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269:不死の酒(未完成)

作:◆RGuYUjSvZQ

フォルテッシモが見たもの、それは自分の周りにある結界だった。

保胤は、フォルテッシモの目がくらんでいる隙に
射程外の位置の三方向に符を設置し結界を作ったのだ。
気づいた時には、フォルテッシモは結界に閉じ込められた。
「ひとまず、あなたを結界に閉じ込めさせていただきました。
 少したてば自然に結界は解けるはずなので安心してください。
 その間に私達はこの場から立ち去ることにします。」
保胤はフォルテッシモにそう宣言した。
フォルテッシモはためしに結界に触れてみた。
感触は何もないが結界を超えることはできない。
見えない空気の壁でも存在しているかのようだ。

保胤の策は決まったかに見えた。
ところが・・・
次の瞬間、フォルテッシモは前方にある結界の一つの面を空間ごと切り裂いた。
そして、フォルテッシモは結界から出るとここで保胤との距離を詰める。
一気に勝負をつけてしまうというのだろう。
だが、ここでセルティがフォルテッシモに側面より強襲を仕掛けた。

セルティはずっと離れた場所で様子をうかがっていた。
別にぼけっとしていたわけではない。
フォルテッシモはずっと保胤ばかりを気にしていて、こちらにはほとんど注意を向けている様子はなかった。
正攻法で行ってもフォルテッシモの能力でやられてしまうだけだ。
そう判断してずっとフォルテッシモに隙が出来るのを待っていたのだ。
保胤が目潰しを使った時、普通に考えればこれも隙になるのだが
フォルテッシモは目を潰されながらも余裕を持っていた。
もしこの時、近づいて攻撃していれば、セルティは投げられた符と同じ運命となっていたことだろう。
しかし、今フォルテッシモは保胤に対して攻勢に出ようとしている。
今なら相手も反応できないはずだ。
武器はもっていなかったが、素手での戦いは慣れている。
影から鎌を作り出すことも出来たが、そんな目立つことをすれば相手の注意がこちらに向いてしまうだろう。
セルティは素手のままフォルテッシモに突っ込んでいった。

フォルテッシモは保胤との距離を一気に詰めていく。
しかし、正確な攻撃の出来る射程範囲に入る前に、横からセルティが突っ込んできた。
だが、フォルテッシモはそれを読んでいた。
フォルテッシモはイナズマと初めて戦った時、相手一人を意識しすぎてしまったために
乱入してきた谷口正樹に対応できず、攻撃を食らってしまった経験がある。
同じことが起こらないように、フォルテッシモは周りも気にしていたのだ。
あの時とは違いここは砂漠の真ん中である。近くに隠れられるような場所ほとんど無い。
ようは、二人だけを気にしていればいい。
戦いなれしているフォルテッシモにとって、このくらいのことは簡単だった。

セルティが射程範囲内に入ってきたところで、フォルテッシモはセルティのほうに向き直った。
だが、いざ攻撃しようという段階で一瞬の迷いが生じてしまった。
どこを攻撃すればよいのか、考えてしまったのだ。
いつもは習慣的に頭を狙う。頭を吹っ飛ばして生きていられる人間はいないからだ。
ところが、このセルティという名の女には首から上が最初からない。
最初に会った時には目を引いたが、たいした問題ではないと深くは考えていなかったのだ。
(いくら首がないとしても、胴体を真っ二つに切断してしまえば無事ではすまないはずだ。)
フォルテッシモはセルティの胴体を攻撃対象とすることにした。
だが、その一瞬の迷いが事態を変えてしまう。

保胤はフォルテッシモが距離を詰めてくるのを見て後ろの方向へ跳躍する予定だった。
陰陽師は術により、常人よりも大きく跳躍したり、水面を歩いたりすることができる。
だが、ここで予想外のことが起こってしまった。
セルティがフォルテッシモに突っ込んでいくのが見えたのだ。
隙を突いたつもりのようだが、フォルテッシモは予想していたようだ。
セルティが危ない、そう考え保胤はセルティに向かって跳躍した。

セルティの拳が相手に届く前に、フォルテッシモはセルティの方向に向き直った。
保胤もセルティの方向に跳んではいるが間に合いそうにない。
(このままでは・・・!)
だが、ここでフォルテッシモは攻撃を一瞬遅らせた。
保胤はその一瞬のおかげで、何とかセルティを突き飛ばすことができた。

セルティは保胤に突き飛ばされたおかげで攻撃を受けず、地面に転がり込む。
しかし、次の瞬間保胤は体をずたずたに切り裂かれ、その場に倒れこんだ。
幸い真っ二つにはならなかったが、全身血まみれだった。
「馬鹿な・・・この状況下で・・・捨て身で仲間を助けるだと?」
フォルテッシモはうわ言の様につぶやいている。
セルティはこの間に保胤を担ぎ上げて逃げ出そうとしている。
だが、フォルテッシモをそれをぼんやりと眺めるばかりだ。
「イナズマと最初に戦った時のあいつと同じだ。」
フォルテッシモの声はわずかに震えていた。

ライダースーツが保胤の血をはじく。ぬるぬるとして滑ってしまう。
それでも、セルティは力任せに保胤を担ぐと北西の方向に走り出した。
本当は逃げたくはなかったのだが、フォルテッシモという男の能力は強力すぎる。
自分にはとても太刀打ちできそうもない。
保胤もいくつかの術を使って対処していたがそのほとんどが効果がなかった。
力任せにいくしかない自分は隙を突いたつもりだったのだが、最初から読まれていた。
(くそ!私があそこで飛び出したりしていなければ!)
セルティは自分の無力さを悔やんだ。

フォルテッシモは、保胤を背負って逃げ去っていくセルティをそのまま見送った。
(あの保胤という男はもう助からないな。奴の隠された力を見てみたかった)
「ちっ!」
フォルテッシモは不機嫌そうに舌打ちをするとその場から歩み去った。

セルティ達はほんの数時間前までいたA−1の島津由乃の墓の前に再びやってきた。
保胤は瀕死の状態だ。出血はまだ続いていた。
(まずは傷の手当てだけでもしなければ)
セルティは保胤をその場に下ろすと、傷の手当ての出来そうなものがないか荷物を調べた。
二人ともデイパックを背負い続けていたので、荷物自体は無事だった。
せめて包帯の代わりになるものが欲しいのだが代わりになりそうなものは何もなかった。
さすがに、紙では包帯の代わりにはならない。
セルティの着ている服にしても皮製のライダースーツを包帯にするには無理がある。
結局、保胤のボロボロになってしまった着物を代用することにした。

しかし、この状態で今更傷の手当てをしたところで助かるのだろうか。
だが、このまま放っておくわけにはいかない。
せめて消毒だけでもしようと、セルティは保胤の荷物の中にあった酒を取り出した。
消毒用の薬があれば一番なのだがこの状況では贅沢は言っていられない。
保胤のボロボロになった着物の一部を破り、酒をしみこまして傷口を拭いていく。
傷自体はたくさんあるがそれほど深くはない。だが、出血量が尋常ではない。
血は全然凝固しておらず、出血が止まる気配はない。
一通り拭いたところで、着物の布を利用して傷口を包帯で巻いていく。
巻いた着物の布が血をすってすぐに真っ赤となった。
隙間から血が染み出してきて滴りだす。出血が止まらない。
(このまま血が止まらなければ危険だ。どうすれば・・・)
セルティは焦ったが、医者でもない彼女にとってはこれ以上は何をすればいいのか検討もつかない。

セルティは最後に、気付けにと保胤の口に酒をふくませた。
すると保胤に劇的な変化が起こった。
突然、地面に溜まっていた血が見る見るうちに保胤に戻りだしたのだ。
まるでビデオの巻き戻しを見ているような光景だった。
布に染み付いていた血も見る見るうちに消えていく。
傷口のなかに戻っていっているのだ。
全てが終わった後、セルティは恐る恐る巻きつけた布をほどいた。
傷は完全に消えていた。

(なんなんだ、これは・・・。この酒が原因なのか?)
先ほど飲ませた酒は「不死の酒(未完成)」と書いてある。
(「不死の酒」だと、まさか)

驚愕するセルティの傍らで保胤は静かに眠り続けていた。

【B−2/砂漠の中/1日目・08:40】
【フォルテッシモ(049)】
【状態】不機嫌
【装備】ラジオ
【道具】荷物ワンセット
【思考】ブラブラ歩きながら強者探し。早く強くなれ風の騎士
【行動】いずこかへと歩き去る

【A−1/島津由乃の墓の前/1日目・09:30】
『紙の利用は計画的に』
【慶滋保胤(070)】
 [状態]:不死化(不完全ver)、昏睡状態(体力の消耗と精神の消耗による)
 [装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
 [道具]:デイパック(支給品入り) 、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ
 [思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている
【セルティ(036)】
 [状態]:正常
 [装備]:黒いライダースーツ
 [道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、携帯電話
 [思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/保胤の傷が突然治ったことに驚愕
[チーム備考]:『目指せ建国チーム』の依頼でゼルガディス、アメリア、坂井悠二を捜索。
       定期的にリナ達と連絡を取る

※不死化(不完全ver)について
原作(バッカーノ!)の設定のままではバランスが悪すぎるので以下の通りとします
・傷はその圧倒的な治癒力ですぐに回復するが、体力は回復しない
・完全な不死ではなく、一般人よりも即死しにくい程度とする
・不老ではない、完全な不死者には一方的に食われる、という設定は原作のまま

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