作:◆Wy5jmZAtv6
地図を眺めながら今後の計画を練る宗介。
タイムリミットは6時間、6時間で5人の命を奪う。
ギリギリだが出来ないわけではない、
問題は…。
「この広範囲をどう動くか、どう考える?」
クルツ、と言いかけて宗介は寂しげに口をつぐむ。
そうだ、もうクルツはいない…、マオもここにはいない。
せめて2人のうちのどちらかがいてくれれば…いや無いものねだりをしても仕方が無い。
しかも場合によっては拠点内での制圧戦を考慮に入れないといけない。
覚悟は出来ているがそれでも単身での突入は避けたかった。
「国際条約違反だがやむを得まい」
考え事をしながらもコンバットナイフでガリガリと手持ちの弾頭を削り十字の切れ込みを入れていく宗介、
ダムダム弾を作っているのだ。
ダムダム弾とは、弾頭を丸く削り、さらに十字状に切れこみを入れたもので、こうしておくと、
本来貫通するはずの弾丸が標的に命中した瞬間、破裂するようになり、したがって破壊力は、
通常弾の数十倍にも達する。
弾丸には限りがある、しかもこの地にはオドーや先ほどの女のように自分のまだ知らぬ強敵が
数多く潜んでいる。
ならば、弾丸一発一発の破壊力を可能な限り上げ、確実に一撃で沈める。
いかに頑丈を誇る相手でも、肉もろとも骨をも砕くダムダム弾の威力には抵抗しえまい。
「さてと…」
行くか、そう呟き立ち上がろうとした瞬間だった。
ソーコムを握る宗介の右腕が鋭く閃く!
僅かに遅れて弾丸が彼の耳元を掠めて通過する、マズルフラッシュを直視しないように、
さらにもう一発追い撃ちを掛ける宗介。
(早速か…探す手間が省けたな)
あの男…相当な技量だ。
気配を完璧に消して、なおかつ後ろを取ったはずなのに…、
宗介の放った弾丸を回避し、柱の影に隠れるキノ。
(残り弾は…)
さっきの1発で合計8発、ショットガンは虎の子だ…今はまだ使えない。
なら、接近戦を仕掛けるしかない。
出来る限り相手を視界に捕らえ、その上で速射ち勝負をかける。
キノは猫のように身を屈め、廃墟の中を縫うように移動を始める、
そして一方の宗介も考える、相手は相当な早撃ち自慢…察知したのはこちらが早かったにも関わらず、
トリガーを引いたのはおそらく向こうが速かった、マガジンは今使っているのを含めてあと2つ…今後を考えると無駄撃ちは出来ない。
しかし節約して戦えば火力で押し切られる危険もある。
なら接近戦しかあるまい。
宗介はコンバットナイフを構え、キノと同じように廃墟の中を滑るようにやはり移動を開始する。
(どこだ…)
薄日が差し込む中、息を潜めつつも俊敏に廃墟を駆けるキノと宗介。
神の目を持つものならわかるかもしれない、
彼らは廃墟の中、お互いの背後を取り合うべく円を描くように移動している。
それは僅かな時間でしかなかったが、妙な均衡状態をその場にもたらしてもいた。
あとは崩れるのを待つだけだ…。
一羽の小鳥が廃墟の中に迷い込む…静寂の中僅かな羽音が響いた時、
いつの間にか移動のベクトルが変わっていたらしい、
正面から宗介のナイフが凶悪な唸りを上げて、キノの首筋へと迫る。
それをキノは宗介の手首を掌で弾いて受け流す。
宗介が刃を滑らせナイフの軌道を変えるのと、キノがそのスキにトリガーを引くのは同時。
宗介が身をかがめ足元をなぎ払おうとした時には、先程の彼の心臓の位置を弾丸が通り過ぎていた。
「チッ!」
2人は同時に叫んで飛び退る、宗介のナイフの第2撃が今度はキノの胸元を狙う。
今度はくぐもった音、キノの手にはいつの間にか折りたたみナイフが握られている。
それは宗介の持つコンバットナイフの凶悪なフォルムに比べるとチャチだが、
キノの手首が閃き、逆にすべるような軌道で宗介の首筋に刃が伸びる…実用度では引けをとらない。
防ぐのは間に合わないと判断しまた後退する宗介、しかし背後は壁だ、どうする?
宗介は迷うことなく渾身の力でバックジャンプし、その反動で壁を蹴り、
その勢いのままキノへとび蹴りを見舞おうとする。
前のめりになっているキノには逃れる術がないように思えたが、キノはこれも瞬時の判断で
素早く身を伏せ、前転することで宗介のキックをやり過ごす。
そして宗介が着地し、キノが立ち上がると同時に、かちゃりと冷たい音がまた2つ同時に響いた。
微動だにせず向かい合う宗介とキノ、宗介のソーコムはキノの眉間に向けられている、
一方のキノのヘイルストームも宗介の眉間にポイントされていた、
距離は3M…お互いの技量なら必殺の距離だ。
だからこそ動けない、トリガーを引くことは簡単だ…だがそれは同時にどちらかが死ぬことを
意味する、それが自分か相手か…その確証が得られぬ限り引くわけにはいかない。
そして時間だけが過ぎていく、迷い込んだ小鳥がチチチと空気を読まずに囀る。
「らちがあかないですね?」
最初に口を開いたのはキノだった。
「ああ…」
表情を変えずに応じる宗介。
「お前は何のために戦う?」
今度は逆に宗介がキノに聞く。
「生き残りたいからです」
至極当たり前のように答えるキノ、それを受けてまた宗介。
「何人殺した?」
「それを聞いてどうするんですか?」
キノの言葉には動揺はない、それを聞いて考えをめぐらせる宗介…やがて。
「俺と組まないか?」
宗介の言葉に沈黙と失笑で応じるキノ。
「考えろ、ここで死ぬリスクと俺と共闘することのメリットを、互いの利害が一致する以上、
俺たちは共闘し、戦力を提供し合えるはずだ」
だが、俺は最後まで付き合うつもりはない、それはおそらくお前もだろう?、と心の中で呟く宗介。
宗介の言葉に思考をめぐらせるキノ。
確かに地下での出来事から、1人で戦うことの焦りを感じ始めていた矢先だ。
まして相手の力量は互角…ここは従うか…。
いざとなれば寝首を掻けばいい、相手も同じ心境だろうが…その方が後腐れがなくって、
共に戦うにせよやりやすいはずだ。
一方の宗介…彼にとっては、無論これ以上の戦闘を避けたいというのもあるが、
これからの殺人ロードを行うにあたっての人手が欲しかったというのが第一だ。
それに相手の目的が生き残るという単純な物なのも好都合だ、
正義だの愛だの憎悪だの復讐だのと、わけのわからないイデオロギーを振りかざされると厄介だ。
戦場においては生存という名の利害関係こそがもっとも強固な絆となるのだ。
さらに言うなら殺人者を手元においておくことで、間接的にかなめやテッサの安全を守れることになる。
それに…首を1つ確保できたことにもなる。
どちらからともなく、2人は銃を下ろした。
それはこの瞬間に偽りながらも同盟が締結されたことを意味した、例えるなら
昨日の他人と明日の敵の間にはとりあえず今日の友人、という所だろうか?
「ボクの名前はキノです」
キノが自己紹介を始める、伏せ目がちなのはその瞳の奥の危険な本心を隠すためとしか思えない。
「相良宗介だ」
宗介は宗介でやはりその表情は不自然極まりないのだった。
【B-5/廃墟/1日目/12:15】
【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
:ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。
【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず