作:◆l8jfhXC/BA
──私はもうだめだろう。
ぼんやりと、そんなことを思う。
衝撃波に身を切り刻まれ、シャーネ・ラフォレットの意識は深く沈んでいた。
五感は既に感じられず、ただひとかけら残った命が心をつなぎ止めていた。
ただ、命がこぼれるように失われていくのだけは、はっきりと感じていた。
──私はここで死んでしまう。
自分は父のような不死者ではない。
首を斬られれば死に、息を止められれば死に、血を多く流せば死ぬというただの人間だ。
……他の三人も同じだ。
──火乃香は大丈夫だろうか。
咄嗟に横に飛んでいたから自分よりはひどくないはずだが、心配だった。
……ゲートをくぐり飛ばされた先で初めて出会い、初対面の自分を信頼してくれた少女。
ジャグジー達と会うまでは父だけがすべてだった自分には、なぜそんなことができるかわからない。
──でも、嬉しかった。
他の二人もそうだ。最初こそ敵として戦ったが、今では“仲間”として共に行動していた。
彼らと一緒にいる間は、ここにはいない仲間達と同じような温かさを感じられた。
そう、とても温かかった。
クレアと会うまで孤独な戦いを覚悟していた自分を、優しく包み込んでくれた。
……だが、それもあの男によってずたずたに切り裂かれてしまった。
──彼らには生き残って欲しい。
何とかあの男を倒すか逃げるかして、生き延びて欲しい。それが最後に抱いた、たった一つの願いだった。
……いや、もう一つあった。
──クレア。
あの列車の屋根の上で出会った、真っ赤な男。こともあろうに、いきなり自分に結婚を持ちかけてきた男。
父を取るか彼を取るかと問われ動揺していた自分に、あっさり両方取れと言ってくれた男。
そして、広い会場の中で真っ先に自分を見つけて抱きしめてくれた男。
彼は強い。この島の中でも十分生きていける。
……だが、自分を八つ裂きにしたあの男と出会ってしまったら、危ないかもしれない。
彼が死ぬところなど想像したくないし、見たくなかった。
死んで一緒になるというのは──やはり、嫌だ。彼には生きて欲しかった。だからもう一つだけ、強く願い────
『俺は、不死の力が無かろうが絶対に死なない。俺がそう信じているからだ。だから、お前も黙って俺を信じろ』
……思い出した。初めて会ったとき、彼はそう言っていた。
──決して死なない男だと。
彼は、そう言っていた。いや、“彼が”そう言っていた。世界の中心と豪語する、彼が。
──ならば、信じよう。
願望ではなく、確信を持とう。彼が、絶対に死なないと。
────クレア。
既に失われてしまった声を求めるように。
想い人の名前を紡ぎながら、シャーネは意識を閉ざした。
【042 シャーネ 死亡】
【残り 76人】
【E-1/海洋遊園地/1日目・12:20】
2005/07/16 改行調整、読みやすいよう独白の一マス削除。残り人数と場所の追加
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