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250:Marionette

作:◆Wy5jmZAtv6

突如、空に轟音…しかしそれは何か慌てふためくような声がしたかと思うと、
それっきり音沙汰がなかった。
参加者たちは時計を見る…AM10:45。
まだ放送には早すぎる…何があったのだろうか?

「びっくりした」
鳥羽茉理は手にしたメガホンのスイッチを切って、隣にいるシズの顔を見る。
このメガホンは草原に放置されていたディバックの中から回収したものなのだが、
まさか島中全てに…おそらく何らかの仕掛けがあるのだろう、聞こえるようになっているとは
思わなかった。

だが、これは思わぬ拾い物だ…。
もともとこれで仲間たちの名前を呼びながら人探しをしようとしていたのだが、
これで手間が省けた。
2人は顔を見合わせ頷き合った。

市街地の入り口で時間を確認するパイフウ、あと一時間ほどで放送だ。
あれからまだ誰も殺せていない…早く結果を出さないことには…。
途中何人かには遭遇したが、すべてやり過ごした…見かけた者たちのほとんどがかなりの手誰れ、
だということは挙動を見るだけで理解できた、今は単独のようだが…彼らが団結すると、
厄介なことになるはずだ、その前に何か手を打たねば…、
そんな彼女の視界に2人組の男女が目に入った。

AM11:00
2人はとあるビルの屋上にいた。
はやる気持ちを抑え、深呼吸をする茉理…頭の中で何度も何度も考えた言葉を反芻する。
大丈夫だきっと出来る…。
(始さん…私を守って)
頷くとおもむろに茉理はメガホンのスイッチを入れた。

また島中に声が響きわたった。
『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
まずはシズが口火をきる。
『確かに私たち個々の力は微々たるものかもしれないが、だからこその協力だ!
 みんなで一緒に戦おう』
『そうよ!あいつらの好きになんかさせちゃダメ!…わたしは…ダンダンダンッ!!』
銃声が茉理の声を掻き消した。

背後からの銃声にいちはやく気がついたのはシズ、
放たれた弾丸は3発、その内1発はシズのレイピアが弾いた、
だが外れたかに見えた2発は屋上の手すりに当たって跳弾し、1発は背中からシズの胸板を、
そしてもう1発は茉理の腹部を無情にもそれぞれ貫いていた。

さらに2発、今度もシズは茉理をかばおうとするが、傷ついた身体では間に合わず
弾丸は茉理の肩口と、わき腹を抉る。
『ああああっ!』
悲鳴がメガホンに乗せられ、島中に響き渡る。
(どこだ…どこに…いる…)
シズは激痛に顔を顰めながらも必死で気配を探る。
もう自分たちは長くない、だが…それでもせめて刺し違える、でなければ後に続く者たちに
申し訳がたたない。
(そこか…)

射撃地点を割り出したシズはレイピアを構え、ふらふらと屋上の給水塔の影へと回りこむ。
(頼む…せめてこの一撃だけでも)
裂帛の気合と同時に繰り出した一撃、しかし…
レイピアは無情にも空を切る、と同時にその背後…非常階段脇に潜んでいたパイフウの気を帯びた手刀が、
振り向く間もなく、シズの片腕をレイピアもろとも切断し、さらに返す一撃がシズの背中をなぎ払う。
そして止めの一撃がシズの胸板を貫こうとしたのだが、それは残念ながら空を切った。
何故ならシズはもうすでに、自らの血で足を滑らせ無様にも非常階段を転がり落ちてしまっていたからだった。

その様子を冷めた瞳で見つめるパイフウ…彼女だって本当は彼らに協力したいに違いない。
だが…それはもはや叶わない。
自分はたった一人で戦わなければならない、いかなることになろうとも…
したがって標的たちが団結されることは非常に困るのだ。

『たす…たすけ…始さん…』
一方の茉理はか細い声で…メガホンに向かい今はもういない人の名前を呼ぶ。
もう島のみんながとかそういう気持ちはどこにもなく、ただ愛しい人への思い…
それのみが彼女の心を支配していた。

だがパイフウはそんな彼女にも無慈悲な一撃を放つ。
『がっ!』
弾丸は茉理の太股を貫いていた、一撃で仕留めるつもりがやはり動揺してるのか狙いが外れてしまった。
『いや…やめて…こないで…始さん…聞こえているんでしょう?、なんできてくれないのよお!
 始さんっ!続くん!終くん!余くんっ!』
もう一度銃口が、泣き叫ぶ彼女の頭を捉える。
『死にたく…ない』
狙いをつけるパイフウ、噛み締めた唇からは一筋の血が流れ出す。
(ごめん…ごめんね)
ガンッ!その銃声を最後に放送は終了した。

そして苛立ちを隠せず路上をさまようパイフウ
この襲撃は紛れも無く自分の意志で行ったことだ…だが今の行為がどれほどディートリッヒらの思惑に沿うことに、
彼らのやっていることを助けることにになるのかも、彼女は承知していた。
「なによ…これって…」

彼らの誘いに乗った時点で、彼女は自分を犬と自嘲していた…だが、
今の自分に比べれば犬ですらまだ自由だ、自分の思い通りに動いたようで、実は何一つままならない…、
自分はもはや犬以下の操り人形に成り下がってしまった。
そして操り人形の糸を操るのは…。
(殺す…殺してやるわ…絶対に)
あの悪魔だけは…ディートリッヒだけは許さない!
屈辱で狂いそうな心を憎悪で?ぎ止めながら、パイフウは次の標的を求めていた。

「待ってて…かならず…助けを…」
シズは全身を朱に染めながらも、未だ生き永らえていた。
最も片腕は切断され、胸は撃ち抜かれ、さらに背中を引き裂かれて…両足は転落の際に砕けてしまっている。
それでも…とうに死んでいるはずのダメージを受けながらもシズは、
強靭な意志と責任感で命の灯火を燃やし続けていた。
「何も…できない…まま死ぬわけには…いかない…から」
ずるずると血に染まった身体を引きずり着いた先は。
(地下か…)
坂道を上がれないため低いところ低いところと転がるようにしていたら、結果たどり着いてしまった、
中は妙にがらんどうでやけに広かった、駐車場だろうか?
先の見えない闇の中に身を進めるのはさすがに気が引けたのだろう、シズは壁にもたれるようにして
ずりずりとカニのように鈍く進んでいく。

と、背中に何かを感じた途端、彼は背中からずりおちるように床に倒れてしまう。
(トイレか…)
男子便器のチューリップがいくつも並んでいるのが彼の瞳に写る。

(あれは…)
清掃用具入れのロッカーが半開きになっている、妙に気になる。
ふらふらとシズが扉を開けると…中にはまるで夢見るように寄り添い眠る、いや息絶えている2人の少女の姿。
(死んでいる…)
おそらく事態を儚んで自ら命を絶ったのだろう…。
(惨い…可哀想に)
自分ももう死に瀕しているというのにそれでも目の前の死者を悼む心を忘れないシズ。
「せめて…こんな狭い場所で眠るのは可愛そうだ…」
少女らの死体に手を伸ばすシズ…だが。

ロッカーの正面には洗面台の鏡がある、何気なく覗き込んだシズだが…
その鏡には血まみれの自分の姿しか映っていないのだ。
シズは緩慢な仕草で振り向く、そこには確かに彼女らの死体がある、
だが鏡には映らない…。
鏡に映らない死体…そのココロは。
(ヴァンパイア!!)
気がついたときにはもう手遅れだった。
「…男か…私いらないや、死んで」
目を開いた少女の口元に牙が光ったようなそんな気がしたかと思うと、もうシズの喉は命もろとも、
剃刀で切り裂かれてしまっていたのだった。

「佐藤さん飲まないの?おいしいのに」
四つんばいになってぴちゃぴちゃとシズの血を啜る千絵、壁や路面にこぼれた血も丁寧に舐め取っていく。
「だから私男の血は飲みたくないんだってばさぁ」
「根っからレズなのね…やっぱりあそこの生徒ってみんな…」
「ふふふっ、それは歪んだ情報…心配ないって、みんな素朴で可愛い女の子ばっかりよ、
 私が保証するんだから」
聖はまるでどこかの占い師のような怪しい言葉で千絵に説明する。

あれから倉庫で陽光を凌ごうと考えていた2人だったが、
倉庫付近で奇怪なラジヲ体操もどきをしていたアイザックとミリアを見て、夜明け近い時間にトラブルは
得策ではないと方向転換、その後色々あってこのマンションに辿りついたのだった。

人一人としていないマンションはかなり不気味だったが、入ってみるとなかなか居心地がよい。
敷地内に何棟かあるマンションは全て地下の駐車場での行き来が可能だし、隠れ場所にも事欠かなかった。

「その素朴な女の子をみんな吸血鬼にしちゃうのよね、悪い人ね」
「そうよ、あーあ、由乃ちゃんもあんなに早く死んじゃうなんて勿体無い…せっかく仲間にしてあげようと
 思ってたのに」
その言葉には死者に対する手向けなど一片たりとも含まれていなかった。
「で、ころして欲しいんじゃなかったの?」
聖は意地悪く千絵の耳元で囁く。
「そうなんだけど…飲み終わったらまた考える」
「ふーん」
聖もそれ以上は聞かなかった、そもそも本気で死ぬつもりなら外に飛び出せばそれですむ。
まぁ、あれで死ななかったのだから…多分太陽もそれほど恐れる心配はないのかもしれない。
多少肌がヒリヒリするが…。

そんな聖の足元にゆっくりと赤が広がっていく…、
「でも…やっぱり欲しいのよね?」
千絵は物欲しげな聖の表情を見逃さなかった。
「私の血ならいいでしょ…はい」
千絵は自分の唇を聖の唇に重ね、そこから飲んだばかりのシズの血を口移しで流し込んでいく、
「あは…おいし…しおりぃ…」
恍惚の表情でうっとりと喉を鳴らす聖、血を受け入れると同時に傷の治癒が早くなっていく、
そして千絵は千絵でまた次の準備に取り掛かっていた。
「飲み終わったら死体の処理をして、また隠れましょ…次の隠れ場所も任せて…」

【鳥羽茉理 シズ 死亡】【残り88人】

【C-6/住宅地/1日目・11:00】
【パイフウ】
 [状態]健康
 [装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
 [道具]デイバック一式(茉理の分も回収)
 [思考]主催側の犬になり、殺戮開始/火乃香を捜す

【C-6/住宅地/1日目・11:00】

『No Life Sisters(佐藤聖/海野千絵)』
【佐藤聖】
 [状態]:吸血鬼化/身体能力等パワーアップ、左手首に切り傷(徐々に回復中)
 [装備]:剃刀
 [道具]:支給品一式/カーテン(シズの荷物を回収)
 [思考]:次の隠れ場所に移動
 吸血、己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)

【海野千絵】
[状態]: 吸血鬼化/身体能力等パワーアップ
[装備]: なし
[道具]: 遮光カーテン
[思考]: 聖についていく/己の欲望に忠実に (今でも死にたいかは不明)

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