作:◆I0wh6UNvl6
11:00、巨木の下で一休みしているときに放送を聞いた九連内朱巳は、ただただ不機嫌だった。
彼女は被害者に対し感情を吐き捨てる。
(まったく、馬鹿なやつらね。放り込まれて、追い込まれて、助けを求めて、自滅して……。
冗談じゃない、そんな死に方真っ平ゴメンだわ。そういうのを甘えてるっていうのよ!)
彼女にとってこの状況はいつもと変わらなかった。周りに自分より弱い者はいない、
気を抜いてミスをした瞬間に命はない、それはここでも向こうでも同じだった。
彼らの行為はあのシステムの中で『皆で中枢を倒し、自由に生きよう!』等と叫んでいることと変わりがない。
そんな策もない愚かなことをしていれば、3日後にはその姿は消えている。
理想だけでは生き残れない、彼らはそのことを知らなすぎた。
朱巳は他の2人の表情を見る。ヒースロゥの眉間には皺がよっていた。少し話しただけだが彼の思考からして
怒りの矛先は自分とは違い殺した方に向けられているだろう。
屍は相変わらずの顔だ。なんの乱れも生じていない。この程度のこと、彼の言う魔界では日常茶飯事ということか……。
「そういや、あんたの支給品ってなんだったの?」
妙に居心地の悪い空気を変えるため、純粋に気になっていたのもあり朱巳は屍に質問をぶつけてみた。
「特に必要のないものだ。」
「分かんないわよ、使い道のない物を渡す意味なんてないし。」
とは言ってみたものの、朱巳も自らの支給品に使い道を見出せずにいた。
あんなもんを一体どうしろと?
「じゃあ使い道を教えてもらおうか。」
屍がデイバックを開け中身を取り出す。中からでてきたのは素っ気無い椅子だった。
「あら、使い道なんてみえてるんじゃない?」
「・・・・・」
屍は無言で睨み付ける。普通の人間ならそれだけで震えが止まらないほどの威圧感を持っている。
だがそれを受けてなお、朱巳の顔にはニヤニヤとした笑みが張り付いていた。
「とりあえずは普通の椅子だが、何か仕掛け、もしくは罠があるかもしれないな。」
言ったのはヒースだ、怒りが静まり、表情は落ち着きを取り戻している。
「仕掛ける場所なんて見当たらないけど。」
「印象迷彩で隠してあるのかもしれない、迂闊に座ったりしない方がいい。」
「とは言ってもねえ・・・・・。」
椅子を見る朱巳少しめんどくさそうだ。
「用心にこしたことは無い。」
言いながらヒースは鉄パイプで座る場所をつっついてみた。反応は特に無い。
「それで分かんの?」
「いや、他にも体熱で反応したり一定以上の重さを加えないと反応しない場合もある。」
「壊した方が早くないか?」
「まあそうだがもし何か有利になるものだったら・・・・・」
言葉をヒースは途中で切った。屍も気づいたのだろう、先ほどと比べてさらに目つきが鋭くなる。
「・・・・・来るな。」
「ああ・・・・・。」
「よく気づくわね、あんたらやっぱ化け物?」
呆れる様な表情で彼女は呟く。
朱巳も常人に比べたら遥かに気配を感じる能力は優れている。しかし彼らはさらに異常だった。
戦闘タイプの合成人間と同等、いや、それ以上の危険察知能力だった。
「化け物というのは案外鈍感なものだぞ。」
「違いねえ!」
屍の言葉と同時に3人は散開する。直後、彼らのいた場所に1人の男が剣を振り下ろし舞い降りた。
「貴様ら、ヒルルカに暴行をはたらき、挙句殺そうと・・・・・首から下との別れを済ましておけ!」
舞い降りたこの世のものとは思えぬ美しい剣士は周りを睨み付ける。その剣士の名はギギナといった。
突然の襲撃と怒りの言葉を受ける。だが彼らにはさっぱり見に覚えの無いことだった。
ヒースと朱巳はお互いを見て目で確認する。無論互いにそんな覚えはない。
「待て、俺たちはそんな人物は知らないしまして暴行など・・・・・」
「しらばっくれる気か!?」
ギギナの水平切りがヒースを襲った。突然のことだったが後ろに身を引いてヒースはその切っ先をかわした。
それを見てギギナの表情に笑みが浮かぶ。
「ほう、手加減したとはいえ今の一撃をかわすとは、性根は腐っていても腕はいいようだな、面白い!」
2回目の剣撃がヒースを襲った。1回目とは明らかに違う、雷の如き一撃が首を飛ばそうとした。
2回目もヒースはかわす。だが前と違い余裕はない。
鉄パイプを構え、向かい合う。最早話し合いは通じない、ここで倒すつもりだ。
そしてギギナは3度襲い掛かる、2人の(動機の不明な)決闘が今始まった。
「わけわかんないわよ、あいつ何者?」
屍のもとに向かいながら朱巳が愚痴る。
「さあな、だが腕は確かだ、このままじゃ殺されるぞ。」
「なんで?」
そう朱巳がいうのも無理は無い。2人の戦いは5分5分に見えた、決してヒースは劣っていない。
「単純なことだ、獲物に差がありすぎる。」
屍は2人の方を向きながら言う。自ら戦いに参加するつもりは無いようだ。
「見ろ。」
「!」
「楽しいぞ!そんなもので私と舞えるとはな!」
魂砕きが左の足元からヒースの胴を狙う。
鉄パイプで受け止めるも鉄パイプはそのまま真っ二つになり、切っ先はヒースに吸い込まれる!
「くっ!」
ヒースは体を右に捻った。魂砕きによるダメージを最小限に抑える。
だがそれでも避けきれず、わき腹に熱い痛みが走った。
同時に彼の体に生じる脱力感、体に力が入らない。
状況を認識した朱巳は若干かったるそうに呟いた。
「うーん、まずいわね・・・・・まあ恩も売っておいて損はないし、ちょっくら行ってきますか。」
あの手のには慣れてるし。と付け加えると彼女は2人のもとへ歩いていく。
「おい。」
屍が声をかける。彼女があの戦いに割り込んでも即殺されるのがおちだと思ったからだ。
だが彼女はその呼びかけに対し振り向いてニヤッと笑い、
「まあ見てなさいって。『傷物の赤』のお手並み、拝見させてやるわよ。」
とだけ言った。
「ハァ、ハァ。」
息を荒げるヒース、前の7割程の長さになった鉄パイプを相手に向ける。
「さあ、覚悟はいいな。」
対峙するギギナ、息一つ乱していない。
その手に持つ大型剣、魂砕きは血を浴びることが嬉しいのか、その輝きを増す。
完全に窮地に追い込まれたヒース、だがその目は輝きを失っていない。
(止めをさす一太刀には必ず油断が生じるはずだ・・・・・そこに俺の勝機がある!)
集中の極地、2人の目には互いの姿以外何も見えてはいなかった。
「ヒルルカの報いを受けろ・・・・・行くぞ!」
同時に地を蹴る、互いの姿がどんどん近くなる。
と、その間に・・・・・
「はいストップ。」
1人の少女、九連内朱巳が割り込んだ。
「なっ・・・・・!」
「くっ・・・・・!」
2人とも太刀筋をギリギリで止める。魂砕きに至っては髪の毛に触れていた。
思わず止めてしまったギギナは怒りに顔を歪め、押し殺した声で朱巳に言う。
「女・・・・・戦いを汚す気か?
後で始末はつけてやる。それとも今この場で物言わぬ屍となるか?」
そこにはギラギラとした殺気が篭っていた。
「あら、無抵抗の少女を手にかけるなんて随分と安いプライドね、色男さん。
そんな接し方だと女の子も逃げちゃうわよ?」
ヘラヘラとした表情で言う。その表情に恐怖は無い。
ギギナは激昂した。女云々ではなく、『安いプライド』などとドラッケン族としての誇りを侮辱したことに。
「貴様、ドラッケン族の誇りを侮辱するとは……」
そのとき朱巳の手がスッと彼の胸元に動いた。
あまりにもゆっくりと、自然な動作で、ギギナは反応できなかった。
奇妙な形に手を捻る。
がちゃん
それは鍵を掛ける仕草に酷似していた。
「あんたもかわったところに鍵があるのね〜。」
言った直後首筋に剣を突きつけられる。
動こうとするヒース、だが朱巳はそれを手で制した。
「貴様…何をした!?」
「だから鍵を掛けたのよ、あんたのその『ムカムカとした気持ち』にね。
そんなイライラした状態で戦闘が出来るかしら?」
相手が少し手を動かすだけであっさりと自分が死ぬというのに、朱巳の表情はまだかわらぬままだ。
「そんなバカなことが・・・・・」
言いながらも彼は自分の中にチクチクしたようなものが絶えず動き回っているような気がしてならない。
それを見越してか朱巳は言葉を続ける。
「ほらまだ怒ってる。そのままじゃ胃に穴が開くわよ。」
この状況でケラケラと笑っている彼女は、恐怖に鍵でも掛けているのだろうか。
だが事実はそうではない、彼女の手のひらは汗まみれになっていた、単純に隠しているだけだ。
隠しているのはそのことだけじゃない、今この場でついている嘘もだ。
彼女の鍵を掛けるという能力、『レイン・オン・フライデイ』とは全くの嘘っぱちだった。
ただの暗示をかけて、相手をその気にさせているだけだ。
その演技はついに、自らの体を知り尽くしている生体強化系咒式士まで騙したのだ。
「外せ!」
握る剣に力を込める、断った瞬間に掻っ切るという意志が籠められていた。
「外すわよ。あんたがもう襲わないっていうなら。」
「それはできない。」
「は?なんでよ?」
驚く朱巳、ここで終わらせるはずだったのだが。
「貴様らはヒルルカを陵辱した!その行為は万死に値する!」
そういえば。と彼女はこの件の発端となった言葉を思い出した。
「だからヒルルカってだれよ?」
「知らないとは言わせんぞ。今しがたあれだけのことをしていながら・・・・・」
「ちょっと待って、今しがたって・・・・・」
記憶を遡る朱巳、暴行?殺そうと?確かこいつが来る直前に・・・・
屍の言葉が蘇る――
――壊した方が早くないか?
「・・・もしかして・・・・・ヒルルカってあれ?」
彼女の指差す先には先ほど
ヒースが鉄パイプでつっつき、
屍が『壊したほうが早い。』
と言ったあの椅子があった。
「ああ、そうだ。そういえば言ってなかったな、あの椅子の名はヒルルカ、私の愛娘だ。」
激しくため息をつく朱巳。
目を点にするヒース。
くだらんといいそっぽを向く屍。
「……椅子に暴行とか殺害なんて正気?」
ただ疲れたという表情を満面に出しながら朱巳が言った。
「そう、正気の沙汰ではない。だからこそ貴様らは・・・・・」
「「「そういう意味じゃ(ねえ。ない。ないっつーの。)」」」
見事にヒースと朱巳、そして屍までもの声が重なった。
その後、掛けていた暗示を解き、朱巳からの説明が始まった(無論一部を捏造し、一部を改変し、一部を削って)。
そしてギギナはすっかり朱巳の作り話を信じた。
「うむ、貴様らが火にくべられようとしたヒルルカを助けてくれたのか・・・・・。
ならば今回はその行為に免じてひくとしよう。」
そしてギギナはヒースの方に向きニヤッと笑う。
「貴様との戦いは楽しかった。名を聞いておこう。」
「ヒースロゥ・クリストフだ。」
「そうか、私の名はギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフ。
次合うときは互いの命を賭け、死の淵まで存分に戦おう。」
一瞬の迷いを見せるがヒースはこの誘いに
「・・・・・ああ。」
と答えた。
「それでは――剣と月の祝福を。」
神をも惚れさせるような微笑を浮かべると、くるりと後ろを向きギギナは歩き出した。
その左手にはヒルルカを持っている。
「どうして仲間に誘わなかったんだ?」
ヒースは朱巳に尋ねた。彼女のことだから自分と同じように誘うと思ったのだった。
「あの手の単細胞タイプに誘いは無理よ。一匹狼気取るのが性分だから。」
(そうかな・・・・・。)
彼は心の中で呟いた。同じ戦闘好きでも彼とフォルテッシモは違う気がしたのだ。
彼の戦い方は1人での戦い方にしては積極的すぎだった。
あの戦い方はそう・・・・・後ろに信頼できる相棒がいるような、そんな戦い方だった。
(きっといい仲間がいるのだろう。)
ヒースはもしギギナが聞いたらその場で全生命力を賭けて否定するようなことを呟いた。
「それに、次仲間にするなら話上手がいいから。無口と堅物じゃやっぱり盛り上がらないわ。」
その言葉にヒースと屍が顔をしかめたが、朱巳は知らん振りした。
そのとき、12時の放送が鳴り響く。
【風により傷物となった屍】
【E3/巨木/一日目12:00】
【九連内朱巳】
【状態】上機嫌
【装備】なし
【道具】パーティゲームいり荷物一式
【思考】エンブリオ探しに付き合う、とりあえず移動。
【屍刑四郎】
【状態】呆れ気味
【装備】なし
【道具】荷物一式
【思考】とりあえずついていってみるか。
【ヒースロゥ・クリストフ】
【状態】背中に軽い打撲
【装備】鉄パイプ
【道具】荷物一式
【思考】EDを探す。九連内朱巳を守る。ffとの再戦を希望する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ギギナ】
[状態]:若干の疲労。かなりご満悦。
[装備]:魂砕き、ヒルルカ
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:強者探索