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136:デュアル・ビースト(絡み合う運命)

作:◆E1UswHhuQc

三人に踵を返して、ミズー・ビアンカは嘆息した。全く、ろくな人間がいない。
 そしてろくな武器もない。マージョリー・ドーと協力できればよかったのだが――やはりマルコシアスの知り合いなだけあって、協調性がない。
(それはわたしも同じか)
 あの三人のうち――黒ずくめで目付きの悪い彼とは、少しは分かり合えそうな気がしたが。いずれまた会う事になるだろう――敵として。
 彼からは何か、格別に運の悪そうな感じを受けた――そう、例えば戯言しか言わないマグスに付き纏われているような。
 途中にあった川を飛び石伝いに越えて、ミズー・ビアンカは先へ進む。
 遮蔽物の無い平原は、誰かに見つかる可能性が高い。どうするか、と見渡した時、森が見えた。
(森までいってから、休憩する)
 胸中でそう決める。体が休息を求めたいた。先程、マルコシアスに念糸で接続して力を送ったせいだろう。
 自在法。存在の力。歩いていけない隣の世界――彼はそういうことを語った。ほとんど理解はできなかったが。
 彼の言葉をふと思い出して、ミズーは立ち止まった。
「……寂しいの? わたしは」
 自嘲する。ハート・オブ・レッドライオンが、あの陽気で騒がしい本と離れて寂しがるとは!
(当然か。ここのところのわたしは、ほとんど一人じゃなかったから)
 ファニクやジュディアの顔を思い出して、癖で肩に触れる。
 獅子のマント留めは、そこに無い。
「ギーア」
 獣精霊の名を口に出し、ため息をつく。
 と――

「――ミズー・ビアンカ!」
 こちらを呼ぶ声がした。聞き覚えのある声だ。
 それは殺人精霊に魅入られた男の声であり、自分が殺したはずの男の声であった。
 ウルペンだ。
 月灯がつくる視界の中、木々の陰から隻眼の男が抜け出るように現れる。
「……!」
 ミズーは咄嗟に腰に手を伸ばし――気付く。武器はない。
 ……念糸の技量では、負けている……!
 また、獣にならなければいけないのか。考えて、かぶりを振る。
「精霊アマワ……お前にくれてやる一瞬は、もうない」
 言い、ウルペンを見据えた。
 歓喜の笑みを浮かべる彼は、無手だ。どこかに武器を隠し持っているようには見えない。
 ……ハズレを引いたのね。
 その事が可笑しく、笑う。顔に出る感情は快いものだ。
 ウルペンが疾駆してくる。ミズーは拳を握り、自らも駆けた。接近戦ではこちらに分がある。
 視界の中、次第に鮮明になるウルペンの顔が笑っていた。快い笑みだ。
 拳を握り、歯を剥き、足を動かし、ウルペンが叫ぶ。
「二度目の最後を始めよう――ミズー・ビアンカ!」
「死者は蘇えらない。失ったものは取り返せない。――還りなさい、ウルペン!」
 叫びあう、二匹の獣。互いの手が届く瞬間。
「――ダメだよっ……!」
 意思と、力が来た。
 二人の間、地面が何かの力で穿たれた。声の方を、見る。
 一人の少女がいた。抜刀された剣を持ち、顔に恐れと、しかし強い意志を浮かべた少女だ。
 彼女を見て、ウルペンが苦々しく呟く。
「先程の娘か……」
「殺し合いなんて、いけないよ……!」
 声を張り上げる少女が、剣を手にこちらへと駆けて来る。
 ウルペンが表情を変えて、こちらを見る。彼は苦笑を浮かべていた。
「いいだろう。二度目の最後はあとだ、ミズー・ビアンカ。――最後まで生き残れ」
 言い捨て、義兄は森の中へと走り去った。

【B-6/森近くの平原/一日目3:10】

【ミズー・ビアンカ(014)】
 [状態]:疲労
 [装備]:なし
 [道具]:デイバッグ(支給品入り) 、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
 [思考]:フリウとの合流

【新庄・運切】
[状態]:健康
[装備]:蟲の紋章の剣
[道具]:デイバッグ(支給品一式) ウルペンの落としたグルカナイフ
[思考]:1.佐山達との合流 2.殺し合いをやめさせる

【ウルペン】
[状態]:健康
[装備]:無手
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]:C-6へ移動。 蟲の紋章の剣の障壁を破れる武器を調達してくる。

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