作:◆NULLPOBEd.
実物を見るのは初めてだと坂井悠二は驚いた。
悠二の目の前にはまるで中世のお城のように大きな建物が建っている。
石造りと判断するお城は城壁に囲まれ、唯一の出入り口は正面の城門のみ。
立て篭もるにはいいかもしれないと思うが、出入り口が一つなのが気になる。
もし、誰かゲームに乗った人間が出入り口に立つだけで逃げ道はなくなるのだ。
受け取った鞄を見つめる。そこにある武器は狙撃銃PSG-1。
高い所からスコープで見渡せないかな……。
射程距離だとか倍率だとか細かいことは悠二は知らない。
数字を言われても初めて触る悠二にはピンとこない。使って実感しないと理解できない。
説明書に使い方はある。最悪、撃てなくてもスコープでシャナを見つければ。
そう思い、悠二は城内へと踏み込んだ。高く高く、できれば最上階から見渡したい。
――――誰もいてくれるなよ……!
殺し合いなんてしたくないし、誰かと出会って信用できるかは自信がない。
出会わないのが一番楽だ、楽なのに。現実とは思った通りにはいかないらしい。
「……誰かいる」
ぼうっとしている――ように見える――少女を階段上がってすぐの部屋で見つけてしまった。
少女もこちらを見つけたらしく、しかも俺の持つ狙撃銃を見て警戒してしまった。
武器を構えている様子は、ない。
大丈夫だ、相手は少女。ゲームに乗った様子もない。
自分にそう言い聞かせ、悠二は少女に声をかけた。
「僕は坂井悠二と言うんだけど……君は?」
「長門有希」
一言、名前だけ告げて少女は黙ってしまった。
このまま黙って通りすぎる訳にもいかないかな、なんて思ったが話し掛けた以上できそうにない。
しかし、会話がない。どうすればいいのかと悩んでいると今度は相手から話し掛けてきた。
「情報統合思念体からの動きがない……。そこの貴方、協力して欲しい」
「……あ、うん。それはいいけど……じょーほー……なんだって?」
彼女の突然の発言に深く考えず頷いた。
悪気がありそうな雰囲気でもないし、仲間はぜひとも欲しい。
後は信用できるかどうかだが……それは今話し合って判断する。
「情報統合思念体とはつまり――――」
彼女の話はよく分からないが、理解できたところだけ掻い摘み整理する。
一つ目は宇宙には情報生命体という凄い発展した者が存在する。
二つ目はその情報生命体の親玉が作った意志を持つ人形(という言い方は正確じゃないだろうが)が彼女であるということ。
そして最も重要なのは、彼女の能力が制限されているということ。
このゲームの管理者は宇宙人の技術さえも上回るということだ。
「で、協力って?」
「仲間がいる。未来人である彼女なら何か知っているかもしれない」
未来人という名称からして、未来から来た人間(?)だと想像できた。
未来から来たならばこのふざけたゲームのことも知ってるかもな。
そう悠二は思い、そして彼女に対してこう判断を下した。
彼女は信用できる。手の内を全て晒してくれたのだから――――。
悠二は最上階からスコープを用いて捜索することを彼女に提案した。
彼女、長門さんの武器はライターだった。
残念ながらハズレだと諦め、辺りを警戒しながら最上階である3階へと辿り着く。
「この建物には誰もいない」
長門さんの能力が制限されていてもそれくらいは分かるのか、それとも既に調べたのか。
断定口調で言う長門さん。できればもう少し早く言って欲しい。
気を取り直しつつ最上階の窓から悠二の狙撃銃PSG-1を取り出し、スコープを覗きこんだ。
【G-4/城内/一日目1:30】
【残り105名】
【坂井悠二】
[状態]:ちょっと脱力したけど、今は真剣。
[装備]:狙撃銃PSG-1(標準固定のスコープ:6倍)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:仲間の捜索。
【長門有希】
[状態]:悠二からの交代待ち。
[装備]:ライター
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:仲間の捜索。