作:◆E1UswHhuQc
月明かりに照らされた砂浜。そこで聞こえるのは波の音だ。
砂浜近くに一本だけ立っている木を背後に、新庄・運切はバッグを開けた。
中にあったのは、
「……剣?」
形状は角張った直刀。柄の長さは両手で扱う武器だという事を示しているが、しかしその刀身はそれほど長くない。
複雑な彫金が施されているものの、宝飾の類はなにもない。
鞘に包まれたその剣をバッグから取り出して、腕の中に抱いた。
「……佐山君」
彼の名前を呟いて、一息。
ここに彼はいない。
名簿には、佐山・御言の名の他に、風見・千里、そして出雲・覚の名があった。
……殺し合いだなんて……。
いけないよ、と口の中で呟く。いけないよ、と。
「きっと他に、逃げ出す手段が……」
「あると思うのか?」
声は背後からした。
「……!」
「それを信じるのは賢い。疑うのは愚か。だが」
首筋に金属を感じる。身を固くするこちらに構わず、声は続けた。
「世の中には愚かな人間の方が多い」
「あな、たは……」
「俺はどちらだと思う?」
背後を取られ、首筋に刃物を突きつけられている。
その状況で、新庄は言った。
「ボクに何か、聞きたい事があるの?」
「……なぜ、そう思う?」
「殺すつもりなら、話し掛ける必要はないよね。なのに話し掛けるってことはボクから情報を引き出したいんだ」
「さかしいな。だが図星だ……聞く。赤髪の女を見たか?」
問われ、新庄は息を呑んだ。見ていない。そもそも誰かと会うのは後ろの相手が初めてだ。
正直に答えたところで、殺される。しかし抗う術はない。
新庄は答えた。一言。
「見てない」
「そうか」
刃物が肉を断つ感触を予想して、新庄は目を閉じた。最後に彼の名を思い浮かべる。
……佐山君……!
その刹那だ。虫の羽音にも似た振動音と、
「お……!?」
打撃音がした。
「……!」
振り向く。黒髪をオールバックにした、隻眼の男がナイフを片手に膝をついていた。
そして、新庄の持っていた剣がいつの間にか抜刀され、刀身をさらしている。
「これ――!?」
「ちぃっ――!」
隻眼の男は起き上がり様に、ナイフを投擲した。
が、それは新庄の目の前で、不可視の壁か何かに弾かれた。
男は再度舌打ちして、今度は銀色の糸を伸ばしてくる――しかし、それもまた弾かれた。
「……良い物を引き当てたな、娘」
男はそれだけ言い捨て、暗闇に姿を消した。
新庄は剣を手に立ったまま、茫然としていた。数十秒か、数分か。あるいはもっと。
気付くと、剣はいつの間にか鞘に納められていた――それを抱きしめて、へたり込む。
「助かった……」
【A-6/砂浜/一日目1:20】
【新庄・運切】
[状態]:不安と恐れ
[装備]:蟲の紋章の剣
[道具]:デイパック(支給品一式) ウルペンの落としたグルカナイフ
[思考]:佐山達との合流
【ウルペン】
[状態]:殺せなかった苛立ち
[装備]:無手
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:ミズー・ビアンカの殺害
・蟲の紋章の剣(出典:オーフェン 効果:障壁力場形成・力場を利用した打撃)
・グルカナイフ(出典:フルメタルパニック)