作:◆Wy5jmZAtv6
時計を見る…もう2時間も経過している。
「まいったなぁ」
パイフウはため息をつく、眼下にはハックルボーンら3人の姿。
「あの筋肉親父、かなり出来るわね」
さりげなく立っているように見えて、しっかりと自分の位置からは死角になる、
そんな絶妙のポジショニングだ…まぁ偶然なのだが。
だからといって接近戦はもっての他、あの身体能力は脅威以外の何者でもない。
ならば退くか…だが自分の入ってきた入り口へと戻るには彼らのいる場所を通過せねばならない。
他の出入り口を探すのも手だったが、今の状況で出会い頭の遭遇戦は避けたかった。
そんなこんなで不毛な時間が続く中、
パイフウはゆっくりと呼吸を整え、気を練っていく。
最初はかなり戸惑ったが。ここ数時間の慣らしによってかなり練れるようにはなってきている。
それでも本調子とわけにはいかないが。
とにかく焦ってはならない、慎重に行かねば…
「でも、何か動いてくれないと…ね」
「あ、おっきなお城」
島津由乃は目の前にずでーんと広がる城壁をみて嘆息する。
とりあえず入り口を探してくるりと周囲を適当に回ってみたが、見つからない。
ちなみにその時立小便している人(平和島静雄)を見つけたが、なんだか雰囲気が怖そうだったので、
声をかけるのはやめにした。
「あ、もしかして幽霊だから大丈夫かな…」
そーっと城壁に手を沈めていく由乃、音もなく手は壁へと侵入していく。
「あ、やっぱりOKか、なんか手品師になったみたい、奇跡のイリュージョニスト
ヨシノ・シマヅなんてね」
こうして城へと進入を果たす由乃、すでに自分が死んでいることはなるだけ考えないようにしていた。
そして城の中に入ったその時、
「誰?」
少しだけ外の空気を吸いにきたキーリと鉢合わせしたのだった。
「あああああっ…あのっ」
いきなりの遭遇に慌てたのは由乃。
「あっ、あやしい者じゃないんです…わたし島津由乃っていいまして、ちょっと理由があって
でもでも、昨日の朝まではちゃんと生きていてっ!」
そこで由乃はキーリがまったく驚いていないのに気がつく。
「あの…私幽霊なんだけど、驚かないの?」
「うん、私そういうの見えるから」
特に感情を込めることなく応じるキーリ。
「本当にいたんだ」
どちらかといえば、そういう話をする自称霊感少女を嘘つき呼ばわりしてた由乃である。
ちょっと目からうろこが落ちた。
でも、驚いてくれなかったのはちょっと残念な気がした。
「私の名前はキーリ」
キーリはやはり感情を込めることなく、由乃に自己紹介をする。
笑ったらもっと可愛いのに、と思いながら握手をしようとして、もうそんなことはできないというのを、
思い出し、由乃はそっと手を引っ込めた。
「声?」
白い大理石の廊下を歩くキーリと由乃
「うん…由乃ならわかるかなと思って、多分最近ここで殺された人だと思うんだけど」
事も無げに血なまぐさい言葉を口にするキーリ。
「何か私に伝えたいことがあるような…そんな声、よく聞こえないんだけど」
由乃は一瞬ぎょっとしてきょろきょろとせわしなく首を動かす。
自分も同じとわかっていてもやはり怖い。
「どう?わからない?」
そんな自分に真剣に答えを求めてくるキーリ。
(やっぱりこういう子って普通じゃないんだ…もったいないな)
「あのさあ」
見えるのは認めるとして、もう少し普通に…、と由乃が言いかけた時だった。
「彼女から離れよ」
振り向いた先にはハックルボーンのむくつけき姿があった。
「不浄なる者よ。彼女から離れよ」
由乃に向かい断言するハックルボーン、その口調に怯えキーリの背中に隠れる由乃。
「あっ…ああああっ、あの、それはわかるんです、でも」
「ほら…いいいいろいろ未練がありまして、その…ねぇ」
自分でも何を言っているのかわからない、とにかく成仏する意思はあるのだということを
伝えないと…折角戻れたのに、このまま何も出来ないままではあの人に申し訳がたたない。
だが由乃のそんな葛藤などこの神父は一切考慮しない。
「未練など捨て、神の御許へ召されよ。迷う必要などない。迷いこそ神への背信」
ずいと進み出るハックルボーン、気押され下がるキーリ。
「ですけど神父さま…由乃は嫌がってます」
「それこそが神への背信に他ならない」
ああ…この人も同じだ…。
キーリの頭にヨアヒムの顔が浮かぶ。
でも…欲望に忠実なだけヨアヒムの方がまだマシな奴かもしれない。
少なくとも自分の正義に酔ってる奴より。
「神を疑うことなかれ」
ハックルボーンはただでさえ厳しい顔をさらに険しくして、キーリらに迫る。
キーリは由乃をかばうように立ちはだかる。
「あなた方の神に祝福を」
ハックルボーンは拳を構える。
「2人そろって神の御許へ召されよ」
その時だった…彼らの間を分かつように銃弾が飛来したのは、
ハックルボーンの注意がそれた時にはキーリはすでに逃げ出していた。
「死んじゃえ」
そう捨て台詞を吐いて。
当然後を追おうとするハックルボーンだが、さらなる銃弾が彼の脇腹に命中する…しかし
「我が鋼の信仰はこのような物で砕かれたりはせぬ」
ムン!とポーズを決めると脇腹の傷から弾丸がひしゃげて床に転がり落ちる。
そしてハックルボーンは弾丸の飛来した方角へと猛ダッシュをかけるのだった。
「なっ…なによあいつは」
ハックルボーンの恐るべき肉体を目の当たりにしたパイフウ。
気で弾丸の軌道を曲げておかなければ、今ごろここを捕捉され…あえない最期を遂げていただろう。
なれない事はするんじゃない、あの最初の一撃が命中さえしていれば…。
とにかく脱出口が開いた、もうこの城には用はない。
パイフウも神父が戻らぬうちにと撤収を開始した。
一方のキーリと由乃。
「はやくっ!はやく逃げて!!」
かんかんとリズミカルに階段を降りるキーリ、ふと振り向くと由乃が転んでいる。
「あなた幽霊でしょう!!何人間みたく転んでるのよ!!」
「まだなって2時間しか経ってないんだからいいじゃないの!!」
口論しながら走る2人。
「そこ、そこから私城にはい…」
鈍い音がしたかと思うと額を押さえうずくまってるキーリ。
「あ…ここすり抜けたんだ、私」
「どうせ落ちは読めてたけど…死んじゃえ…もう死んでるか」
恨みがましい目で由乃を睨むキーリ。
どうしよ…そんな表情でおろおろする由乃、その時。
「え…あ…はい」
突如僅かだか耳元に聞こえる声に返事をする由乃、声の主は若い男のものだった。
「何…右に亀裂……はい」
男の声は用件を一方的に告げて消えてしまった。
今のがさっきキーリが話していた、「声」なのだろうか?
なんか自分がまた一歩本格的に幽霊になってしまった、そんな気がして落ち込む由乃、
そんな彼女はさておき、キーリはすでに亀裂から外へと脱出していた。
そして…残されたのは神父と、
「何をしている?こちらに来られよ」
傍観しまくりで怯えまくりの地人だった。
「この地には不信神者が多すぎる。汝はどうなのだ?」
静かな、しかし途方もなく深い怒りと悲しみを込めてハックルボーンはボルカンに問いかける。
「そ…それはぁ」
殺される、何か言わないと殺される。
社会の底辺に生きる者ゆえの生存本能でボルカンは危険を察知していた…。
しかし察知しただけで何も出来ないのが地人の悲しさだったが、しかし。
「全部オーフェンが悪い」
思わず口をついて出た言葉に自分でも驚くボルカン。
「オーフェン?何者か?」
もはや止まらなかった…ボルカンはここぞとばかりにオーフェンがいかにひどい奴か、
そしていかに自分が虐げられているかを、
次々と脚色をふんだんに交えまくしたてていった…そして。
「そのオーフェンとやらを即刻浄化せしめよう」
神父がその気になるのにそうは時間はかからなかった。
「そ、それじゃあそういうことで…」
わなわなと義憤に両手を握り締めるハックルボーンを横目に見ながら、そっと退場しようとするボルカン。
「待つがよい。ここで我らが会えたのも神のご加護に他ならない」
その肩をむんずとつかむやたらとでかい掌。
「共に行こう。それが神の御意思である」
もはやボルカンに抵抗することはおろか、選択する余地すら与えられていなかった。
ようやく城から遠ざかることが出来たキーリと由乃、
全力疾走でくたくたのキーリに対し、幽霊である由乃は平然としている。
それを見ている内に、だんだんとむかついて来るキーリ、
「じゃあ私行くから」
それだけを伝えてとっとと東の方向へ足を向けたのだが。
案の定、由乃がしっかりとくっついてきているのを知ると、今度は西へと足を向ける。
「いじわるしないでよ」
由乃の声に冷たい口調で応じるキーリ。
「何でよ、由乃のせいで私追われる身になってしまったんだから」
「お願い…伝えたいことがあるの…私今日の5時で消えちゃうから、だから手伝って!」
「そんなの知らない」
由乃の訴えを無視して先へ進むキーリ。
だが、その耳にはしっかりと由乃の泣き声が聞こえてくる。
それでも構わず先を急ごうとするが、しくしくしくしくと声はキーリの心を締め付けるように、
その頭の中に響いてくる。
「ちょっと泣かないでよ!私が悪いみたいじゃないの」
耐えかねて振り向く、そして相手が握り返せないのを承知の上で右手を差し出す。
「たまたまだからね、私は由乃なんか知らないけど、でもハーヴェイを捜すのに連いて来るなら
別に構わないから」
ありがとうありがとうと泣きじゃくる由乃を見ながら、キーリは少しだけ微笑んだ。
「長居は無用ね」
パイフウがいるのは城の北端の窓際だ、窓際から城壁までは十数メートル
窓から地上までもそれくらいはあるだろう。
「さて」
パイフウは城内で見つけた、その先端には鉤状に折り曲げられた鉄パイプが結わえられている。
を思い切り城の外へと投げる、パイプが城壁の外に引っかかったのを確認し、
彼女はロープに気を込めていく…とだらんと足れ下がっていたロープがパイフウの気を受けて
ピンと堅く張って行く、十分な強度となったのを確認し、
パイフウはくるりと身を翻して、ロープの上に乗るとそのまま綱渡りの要領で城壁までらくらくと歩いていく。
城壁まで来れば、あとは簡単だ。
そのまま飛び降り…着下寸前で気を地面めがけたたきつける。
空気の摩擦するような音が聞こえたかと思うと、地面に穴が開き、その反動で軽く跳ね上がったパイフウは
そのまま鮮やかに着地したのだった。
「じってんれい!ね」
そう一言漏らすとパイフウもまた先を急いだ。
そして…
轟音と共に扉をぶち破ったのはハックルボーンとボルカンだ。
「さあ行かん、神罰を代行するは我にあり」
「はいはい…」
やる気満々の神父とは対照的にもうどうにでもなれと憔悴しまくりのボルカンだった。
【G-4/城門/1日目・09:00】
【ハックルボーン神父】
[状態]:健康
[装備]:宝具『神鉄如意』@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:神に仇なすオーフェンを討つ
【ボルカン】
[状態]:健康
[装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:打倒、オーフェン/神父から一刻も早く逃げたい
【G-4/城外北/1日目・09:00】
【パイフウ】
[状態]健康
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
[道具]デイバック一式。
[思考]主催側の犬になり、殺戮開始/火乃香を捜す
【G-4/城外西/1日目・09:00】
【島津由乃】
[状態]:すでに死亡、仮の人の姿(一日目・17:00に消滅予定)、刻印は消えている
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:生前にやり残したことを為す/キーリについて行く
【キーリ】
[状態]:健康
[装備]:超電磁スタンガン・ドゥリンダルテ(撲殺天使ドクロちゃん)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:ハーヴェイを捜したい/とりあえず西へ