー三銃士の一人サユ・ミチョシゲ・ラドノイズ 
まるで鏡のように綺麗に磨かれた鎧に包まれた美しい顔の女性である 
戦場でさえ優雅に舞うように斬り進んでいく事から「陶酔のサユ」とも呼ばれている 
そのサユの言葉を聞いてガキが頭を抱え始める 
「それが問題なんだよなぁ・・・いったいどこから王国へ攻めるという情報が漏れたのか・・・ 
 最近帝国民を混乱させてる謎の新聞も厄介だしどうすればいいものか」 
ここでガキが悩んでいる謎の新聞とはミキティの手下であるエッグ七人集のカノンという新聞記者の仕業である 
でたらめだがどこか説得力のある記事を書く技術を持つカノンが偽造した偽の新聞なのだ 
それをなんらかの手段で帝国中にバラまいているらしい、おかげで帝国のアンチ王国っぷりは異常だ 
帝国陣営は王国を攻める良い流れではあるがここまで露骨に世論を動かされては腰が落ち着く事はない 
帝国剣士団長兼帝王補佐であるガキはその事に関してとても頭を痛めていたのだ 
「レイニャ、良い考えはないか?」 
「ガキさ…ガキ団長、そういうのは興味ないっちゃね、敵を叩っ斬る以外の事は相談しないでほしいと」 
「そ、そうか」 
今ガキが話しかけた小柄の剣士こそがロッキー三銃士の最後の一人だ 
その名もレイニャ・ダケ、「孤炎のレイニャ」と呼ばれるほど一人で戦うのを好む剣士である 
しかしその強さは5000人の兵士が束になってかかっても適わないほどだ 
密かにロッキー三銃士最強との噂もあるが三銃士が対立した事は過去にないので噂止まりらしい 
とは言えおつむの方は猫並なのでガキの難しい相談に答えられるはずもない 
ガキはそれすら忘れるほど焦っているのだろう 
「ねぇガキ団長…新聞の方はどうすればいいか分からないけど良い案なら思いついたよ」 
おそるおそる言葉を発したのは全裸で情けない格好をしているエリチンだった 
「いっその事全部隠さないで公開しちゃえばいいんじゃない?そうすれば帝国民も全力で応援してくれると思うし 
 それに王国にも確実な恐怖を与える事が出来る・・・んじゃないかな・・・って思うんだけど」 


11.
クマイチャンとカンナが剣の材料を得るため鉱山へと向かってから数日経ったある日 
長刀「アンゼンピンヲノバシタヤツ」を修理するため城に残っていたチナミは今朝も早めに起きていた 
そして城で一番見晴らしの良い展望台へと元気に駆け上がっていくのだ 
誰よりも早くクマイチャンが戻ってくるのを見つけるために今日も胸を躍らせながらドアを開く 
・・・が、今日に限ってそこには大所帯が陣取っていた 
「あ、チナミおそーい」 
「チナミもトランプやりますか?」 
「よっしゃチナミ来たっ!これで俺もう大貧民じゃないもんね!」 
「オカールはすぐ強いカード出しちゃうからダメなんだよ」 
チナミはしばらくの間何がなんだかわからず呆然としていた 
いつも自分だけの空間としてゆったりとした時を過ごしていたのに何故今日はこんなに騒がしいのか 
何故リシャコ、アイリ、オカール、マイマイの4人がずうずうしくもここを陣取っているのか理解に苦しんだのだ 
「な、なんで皆ここにいるの?・・・」 
わなわなしながら尋ねるチナミを見ても特に気にする様子もなく答えるリシャコ 
「だってクマイチャンとカンナそろそろ帰ってくるんでしょ?今日はお稽古もお休みなの」 
チナミはひどくショックを受けた、自分がいち早くクマイチャンを見つけて皆に報告したかったからだ 
だと言うのに今日は余計な4人がいる…特に損はしていないが損をした気分だ 
そんな感じで凹んでいるチナミを見て包帯でグルグル巻きになっているマイマイが涙目で喋り始める 
「チナミ、大富豪は嫌い?・・・」 
そのウルウルした目を見てチナミはとてもじゃないが不満を言えなくなってしまう 
「そ、そんな事ないよ!よーし大富豪になっちゃうぞー!」 
「なんだと!次大富豪になるのは俺だっつーの!」 
「オカールは100回やっても無理だと思いますけど」 
チナミは不本意だがトランプで時間を潰す事になってしまう(とは言え数分後には誰よりも熱中するのだが) 

そしてトランプを始めて2時間だか3時間だか経った頃だった 
相変わらず負け続けているオカールがうなだれた時に何かを発見する 
「あれ?あれってカンナとクマイチャンじゃねーの?…いや、他にも誰かいるな」 
「あああああああああああああああ!!!チナミが一番最初に見つけたかったのに!!!!!!」 
オカールの胸倉を掴み怒鳴るチナミを横目にリシャコが満面の笑みで喜びながら大声をあげる 
「シミハムとモモコだ!二人も帰ってきたんだ!」 


「モモコが・・・帰ってきただと・・・?」 
訓練場でオカールとアイリの報告を聞きうろたえているのはマイミだ 
せっかくトレーニングで良い汗を流していたというのにその全てが冷や汗と化してしまう 
「おい団長どうしたんだよ、まさかモモコとやらが怖い訳ないよな?」 
「何言ってるんですかオカール・・・マイミ団長に怖い者なんてある訳ないでしょう」 
「それもそうだよな、団長ごめんごめん」 
オカールとアイリが無意識のうちにハードルを上げるのでマイミはさらに汗だくになってしまう 
自分を慕ってくれるのは嬉しいがいくら無い知恵を振り絞ってもモモコにそそのかされずにいられる策が浮かばない 
もし団員の前で失態を侵してしまったら・・・それはもはやキュート戦士団長としての名折れだ 
だがマイミは楽観的観測もしてみた 
(いや待てよ?別にモモコを怒らせるような事はしてないではないか、なら普通にしてれば平気なのでは?) 
馬鹿で単純なマイミはそれだけで気分が楽になってくる 
そして無い胸をバンバン叩きながら任せろと言った感じで二人にこう言ったのだ 
「私に怖い物なんてある訳無いだろう?たとえ誰が来ようが私が国民を守ってみせるさ」 
力強いマイミの言葉にオカールとアイリは目をキラキラと輝かせる 
やはり自分たちの団長は居るだけで心強いなと再認識したのだ 
・・・が、それもこの時までだった 
訓練場のドアがバァンと開き、そこから悪魔が叫んだと錯覚するような高い声が鳴り響く 
「マイミーおひさー♪」 
そう、モモコ・エービス・ヤーデスその人だったのだ 

モモコはニッコニコしながらマイミの方へとてくてく歩いていく 
「あわわわわモモコ・・・」 
悪魔を目の前にして腰を抜かしたマイミはただ怯える事しか出来なかった 
いくら勇気を振り絞ろうとこの悪魔の前では力が出る気がしない 
ヒトミと死闘を繰り広げたあのマイミがもはやアリンコ程度の迫力しか無くなってしまった 
さっきまでの頼もしい戦士団長がどこにもいないのでオカールとアイリは目を疑う 
オカールとアイリの視線を感じたマイミはこのままではいかんと無理矢理足を立たせ虚勢を張った 
「モ、モモコじゃないか、訓練場になんの用だ?」 
「え〜?私はただマイミが汗かきすぎて熱中症になってないか心配で・・・ほら!この塩分たっぷりのミネラルウォーター飲んで!」 
モモコは腕を伸ばし塩水の入った水筒をマイミに差し出した 
その水筒を渡されたマイミはしばらくの間それを眺めあれこれ考える 
(おそらくこれには毒が混ざっているのであろう・・・モモコがよくやる手だ 
 よぉし、ここは先にモモコに毒見をしてもらおう!これなら騙される事はないな!) 
馬鹿な頭をフル回転させて到達した答えに感動しながらマイミはモモコに話し出した 
「モモコ、ありがたいがモモコも長旅で疲れているだろう?まずはモモコが一口飲んだらどうだ?」 
「いいの?マイミ優しい・・・」 
そう言うとモモコは水筒の水を一口ゴクリと飲んだ、とても美味しそうな顔をしている 
ここで不思議に思ったのはマイミだ、あのモモコが毒を入れなかったのが未だに信じられないのだ 
(私の考えすぎだったのだろうか?・・・私もまだまだだな、上に立つ者が人を簡単に疑うのとは) 
反省したマイミは自分で自分を叱りながら手渡された塩水を一気に飲み干す 
人間は塩分を取らずに運動を続けると吐き気などを催す・・・それを心配してくれたモモコにマイミは感謝をした 
・・・と思うやいなやマイミは飲み干した塩水を一気に吐き出してしまった 
「ブハァアアアアアアアアアアア!!!」 
それどころか手足がしびれ頭痛がし、全身が熱を発し始める 
アイリとオカールはマイミの突然の急変に驚き戸惑いどうすればいいのか分からなってしまう 
「団長大丈夫か!?どうした!?どうしたんだよ!」 
「た、たいへん救護の人呼んでこないと!たいへん!たいへん!」 
その混乱をモモコがニッコリしながら見守る 
「その水には塩がいっぱい溶けてるから一気に飲んじゃだめだよぅ 
 人間は30gの塩を取るだけで致死にいたるのにマイミは相変わらず馬鹿だなぁ」 

「ゼェ・・・ゼェ・・・モモコめ…モモコめぇ…」 
普通の人間なら死ぬか寝込むかという事態だがマイミはその常人離れした生きるという力により立つ事が出来た 
とは言っても相変わらず頭痛は酷いし体中がダルいし思考も満足に働かない 
顔もいつもの美麗な顔とは程遠いほどやつれきってしまっている 
これほどまでに弱ってしまった団長を見てオカールとアイリもさすがに怒り出す 
「てめぇ!ベリーズの副団長だかなんだか知らねぇがタダで済むと思ってんのかよ!!」 
「許せません・・・団長が馬鹿なのを良いことにこれほどの仕打ちをするとは・・・!」 
オカールは鋭いジャマハダルを、アイリは堅くしなる棍棒をそれぞれモモコへ向けた 
マイミの仇だといきり立っている二人を見てモモコはクスリと笑う 
「ふぅん、やるの?」 
モモコもモモコでやるならやると言った感じだ 
いつものように鉄製武器対策として辺りに電磁石をばらまき始める 
そのばらまかれた石がなんなのかわからないオカールは後先考えずただモモコ目掛けて突撃した 
「ここは訓練場なんだぜ?怪我したからって文句言うなよなっ!!」 
・・・と威勢良く飛び掛ったオカールだが鉄製のジャマダハルが磁力に自由を奪われ派手に転んでしまう 
「うぇええええええええ!?」 

転んで口の中を切ってしまったオカール、しかもジャマダハルが電磁石にくっついて離れない 
どうしても離れないのでそのまま持ち上げてまたモモコに斬りかかろうとしてもまた他の電磁石に引き寄せられてしまう 
「ちっくしょおおおおおなんなんだよこれ!!」 
怒り心頭のオカールだがさっきから電磁石に動きを取られてばかりで指一本モモコに触れる事が出来ていない 
直線型のオカールにとってモモコはとても相性が悪い 
まさに釈迦の掌の上で踊らされる孫悟空と言った感じだ 
「あんまりたいした事ないのね、じゃあもう終わりにしよっか」 
そう言うとモモコは右手をあげパシンとオカールを平手打ちする 
アイリが見る限りそれはごく普通の平手打ちであった、これといって特別な攻撃方法ではない 
しかし不思議な事にオカールはそのただの平手打ちでふらりと倒れてしまったのだ 
「あ・・あれ?・・・」 
オカールもただの平手打ちだと言うのに頬に理解しがたい衝撃を受けた事をしっかりと感じた 
しかも足が立ちそうにない・・・いくら相手が副団長とは言えたった一撃でここまでのダメージを負う物なのだろうか 
「な・・・なにをしたんだ?・・・」 
かすれたオカールの声にもモモコは答えずただニヤニヤしているだけだった 
「最近良いとこ見せられなかったからストレス溜まってるのよねぇ〜・・・貴方たちが私の相手してくれて本当に感謝だわ 
 あ、ここは訓練場なんだから怪我をしても文句は言わないんだったよね?」 


12.
オカールの早々な敗北に最も驚いているのは他でもないアイリである 
いくらオカールがアイリより弱くて直線的な行ったり来たりしか出来ないとは言えあまりにもアッサリとした敗北だ 
さすがはジックスとしてマイミやウメサンと肩を並べた戦士と言った所か・・・決して侮る敵ではない 
アイリの全身のやわらかい筋肉が恐怖と緊張によって強張り始める 
そんなアイリを見てモモコは声のトーンを下げこう問いかけた 
「貴方アイリって言うんだっけ・・・どう?まだやる?」 
不敵な笑みを浮かべるモモコを見てまた怒りが湧き上がるアイリ 
団長を毒殺しようとしたりオカールをコケにしたモモコをどうして許す事が出来ようか 
これほどまでの被害を受けて「じゃあ辞めます」と言える道など無いのだ 
アイリの持っていた棍棒は自然とモモコの方へと向けられた 
「やるんだ、怖がってると思ってた」 
「私はそこで寝転がってるオカールとは違います!もう既にあなたの弱点は見えてますから!」 
自信ありげなアイリの言葉にモモコはピクリとする 
アイリという天才が居るというのは知っていたがこんな短時間に弱点を見抜かれるとは思いもしていなかった 
そもそもまだ暗器「ビックリバコ」の七つ道具のうち2つしか見せてないと言うのにもう弱点がバレたというのが信じられない 
だがアイリの真剣なその目を見る限りハッタリを言ってるようには到底見えなかった 
モモコは万一に備え戦場に居る時と同等の警戒をする 
「団長とオカールの仇・・・絶対取らさせてもらいます!」 
そう言うとアイリは猛虎の如き勢いでモモコの元へと走り寄った 
さっきオカールはジャマダハルが電磁石に自由を奪われ転倒したがアイリは意のままに動く事が可能だった 
それもそのはず、アイリの棍棒「ソノヘンノボウ」は木製なので磁石にくっつく訳がないのだ 
そしてモモコを射程に捉えると同時に棍棒をモモコの腹へ向けて勢いよく振り切る 
(貴方・・・いろいろ警戒しているようだけどボディのガードだけガラ空きですよ!) 
パァン! 
ヘッドスピード60以上の350ヤード級ショットが無防備なモモコのお腹に炸裂した 

確実にクリーンヒットさせたつもりのアイリだが当のモモコは平気な顔をしていた 
もちろん全力で振り下ろしたし手ごたえは確かな物だったのだがモモコは顔色一つ変えなかったのだ 
それどころか棍棒「ソノヘンノボウ」からミシミシと嫌な音が鳴り始める 
まるで鉄の壁に棒で殴りかかった時のような感触だ 
「さっき言ってた弱点ってまさかそれ?」 
呆れた感じで溜息を吐くモモコは何が起きたかわからず呆然としているアイリにパシンと平手打ちをする 
さっきオカールがやられたのと同じようにアイリもたった一撃で体の自由を奪われ床に倒れてしまう 
その時アイリは気づいたのだ、モモコの掌に何か金属のような物が付けられていた事を 
「そ、それは?・・・」 
頭が酷く痛む中アイリは力を振り絞り声を出した 
モモコもバレたら仕方が無いと掌をアイリによく見せ解説を始める 
「アルミニウム!知ってる?この金属、軽いし堅いし何よりとっても安いの」 
モモコがこっそりと掌に付けていたのは暗器の一つ、アルミ製の「逆メリケン」だ 
本来メリケンはマイミのナックルダスターのように堅く強い金属が拳の側に位置している 
しかしこの「逆メリケン」は平手打ち専用のため掌の側に金属面が広く陣取られているのだ 
この武器構造は相手に素手だと思わせ油断させる事も可能だ 
そしてモモコの筋力とアルミの堅さの合わさった平手打ちは容易に脳震盪を起こさせる事が出来る 
オカールとアイリがたった一撃で崩れ落ちたのもこれが理由なのだ、いくら強靭な肉体を持っていても脳を鍛える事など出来ないのだから 
ちなみにアルミは磁石にくっつかないので電磁石に自由を奪われる事もない 

「そのお腹も・・・」 
まだ脳震盪が響いているアイリは力なくモモコのお腹を指差す 
モモコはにっこりとしながらこくりと頷いた 
「貴方はスキ有り!とか思ってお腹を叩いたと思うんだけどそれが狙いだったのよね、ほら」 
そう言うとモモコは上着をまくりあげ中の鎧をアイリに見せる 
服の下から現れたのはおどろおどろしい形状をした銀色の鎧だった、鎧からは数千もの細かいトゲが顔を出している 
もしこれに気づかず素手で殴りかかっていたら怪我どころでは済まないだろう 
「強い人ほどスキのある所を狙うのよね、それで毎回貴方のように失敗しちゃうの 
 その棒見てごらん?・・・早めに修理しないと大変な事になっちゃうかもね」 
アイリは言われたとおり棍棒「ソノヘンノボウ」を見て目を丸くした、モモコを殴った面に無数の穴が空いていたのだ 
激しい勢いでトゲの大群に突っ込めばこうなるのは当然だ 
この鎧も暗器の一つである、名を「棘鎧」と言う 
ちなみに過去にマイミは何度もこの棘鎧を殴って全治数週間の怪我を負ったとの話もある(翌日には治ったが) 
「じゃ、私を殴った罰としてこの棒は折らさせてもらいまーす」 
モモコは手に力が入らないアイリから棍棒を奪い取り右手を大きく振り上げた 
「棘鎧」によって穴が空けられてしまった棍棒に「逆メリケン」で強力な衝撃を与えられてしまったら・・・ 
アイリはその後の展開を想像するとサーっと青ざめてしまった 
無い力を振り絞り棍棒にしがみついてモモコに嘆願する 
「辞めて折らないで!本当に・・本当に辞めて!なんでもするから・・・なんでもするから!」 
そこにはいつものプライドの高そうなアイリの姿はなかった、とても上流階級の出には見えない 
しかしモモコはそんなアイリなんか気にせず容赦なく掌を振り下ろす! 
・・・と思ったらその掌は速度を落としアイリの頭にポンと降りた 
「・・・!?」 
突然のモモコの急変にアイリはとても混乱した、何が起きたか全く把握できなかったのだ 
しばらくの間ポカンとしているアイリやオカールを見てニヤニヤしながらモモコはこう言った 
「これから大きな戦争が待ち構えてるのに大事な武器を壊す訳ないでしょ、ちゃんとしっかり直しなさいよね」 
生意気な二人をカモに出来たモモコの表情はとても満足そうだった 

「でも・・・だからってお前を許せるわけなんか・・・!」 
脳震盪で頭は依然クラクラするというのにオカールが無理に立ち上がって言葉を発する 
オカールとアイリにとってマイミ団長は常に最強でなければならない存在なのだ 
その存在をああまでしたモモコを許せるはずなど無い 
そんな憤っているオカールを見てモモコは本格的に呆れ始める 
「貴方達、マイミの事なんにも分かってないのね」 
モモコのその冷たい声を聞いてアイリとオカールの怒りは更にボルテージを上げる 
「お、お前だって何を知ってるってんだよ!!俺たちはキュート戦士なんだぞ!!」 
「私達はマイミ団長を誰よりも信頼しています!貴方が思ってるよりずっとキュートの絆は強いんです!」 
怒鳴り散らかす二人を見てモモコがどうしようかと呆れている所にバタンとドアが開く音が鳴り響いた 
そこから現れたのはリカチャン襲撃の日と比べ大分体の具合が良くなっているウメサンだった 
「ちょっとモモコ、3人を呼んできてってずっと前に頼んだのになんでそんなに時間がかかるの?」 
ウメサンの登場にアイリとオカールの表情はパァッと明るくなる 
ウメサンなら、ウメサンの実力ならモモコにも勝つ事が出来る! 
しかもウメサンは自分達と違ってモモコの武器を熟知しているはず・・・これなら勝てる!と思ったのだ 
「ウメサン!そのチンチクリンをとっちめてくれよ!」 
オカールの叫びを聞いてウメサンはキョトンとする、部屋に入るなり戦えと言われたらこうなるのは当然だ 
「ちょっと待って二人とも、いったい何が起きたの?」 
「マイミ団長が・・・マイミ団長がそのモモコに殺されかけたんです!」 
ウメサンはアイリの指差す方を向いた、確かにマイミが痩せ細りゲッソリとしている 
ウメサンはとことことマイミの方へ駆け寄っていった 
「あらあらマイミ大丈夫?」 

「ま、マイミなら大丈夫か」 
ウメサンの口から発せられた言葉は意外なものだった 
いや、確かにマイミの生命力ならこれくらいなんともないのかもしれないが・・・ 
マイミが殺されかけたと聞いてウメサンが少しも怒らなかった事に対してアイリとオカールは目を丸くする 
「ちょ、ちょっとウメサン!モモコをぶっ倒なくていいのかよ!」 
予想外の展開に驚いたオカールは焦りながらウメサンにくってかかる 
しかしウメサンは乗り気が無いのか、それともモモコと関わりたくないのかオカールを軽く流した 
「食卓の騎士の皆が病室で待ってるのにそんな事をしてる暇なんてないでしょ? 
 それにマイミはほっとけばいつものマイミに戻るよ、マイミなんだから」 
そう言うとウメサンはグッタリしているマイミを担ぎ上げ皆の待つ病室へと歩いていった 
そういえばよく見ればマイミの肌がさっきよりツヤツヤしているような・・・脅威の回復力だ 
そんなウメサンとマイミを見て呆然としているアイリとオカールにモモコが声をかける 
「ね、マイミはあの程度で死ぬようなタマじゃないのよ 
 ジックスの時からこういうイタズラは何百回とやってきてるんだから死ぬか死なないかのラインは把握してるの 
 マイミを殺すには致死量の100倍の毒を飲ませるくらいしか方法は無いかもね」 
そう言うとモモコは先を行くウメサンに追いつくために小走りをしていった 
アイリとオカールはただただ呆然としていた 


13.
「遅いよモモコ!マイミ!」 
怒ってもあまり怖くないシミハムが両手をジタバタさせながら遅れてきた者達を怒鳴りつける 
既に病室には全ての食卓の騎士が集結しており後はモモコ、マイミ、アイリ、オカールの4人を待つ形となっていたのだ 
これから色々と話したり検討したりする事があると言うのになんでこんなに遅いんだと言う事でシミハムはとてもご立腹だ 
そんな中モモコが一人責任を逃れようと言い訳を始める 
「私は早く呼ぼうと思ってたんだけどね、なんかそこの二人が訓練しないかって誘われてぇ・・・」 
気持ち悪くクネックネしながら喋るモモコを見てベリーズ戦士達は(ああ、こいつ変わってないな・・・)と呆れてしまう 
そしてモモコの露骨な責任転嫁に我慢出来なくなったオカールは身を乗り出してモモコに食って掛かっていった 
「ちょっと待て、マイミ団長に毒を飲ませたのはどこのどいつだよ!ていうか皆が待ってるなんて一言も言ってねえし!」 
「なによ貴方、ビンタ一発で倒れちゃったくせに生意気なのよ」 
「なんだとてめぇ!」 
子供みたいに言い争う二人を見て呆れる食卓の騎士一同、そしてそれを見てますます怒り出すシミハム 
机を細い腕でバン!と叩き喧嘩をしている二人に大きな声で怒鳴りつける 
「二人とも真面目にやってよ!これから大事な話が・・・」 
「うるせえよチビのくせに!!」「シミハムは黙ってなさいよー!」 
突然オカールとモモコの二人に怒鳴られてしまったのでシミハムは怖くて怖くて涙が出てしまう 
シミハムは団長として頑張ってはいるけど基本その辺の子と大差ないのだ 
「そ・・そんな・・・ぼ、僕間違った事言って無いのに・・・ふぇ・・・」 

状況は最悪だ、モモコとオカールが喧嘩をおっ始めている上にベリーズの団長であるはずのシミハムまで子供のように泣きじゃくっている 
比較的怪我の軽い食卓の騎士達が喧嘩を止めようとするが怒ったモモコとオカールの勢いを止めるのは簡単な事ではない 
ミヤビも自身の怪我が酷いながらもシミハムの頭をなでなでして落ち着かせるのに必死で喧嘩を止める所ではない 
「シミハム団長笑ってください、シミハム団長は笑っていた時のほうが可愛いですよ」 
「えぐっ・・・えぐっ・・・誰も僕の話なんか聞いてくれないんだ・・・僕なんか・・・」 
「ああっシミハム団長ネガティブにならないでください!」 
憧れの戦士であるシミハム団長がまるで幼子のようにベソをかいてるのを見てミヤビはとても戸惑っている 
戦場では凛々しくかっこいいのに何故こういう時はいつも情けないんだろう・・・ミヤビの心境はとても複雑だ 
そしてこの病室内の荒れようを見て更にため息をつく 
オカールはそこいらのベッドを引っくり返し回ってるしモモコは7つ道具のうちの6つを駆使して破壊工作を行っている 
オカールはともかくモモコに本気で暴れられると食卓の騎士達も手が付けられない 
しかもモモコを制せられるシミハムも今は赤ちゃん状態、まったくもってどうしようもない 
だが病室にいる誰もが諦めかけたその時だった、ある戦士が状況を打破するために立ち上がる 
「オカール、そろそろ辞めないか」 

立ち上がった戦士、それはさっきまで生死を彷徨っていたマイミ団長であった 
だがその顔はもう重病人のソレではなくいつものマイミそのものだ 
モモコに致死量以上の塩を飲まされてから20分も経っていないと言うのにここまで回復するなんて本来はありえない 
事実マイミの体内では依然毒が体組織を蝕んでいるし、頭痛もするしお腹も痛い 
だがマイミの体は都合良く出来ており気合を入れる事で痛みに耐えるが出来るのだ 
要はただのやせ我慢 
「マイミ団長・・・でもこいつはあんたを殺そうとしたんだぜ?」 
「オカール、モモコが本気で私を殺そうとするなら塩なんかじゃなく本物の毒を使うさ 
 それにこの程度で私が死ぬと思われていたなんて悲しい話だな」 
「え、いや俺はそんなつもりじゃ・・・まぁ・・・あんたが言うなら分かったよ」 
さっきまで野犬のように暴れていたオカールがマイミに注意されるとなるとすぐ大人しくなってしまった 
基本的に誰も敬おうとしないオカールはマイミの事だけは尊敬しているのにはとあるルーツがあったと言う 
それはまだ食卓の騎士達が集う前、オカールが幼かった頃の話だ 
貧民街で親に捨てられ、たった一人の家族である妹を救うため毎日のように盗みを働いていた頃の時代・・・ 
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幼くして親に捨てられたオカールは人を信じるという心を失っていた 
完全に他人を拒絶した生活を送っていたため金を得る事も出来ず自然と盗みを働くようになっていたのだ 
己が生きるため、妹を生かすために裕福そうな邸宅に忍び込んでは食料を奪っていった 
自分達はこんなにも苦労をしていて不幸せなのに裕福な家庭の者はいつも笑顔でいる・・・それが許せなかったのだ 
毎日毎日盗みを働いては見つかる前に逃げる事を繰り返していた、オカールにとって生きる事とは奪い取る事だった 
そしてそんな生活が当たり前になった頃、オカールは王国で城の次に大きそうな豪邸に忍び込もうと決意する 
こんな金持ちの道楽で立てたような家に住むやつはろくでなしに決まってる、オカールは常々そう思っていたのだ 
だが事件はこの日に起きた、なんと忍び込んだのが住人にすぐバレてしまったのだ 
逃げ足に自信のあるオカールは矢の如き速度で街中を駆け抜けたがその住人の俊足によりあっさり捕らわれてしまう 
オカールは腕っぷしも強いので最終手段としてそいつを片方しかないジャマダハルで切り裂こうとした 
だがその住人をいくら切っても切っても堪える様子は見えず終いには返り討ちにあってしまう 
今まで負けた事がないオカールにとって初めての敗北だった 
敗北を知ったオカールは住人に腕を引っ張られ城へと連れてこられてしまった 
オカールはこの時(このまま牢獄にぶち込まれちまうのか・・・アスナ、駄目なお兄ちゃんでごめんな・・・)と思ったと言う 
だが住人はオカールの予想とは反し王の間へ行きマーサー王と直接話をしだしたのだ 
住人はこの連れてきたオカールがいかに強く、素早く、ハングリー精神があるかと熱弁し始めたのだ 
オカールは何が起きたのか解らなかったしこの先どうなるかも解らなかった 
ひとしきり話が終わった後にオカールが手渡されたのは招待状だった 
その招待状こそが今の食卓の騎士のルーツである新兵の選考会への招待状 
豪邸の住人であり、新兵の内定がほぼ決まったも同然だったマイミのおかげによりオカールは兵という職を見つける事が出来たのだ 
妹を養える術を教えてくれたマイミにいくら感謝しても足る事はない 
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マイミがなだめる事によって狂犬のように暴れていたオカールは飼いならされた室内犬のように大人しくなった 
そしてこれにより俄然立場が弱くなってしまったのはモモコだ 
これ以上自分だけが意地を張ったとしたらただの大人気ない人間だと思われてしまう 
仮にも副団長なのにそれはまずい、泣き虫赤ちゃんと大人気ない大人がベリーズを率いているなんて恥でしかない 
よってモモコは引かざるをえなくなってしまったのだ 
「何よ何よ私だけ悪者みたいじゃない・・・もういいわよ」 
こうしてモモコが潔く(?)引く事により混乱は解決する事となった 
・・・ただ一人の赤ちゃんを除いては 
「ううっ・・・ううっ・・・僕なんか・・・僕なんか・・・」 
さっきからめそめそと泣いてばっかりいるのはベリーズ戦士団の団長であるシミハムだ、一向に泣き止む気配はない 
ミヤビがあやしてはいるものの不慣れなあやし方では効果はまるでないようだ 
これを見て他の食卓の騎士達は一抹の不安を感じ始める 
頼りな存在であるはずの戦士団の団長や副団長・・・そんなマイミがげっそりとやせ細ってしまったり 
そんなモモコが大人げなく部屋中を荒らしまくったり、そんなシミハムが子供のように泣いてしまったり 
もちろん他の戦士達は戦場でのこの3人の実力は認めているのだが、だからこそギャップが酷いと言うものだ 
ひょっとしたらキュート副団長のウメサンも何か欠点があるのでは・・・そう心配せざるを得なくなるのも仕方がない 
だがその時ウメサンがすくっと立ち上がる 
そしてシミハムに近寄り何をするのかと思いきや・・・シミハムのほっぺたをパシーンと引っ叩いたのだった 
「ふぉえっ!?」 
「シミハム・・・大事なお知らせがあるんでしょ?ちゃんとしっかりしなきゃね」 
「は、はい!」 
誰もがその時のウメサンの肉食動物のような目をハッキリと見てしまった 
今まで戦ってきたどんな強豪の目よりも鋭く恐ろしいその目を・・・ 


14.
なんやかんやあって混乱していた病室も落ち着きを取り戻す 
そして泣き止んだシミハムが何よりも大切なお知らせをその場にいる食卓の騎士全員に発表したのだ 
「帝国剣士のエリチンの話では帝国が近いうちに王国に攻めて来るらしいんだ 
 だから入念な準備と念蜜な作戦を練らなきゃいけないんだ・・・だからみんな驚いてる暇はないよ」 
シミハムは額から汗を流し大切なお知らせを言い終える 
これを聞いた食卓の騎士達は誰もが戸惑い、焦り、嘆くとシミハムは予想していた 
そんな時こそ自分が団長として適切な指示を出しリードしようと意気込んでいたのだ 
だが、シミハムの予想とは反し大切なお知らせを聞いた食卓の騎士達はそれほど驚いた様子ではなかった 
逆にシミハムが驚くほど落ち着いている 
「え、え、え、なんで?なんで皆驚かないの?」 
何がなんだかさっぱりわからないシミハムが隣にいるウメサンに尋ねる 
するととっても優しいウメサンはシミハムの頭を軽く撫でてその理由を教えてあげたのだ 
「シミハム、残念だけどみんな3日前には知ってたんだよ 
 帝国の方で噂になってるって聞いたから調査してみたらそうだって事が分かったの」 
モモコはなぁんだつまんないのと言った感じでため息をつく 
同じくシミハムも自分があまり役に立ってないと悟りシュンとする 
そんな気の滅入ってるシミハムを見て隣にいるミヤビが慰める事にした 
「気を落とさないでくださいシミハム団長、逆に言えば私たちは皆覚悟が出来てるという事です 
 どんな指示でもバシバシ出してください、絶対応えて見せます」 
ミヤビの励ましにより凹んでたシミハムも少ししっかりし始める 
そして当初の予定通り適切な指示を全員に施そうとした時だった・・・ 
「食卓の騎士の皆さん事件です!帝国のガキ、エリチン、レイニャ、サユがやってきました!!!」 
一般兵が必死の形相での叫びにシミハムの適切な指示は吹き飛んでしまった 


モーニング帝国編 【序章】
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