作:◆1UKGMawNc
「議題だが、他に決めなければならないことはなんだと思うかね?」
「チーム分け!」
「集合場所と時間ね」
「捜索方面もだ。複数チームで同じ場所に行っても効率が悪い」
学校3階にある図書室。その一室で、七人もの男女が車座になっていた。
クリーオウ、クエロ、ゼルガディス、空目恭一、サラ、秋せつら、ピロテース。
全員、元いた時も場所も違うが、この世界からの脱出あるいは反抗のため、協力関係を結んだ者達である。
彼らは今、今後の行動をどうするか話し合っていた。
「うむ、では決めやすいものから決めていくとしようか」
サラは皆の言葉に頷くと、紙と鉛筆を取り出し、議題を表にまとめ始める。
クエロは地図を取り出し、中央に広げた。
「まずは、別行動を取った後の集合場所か。それは我々がいるこの場所でいいと思うが、構わないだろうか」
全員から異議なしの返答が返ってきた。
「学校の図書室、と。時間はどうする」
「次の放送までに戻ってくる、というのはどうかしら」
クエロが挙手しつつ提案した。
自分が信頼を得るためには、他のメンバーと顔を合わせておかなければ難しい。
あまり時間を置きすぎず、かつ早過ぎない時間として、クエロは放送時間を提示した。
そして、この時間にはもう一つ利点があった。
(なるほど……もし戻ってこないメンバーがいても、死亡したかどうかすぐに分かるという事か)
ブラックな話だが、確かにこの時間指定は効率的だとゼルガディスは判断した。
口には出さないが、その意図は皆が理解したようだ。
クリーオウなどは、先ほどの放送を思い出したのか、露骨に暗い顔になっている。
ともあれ、この提案も満場一致で受け入れられた。
「さて、ではチーム分けだが……個人個人で捜索したい場所もあるだろう。捜索方面と同時に決めていくとしようか。何か意見は?」
サラの言葉に、ピロテースが挙手する。
「いきなりあなたからとは思わなかった。何かな」
「私は単独行動を取る」
びっくりしたように自分を見るクリーオウに気づき、言葉を付け足す。
「勘違いするな、協力はする。ただ、一人の方が動きやすいというだけだ」
「一人では、戦力的に辛くありませんか?」
「問題ない。私が捜索するのは……ここだ」
せつらの言葉に、ピロテースは地図のほぼ中央、小さい湖のある森を指差した。
「森は私にとって庭のようなものだ。森の木々が私を助けてくれる」
聞きようによっては電波な言葉だが、多種多様な人間が集められているこの島のことだ。
恐らく森であれば力を発揮できる能力等があるのだろうとクエロは思った。
それを確認するために、ピロテースに話しかける。
「武器はあるの? 見たところ素手のようだけど」
「それも問題ない。私は精霊魔法が使える。私達ダークエルフは闇や樹木の精霊と相性がいい」
案の定のセリフが返ってきた。
「闇や樹木の精霊ね……俺の精霊魔術とは、やはり違うもののようだな」
ゼルガディスがそう漏らす。
その声を聞いて、サラはふむ、と考える仕草をした。
「……この際だ。各自の持っている能力や武器等を確認しておきたいな」
「それはいい考えだ。僕も味方の戦力は把握しておきたい」
まずせつらが同意し、この提案も皆に受け入れられた。
「――で、後はお前さん達の支給武器か」
各自の能力や武器を教え合い、残るはサラと空目の支給武器を残すのみとなった。
「うむ、良くぞ聞いてくれた。我々の支給武器は、なんと」
ゼルガディスの言葉にサラはもったいぶったように立ち上がり、両手を広げ――
「巨大ロボットと」
「核爆弾だ」
「冗談は結構なのでまじめに話してもらえないかな」
のたまった途端、せつらから冷たい一言を受けて固まった。
他のメンバーは呆然として見ているだけだ。
というより、ここに集った者の半分は《巨大ロボット》と《核爆弾》を理解できていない。
「……最近いいリアクションを貰っていないような気がするな。すまない嘘をついた。本当はこれだ」
言って、懐から一枚のカードを取り出す。
「これは?」
「よく分からない。が、裏面にこんなものが書かれている」
クリーオウの質問に返答し、皆に見えるように、手首をくるっと反す。
そこに書かれていたのは――
「H−1……」
ピロテースの呟きに、クエロが地図の一角を指し示す。
「座標かしらね。ここには……神社があるだけだけど」
と、カードを見ていた空目が気づいたように声を上げた。
「これは、カードキーだな」
「ほう? ああそうだね、確かに」
「本当だわ」
「カードキー……って、何?」
理解しているのは空目とせつら、それにクエロだけらしい。
「カードキーとは、磁気によって電子情報を保存しておき、対応するスロットに通すことで……」
クリーオウが知恵熱を出しそうな顔をしているのが目に映る。
「……要は、扉を開ける鍵ということだ」
締めくくった。
「なるほどな。この神社とやらにカードキーを使う扉があるってことか」
ゼルガディスの言葉に皆は頷いたが、空目とせつらは違った。
「いや、神社には普通そんな場所はない」
「だね。しかも、ここはこんな島だ。あるとすれば、それは……」
「隠し扉」
「隠し扉……なんか、意味ありげだね」
「そうね。わざわざ支給品として配るくらいだもの。行ってみる価値はあるかもしれないわ」
好奇心旺盛なクリーオウの言葉に相槌を打つクエロだったが、こうも思っていた。
(人探しを考えるなら、ここはどうかしらね)
その右隣と右上は禁止エリア指定区域だ。
もし、今そこに人がいたとしても、早いうちに移動してしまう可能性が高い。
北上するなら途中でかち合うこともあるかもしれないが、辿り着いた頃には誰もいないということは十分あり得た。
「ふむ……では私が行こう」
クエロの表情を目ざとく読み取ったか、サラが立候補する。
「元々私の支給品だ。私が行ってみるのが筋だろう」
「え、でも一人じゃあ……」
「もちろんそのつもりはない。誰か一緒に来てくれると助かるのだが」
皆の顔を見渡す。と、せつらが手を上げた。
「では僕が行こう。実は城に行ってみようと思っていたのでね」
「城か。確かに直線距離では行けそうにないな」
地図を見ながらゼルガディスが言った。
視線の先には崖の記述がある。北か西から回り込むしかないだろう。
「ふむ、神社でどのくらい時間をかけるか分からないのだが……」
「余裕があればで構わない。無理だと思ったらそのまま戻ろう」
「分かった。お願いする」
これで二組決まった。
三組目を決める前に、空目の支給武器を確認する。
「で、恭一の支給武器って何なの?」
「まだ見ていない」
驚愕の返答が返ってきた。
「あんた……七時間も経ってんのに悠長だな」
呆れたような視線が降ってくるが、空目にとっては興味がなかったから調べなかったに過ぎない。
ごそごそと自分のデイバッグを開け、
「ん」
珍しく硬直した。
「どうした……む」
横から覗き込んだサラの動きも止まる。
デイバッグの中から、ぎょろっとした瞳が二人を見返していた。
シャッ、とデイバッグのジッパーを引いて閉める。
そのままサラは皆のほうへ向き、言った。
「知り合いが入っていた」
「は!?」
クリーオウが素っ頓狂な声を上げる。
「知り合いだ。これは予想外だった。こんな小さなデイバッグに収まっているとは、これには魔術的措置がなされているようだな」
むむう、と興味深げにデイバッグを眺める。
「魔術がどうとかじゃなくて、そんなことより出してあげないと!」
「やめたほうがいい。きっと制御できない」
デイバッグを引ったくり、開けようとしていたクリーオウの動きが止まった。
「……制御?」
「うむ、制御だ。ずっとこの中に閉じ込められて、出れそうと思った途端にまた閉められて、大層立腹していることだろう」
「後半はあんたのせいじゃないのか……?」
ゼルガディスのツッコミを黙殺し、クリーオウの手からデイバッグを取り戻す。
「これは、ここぞという時に開けるのだ。きっとあたり構わず暴れ回ってくれる」
不穏な物言いに、クリーオウは空目に小声で話しかける。
「ねえ、一体何が入ってたの……?」
「牛」
返答は一言だった。
「……え?」
「牛」
サラやダナティアが修行を行っていた"楽園"のある虹の谷。
その虹の谷最速を自認する800kg級の暴走牛《地獄天使号》(ヘルズエンジェルごう)。
それが空目恭一の支給武器であった。
「それじゃあ、私はこの周辺を捜索するわ。時間に余裕があったら、商店街のほうまで見て回るつもり」
クエロは、学校のあるD−2周辺に円を描き、C−3にかけて指でなぞる。
街中ならば、人と遭遇する確率は高いだろう。
と、
「ならば、俺も同行しよう」
ゼルガディスが同行を申し入れた。
クエロは内心で舌打ちする。
ある程度予想はしていたが、やはり自分を監視しに来た。
「……いえ、私とあなたは別れたほうがいいんじゃないかしら。クリーオウと空目さんはどうするの?」
「クリーオウはここに残す。空目、クリーオウを頼めるか」
空目が頷くのを確認して、さらに続ける。
「お前達はここではなく、一階のどこかに隠れていろ。誰かが来て、それが俺達の探し人でなければやり過ごせ。
見つかって逃げなければならなくなったら、そいつを使え」
あごで空目のデイバッグを指しながら言う。
「他の部屋に白墨(チョーク)があっただろう。逃げる時に、外壁のどこかにそれで印をつけろ。そして神社へ行け。
印があったら、俺達も神社へ行く。……皆、それで構わんか?」
ここまで一気に言い放った。
「私もついていく」と言い出そうとしていたクリーオウなど、タイミングを逸して口をパクパクさせている。
「まあ、いいのではないだろうか。神社なら私達もまだいるかもしれん」
「神社は禁止エリアで袋小路になるからね。そんなところに好き好んで行く物好きはそうそういないか。確かに、かえって安全かも知れない」
「私もそれで構わない」
サラ、せつら、ピロテースと立て続けに賛成票が入る。
舌打ちどころか歯軋りさえしたい衝動に駆られたが、外面にはおくびにも出さず、クエロはにこやかにゼルガディスに向けて微笑んだ。
「分かったわ。正直なところ、あなたが同行してくれるなら心強いわ。よろしく」
(うまく二人きりの状況を作り上げたものね……まさか、本気で仕掛けてくる気?)
「街中は人がいる可能性が高いからな。戦力的なことを考えれば妥当だ。俺こそよろしく頼む」
(女狐が……ここらで貴様の本心を聞かせてもらうぞ)
内面と外面で正反対の表情をさせつつも、これにて全てのチーム分けが終了した。
――クリーオウは時計を見る。時刻は7:55。
つい先ほどまで賑やかだった図書室も、今はがらんとしている。
クリーオウと空目を除く皆は、すでに捜索に出た後だ。
「大丈夫だよね……皆」
ぽつりと呟く。
分かってはいるのだ。四時間後に、全員がここに戻ってきている保証などどこにもないということは。
だが、だからこそ、声に出さねば不安に押し潰されそうで怖かったのだ。
「まだここにいたのか。一階に行くぞ」
本棚の影から空目が姿を現した。
片手に、分厚い本をいくつも抱えている。
それを抱えたまま、もう片方の肩に器用にデイバッグを背負うと扉へと向かう。
「あ、待ってよ」
慌てて後を追うクリーオウの足がもつれた。
「わ!」
倒れる! と思った時には空目に体当たりしていた。
そのまま成す術もなく二人とも倒れこむ。
「痛ったぁ〜……あ、ごめん!」
「構わない」
空目は何事もなかったように起き上がると、散らばった本を集め始める。
クリーオウも慌ててそれを手伝った。
「……」
空目は不自然でない動作で、一つのしおりをクリーオウより先に回収する。
それは出発の直前、密かにサラが自分に手渡した物。そこにはサラの字でこう書かれていた。
『時が来たら皆に話そう』
主語はないが、刻印のことに相違なかった。
空目もサラも、今回程度の反逆行為で主催者が自分達を殺すことはないと確信している。
当然予想される事態だからでもあるが、何よりも刻印という絶対のアドバンテージがあるからだ。
だが、そのアドバンテージを覆そうとしていることが主催者に知れたら……その時点で自分達の命は終わるだろう。
秘密は知っている者が少なければ少ないほど良い。
今、皆に話すのは危険が大きいだろう。特にクリーオウなどはうっかり口を滑らせかねない。
だから、空目はこのしおりの言葉に同意であった。
「えっと、これで全部だよね」
そう言って空目を見たクリーオウは、また空目が自分を見ていることに気がついた。
(また、あの目……)
人ではなく、まるで石でも見ているかのような、感情のこもらない目。
また、しばし無言の時が流れる。そして、
「相当疲れているな。一階に着いたら少し寝るべきだ」
そう言って本を受け取り、踵を返して歩き出す。
「恭一は? あ、それに、皆も眠らなくて大丈夫かな……」
少なくとも、クエロとゼルガディスは夜通し歩き詰めで疲れているはずだ。
「あの場で寝ろと言っても、おとなしく寝る者ばかりではなかった。見ず知らずの他人同士で目的を持った集団を作ろうという時に、その提案はまずい」
あ、そうか。とクリーオウは思った。
仲間を早急に集めて脱出するための集団なのだ。結成時点でそんな提案をしては、捜索派と休息派で早くも分裂していたかもしれない。
「だが、戻ってきた後なら、この集団の仲間だという連帯感が生まれている。その時に提案し、無理にでも寝かせるべきだ」
「うん……分かった」
かなわないな、と思う。
自分は今になって睡眠の問題に気づいたというのに、空目はとうに気づいていて、考え、判断した上で黙っていたのだ。
(やっぱり、私足手まといなのかな)
一瞬、そんなネガティブな考えが浮かぶ。
ゼルガディスも自分を置いていくと言った。それは、自分が足手まといだったからなのではないだろうか。
(そうだよね……戦えないし頭も良くない。やっぱり私なんかじゃ――うぅん、そうじゃない)
ぶるぶるとクリーオウは頭を振る。
放送を聞いた後で、彼はさっきの目で自分を見て、そしてなんて言って来た?
(恭一に言われたことを思い出して。私にだって、できることはあるはず)
前を行く空目の姿を見つめる。
思考を停止させずに脳を働かせれば、何をすればいいのか、何をすべきでないのかは誰でも理解できる。
目の前の少年は、自分にそう言ったのだ。
だから考えろ。恭一の、クエロの、ゼルガディスの、サラの、せつらの、ピロテースの、オーフェンの、そして死んだマジクのためにも考えろ!
自分にできることなんて、きっとたかがしれてる。
でも、やらないよりやったほうがいいことはきっとある。それは――
「恭一!」
呼びかける声に、空目は振り返った。
「交代で寝よう、恭一。二時間経ったら私を起こして。その後は私が起きてるから」
「……」
「そして、皆が戻ってきて眠ったら、その間二人で番をするの」
「……」
「……それが、今私達ができるなにか、じゃない?」
クリーオウの呼びかけに、空目は無表情のままだった。
ごくりと唾を飲み込んで、クリーオウは空目の返答を待つ。そして――
「その通りだ」
空目はそれを肯定した。
「一階に行こう。二時間経ったら起こす」
「うん!」
クリーオウは満面の笑みで空目の後を追った。
【七人の反抗者】
【D−2(学校内廊下、および周辺)/1日目・08:00】
*共通認識
捜索対象:オーフェン、リナ、アメリア(死亡済)、アシュラム
行動:捜索組は12:00までに学校に戻る。学校の外壁にチョークの跡があったら神社へ。
*重要事項:空目とサラは、刻印のことを皆に話していません(時が来たら話すつもり)。
【居残り組】
【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:みんなと協力して脱出する/オーフェンに会いたい
【空目恭一】
[状態]: 健康
[装備]: 図書室の本(運搬中)
[道具]: 支給品一式/《地獄天使号》の入ったデイバッグ(出た途端に大暴れ)
[思考]: ゲームの仕組みを解明しても良い
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。
*行動:交代で二時間睡眠。皆が戻ってきたら寝かせて見張り。学校を放棄する時はチョークで外壁に印をつけて神社へ。
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【周辺捜索組】
【クエロ・ラディーン】
[状態]: 健康
[装備]: ナイフ
[道具]: 高位咒式弾、支給品一式
[思考]: 集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
+自分の魔杖剣を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
【ゼルガディス・グレイワーズ】
[状態]:健康、クエロを結構疑っている
[装備]:光の剣
[道具]:支給品一式
[思考]:リナとアメリアを探す
*行動:D-2学校周辺エリア(街中に限る)を捜索。余裕があったらC-3商店街へ。
【神社調査組】
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子
[道具]: 支給品一式/H−1のカードキー
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。
*行動:H-1神社の調査。余裕があったらG-4城へ。
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【中央の森捜索組】
【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/再会後の行動はアシュラムに依存
*行動:D-5を中心とする森へ。