作:◆xSp2cIn2A
「大事な……妹さんなんですね」
歩きながら藤花が訊いた。
「まあね」
少し照れながらも麗芳は答える。
二人は広い草原を、雑談を交わしながら歩いていた。
(いいな――麗芳さん)
藤花に姉妹はいない。それどころか親との仲も大してよくない。
それに対して守るべき妹がいる麗芳を、素直に「いいな」と思っていた。
しかし、藤花はそんなことをおくびにも出さずにまた雑談を始める。
本人は気付いていないだろうが、麗芳の話は全て、妹と言う淑芳につながっていた。
「しかし、自分よりも他人を愛す、それは少しだけ危険だ」
唐突に藤花が口を開く。しかしその声は、男のようでも女のようでもある、奇妙な声だった。
「え?」
そう言って、麗芳は立ち止まってしまう。
「今、藤花ちゃん…なんて?」
「へ?わたし、別に何も言ってませんけど……」
困惑気味の麗芳に対し、不思議そうに言う藤花。
(空耳?それにしてははっきりしていた様な……)
「ごめん……なんでもないわ。少し疲れてるみたい」
「はぁ……」
そんなやりとりをして、二人は再び歩き出した。
しかし、少し歩いたところでまた声がした。
「でも、そんなもの行き過ぎなければ世界の危機でもなんでもない。まぁ、世界の危機なんてものは、
たいていそういった“行き過ぎなければ大した事の無い物”なんだけどね」
「またっ!?」
「えっ?…またって……何がですか?」
(やっぱり、この娘が言ってたんだわ。でも自分が言ったことに気づいていない……?)
少し考え込んでしまう麗芳。そんな麗芳に、後ろから声がかかる。
「どうやら君は、世界の敵ではないようだ。しかし、相手の話を聞かないと世界の敵かどうかも分からない
なんて、ブギーポップの名折れだな」
(油断した!?後ろを取られた!)
「しまっ――」
――とんっ
振り向こうとする麗芳。しかし彼女が振り向くより早く、藤花の手刀が麗芳に当て身を食らわせていた。
「うっ」
崩れ落ちる麗芳を藤花は見ようともせず、バックの中から奇妙な衣装を取り出していた。
藤花は、その筒のような衣装を着終わると、麗芳を見下ろしていった。
「悪いが、少し寝てもらうよ。存在を制限されている今、自力で『世界の敵』を探さなくてはいけないのでね」
奇妙な衣装を着た藤花は、麗芳をうまく背の高い草で隠した。
「それではさようなら麗芳くん。君の守るべきものが妹さんであるように、僕の守るべきものは世界なんでね」
麗芳を隠した藤花はそう言うと、スタスタと歩いていった。
それは、今から世界の敵を倒しに行くような足取りではなく、『ちょっとコンビニへ』と言うような
軽いものであった。
―― 数分後 ――
「おや?こんなところに女の子が」
涸れた湖から出た『ED』ことエドワース・シーズワークス・マークウィッスルは、
草原に倒れる一人の少女を見つけた。
【C−7/湖底のそば/07:00】
【宮下藤花(ブギーポップ)】
[状態]:健康
[装備]:ブギーポップの衣装
[道具]:支給品一式。
[思考]:世界の敵の捜索
【李麗芳】
[状態]:気絶
[装備]:凪のスタンロッド
[道具]:支給品一式
[思考]:淑芳を探す/ゲームからの脱出
【ED(エドワーズ・マークウィッスル)】
【状態】健康
【道具】飲み薬セット
【装備】仮面
【思考】同盟の結成/ヒースロゥを探す
【行動】少女をどうにかする
※この話は『Are You Enemy? 』に続きます。