作:◆wEO8WH7kR2
奇妙な仮面をつけた頼りなさげな青年―――――これが子爵の感じたEDに対する第一印象であった。
この奇妙な青年は、この場に似つかわしくもあり微妙に浮いている様でもあるという
なんとも言いがたい不可思議な雰囲気をかもし出している。
(人は誰しも仮面を被って生きている、という言葉があったな。いったい誰の言葉であったか・・・)
子爵がEDと出会ったのは、ちょうど地面に「体」を広げて日光浴をしている時だった。
子爵はこの世界に来てから、エネルギーの消費が異常に早いことを感じていた。
常にエネルギーを補給できる昼間には何の支障もないのだが、問題は夜である。
昨夜は途中でエネルギー不足に陥ってしまった。
深夜からスタートした昨夜とは異なり今夜はその倍の時間を
エネルギー補給なしで行動しなくてはならない。
下手をすれば完全な行動不能状態に陥る可能性すらあるだろう。
朝になれば回復するとは言え、禁止エリアの存在を考えると行動不能になるのは死活問題である。
こうした理由により、子爵は今夜のためにエネルギーを少しでも多く溜め込んでおこうと
適当な場所でがんばって日光浴に勤しんでいるのである。
『決して怠けているのではないぞ!備えあれば憂い無しというではないか』
誰に見せるわけでもないのに、子爵は言い訳らしきものを空に向けて並べ立てていた。
EDがやってきたのはそんな時だ。
EDは水の枯れた湖底を再び一人で歩いていた。
2回目の放送終了後、EDと李麗芳は別行動をとることにした。
話し合いの結果、李麗芳は東に向かい、EDは湖底を探索することとなった。
二人には地下通路を調べるという選択肢もあったのだが、
敵と遭遇した時のことを考えると地下では逃げにくいことから危険である。
そのことから地上の探索をまずは優先して行おう、ということで二人は一致した。
そして、3回目の放送までに本拠地である地下通路入り口に集合する約束をして二人は別れた。
その後、1時間ほど湖底の東側を探索し続けたのだが成果は何もなかった。
どうやら、この地域には地下通路と島があるだけのようである。
次にEDはまだ調べていない湖底の西側(C−6方面)へと歩を進めてみることにした。
B−7エリアの南西地域まで来たところでEDはふと奇妙なものがあるのに気づいた。
湖底の岩の上で真っ赤な水溜りが不気味に蠢いていたのだ。
EDは興味を持ち近づいてみることにした。
その真っ赤な水溜りはどうやら文字を形作っては消え、文字を形作っては消え、
を繰り返しているようである。
『ほう、こんなところまでわざわざ人が来るとは。
人が来ない場所と考えあえてこの場所を選んだのだが誤算であった。
我輩は今、夜に備えての日光浴の真っ最中なのだ。
申し訳ないが、あえてこの姿勢のまま話をさせてもらおう。
失礼とは思うが背に腹は変えられないのだ。許してくれたまえ。』
よく見ればその水溜りはEDに「話し」かけてきているようにみえる。
驚きながらもEDは平然と受け応えをした。
「いやいや、そのままで結構です。
しかし、貴方は面白い姿をしていますねえ。」
『ほう、初めて我輩を見たのに普通に会話ができるとは、面白い男だな。』
「ま、他人であれ自分であれ見た目を気にして生きるというのは
窮屈で仕方ないですからねえ。くだらないことですよ。」
『ふむ、なかなか面白いことを言う男だな、君は。
そういう君もなかなか洒落た仮面をしておるではないか。
仮面舞踏会にでも出席するかのようだ。
我輩も人間の姿をしていたころは様々な催しを開催していたものなのだが・・・
おっと、無駄話をしてしまったようだ、許してくれたまえ。
遅ればせながら、ここで自己紹介をさせていただこう。
我が名はゲルハルト・フォン・バルシュタイン。
今は亡き皇帝陛下より子爵の爵位を賜り、グローワーズ島の元領主である!
ちなみに参加者名簿の 子爵 というは我輩のことだ。
この爵位のみの表記には少々不満があるのだがな・・・
今度主催者に会う機会があったら厳重に抗議をしてやらねばなるまい!』
冗談とも本気とも取れぬ発言にも関わらず、EDは動じた様子もなく飄々と答えた。
「僕はエドワース・シーズワークス・マークウィッスルといいます。EDと呼んで下さい。
界面干渉学という学問の学者をしています。」
『ふむ、その界面干渉学という学問について話を聞きたい気もするのだが、
今はそれどころではないのでやめておこう。
それはそうと、まずはお互いのために確認をしておく必要があるな。
我輩には君と戦う義務も意志も余裕もないことを最初に宣言しておこう。
もっとも、君が我輩とどうしても戦いたいというのであれば
不本意ながら紳士として正々堂々とお相手することもやぶさかではないが・・・
どうするかね?』
これまた冗談とも本気とも取れぬ発言である。
「そんな気はありませんよ。そもそも、僕は戦闘のほうはからっきしでしてね。
普段から口先三寸で生きている人間ですからねえ。
もし今子爵さんが僕に襲い掛かってきたとしたら僕にはどうしようもないですよ。」
対するEDは自慢にならないことを堂々と答える。
『本当に面白い男だな君は。気に入った!
我輩でよければ何でも協力することを約束しよう。
ただし!日光浴だけはやめる気はないぞ!』
日光浴の件についてはさらりと無視をしてEDがこたえる。
「ご協力感謝します。それでは、我々の仲間になってください。僕達としては・・・」
ここでEDは
この場でのあらゆる殺し合いを妨害し、このイベントを叩き潰すため仲間を募っていること。
すでに李麗芳が仲間になっていること。ここから少し北東にある地下通路を本拠地にしたこと。
次の放送までに集合する予定であること。探し人であるヒース、藤花、淑芳、鳳月、緑麗のこと。
以上のことを子爵に説明した。
そして最後にこう付け加えた。
「出来ればこのイベントとは何なのか、その謎を知りたいと考えています。
このようなおぞましいゲームを実行した存在とは何者なのかを。
真実がこのような極限状態では意味を成さないということは承知している。
しかし、これでは人間はあまりにも愚かで醜い存在となってしまう。
これではあまりにも理不尽すぎる。このようなことは許されてはならないはずだ。」
最後はほとんど自分自身に言い聞かせるような形の発言となっていた。
子爵はEDになにか深い陰りがあることに気づいたが、それにはあえて触れなかった。
『安心したまえ、人間はそこまで愚かな存在ばかりではない。私は人間という存在を気に入っているのだ。
我輩としてもこの馬鹿馬鹿しいゲームについては少々憤りを覚えておる。
良かろう!そういう集まりを作るのであるならば、微力ながら我輩も協力させてもらおうとしよう!
ただし、我輩にもやらなければならないことがあるのだ。
常に一緒に行動できるとは限らないということは先に述べさせていただこう。』
ここで子爵は
自分がいながら助けてあげられなかった名も知らぬ少女(アメリア)のこと。
その少女の最後を彼女の仲間に伝えるために行動していること。
今まで出会って来た人物達、祐巳やハーヴェイのこと。
以上のことをEDに話した。
「なるほど、こちらとしても別行動をとるということについては異存はありません。
麗芳さんにも話したのですが、僕としては最初はそれぞれが手分けをして
仲間集めや探索を行ったほうが効率良いと考えています。もちろん、多少のリスクはありますけどね。
僕のほうでもその亡くなった少女の仲間を捜索してみますよ。」
『うむ、了解した。
彼女の元の世界の仲間で今現在、生き残っているのはリナ・インバースという人物だけと考えられる。
我輩のほうも仲間集めと並行して君達の探し人の捜索もしてみるとしよう。』
探し人を名簿でチェック後、EDはちらりと空を見上げるとこういった。
「さて、長く話し込んでしまいましたが、僕はそろそろ湖底西側の探索に向かいます。
子爵さんはどうしますか?雲が出てきましたけど」
『我輩はもうしばらくこの場で日光浴を続けるつもりだ。いや、決して怠けているわけではないぞ!
これも夜のため、少しでも多くのエネルギーを蓄えておかねばならないのだ!』
「解りました。それでは、次の放送のある18:00までに本拠地に集合するということで。」
無意味に必死な様子の子爵にEDは苦笑を浮かべながら答えた。
『うむ。健闘を祈るぞ。』
「こちらも、そちらの健闘を祈っています。では・・・」
EDは挨拶もそこそこに、背を向けるとスタスタと歩み去っていった。
子爵は雲のせいで少し暗くなった空に向けて、誰に見せるでもない「独り言」を再び並べ立てはじめる。
こうして戦地調停士EDと子爵の奇人同士の一回目の会談は終了した。
【B-7/南西の湖底/1日目14:15】
【エドワース・シーズワークス・マークウィッスル(ED)】
[状態]:健康
[装備]:仮面
[道具]:支給品一式(パン4食分・水1500ml)、手描きの地下地図、飲み薬セット+α
[思考]:同盟を結成してこのイベントを潰す/このイベントの謎を解く
ヒースロゥ、藤花、淑芳、鳳月、緑麗、リナ・インバースの捜索
第三回放送までに子爵、麗芳と地下通路入り口で合流する予定
[行動]:湖底西側(C−6エリア)を探索する
[備考]:「飲み薬セット+α」
「解熱鎮痛薬」「胃薬」「花粉症の薬(抗ヒスタミン薬)」「睡眠薬」
「ビタミン剤(マルチビタミン)」「下剤」「下痢止め」「毒薬(青酸K)」以上8つ
【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:健康状態
[装備]:なし
[道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
アメリアのデイパック(支給品一式)
[思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている 。
EDらと協力してこのイベントを潰す/仲間集めをする
3回目の放送までにEDと地下通路入り口で合流する予定
[行動]:日が陰るまで日光浴を続ける
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす等)を知っています。
2005/11/30 修正スレ188
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